いよいよ、幕を開けるミュージカル『ジェイミー』。イギリス発の、とびきりポップな作品の日本初演で、Wキャストで主演を務めるのが森崎ウィンと髙橋颯だ。同じ役を演じるけれど、全然タイプの違う二人。ドラァグクイーンを目指しながら「自分らしさ」を貫く少年を、それぞれの”個性”をリスペクトし合って作り上げた。若くフレッシュな感性をフルに使って、二人がどんな風に作品と向き合ってきたのか、話を聞いた。
日本でも上演され続ける作品になるように、初演を盛り上げたい
――『ジェイミー』いよいよですね。日本初演となる本作の、主演を務めることについては最初どうお感じになられましたか?
髙橋:日本で初めてできることが何より嬉しかったですし、同時に、今後も『ジェイミー』が上演され続けていったらいいなと思うので、この初演を、めちゃめちゃ盛り上げたいなと思っています!
森崎:日本でも多くのミュージカルが翻訳されてきましたが、作品の持つメッセージや魅力を伝える上で、初演はとても大切なものだと思います。そこに携われることは本当に光栄なことですし、何よりもこの時代にぴったりな作品としてお届けすべきものだと信じています。
――おっしゃるとおり、多様性が求められる現代に見てもらいたい作品の一つですよね。
森崎:台本を読ませていただいた時、すごく勇気をもらったんですよね。一人の人間として自分らしく生きること、自分を表現することへの恐怖心を取っ払ってくれたというか。今回、台本を早めに読み始めることができたので、演じることを意識して読むのではなく、客観的に読んでいたんです。読み終わった時に涙してしまったんですが、それはジェイミーを演じる僕としてではなく、森崎ウィン個人としての涙でした。
髙橋:僕は、逆に最初からジェイミーの視点で読んでしまって、感情移入するあまり、物語全体を掴むことに苦戦したんです。自分が演じるんだ、と主観的に入りすぎてしまって・・・。
森崎:正直だなあ(笑)。僕も、いつも客観的に入るわけではないよ。時間があったからこそ、できたことかもしれない。
認めるのも、心配するのも、どちらも「愛情」
――本作は、母親であるマーガレットの描き方がとても素敵だなと感じました。
森崎:ジェイミー自身のパワフルさはもちろん、周囲がもたらしてくれる些細な愛情がすごく魅力的ですよね。僕、マーガレットがジェイミーに向けてくれる愛情って、彼女自身を取り巻く事実が関係しているのかなと思いました。自分がしてほしかったことを、子どもにはしてあげようと思ってくれているんじゃないかって・・・。子どもの夢を理解できない夫の存在から、母としては子どもが自由に育てるように考えをガラッと変えてくれたんじゃないかなと、ジェイミー視点では考えてしまいました。
髙橋:何よりも、お母さんに感謝ですね・・・。
――ちなみに、お二人が芸能活動をしたいと思った時、ご家族はどんな反応をされましたか?
