2024年7月5日(金)より、『熱海連続殺人事件』と題し、つかこうへいの不朽の名作『熱海殺人事件』を「Standard」と「モンテカルロ・イリュージョン」の2バージョン同時上演が始まる。
様々なバージョンで描かれた『熱海殺人事件』の中でも、異色中の異色である「モンテカルロ・イリュージョン」は、2020年3月に劇団柿喰う客の中屋敷法仁の演出で、『改竄・熱海殺人事件』の1本として上演されたが、コロナ禍の影響で完走することができなかった。
翌2021年6月に「〜復讐のアバンチュール〜」を副題に再演を図るも、今度は幕を開くことなく全公演中止に陥り、開幕前の取材会で一部場面を披露するのみとなっていた。
それ故に、三度目となる今回の上演に、多和田任益と鳥越裕貴は並々ならぬ意欲を燃やす。
二人に「モンテ愛」迸る話を聞いた。
多和田任益×鳥越裕貴、走り出すこともできなかった2度目を振り返る
――「モンテカルロ・イリュージョン」は、多和田さんと鳥越さんにとって三度目の正直になりますね。
多和田:1回目は新鮮に楽しんでやっていたんですが、途中で中止になってしまい「あぁ~!」って悔しかったんですけど、2回目は走り出すこともできなかったので・・・鳥ちゃん、覚えてる?俺ら、取材会で冒頭の部分をちょっとだけ披露して終わったの。俺めっちゃ覚えてるわ、「・・・ハイッ!」ってぶつ切りで終わった瞬間(笑)。
鳥越:そうやったね。みんなで「ハイッ!」って言って、キレイにオチがついたよね(笑)。
多和田:さすがに2回目はできると思っていたから、まさかすぎて。終わったあと俺、放心状態が続いてて、思わず鳥ちゃんに連絡したもんね。
鳥越:電話きたね。覚えてる。
多和田:2回目、しかも一度もお客さんの前で披露できずに終わったから、今まで味わったことのない感覚になりましたよ。自分自身は元気だったけど、当時は周囲に体調不良者が出たらもうできないという状況の時だったから・・・俺ら元気なのに!なんでできないの!ってもどかしくて、消化できなくて。
鳥越:俺、たわちゃんからの電話、川沿いで受けて話してた。
多和田:なんかビールとかも飲んでたよね。
鳥越:そうそう、川沿いで飲みながら「はぁ・・・いつになったらちゃんとできんのかなぁ・・・」って。
多和田:鳥ちゃんと電話までして話したのは初めてだったもんね。だから、僕はあの時の感覚は忘れないし、その時の想いがやっと今回消化できるというか、作品に乗せて届けられるんだって思うと、気は引き締まりますね。いよいよか!って。
鳥越:僕・・・サブタイトル変えてほしいなってずっと思ってて。「呪われたモンテカルロ・イリュージョン」もしくは「呪いのアバンチュール」に。
多和田:(爆笑)!!!
鳥越:いつ観れるか分からないから、早く来ないとって想いを込めて。
多和田:めっちゃおもろい(笑)!それいいなぁ。
鳥越:こんな状態になること、なかなかないから。そこを逆手にとって、タイトルにしちゃってもいいんじゃないかって思うぐらい。
――前回がそもそも「リベンジ」でしたもんね。
多和田:そう、「復讐のアバンチュール」だったから。
鳥越:「・・・ハイッ!」ズコーッで終わったけどな(笑)。
多和田:復讐できてない(笑)。
鳥越:今回またやるって決まった時、二冊台本あることに気づいたもんね。僕、何かきっかけになった作品以外はあまり台本を取っておかないんですけど、モンテは2冊とってあったんですよ。1回目はある程度やりきった感はあったんですけど、やっぱり「もうちょっとこうしたかったな」って気持ちはあって。何回やっても、分かるところが違うんですよ。スルメイカみたいにずっと味があって・・・たまに詰まる。
多和田:(爆笑)!!
鳥越:面白い作品やから、何度でもやりたいなと思うよね。
多和田任益×鳥越裕貴は絶妙な関係性で成り立つナイスコンビ
――3度目の上演が決まってからはどんなお話をされましたか?
多和田:また同じメンバーでやりたかったけど、みんなのスケジュール的に無理だったんですよ。でも、やることに意味がある、やらないと始まらないって僕は思ってたから、何としてもやりたいって、演出の中屋敷さんやプロデューサーの岡村さんにずっと言ってたんです。鳥ちゃんも、ずっとやりたいなあって言ってくれてて。ねえ!
