2021年9月16日(木)に東京・東京芸術劇場 シアターイーストにて、音楽劇『海の上のピアニスト』が開幕する。内博貴、藤本隆宏、そしてピアニストの3人で、豪華客船の中で生まれ、一度も船を降りることのなかった天才ピアニストの生涯を綴る。初日前には公開ゲネプロと会見が行われた。
アレッサンドロ・バリッコによる朗読劇『Novento(ノヴェチェント)』にインスパイアされ、イタリアで映画となった『海の上のピアニスト』。2018年には北翔海莉、喜多村緑郎らの出演で舞台化された。今回は2018年版と同じく星田良子の上演台本・演出で上演する。
舞台は、大西洋を往復する豪華客船ヴァージニアン号。そのダンスホールに、生まれて間もない赤ん坊がレモン箱に入れて捨て置かれていた。黒人機関士のダニー・ブードマンに見つけられたその子には、ダニ―の名前と箱に書かれていた文字、さらには1900年という新世紀最初の出来事ということで「900=ノヴェチェント」まで盛り込んだ“ダニー・ブードマン・T・D・レモン・ノヴェチェント”という立派な名前が付けられた。
8歳の時に不慮の事故でダニ―を失うも、ノヴェチェントはピアノと出会い、やがて船の専属楽団ピアニストになる。そして、楽団のトランペッターと親友となった。船で生まれ、一度も陸地を踏んだことのないノヴェチェントが弾く音楽は、やがて前代未聞の音楽だと噂されるようになる。
その才能は、決闘を申し込んできたジャズピアニストも、あっという間に返り討ちにしてしまうほどだった。しかし、そんな天才ピアニストにも解決できない人生の課題があり・・・。
ノヴェチェント役を演じる内は、一人の青年のターニングポイントを一つ一つ丁寧に紐解いている。生まれたての赤ん坊、拠りどころを失った少年、選択の時を迎える青年・・・その純な心の内に迫る姿は、どこまでも自然体だ。ピアノの鍵盤を離せば消えてしまう“音色”のように、地に足をつけることができなかった青年の人生を舞台上に漂わせる。
ストーリーテラー的役割も果たす藤本は、トランペッター役にとどまらず、ノヴェチェントの父親的存在、ライバルなど、物語の流れに応じて様々な役を演じ分ける。どっしりとした存在感と発するあたたかなオーラが、ノヴェチェントと物語、そして観客をしっかりと結んでくれた。
そして、もう一人の主人公と言っても過言ではないピアニストの存在。今回、演奏は西尾周祐が務めている(富山公演は宮川知子)。クラシカルなメロディからラップの伴奏、ジャズテイストまで、ノヴェチェントの人生に寄り添うように西尾が奏でる音色。音楽も“生きて”いるのだ。リプライズする本作のメインテーマが、それを教えてくれる。
また、内もピアノの生演奏を行うほか、西尾の奏でるピアノと共に華麗なステップやダンスで“音楽”を表現する場面も。そして、物語の終盤に訪れる、ノヴェチェントの“独白”。音楽と長台詞が生み出す緩急、明と暗が転じる瞬間。静かな物語の中にうねりを生み出す演出にも注目だ。
会見で、内は「いよいよ始まるなという気持ち。もともと、僕は役作りについて難しく考え込むタイプではないので、演出の星田さんとディスカッションしながら作り上げてきました。ナチュラルに演じられるようにしたいです」と語った。
そんな内を、藤本は「僕から見ると、(内は)ノヴェチェントの人物像そのものなんですよ!」と評し、「僕が演じるトランペッターは、親友としてノヴェチェントのことが大好きになるんですが、僕も稽古場から大好きになっちゃって。この気持ちを忘れないように本番も演じていきたいです」と意気込んだ。そのリスペクトぶりは会見の中でも多々垣間見え、内が「あんまりハードル上げないで(笑)」とタジタジになる場面も。
そして、ピアニストの西尾は「毎日稽古が楽しくて、今、稽古が終わってしまった寂しさも感じるぐらいです。ピアニストが主役の舞台で、ずっとピアノを弾いていられるのは之以上ない喜びです」と、舞台での演奏を楽しんでいる様子。さらに「自分以外のピアニストを演じているわけですが、ノヴェチェントとジャズピアニストの対決シーンは聞きどころだと思います」と挙げた。
最後に、内は「僕自身も、こういったタイプの作品に携わったことがないと思うような、不思議な舞台なんです。それぞれ違った観方で、いろんなものを感じていただけるんじゃないかなと。こういうご時世にも関わらず、舞台ができるということは幸せなことです。感染対策はバッチリでお迎えします。僕の勝手なイメージなんですが、船に乗っている気分になれる空間になっているので、ご覧いただける方にはぜひ楽しんでいただきたいなと思います」と締めくくった。
音楽劇『海の上のピアニスト』は、9月16日(木)から20日(月・祝)まで東京・東京芸術劇場 シアターイーストにて上演後、栃木、富山、石川、大阪を巡演する。
音楽劇『海の上のピアニスト』公演情報
上演スケジュール
【東京公演】2021年9月16日(木)~9月20日(月・祝) 東京芸術劇場 シアターイースト
【栃木公演】2021年9月23日(木・祝) 栃木総合文化センター サブホール
【富山公演】2021年9月25日(土) 富山県教育文化会館
【石川公演】2021年10月7日(木)・10月8日(金) 北國新聞赤羽ホール
【大阪公演】2021年10月9日(土)・10月10日(日) 大阪市中央公会堂
スタッフ・キャスト
【作】アレッサンドロ・バリッコ
【訳】草皆伸子(白水社刊)
【上演台本・演出】星田良子
【作曲・音楽監督】中村匡宏
【出演】
ノヴェチェント:内博貴
トランペッター:藤本隆宏
ピアノ演奏:西尾周祐、宮川知子(富山公演のみ)
(C) 2021.海の上のピアニスト
(取材・文・撮影/エンタステージ編集部 1号)