『BOLERO-最終章-』レポート！東山義久と三浦宏規が目指したジャンルレスなダンス公演

2024年7月19日2024年8月1日

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2024年7月18日（木）、東京・有楽町よみうりホールにて『BOLERO-最終章-』が開幕した。東山義久、三浦宏規ほかダンスに定評のある表現者たちが出演者に名を連ね、総合演出を植木豪、総合振付を大村俊介（SHUN）が務める。

東山義久「過去最高の作品」と自信『BOLERO-最終章-』

世界的な名曲”ボレロ”、その神の魅力溢れる世界観の追求・表現を目指したダンス・プロジェクトとして始動したのが、『BOLERO』シリーズである。2013年・2016年と公演を重ねたこのプロジェクトの最終章となるのが本作だ。

麗しき青年と少年との邂逅、離別、そしてやがて訪れる再会を軸に、15人のキャストが情趣に富んだいくつもの場面を、ダンスを主体とした身体表現のみで紡いでゆく。

このプロジェクトの創始者である東山義久は、ダンサーが主体となる舞台作品の少なさを感じたことがきっかけで、『BOLERO』のプロジェクトを始めたと取材会で語っていた。東山の言葉通り、歌も台詞もない、ダンスが主体の舞台作品というのは珍しい。そのような舞台を観たことがない、ゆえに想像もつかない、という人もいるかもしれない。しかし本作の壮大で堂々たるオープニングの群舞を目の当たりにすれば、誘われるまますぐにこの魅惑的な世界に没入することになろう。

物語の主な登場人物は、東山演じる青年、三浦宏規演じる少年、そして蘭乃はな演じる少年の姉。青年と少年の邂逅を思わせる場面から物語は始まる。東山と三浦がダンス主体の舞台作品で共演するのは約10年振りだというが、二人の息はなんともぴったり。この青年と少年は出逢うべくして出逢ったのだと確信させるそのダンスと、互いに向ける慕わしげな視線は、情熱的でありながらどこまでも清らかだ。

客席は通じ合う二人に陶然と酔いしれることになるが、それもつかの間、そこに現れるのは少年の姉である。彼女の登場により、物語は大きく動き出す。どこか蠱惑的な魅力は東山持ち前のものでもあるが、麗しい青年に想いを寄せたのは少年だけではなかったのだ。

東山と蘭乃の二人もまた共演経験があり、コンビネーションの良さがうかがえる。先ほどとは対照的に、青年と少年の姉とのダンスはより色情をうかがわせるような激しさが印象的で、こちらにもまた心を奪われる。愛情、欲望、嫉妬に葛藤。物語の中では、三人がそれぞれあらゆる思いを抱き、苦悩するさまが描かれる。三人のソロダンスが続く場面は必見だ。

取材会では、三人がそれぞれ本作における互いの魅力を語っていた。蘭乃は三浦の「ノーブルな雰囲気を纏いながらも時折見せる凶暴性のギャップ」を挙げ、東山もこれに同意。三浦と東山は蘭乃の「普段の穏やかさと相反する狂気」を挙げる。そして東山へは「惜しげもなく曝される葛藤」を蘭乃が、「唯一無二で代わりのいないスター感」を三浦が、それぞれ語った。作品を観ると、どの言葉にも大きく頷いてしまう。是非劇場で確かめてほしい。

三人のパフォーマンスはもちろんのこと、彼らの心象風景をより鮮やかに客席に伝えてくれるのが、個性豊かで実力と才能に溢れたキャストたちである。もちろん彼らの役割は心象風景にとどまらない。ときにはキャラクターの内的世界を表現してくれる存在であり、ときにはキャラクターの相棒であり、ときには登場人物の一人であり、そしてときにはこの世界そのものである。キャストが一人でも欠けたら、この世界は成立しない。言葉が介在しないこの舞台において、15人の魂のこもった表現が、客席に物語を、あらゆる思いや感情を届けてくれるのである。

一曲一曲の熱量が凄まじく、すべての場面が印象深いにも関わらず、流れてゆく物語の展開にも引き込まれてしまうような90分間。そんな本作の総合演出を担うのは植木豪。自身も無二のパフォーマーである彼の、演出の手腕に唸ってしまう。

また、一曲一曲が印象深い理由の一つに、とにかくダンスのジャンルが幅広いことが挙げられよう。「振付」のスタッフにこれほど多くの名が連なることは稀であるが、振付、そしてそれをこなすパフォーマーともに、様々なジャンルのスペシャリストが集結していることをひしひしと感じさせる作品となっている。そんな本作の総合振付は大村俊介（SHUN）、彼もまた無二のパフォーマーでもある。

この『BOLERO』という作品は、音楽、演出、構成、その他すべてをカンパニーで一から創り上げている。東山は取材会にて、０から１、２･･･と創造し、積み上げていくことの大変さと苦労、しかしながらそれが最後の「爆発」に繋がるということを語った。

その「爆発」という言葉が、作品の終盤で思い起こされた。関わる人すべての、命を懸けた作品づくりが、『BOLERO』を鮮烈で刺激的なものにしているに相違ない。

愛憎渦巻く三人の物語は、やがてとある終着点へと辿り着く。そこに聴こえてくるのはもちろん、”ボレロ”の旋律。ジャズ、バレエ、アクロバットのアレンジ、そしてクラシックへと続いていくその響きは、ジャンルに囚われないまったく新しい”ボレロ”でありながら、なにより厳かでもあったように思う。

『BOLERO-最終章-』は、7月18日（木）から7月25日（木）まで東京・有楽町よみうりホール、7月30日（火）・7月31日（水）に大阪・SkyシアターMBSにて上演。上演時間は約90分を予定（休憩なし）。

（取材・文・撮影：遥咲貴）

『BOLERO-最終章-』キャストコメント

◆東山義久
本日より始まる『BOLERO-最終章-』は、ほとんど一からオリジナルで作られています。歌と台詞のないダンス主体の公演ということで、大変なこともありましたが、カンパニーとキャストに恵まれ、こうして初日を迎えられたことに、心から感謝しております。
僕らの肉体から、いろんな音楽、いろんな台詞を聞いて、お客様それぞれの楽しみ方をしていただきたいです。
僕たちの唯一無二の「BOLERO」ができたと思っています。1人でも多くの方に観ていただきたいです。千穐楽まで、どうぞよろしくお願いします。

◆三浦宏規
『BOLERO』はダンスだけの公演ということで、汗と熱気の物凄い、大変な稽古期間でした。そんな中、怪我も病気もなく、みんなでここまでやってこれて良かったと思っています。本番も、怪我に気をつけて、最高のステージをお届けできたらなと思っております。『BOLERO』の稽古期間、とても素晴らしいダンサーの方々に囲まれて、刺激のある日々を送ってきました。そんな素晴らしい方々が総動員で、この『BOLERO』という作品を作り上げました。お客様には、「絶対劇場に来た方がいいよ！」と、それだけ言いたいです。頑張ります！

◆蘭乃はな
この『BOLERO』という作品に出演させていただけることがとても嬉しいです。
制作の過程や踊りから、この作品に関わる皆さんの、作品に対しての思い入れのようなものをビシビシ感じています。皆さんの踊りを見ていると、よし、私もやるぞ！って気持ちになります。思いのバトンが次々に渡されていくような、そんな作品になっています。ボレロで熱い夏にします。良い踊りをします！ぜひ劇場にお越しください！