鳥越:ああ。
多和田:僕と鳥ちゃんと、中屋敷さんがスケジュール的になんとか行ける!ってなった時に、これはもう一度動き出すしかない!って感じになったんですよ。
鳥越:・・・ちょっと待って、さっき近所のおっちゃんみたいなスタンスで返事してもうた(笑)。
多和田:(笑)!この感じがいいんです。僕も鳥ちゃんも、もう一回やりたいという気持ちは多分一緒なんですけど、鳥ちゃんは達観してるというか、「いつでも来てもらったらやりますけど」みたいな感じだから。
鳥越:(爆笑)!
多和田:モンテのトメ俳優ですから!僕は僕で鳥ちゃんがそういうスタンスでいてくれるから、よっしゃやるぞ!みたいな気持ちになれているんです。バランスがいいんですよね。
――いいコンビですね。多和田さんは、Standardな『熱海殺人事件』で大山金太郎役を演じられましたが、何かご自身の中で変化はありましたか?
多和田:見え方が大きく変わりました。やっぱり鳥ちゃんてすごかったんやなって思いましたし、この人にしか見せられへんものがあるって実感しました。一緒にやってると、鳥ちゃんのこと化け物みたいに感じることがあるんですよ。
鳥越:え、俺、化け物なの(笑)?
多和田:人なんだけど、化け物、みたいな!別バージョンだけど実際に金太郎を演じてみてそう思ったし、何なら、シャッフル公演で水野もやらせていただいちゃったりもしましたし。
鳥越:あっ、そうや!
多和田:あっちゃん(荒井敦史)とがっつり絡んでやったからね。
鳥越:そんなん笑てまうわ・・・。
鳥越:あっちゃんもお客さんもめっちゃ笑ってた。こちとら大真面目にやってるのに。
鳥越:そらそうや(笑)。
多和田:でも、怖いのが途中からお客さん誰も笑わへんくなって。みんな、受け入れるの早っ!って思った。あっちゃんは引きずってたけど(笑)。そんな感じで、金太郎、水野を経たので、今度の部長は、より美しさに磨きがかかるんじゃないかと。
鳥越:・・・なんやねん、水野を経て磨きがかかる美しさって(笑)!
多和田:あるよ!だって、あの席(水野の席)から部長のこと見たことないやろ?俺だけやで、それ見たことあるの。ちなみに、はるっぴ(前回までモンテカルロ・イリュージョンで水野朋子役を演じていた兒玉遥)客席から見てたからね。「たわちゃん、何やってるの・・・?」って言ってた。水野だけど、何か?
鳥越:(爆笑)!!
多和田:いろんなものを蓄えさせていただいたので、より爆発できると思います。部長が暴れれば暴れるほど、モンテの大山はツッコまないといけないのでね(ニコニコ)。
――個人的に、いつか鳥越さんにもStandardの大山を演じてもらいたいなと思っていたんですが、三周ぐらい回って、やっぱり鳥越さんはモンテの大山だなという考えに落ち着きました。
鳥越:勝手に回られてる!でも・・・正解だと思います(笑)。僕もモンテじゃなかったら、なんか違うかなと。初めてモンテをやることになった時に、映像で阿部寛さんがやっていた「モンテカルロ・イリュージョン」を観たんです。その時に大山を演じていたのが、山崎銀之丞さんで。銀之丞さんにめちゃめちゃ嫉妬して。この人を超えたい、超えるじゃなくても、同等まで違う道で行かんとあかんって気持ちになったんです。その瞬間はいつ来るんだろうかと思うけど、そう思って、消えたい。そんなことを考えるぐらい、演劇として、銀之丞さんが演じる金ちゃんは光りまくって見えたんです。
この想いが昇華できないうちに、Standardの金ちゃんは絶対やれないなと思っていて。・・・モンテが好きすぎるんですよね。自分の好きな演劇のタイプというか、すごくハマっていて抜けられないんです。
「Standardは「暴れている」、モンテは「大暴れ!」
――『熱海殺人事件』には様々なバージョンがありますが、「モンテカルロ・イリュージョン」の魅力を、お二人はどう表現しますか?
