アメリカ演劇界で最も権威のある賞と言えばトニー賞!第69回となる今年もWOWOWが授賞式の模様を2015年6月8日(月)8:00より生中継でお送りする。渡辺謙が『王様と私』でミュージカル主演男優賞にノミネートされるなど話題も盛りだくさんの本年、日本のスタジオでスペシャル・サポーターとして番組を盛り上げる“ミュージカル界のプリンス”井上芳雄に、授賞式の見どころやスペシャル・サポーターとしての意気込みを語ってもらった。
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――スペシャル・サポーターとしてのご出演は昨年に続いて2回目になります。
まずは続けることに意味がある、という事で今年も番組に参加させて頂けて嬉しいです(笑)僕自身、ミュージカルは大好きなんですが、今回のノミネーションを見て「まだまだ知らないことも多いな」と改めて思いました。
ブロードウェイやロンドンの舞台情報ってこちらに届くまで時間が掛かったりもしますよね。新作や話題作が上演されると現地に行く人に感想を聞いたり、CDを手に入れたりと情報や現地の熱を知る為の地道な努力は常にするようにしています。
――今回のトニー賞には渡辺謙さんが主演男優賞でノミネートされましたね!
とにかく凄いことだと思います。『王様と私』の幕が開いてからトニー賞にノミネートされるのか、日本の演劇人たちも注目していたと思いますし。謙さんのノミネーションはもちろん素晴らしいことではありますが、同業者としては複雑な所も正直あります…自分が同じ立場にいられないのがやっぱりちょっと悔しいというか(笑)まあそれはほんの少しの部分で、応援する気持ちや尊敬の思いの方がずっと強いんですけど。でも逆に考えれば、今後自分たちにも(ブロードウェイで認められる)チャンスがあるかもしれないということですよね。
ニューヨークで僕たち日本人を含めたアジア人が舞台に立つのは英語力の問題もあって本当に大変だと良く聞きます。そんな中で謙さんが成し遂げている事は僕たちにとっても大きな励みになる素晴らしい事です。普段舞台をご覧にならない方達も、今回の謙さんのノミネーションでブロードウェイやトニー賞というものの存在を以前より身近に感じて頂けているのではないでしょうか。
――今年は現地の司会がアラン・カミングさん(『キャバレー』MC役)と、クリスティン・チェノウェスさん(『ウィキッド』グリンダ・オリジナルキャスト)のお二人で、かなり濃い展開になりそうですね。
ここ数年、男性がソロで司会をやっていたので、こういうペアもアリなんだと思いました(笑)。アラン・カミングは映画『チョコレートドーナツ』で素晴らしい演技をしていましたし、日本の視聴者にとってはある意味なじみがある人かな、と。彼は昨年も『キャバレー』で濃いパフォーマンスを披露してくれましたし、今年は司会の二人で何かやってくれるのかな・・・なんて期待もしてしまいます。
――そして日本側の案内役は宮本亜門さんと八嶋智人さん…こちらも濃いお二人です!
(宮本)亜門さんは、きっとテンションが高くなるでしょうね(笑)僕も一緒に楽しむ方向でいろいろお伝えできたらと思うのですが、生放送のスタートが朝の8時という事で、まずその時間までにきっちり気持ちを高めていかないといけないですよね。その頃ちょうど『エリザベート』の舞台稽古に入っている時期ですので、体力的にはちょっと大変かな…と思いつつ、この時間はトニー賞の話題に集中したいと思います!
昨年は八嶋さんも舞台のお稽古中に案内役を務められて、番組に参加した事で凄く大きなエネルギーをもらって稽古場に戻れたとおっしゃっていました。僕もスペシャル・サポーターとして番組に関わる中で、そういうプラスのパワーをチャージできたらいいですね。
――トート閣下が益々カッコ良くパワフルになりそうですね(笑)
そうですね(笑)(作品の)テイストが違うので何とも言えないのですが、トニー賞のパフォーマンスをスタジオで観て、そのエネルギーを『エリザベート』の稽古に持ち帰られればと思います。今年の授賞式ではどんなパフォーマンスが行われるのかまだ明らかになっていないのですが、『王様と私』で謙さんがパフォーマンスをするかもしれない…という楽しみもありますし。僕、良い意味で“打ちのめされたい”って思うんですよ。「やっぱりニューヨーク…ブロードウェイは凄いな、こんな俳優さんがいるのか!」って。
トニー賞って“演劇界のオリンピック”みたいな所があるじゃないですか。「世界中の凄い人たちが魅せるレベルはこれか!」…って、それを思い知りたいんです。彼らの実力に打ちのめされたり、いやいや自分も捨てたもんじゃないって顔を上げたり…驚きや刺激に満ちている授賞式の時間、楽しみです!
――井上さんからご覧になって、今年のノミネート作品はいかがですか?
