青木豪と岡本健一が英演劇界注目作家の作品に挑む!『The River』インタビュー

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ロンドン演劇界で今最も注目されている劇作家、ジェズ・バターワース作品『The River』が日本初上演!演出は、2013年より文化庁の新進芸術家派遣制度で1年間ロンドンに留学、帰国後の活動にますます注目が集まる青木豪。おりしも2014年末にヒュー・ジャックマン主演でブロードウェイ版が上演されたことでも話題となったこの作品だが、日本版の主演を務めるのは青木作品初参加となる岡本健一
新月の晩、郊外の川辺にある小屋で繰り広げられる男女の会話。幻想的、かつミステリアスなこの作品に、キャスト陣はどう挑む?

青木豪

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――この作品を選ばれたのは青木さんからとのことですが。

青木 僕が1年間ロンドンにいた時にかなりの数の芝居を見まくってたんですね。その中で一番おもしろかったのがこの作品だったんです。帰国後、文化庁の「日本の演劇人を育てるプロジェクト 在外研修の成果公演」という枠で公演ができますよと誘っていただいたのが今回の公演で、それならこの作品をやりたいと。

――この作品のどんなところが青木さんの琴線に触れたんでしょう。

青木 普通の話じゃなくて、見れば見るほどよくわからなくなっていっちゃったんですね。劇場から帰ってからも何日も反芻できた。ロンドンではたくさんの戯曲を買ったんですけど、最後まで読めたのはこれだけだったんですよ(笑)。

――最初にご覧になっている時から「演出したい」と思われていたんですか?

青木 観た時はそうでもなかったですが、上演の話が出た時「これだな」と。でもロンドンでは下北沢のOFF・OFFシアターみたいな狭い小屋にがっちりとプロセニアム(※客席からみて舞台を額縁のように区切る舞台の形式)で舞台を作りこんでいたんで、せっかく新たに演出するなら、お客さんともっと一体感がある形にしたいなと。

――主演を岡本さんにオファーしたのは。

青木 岡本さんの繊細さ、です。

岡本(笑)

青木 打ち合わせでふと「岡本さんが良いんじゃないかな」って話が出て、「あっ!」と。そこから岡本さん以外考えられなくなっちゃった。だからオファー受けていただけて良かったです。この戯曲は、主役の男、彼が抱え持っているものが一番謎なんですよね。その謎をみんなが知りたくなって、かつその人が抱え持ってるものが魅力的に見える人がいいなと。僕、岡本さんのデビュー作から観てるんですよ。

岡本 『唐版・滝の白糸』(1989年)。

青木 そう。その次の『ペール・ギュント』(1990年)も観てますから。蜷川(幸雄)さんの演出だし、面白そうだなと思って観に行ったんですけど。

岡本 その時は学生?

青木 学生ですね。

岡本 僕が19歳だから…21歳?お客さんとして観に行ったんですよね。

青木 ずっと演劇オタクだったんで(笑)。

――岡本さんの方は、最初にお話をいただいた時はどうだったんですか?

岡本 最初お話を頂いた時は、僕、(ジャン=ポール・)サルトルの『アルトナの幽閉者』をやってて、ナチスとか戦争とかそういうモードに行ってたから、「頭が全く回らないよ!」と(笑)。で、年末くらいに前の舞台が終わったのでちゃんと戯曲を読みだして、これは面白いんじゃないか?と。理解しようとする頭が働くというか…真実はどこにあるんだろう、この言葉を喋る時の感情はどうなのかな、と。一人で探ってても何だから、これは稽古始まってからだな、と途中で思いましたね。

青木 僕の稽古って、大抵の場合、最初はあまり台本を読まずに、すぐ立っちゃうんですよ。今回はそうしながらも、岡本さんから「この言葉さぁ…」っていう話が出ると、もう一回読みましょうかってみんなで話して、立って読んでを繰り返して。「このセリフが出てくる時、彼らはその前に何をしていたんだろう、じゃあ一日の行動を検証してみよう」とか。だからテーブルについてやる稽古が今回は長いんですよ。ここまで長いのは初めてなんですけど、すごく楽しいんですよね。

――今、岡本さんと実際に稽古をしてみていかがですか?

青木 いや、凄いなあって。

岡本 いいですよそんな(笑)かなり適当にやってる感じなのに。

青木 横で言うのもなんですけど、カッコいいの。本当に。

岡本 でも自分の中での「カッコいい」状態ではないですよ、今。

青木 そうなんですか?

岡本 もちろん、役だと「こんなこと言わねえよ」っていうのもあるんですけど。でもね、もっとスマートにとか、楽勝に演じられたらどれだけいいんだろうって思うんですけど。(理解するのに)時間がかかるんですよ。

青木 でも、腑に落ちた瞬間のポーンと飛ぶ感じって凄いですよね。稽古してて「こっちでどうですかね?」って言うと「あ」ってヒュッと変わるんだもん。あと、こんな動きはカッコよすぎて気持ち悪いことになるんじゃないかな、って動きでも“カッコいい”人がやるとはまるんだな、と(笑)

――そこはさすが岡本さん、と。

青木 僕、こんなに「こうして」って言わない稽古場は初めてですね。

岡本 普段は「こっちに動けって言っただろー!」とか言うの?(笑)。

青木 …言ったこともあります(笑)

岡本 大まかなプランは作る方?