多和田:具体的に言葉にできない感覚なんですけど・・・僕ね、伝兵衛って僕には合わないかなって思ってたんです。でも、中屋敷さんが2019年の朗読会でモンテに出会わせてくれた時不思議なくらいスッと伝兵衛が自分の中に落ちてきて、演じてて楽しくて楽しくて、これを絶対本公演としてやりたい、みんなに観てほしいって思って。それでやりたいやりたいって言って(笑)。一度知ってしまったらもう一回どうしようもなく食べたくなる、みたいな感じ。
Standardな熱海は「暴れている」で、それが好きだからこれまで何度も出演させていただいてきたんですけど、モンテはさらに規格外の「大暴れ」って感じなんですよ。もう誰にも止められない(笑)。だから、もしかしたらお客さんの中にはわけわかんないスピードで進んでいくって感じる方もいるかもしれないけど、でもそれでもいいんです。最終的には「・・・浴びた!」みたいな感覚になれると思うし、バージョンは違っても熱海の大切な部分は伝わるはずで、そのわけのわかんないパワーが心にずっと残っていくのがモンテなのかなって。多分僕は、その感覚が好きなんでしょうね。そして、ぶつけたいんでしょう。・・・変態ですね。
鳥越:(爆笑)!!
多和田:みんなにぶつけたいし、浴びたって思ってほしい。その上で、Standardと行ったり来たりしてほしい。鳥ちゃんは?
鳥越:アナログ、かつ、コアというか・・・圧倒的エンタメだと感じていて。なんか、ラスベガスとかのエンタメショーみたい。狂い散らかして、ついてこれるのはぶっ飛んでる人だけ。普通の感覚の人は「あれなんやったん?」って思いつつ、 「もう1回見たい」って思う、みたいな(笑)。
多和田:(笑)!
鳥越:たわちゃんが言うように「浴びる」という、やる方も観る方も、海外のエンタメショーを見るようなテンションになれるので、僕もそういうのが好きなのかもしれないです。やっぱり、あんだけ(たわちゃんが)歌って踊ってくれるとツッコミがいもありますし。
今、話していて改めて思いました。ラスベガスのエンタメショーみたいな、圧倒的に狂った感じが、今の日本には足りてないんちゃうかと思います。「楽しかった」とか「気持ちいい」じゃなくて、「なんなんこれ?!」「狂ってんちゃうか!」ってテンションで劇場を出ていって、新宿の街で飲む(笑)。
演劇って、マジで何でもできるぞ、って思える。すごくガチャガチャしているように見えて、深く筋が通っているものもあるし、もっともっと掘り下げなあかんものもいっぱいある。開いてもうたら、もう閉じられへん!みたいな魅力が詰まっているのが、「モンテカルロ・イリュージョン」なんだと思います。
――やはり「Standard」との同時上演は、すごくおもしろいですよね。今回、嘉島陸 さんと、木﨑ゆりあさんを、新しい仲間として迎えますが、その変化については?
多和田:僕らも、再演しようとした時から3年空いているので、だいぶフレッシュな気持ちです。もちろん、同じメンバーでもやりたかったですけど、人が変わればあの時とはまた違うものができるので、それも楽しみです。
木﨑さんはStandardの経験者だから、流れも分かってらっしゃいますし、りっくん(嘉島さん)とは僕は共演したことがあって、偶然なのか必然なのか、Standardの伝兵衛であるあっちゃん(荒井敦史)とも最近共演していましたしね。集まるべくして集まったんだと思います。
鳥越:視察、行きましたね。
多和田:あっ、そうだ!あっちゃんとりっくんが出てる舞台、一緒に観に行ったね。りっくんは基本映像で活動してる方だったから、一度鳥ちゃんと会わせてみたいなと思って。会ってすぐ「めっちゃ合いそう」って言ってたよね。
鳥越:木﨑さんについても、あっちゃんからいろいろ聞いていましたし、二人に会って、すごく楽しみになりましたね。だから、前に一緒にやった修司(菊池修司)とはるっぴ(兒玉遥)に「やっぱりこれに出たい!」って嫉妬されるぐらいにしたいですよね。
多和田:やりたいよな~。
――中屋敷さんはこの3度目の上演については、事前に何かおっしゃられていました?
