1月11日(水)にEXシアター六本木で開幕するミュージカル『キャバレー』。松尾スズキ演出版の上演は、2007年以来、10年振りとなる。開幕前日の10日には、主要キャストの会見と公開ゲネプロとが行われ、その模様が報道陣に公開された。
舞台を使っての会見に登場したのは上演台本・演出の松尾スズキ、クラブの歌姫・サリー役を務める長澤まさみ、MC役の石丸幹二、アメリカ人の作家・クリフを演じる小池徹平ら8名。
まずは松尾が「こういう会見で演出家が何を喋っても使われることはまずないので、長澤さんに言って欲しい言葉をそのまま言います。“松尾さんの独創的な演出により、芸術的かつ娯楽性の高い素晴らしい作品になったと思います”・・・ハイ、もう言わない」。これを受けた長澤は「松尾スズキさんの芸術的かつ斬新な・・・」と続け、笑いを取ったところで「先輩方に助けられながら何とかここまでやってきました。ミュージカルは初めてですが、楽しく稽古をさせていただきました。そのままの気持ちをお客さまに届けたいと思います」と抱負を語った。
顔を白く塗り、これまでの印象を覆す扮装で登場した石丸は「ご覧の通り、普通の人間ではありません(笑)。日常とはまた違う役どころですので、この世界に飛び込んで演じられればと思っています」と、新境地への意気込みをみせ、小池も「すごく空気の良いカンパニーに入れていただきました。(ラブシーンがあるので)長澤さんのファンの反応が心配です」と爽やかな笑顔で場の空気を和ませていた。
舞台はナチスの台頭前夜のドイツ・ベルリン。この地に建つキャバレー「キット・カット・クラブ」では、毎夜、退廃的なショーと刹那的な恋の駆け引きが行われている。ショーを取り仕切るのは怪しい魅力を振りまくMC、そして看板はロンドン生まれの歌姫、サリー・ボウルズ。大晦日の晩、アメリカからベルリンにやってきた作家志望の青年・クリフは「キット・カット・クラブ」で出会ったサリーに惹かれ、ふたりは一緒に暮らし始める。そんな日常に次第に影を落とすナチズムの足音・・・それはやがて、彼らの運命を狂わせていく――。
ミュージカル初出演となる長澤は恵まれたスタイルと圧倒的な華でサリー役を好演。奔放でどこか不安定な歌姫を魅力的に演じる。
MC役の石丸は、これまでの“貴公子”イメージを見事に覆し、シニカルで退廃的な狂言回しを突き抜けた表現で魅せる。ジョン・カンダーの個性的な旋律を完璧に歌う姿が胸に迫った。
アメリカ人の作家の卵・クリフを演じる小池は、真面目さとある種の諦観とを繊細に演じる。人々がナチズムの波に溺れそうになる中、なんとか踏みとどまり、誠実に生きようとする姿が印象的だ。
主要キャストのうち、小松和重、村杉蝉之介、平岩紙、秋山菜津子の4名は10年前の初演時と同じ役を演じる。全員芸達者なのだが、特にクリフが住むアパートの大家・シュナイダー夫人役の秋山が秀逸。情感豊かに歌い、芝居の部分ではシリアスと松尾イズムとを瞬時に切り替えながら演じる姿が、ひときわ鮮やかな光を放っていた。
デカダンでシニカルなテイストに、松尾スズキならではのエッセンスが散りばめられたミュージカル『キャバレー』。今の時代だからこそ、より多くの人に刺さる作品ではないだろうか。
ミュージカル『キャバレー』は1月22日(日)までEXシアター六本木にて公演中。東京公演千穐楽後は、横浜、大阪、仙台、愛知、福岡の各都市で上演される。
(取材・文/上村由紀子)