髙橋:僕の家は、父も母もすごく応援してくれていて、ずっと味方でいてくれています。だから、この作品と出会うまでは、家族に反対されるなんて、想像もしていませんでした。でも、現実問題としてそういうことも世の中には多々あるでしょうから、僕自身も理解を深めて、ジェイミーに寄り添っていきたいなと思いました。
森崎:僕の両親は、どちらかというと現実主義で、水物商売についてはあまり応援してくれなかったんです。そんな不安定な仕事じゃなくて、もっと堅実な仕事をしなさいって。でも、そう言う親の気持ちもよく分かるなと思いました。親になったことはまだないけれど。
それに気づかせてくれたのが、安蘭さんなんです。安蘭さんは「自分と違う生き方をすると拒否したくなるものなの、心配だから」って言っていて、それを聞いた時、すごく腑に落ちたんですね。自分の両親も、芸能界のことは全然知らないですし、心配して言ってくれていたんだなって思えるようになりましたね。
「それぞれ全然違うジェイミーだから」
――今、お話を聞いていてもお二人から全然違う印象を受けるので、まったく違う2人のジェイミーになりそうですね。
髙橋:僕、最初はWキャストの意味を全然分かっていなかったんですよ(笑)。初めて出演させていただいた『デスノート THE MUSICAL』のLとして月役の村井良大さんと甲斐翔真さんのお二人と対決していたんですけど、あまり意識していなくて。だから、今回経験させていただいてすごく勉強になっています。安蘭さんが、僕らに「それぞれ全然違うジェイミーだから」って言ってくださったので、すごく安心しました。
森崎:僕は、Wキャストについてはブロードウェイ・ミュージカル『ウエスト・サイド・ストーリー』Season2に続いて2回目の経験です。やる側としては、稽古場で目の前で比べられることは、正直つらいんですよ。これはきっと、みんな思うことだと思います(笑)。絶対、相手に敵わないことがあるんです。それが、その人の魅力。同じように、僕には僕の魅力がある。そこに、どれだけ向き合えるか。結局はWキャストって自分との勝負なんですよね。
髙橋:かっこいいです・・・。僕は、とにかく受け身にならない、出せるものを出すということに注力しています。周りの方は素晴らしい方ばかりですし、何より、ウィンさんが素晴らしい方なので。その意識を持ち続けてがんばります!
森崎:颯くんのジェイミーは、僕には絶対できないジェイミーになっているし、お互いをリスペクトしてやっていけたらいいよね。動きやミザンス、演出で「ここはこう動いて」と言われたことは同じことをやっているんだけど、そもそも僕らの人間性が違うから、当然出来上がるジェイミーも違う。前回得た経験を活かして、今回は取り組み方を変えてやってみています。互いを受け入れて、自分がちゃんと自分と向き合って。そういう姿をお見せしたいなと思っています。
――稽古場も、すごくいい雰囲気でしたよね。
森崎:めっちゃ楽しいです。コロナ禍なのであまり会話をしたりはできないんですけど、注意をはらいながら、みんなで高めてこられましたね。
髙橋:プロフェッショナルな現場なので、もっと厳しかったり、シリアスなのかなと思っていたんですが、毎日とても楽しくて、幸せな現場だなと思っています。
森崎:本番が始まったら、僕らはあまり会えなくなってしまうけれど、稽古の中でしっかり関係性を作ったからね。
髙橋:僕・・・ウィンさんの声がすごく好きなんですよね。ミュージカルの歌声も、それ以外も。すみません、ちょっとファンみたいなこと言ってしまいました(笑)。
森崎:ありがとう(笑)。
「夢」は日々を生きる活力であり、恋にも似ている
――ジェイミーは「夢」に突き動かされていきますが、お二人にとって「夢」ってどういうものですか?
森崎:僕にとって「夢」は、毎日の活力です。目標とか、自分が叶えたいと思うものがないと動けないし、エンジンがかからないので。でも、変な言い方だけど「夢」って死ぬまで叶えられないような気がするんですよね。叶いそうになると次の「夢」が出てきて、課題やゴールが見えてくる。死ぬまで叶わないから、生きる力になっているような気がします。
髙橋:僕は最近、「夢」って恋と似ているなと感じています。追い続けるし、追えば追うほど遠ざかることもある。やっと掴めたら嬉しいし、また離れていってしまうこともあるし。「夢」も恋も、その時々の必死さを楽しめることが楽しさに繋がっているじゃないかなと思います。
――この作品も、ご覧になる方々の活力や楽しさの一つになったらいいですね。
髙橋:楽しく、そして愛に包まれる作品ですから、きっとそう感じてもらえると思います。作品の素晴らしさに僕も負けないように、全身全霊、一生懸命やります!楽しみにしてご来場いただけたら嬉しいです。
森崎:このご時世の中、エンターテインメントをお届け出来ることは喜ばしいことです。これはもう、あえて言いますが「いつ最終回になるか分からない」日々です。前回、『ウエスト・サイド・ストーリー』でそのことを痛感しました。当たり前なのですが、一回一回、これが最後かもしれないという気持ちで臨み見ます。お客様にも、その場で、その日にしか生まれない『ジェイミー』の世界に没頭して、明日への糧にしていただけたらと思います。