多和田:「たわちゃん ご飯行きましょう」「いつ空いてますか?」ってLINEが来て。実際には、予定が合わなくて行けなかったんですけど、やしきさんも、相当たまってるものがあるんだろうなって思いました。普段、そんなLINEとかしないから(笑)。
鳥越:テンション上がったんやろうな。
多和田:りっくんのこと、ちゃんとフォローしないとね。やしきさん言いたいことを、俺らが「こういうこと言ってるんだよ」って説明しないと。
鳥越:でも、それを泳がすのも楽しいよ。
多和田:じゃあ、ある程度泳がそう!ヤバい時は俺が助けるわ。今、方針が決まりました(笑)。
鳥越:ドギマギしてほしい。「なんやこの人は!」って。
多和田:分かるよ、俺らも最初思ったしな(笑)。
――いろんな熱量がぶつかり合う現場になりそうですね。
多和田:しかも、Standardチームと入れ替わりで稽古をするんですよ。お互いいい刺激になるだろうし、初めて参加する子たちには、特にそれもいいプレッシャーになるだろうな。と思います。僕らも最初は「あっちのチームに絶対負けない」って思ってたし、向こうは向こうで思ってたみたいだし。だから、一緒にまた走れる意味は大きいです。
鳥越:同じ仲間やしね。作品については、全然違うから相談してもしょうがないけど、同じ役者という土俵で一緒に頑張っている仲間がいるのは、いつもいい気づきをくれるので、助かるよね。
――今回7月10日がつかさんの命日公演があり、Standard公演にゲストを迎えるとありましたが・・・。
多和田:いつもそうなんですけど、どうなるのか全然分からないです(笑)。僕は今回は出られる可能性が低いんですけど、この命日公演はつかさんや熱海を大切に思っている方々が集まってくるっていう公演だと思っています。鳥ちゃん、Standardの金ちゃんできるかもよ。
鳥越:いや、いい・・・俺はモンテの金ちゃんやから・・・。
多和田:僕はまた水野やりたいな!今回出れなくてもまたいつか!
鳥越:じゃあそれ観に行くわ(笑)。それか、「何してんねーん!」ってヤジだけ飛ばす役ちょうだい(笑)。
――3度目の正直、楽しみにしております!
鳥越:「呪われたモンテカルロ・イリュージョン」と副題を勝手につけます(笑)。モンテを観に来ないと、人生楽しくないですよっていう呪いを。いろいろある世の中で、すべてを忘れて、発散しに来てください。これは、ラスベガスのショーです!
多和田:(笑)。それが、新宿で観れるんです!
鳥越:そうです。お酒飲んで観に来てください。それぐらいの方が、追いつくかもしれない(笑)。演劇としてすごく面白くて深いエンタメをやっているので、ぜひ劇場にお越しください。
多和田:個人的に、『熱海殺人事件』の全役制覇をした上で、ホームのようなこのモンテに帰ってこれることが、役者としてもすごくありがたいですし、鳥ちゃんという、心から信頼し、大好きな仲間がいてくれて、新しい仲間が加わってくれたので、前回一緒にやった2人の気持ちも背負って、今回ならではのモンテを作りたいと思います。
前々回観てくださった方も、まだモンテを知らないという方も、観に来てくだされば、世の中のどうでもいいことが本当どうでもよくなると思います。普段のイライラとかが吹っ飛びます。 鳥ちゃんの言うように、観て、浴びて、フゥー!!って発散してください。人生楽しくなると思います!
僕らもまずは一旦走り切りたい!ぜひたくさんの方に見届けていただけたら。そうしたら、その先にまた何かあるかもしれない。
鳥越:なんや、めっちゃ希望を抱かせるなあ(笑)。
多和田:あなたたち次第ですっ!
鳥越:希望じゃない、プレッシャーや!!
多和田:以上です、よろしくお願いします!!
紀伊國屋ホール60周年記念公演『熱海連続殺人事件』公演情報
<上演スケジュール>
2024年7月5日(金)~7月22日(月) 紀伊國屋ホール
<チケット>
【料金】8,500円(税込/全席指定)
※未就学児童入場不可
【一般発売】6月15日(土)
『熱海殺人事件 Standard』
【作】つかこうへい
【演出】中江功
【出演】
木村伝兵衛部長刑事:荒井敦史
婦人警官水野朋子:新内眞衣
熊田留吉刑事:富永勇也
犯人大山金太郎:高橋龍輝
『熱海殺人事件 モンテカルロ・イリュージョン』
【作】つかこうへい
【演出】中屋敷法仁
【出演】
木村伝兵衛部長刑事:多和田任益
速水健作刑事:嘉島陸
犯人大山金太郎:鳥越裕貴
婦人警官水野朋子:木﨑ゆりあ
公式サイト
【公式サイト】http://www.rup.co.jp/