リバイバル作品ではありますが、やっぱり『王様と私』には注目しています。謙さんの受賞もそうですし、6回目の(トニー賞)ノミネートとなったケリー・オハラは獲れるのか?…その辺りも凄く気になります。
新作ミュージカルのノミネーションも作風が違う4作品が揃ったという感じでしょうか。個人的にはオリジナルミュージカルの『サムシング・ロッテン』が面白そうですね。出演者にもドラマ『SMASH』のキャストが入っていたりして、かなりハジけていそうだな、と。
演劇賞では日本でも上演された『夜中に犬に起こった奇妙な事件』(2014年 森田剛主演・鈴木裕美演出)や、リバイバルの『エレファントマン』が気になっています。『エレファントマン』は主人公の姿をどう見せて行くのか、どんな演出になっているのかという点も注目ポイントです。
――今、ミュージカルとストレートプレイについてのお話がありましたが、井上さんは両方の舞台で活躍なさっています。
両方の舞台に立たせて頂いて、日本ではミュージカル界と演劇界…というか、ストレートプレイの世界の間には大きな壁があると感じています。でもその二つの世界の間があまりにも離れているのは良くないんじゃないかな、とも思います。アメリカやイギリスだとストレートプレイ出身の俳優さんが軽々と歌ったり踊ったりしてミュージカルの舞台にも立っているし、謙さんだって日本でミュージカル俳優だった訳ではないけれど、ブロードウェイで主演俳優として活躍なさっていますよね。
日本の演劇界もお互いが混ざればいいのに…と感じることはあります。互いが独立していて良いことはあまりないと思うんです。双方が混ざることで、演劇界全体がもっともっと面白くなるんじゃないでしょうか。
僕は今「StarS」というユニットを組ませて頂いていて(浦井健治さん、山崎育三郎さんと)、個々で活動するより、三人で活動する事でより大きな輪が広がっていったと実感しています。そういう相乗効果みたいなものが色々なところで生まれて行くと、日本の演劇界が更に成熟するような気がするんです。
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――昨年の冬から『モーツァルト!』のファイナル公演、SHOW-ismⅧ『∞ / ユイット』『正しい教室』と来て今は『エリザベート』のお稽古中…これは凄いことですよね。
間(あいだ)がないんですよね…昨年からずっと走っているという・・・(笑)。全く色合いの違う作品にこれだけ出演させて頂いて、ミュージカルとストレートプレイの演技の方法論の違いも改めて実感しましたし、作品ごとに何らかの“壁”は乗り越えられたのでは、と思います。
今、僕は『エリザベート』というミュージカルで黄泉の帝王・トート役の稽古をしている訳ですが、死神の役も初めてですし、彼がどういう“声”を発するのか、どういう風に“歩く”のか、全てが一からの挑戦です。ここで『正しい教室』の時の様な演技法を使ってもそれは絶対に成立しません。以前は「ミュージカル」と「ストレートプレイ」というジャンル毎に分けて考えていたりもしたのですが、今は一作品ごとに越えなければいけない“壁”があり、全て違う方法論が必要なのだと思っています。
――では最後に、6月8日(月)のトニー賞授賞式・生中継に向けて意気込みをお聞かせください!
今年は『王様と私』で渡辺謙さんが主演男優賞にノミネートされ、日本でもそれがニュースになったことで、より多くの方の注目を集めているトニー賞授賞式。これを良い機会として、トニー賞がどれだけ凄いものなのか、僕も精一杯お伝えしたいと思います。僕たち日本の演劇人にとっても、謙さんが未来に向けて可能性を示して下さった大きな一歩だと考えています。
今年でスペシャル・サポーターを務めさせて頂くのは2回目になりますが、この役目はいつか日本でもミュージカルの賞を作りたい!という僕の夢の大きな力になっています。WOWOWの「勝手に演劇大賞」が発展して、日本国内でもミュージカル独自の賞が出来たりすると更に面白いんですけど(笑)。今回、番組のPR映像はトニー賞授賞式のパフォーマンスを意識した構成になっています。ちょっとヒュー・ジャックマンなんかががやりそうでしょ?(笑)。
現地の司会の二人の絡みや、『王様と私』の名場面もあるかもしれない当日のパフォーマンスも楽しみです。生中継という事で朝は少し早いですが、トニー賞の事をあまりご存知ない視聴者の方にも番組内で解説などをさせて頂きますし、多くの方に楽しんで頂けるプログラムになると思います。どの作品が受賞するのか予想してライブで愉しみつつ、受賞者たちの人生が現れるスピーチや、当日生まれるさまざまなドラマをお伝えしていきますので、リアルタイムでご覧になって頂ければ嬉しいです!
小学生の時に授賞式の様子をテレビで観て“いつか向こう側に行きたい!”と思いを募らせていたトニー賞。6月8日(月)、井上芳雄は2回目のスペシャル・サポーターとしてスタジオに立つ。“ミュージカル界のプリンス”と呼ばれながら、ストレートプレイの舞台にもコンスタントに挑戦し、日本の演劇界の流れを少しづつ変えて行きつつある彼が、“原点”の一つとも言えるトニー賞授賞式をどんなまなざしで見つめ、その熱を視聴者に届けてくれるのか・・・舞台で観るのとはまた一味違う井上芳雄の魅力をトニー賞の行方とともに目撃したい。