青木 作るし、それよりも本読みをやって感情の動きを観て、どうやって動くとそうなるかを探る。それが全く腑に落ちない人だと、「自分で動かさないと無理だ」ってなっちゃう。

――今回の出演者の方はみなさんカンがいい、ということなんでしょうか。

青木 そうかもしれないですね。

岡本 そもそも、ここ(テーブル)だけでも成立しちゃう戯曲だしね。

青木 そうなんですよ!

岡本 やってる方は、どう観られてるかがよくわからず会話を続けてる部分があるんですよね。話の中で重要なポイントとかあるんでしょうけど、そこの部分を引き立たせるようにしなくちゃで…そこは青木さんが位置や距離感を見ててくれるんだろうな、と。

青木 狭い劇場用に書かれてる戯曲だな、と思うんですよね。ずーっと座って淡々と話しているという。そこに流れている気持ちをどうビジュアル化するか…稽古に入って、皆さんがこういうふうに動いたな、じゃあそこに従ったほうがいいなという感じで。今回はすごく共同作業感が強いです。

――この主人公の男の抱えているものを「謎」と感じる人も多いと思うんですが、そこは岡本さんの中で解答はあるんでしょうか?

岡本 謎というか、対女性への思いとか会話とか…そこには謎めいたことは無いんですよ。ただ正直に会話をしているという。でも男の人と女の人の話だから、確実にどこかしらで自分に照らし合わせるようなシーンがあったり、心が痛くなるようなシーンがあると思うんですよね。男って、女ってこう思うよねとか。そういう場面が結構いっぱいあるから、そういったことも含めて男女の物語なのかな、と。

――見る人の状況でも感じ方が変わってきそうですね。

青木 そうかもしれないですね。

――戯曲の中で「釣り」がすごく象徴的に扱われていますよね。皆さんの中では、どういう解釈なんでしょう?

青木 女性との恋愛かもしれないし…あとこの戯曲に出てくる釣りは「フライフィッシング」という方法なんですけど、これで使うのは疑似餌なんですよね。そこも象徴的というか…まあ劇作家が釣り好きって話もあるんですけど。作家が都会から田舎に引っ越して、いちばん好きなのが釣りだったっていう(笑)

岡本 でも、ニセモノで魚を釣るとか、真実なんてものはこの世に存在しないんじゃないか、そんな中で自分たちが生きてるかもしれないとか思っちゃいますよね。あとはシートラウトの生き方…エサとして食われなければ同じ年月を繰り返すとか、それも女性と出会って別れてを繰り返す男性を象徴してるのかもしれないし。でも本当は好きになった女性と一生を共にしたいと思ってるのかもしれないし。いろんなことを感じられるなと。

――実際に魚を捌くシーンもあるんですよね。

岡本 …目の前で捌きますから、絶対食べたくなりますよ、魚(笑)

青木 ね(笑)そういう風に思えるような舞台になればいいんだけど。


◇プロフィール◇
青木豪

劇作家・演出家。1967年4月12日生まれ。神奈川県出身。劇団グリング主宰。『獏のゆりかご』(2007年)で第51回岸田國士戯曲賞候補に選ばれる。その後『往転-オウテン』(2012年)で第66回文化庁芸術祭新人賞受賞。2013年、文化庁新進芸術家派遣制度により1年間ロンドンに留学。近年手掛けた作品は『9days Queen~9日間の女王~』(2014年・脚本)こまつ座公演『てんぷくトリオのコント』(2014年・演出)文学座『近未来能 天鼓』(2014年・脚本)など。『The River』の後、脚本を手がけた劇団銅鑼『父との旅』(2015年3月)『ブルームーン』(2015年5月)が控えている。

岡本健一
俳優・歌手。1969年5月21日生まれ。1985年にドラマ『サーティン・ボーイ』でデビュー、1988年、男闘呼組のメンバーとしてレコード・デビュー。その後はドラマ、映画、舞台と幅広く活躍。2011年には『恋人』で演出家としてもデビュー。舞台は1989年の『唐版・滝の白糸』(日生劇場)を皮切りに、ストレートプレイからミュージカルまで、また国内・海外原作を問わずコンスタントに出演。しなやかさと色気のある演技力で魅了しつづけている。近年の出演作は、『ロッキー・ホラー・ショー』(2011年)『リチャード三世』(2012年)『今ひとたびの修羅』(2013年)『非常の人 何ぞ非常に~奇譚 平賀源内と杉田玄白~』(2013年)『アルトナの幽閉者』(2014年)『抜目のない未亡人』(2014年)『炎 アンサンディ』(2014年)など。2015年7月には出演舞台『トロイラスとクレシダ』が控えている。

The River

◇『The River』あらすじ◇
舞台は男の別荘。崖の下には川が流れている。男は、恋人と思われる女を招き、鱒釣りに夢中になっていたが、女は新月の夜に真っ暗闇の川で姿を消してしまう。そして突然男の前に現れたのは、その手に大きな鱒を持った別の女。そして鱒をさばく男のもとに再び現れたのは…。かわるがわる現れる二人の女性たちとともに、男をとりまく現実は、不可思議にループし始める。彼女達は何者なのか――。

◇キャスト◇
岡本健一、南沢奈央、鬼頭典子、森尾舞

◇スタッフ◇
作・ジェズ・バターワース
演出・青木豪

文化庁委託事業 平成26年度次代の文化を創造する新進芸術家育成事業
日本の演劇人を育てるプロジェクト  在外研修の成果公演
『The River』
2015年2月19日(木)~2015年2月26日(木)
東京芸術劇場 シアターイースト

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この記事を書いた人

演劇雑誌編集部を経て、現在は演劇・芸能・サブカルチャーなど幅広い分野で活動中。演劇マンガの監修を手がけたことも。

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