小沢道成による演劇プロジェクト「EPOCH MAN」の新作公演『我ら宇宙の塵』が、2023年8月13日(日)まで東京・新宿シアタートップスにて上演されている。演劇の飽くなき可能性を追求する小沢が、新たに作り上げたのは、俳優5人と一体の「パペット」が織りなす「遺された人たちの、命の物語」。その模様をレポートする。
小沢道成は、鴻上尚史が主宰する「虚構の劇団」劇団員として活動(2022年12月解散)。同時に、2013年からは、「EPOCH MAN」を主宰し、作・演出・美術・企画制作など、自身のアイデアや幅広い創作活動を続けてきた。毎回、目を輝かせながら新たな表現方法に挑戦していく姿は、大胆で才能に満ち溢れたクリエイターでありながら、無垢な子どものようでもある。
約2年ぶりの新作として、表現の中に取り入れたのが「パペット」と「映像テクノロジー」。小劇場の小さなステージを、3.5mのLEDディスプレイが取り囲む。その中心には、まだ生気のない小さな男の子の人形が横たわっていた。
また、一人芝居(『鶴かもしれない』など)や二人芝居(『オーレリアンの兄妹』『夢ぞろぞろ』など)に取り組むことが多かった小沢だが、本作では池谷のぶえ、渡邊りょう、異儀田夏葉、ぎたろーを迎え、5人芝居に取り組んだ。
宇宙が好きだった父を亡くしてから、空を見るようになった少年・星太郎がある朝突然、姿を消した。母・宇佐美(池谷)は家を飛び出し探しまわる。その道のりで、宇佐美は「星太郎と話した」という人たちと出会い、行動を共にしていく。宇佐美には、心の奥にしまってあったある後悔があった。出会った人々もまた、それぞれに喪失の経験を持っていた。人生が交差する中、宇佐美はある場所に辿り着く――。
「パペット」「映像テクノロジー」と言葉で書くと技術として捉えがちだが、あくまでも物語るのは「人間の力」だ。内容も、誰しも感じたことのある普遍的な物語。そんな普遍的な物語に、言葉が響き合い、身体の動きが連なり、美術や衣裳が華を添え、照明が陰影を与え、音楽が共鳴していく。
パペットである少年には、小沢を中心に、少年と出会った大人たちを演じる役者が操者となって命を吹き込む。噴き出す言葉たちが、命となって、命のない少年パペットの身体を循環していく。観客もきっと、重ねたい想いが心のどこかにあると思う。それはきっと、今まで言葉にできなかった漠然とした想いだったり、忘れていた記憶だったり。心の底に眠る想いを、ぐっと引き寄せて連れ出してくれるような気持ちになった。
誰にでも起こりうるものすごく身近なことを、想像力の翼でありえないほど遠くへと連れて行ってくれる。演劇の可能性と、“人間”の力を改めて信じさせてくれるような、そんな果てのない創造力が劇場という無限の宇宙に詰まっていた。
EPOCH MAN『我ら宇宙の塵』は、8月13日(日)まで。東京・新宿シアタートップスにて。
(取材・文/エンタステージ編集部 1号)
(写真:小岩井ハナ)
EPOCH MAN『我ら宇宙の塵』公演情報
上演スケジュール
2023年8月2日(水)~8月13日(日) 新宿シアタートップス
スタッフ・キャスト
【作・演出・美術】小沢道成
【出演】
池谷のぶえ 渡邊りょう 異儀田夏葉 ぎたろー 小沢道成
【公式サイト】https://epochman.com/
【公式Twitter(X)】@MichinariOzawa