封印された“過去”が静かに暴かれる!井上芳雄主演『正しい教室』開幕レポート!

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3月21日(土)にZeppブルーシアター六本木にて初日の幕を開けた舞台『正しい教室』。ミュージカルのみならず、ストレートプレイの世界でも活躍する井上芳雄が「一番信頼している劇作家・演出家」とも言える蓬莱竜太と4年振りにタッグを組んで挑戦する濃密な会話劇だ。

関連動画:『正しい教室』初日前の記者会見にのぞんだ、井上芳雄、鈴木砂羽、近藤正臣。三人三様の意気込みをご覧ください。

舞台は地方の小さな町にある小学校。ある祝日、6年2組の教室にアラフォーと思われる男女が次々と集まってくる。皆この教室で学んだ元同級生で、この日は母校で教師をしている菊池真澄(井上芳雄)の声掛けにより、不慮の事故で子供を亡くした小西友紀(鈴木砂羽)を元気づけようと同窓会が開かれるのだ。6人の元同級生と、友紀の妹・蘭(前田亜季)が集まり、思い思いに懐かしい話をしていると、そこに一人の男が現れ、場は緊迫した空気に包まれる。突然登場したのは厳しい指導で生徒たちから嫌われていた元担任教師の寺井新一郎(近藤正臣)。6年2組の教室では寺井の登場により“本当の同窓会”が新たに始まろうとしていた…。

『正しい教室』

『正しい教室』

菊池が暗い教室で一人、生徒の保護者と電話で話す場面から物語は始まる。教室の壁に貼られた“希望”と書かれた沢山の半紙。その中で一人の女子生徒が“絶望”と記し、菊池はその事を思い悩んでいるのだ。集まって来た元同級生たちも、最初は他愛もない思い出話に花を咲かせ、当時のキャラクターのまま他者と向き合おうとするのだが、小さな穴から次第にほころびが広がり、いつしかその穴は隠せないものになって行く。

『正しい教室』

菊池役の井上芳雄は誰からも好かれていた元生徒会長で、今は生徒や保護者からの信頼も厚い小学校教諭という役を、自然に、誠実に演じている。台詞の口跡の美しさは勿論、大舞台でミュージカルに出演する時に必要な“外に向けて開いた”体の状態を封印し、心にある闇を抱えながらも地方都市の教師としてドラマティックでない日々を生きる男の役を心理的にも身体的にも的確に表現。

不慮の事故で子供を亡くし、地元での同窓会に参加する友紀役の鈴木砂羽はどこか暗い雰囲気をまといながらも、元・クラスのマドンナとして人気を集めていた頃の華も時折覗かせる。母親の介護をしながら地元で生活する漆原恵子役の小島聖との言い争いの場面は、アラフォー女性なら誰しも思い当たることがあるのではないだろうか。

『正しい教室』

重くなりがちな空気を要所要所で明るく引き上げるのが、地元で地味なレストランを営む不知火光(高橋努)と、ある行動に出るまでは同級生たちから「で、お前誰?」と言われてしまう水本康明(有川マコト)だ。登場人物の中でほぼ唯一闇を抱えていない人物・不知火の真っ直ぐさや、粗野に見えながら実は人一倍の優しさを秘めたキャラクターを高橋は魅力的に体現。水本役の有川は、シリアスな場面でも間合いの上手さで笑いを誘う。この二人の存在が、息が詰まるような場面も多い本作の中で、ある種の「救い」になっているのだ。

『正しい教室』

そして『正しい教室』という作品の中で、最も得体が知れず、人間の…人生の深さを観客に見せ付けるのが元・担任教師寺井役の近藤正臣である。在職中から生徒たちに嫌われ、今も幸福には見えない彼が6年2組の教室に現れた瞬間から場の空気は一変する。寺井が口にする言葉は人の感情を逆なでするものばかりで、どこまでが本心で何が偽りなのかも全く見えない。ある意味“最悪の人間”でありながら、その後ろ姿からは孤独と寂寥(せきりょう)も感じさせる。舞台上での体の使い方が余りにも真に迫っていた為、カーテンコールで近藤が素の状態に戻って軽やかに歩きだした時は思わず安堵の息が漏れたほどである。

『正しい教室』

本作の上演時間は約2時間。舞台上と実際の時間の流れが同じという構成で物語は進む。場面転換はなく、人の出入りも非常に少ない。教室という閉ざされた空間の中で事態は二転三転し、皆が隠していた闇が次第に暴かれ、穏やかだったはずの感情がそれぞれむき出しになって行く様は最高にドラマティックであり、観客の胸にもその刃が突き刺さる。

「同窓会」に参加した時、人は嫌でも過去の自分と対峙する事になる。それが甘く軽やかな思い出のまま終わるのか、それとも闇が白日(はくじつ)の下にさらされ、人生が一変してしまうのか。蓬莱竜太は登場人物たちに“絶望”を見せつけながら、パンドラの箱の底には“希望”も用意した。その“希望”が本作でどう描かれているのか、是非劇場で体感して欲しい。

『正しい教室』は、名古屋・福岡・大阪公演を経て、2015年4月2日(木)より、東京・パルコ劇場にて上演される。

撮影:上村由紀子

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