演劇界への転身と劇団運営の道、「いろいろな財産ができた」
――演劇の世界に軸足を移したきっかけは何でしょう?
SHAZNAが一度解散したことがきっかけでした。他で音楽をやるのもピンと来なくて、SHAZNAが終わるんだったら、もともと目指していた役者にシフトしようと思ったんです。ちょうど解散前に映画のお話をいただいて、堤幸彦さんの作品に出させていただいたりもしていたので。『左ききのエレン』の原作者かっぴーさんが大好きだって言ってくださった映画『チャイニーズ・ディナー』を撮ったのがターニングポイントです。
――演じるだけではなく、劇団を主宰されるようになった理由は?
映画とかはオファーいただいてお仕事しましたけど、舞台のお誘いは来なかったんです。じゃあ、「自分で作ればいいじゃん」って思って。それもバンドと一緒ですね。待ってても来ないから、「自分がやりたいことだし、自分で始めればいいじゃん」みたいな感じでした。
最初はスタッフと僕だけで「ベニバラ兎団」をやってたんです。でも、やっぱり劇団員がいたほうがいい。自分が一緒にやりたいと思う仲間を集めたいと思って、劇団化しました。
でも演劇とか劇団が売れるって、難しい。劇団☆新感線さんもそうですけど、先輩劇団さんは30年・40年やってる方もたくさんいらっしゃるし。うちはまだ10年位なので、ペーペーもいいところです。ただ、紆余曲折しながら、新しい経験がまた何かできると思って、劇団運営をやっています。
――実際にたくさんのもの、出会いを得られたと思いますか?
やらない限り、若い役者になんて会わないですからね。舞台『左ききのエレン』に関わってくれている若い役者たちも、本当にいいヤツばっかりで、そんな子たちに出会えたのも演劇をやっていたからだと思います。
時間だけ過ぎて年老いていくんだろうなという中で、劇団をやっていて良かったなと思うのはそういうとこですね。「いろいろな財産ができたこと」です。
未来への希望、「演劇は日本で唯一ブレイクしていないエンタメのジャンル」
――未来のことについて伺います。SHAZNAが20周年で再誕して、今年で3年。今後の音楽活動のビジョンをきかせてください。
音楽は“やりたい時にやる”。レコーディングは地道にゆっくりやってる感じです。SHAZNAが20周年で復活した時、「来年アルバムを出すよ」って言ったのに3年も経ってしまって、ファンには“出す出す詐欺”なんですけどね(笑)。でも今、音楽を急いで作って発表したところで、聞いてくれる人はどれぐらいいるのだろうと思う。
今はなんとなく、無料で聞いて良いものが売れる風潮がありますが、実際、それは売れていない。だから、音楽業界の経済も回ってなくて、それは全然僕たちがやりたいことじゃない。
古い考え方かもしれないですけど、「自分たちが作ったもの=自分たちの子どもであり、才能のかけら」だと思ってるんです。だから、それを垂れ流すことはできないと思っちゃう。今は簡単に自分の才能を垂れ流しちゃうから、世界は少しシステムが変わってきているみたいですが、日本は大丈夫かなと思ってます。本当に。だから僕は、そこに加わりたくないので、のんびり自分たちが思う時に曲を出そうって感じですね。
――今後挑戦したいこと、将来的に叶えたい夢があったら教えてください。
僕の将来の一番の夢は、サッカー選手目指してがんばっている自分の息子たちがプロになって、行きたい海外のチームと契約して、僕は何もせず、その子たちの朝ご飯を毎日作って、子どもたちがサッカーをやっている姿を見る、というのが夢ですね。それを最終的に、何か物語にしたいっていうのが僕の最後の夢です。
――自分の夢ではないんですね。
僕の夢が子どもの夢になっちゃったんです、もう今。もちろん、僕の中で夢はあったんですけど、子どもを持ってみて初めて分かったのが、彼らがものすごい可能性を持っていて、驚く速度で毎日進化していること。だから、自分が持っているものとか、与えられるものを全て子どもに託したい。そう思っています。
――最後に、IZAMさんの演劇に対して思うことを聞かせていただけますか?
演劇は、“費用対効果の悪いエンタメ”なんです。だからこそ、まだ夢があると思ってるんですよね。演劇は、日本で唯一ブレイクしていないエンタメのジャンルだと思っています。今は2.5次元の舞台とか大きいとこでやったりしていますけど、僕はまだブレイクだと思っていません。音楽とか俳優さんのブレイクはケタが違うから。そう考えると舞台はまだまだ可能性を秘めている。
舞台って、長時間拘束されて、稽古日数も長いし、費用対効果も悪い。テレビのバラエティに出るほうが金額的には全然高い。じゃあ、なぜこんなことを10年もやっているのか。それをふと考えた時に浮かぶのは、単純に「あー好きなんだな」という想いです。
単純にステージが好き。照明に当たることが好き。無形のものを有形にすることが、好きなんです。本当に舞台は、唯一の総合芸術で、これをもっとフランスとかヨーロッパのように、皆様の身近なものにしたい。それにはちょっとチケット代が高いですけど、それだけお金がかかるものなんですよね。その国民の皆様の心のゆとりとして、演劇を見たい、と思ってもらえるように持っていきたいと思ってはいます。
僕らみたいな、お化粧して女装したバンドでも、お茶の間で認めてもらえた。そこに入り込めたので、引き続き夢を持ってやっていきたい。僕が演劇界でできることは大したことじゃない。諸先輩方もたくさんいるし、皆さん頑張っていらっしゃる。だから僕ができるのは、いかに演劇が身近で楽しく、キレイな場所なのかを伝えること。アトラクションがあるテーマパークに遊びに行くのと同様に思ってもらえるように、持っていきたいなと思っています。今は、そこに向けてがんばり続けるだけですね。
公演レポートはこちら:「諦めそうになってる人は、絶対に諦めないで欲しい」fromエレン。『左ききのエレン -バンクシーのゲーム篇-』ゲネプロレポート
公演情報
舞台『左ききのエレン -バンクシーのゲーム篇-』
2021年1月21日(木)~1月24日(日) 六行会ホール
【原作】かっぴー
【脚本】川尻恵太〈SUGARBOY〉
【演出・プロデュース】IZAMANIAX〈ベニバラ兎団〉
【振付】青井美文
【出演】
朝倉光一:吉田翔吾
山岸エレン:棚橋佑実子
神谷雄介:久下恭平
加藤さゆり:舞川みやこ
三橋由利奈:西葉瑞希
岸あかり:立野沙紀(劇団4ドル50セント)
岸あやの:真島なおみ
流川俊/ハンク:大見洋太
柳一/ジャック:日比博朋(ベニバラ兎団)
朱音優子/マチルダ:新川悠帆(ベニバラ兎団)
園宮千晶/ナタリー:青野楓花(ベニバラ兎団)
沢村孝/トンプソン:井上翔(ベニバラ兎団)
斎藤咲千代:谷茜子(ベニバラ兎団)
エイブリーキャンベル、ほか:高橋孝衣
キーラ、ほか:榎本愛子
ソフィア/スカーレット:遠藤しずか
ルーシー:泉ひかり
ジェイコブス:丸山正吾
岸アンナ:葛たか喜代
【舞台版オリジナルキャラクター】
佐倉恵:飯田南織(ベニバラ兎団)
【公式Twitter】https://twitter.com/ELEN_ofSOUTHPAW
【ベニバラ兎団公式ブログ】https://ameblo.jp/benibara-de-paris/