2020年 11月末より上演される現代能楽集Ⅹ『幸福論』~能「道成寺」「隅田川」より。本作は、能・狂言を土台に現代演劇を創作する、世田谷パブリックシアターの芸術監督である野村萬斎が企画・監修するシリーズ最新作。今回は「道成寺」「隅田川」を現代に移し替えて、今を生きる人々にとって“幸福”とは何なのかを探る。
長田育恵(作「隅田川」)、瀬戸山美咲(作「道成寺」および2作の演出)のタッグのもと、集ったのは瀬奈じゅん、相葉裕樹、清水くるみ、明星真由美、高橋和也、鷲尾真知子の6名。今回は、清水に本作への出演について話を聞いた。
――「現代能楽集」も本作で10作目となりますね。清水さんはいくつか本シリーズをご覧になっていると伺いました。
はい。6作目の『奇ッ怪 其ノ弐』と8作目の『道玄坂綺譚』を観ました。実は、どちらの作品も同じシリーズのものと思って拝見していなかったんですけど、とてもおもしろかったです。
――能楽などの古典に触れたことはありましたか?
学生の頃、授業で触れたぐらいでした。その時はすぐに理解できなくて、本で読んだりしてみたんですけどそれでも難しかった・・・という記憶がありました。でも、この「現代能楽集」で観た作品は、ぜんぜんそんなことなくて。難しいと思っていた題材を、現代に置き換えることでこんなにも分かりやすくなるんだと驚きました。昔から語り継がれる作品のメッセージ性を変えずに、現代に寄せていくという発想はとてもおもしろいなと思いました。
――元の能楽を知っていても、知らなくても、後から調べたりしても、それぞれのおもしろさがありますよね。
何も知らなくてもおもしろいって、すごいことですよね。何より、劇場さんへの絶大な信頼感があります。私の中に、世田谷パブリックシアターさんとか、シアタートラムさんでやっているものは「絶対おもしろい!」という安心感があって。そういう大好きな劇場さんの企画に出演させていただけるのは、本当に嬉しいことですね。
――今回は「道成寺」と「隅田川」の2作品がもとになっていますね。
今回も、古典だけ読むと難しいなと思ったので、参考になる本を読んだりしたんですけど。実際、何も知らなくても、今回の作品の台本を読んだだけで物語の持つ核がしっかりと伝わってきました。ここまで現代に落とし込んでくれると、自分の中で噛み砕くことも速いですし、伝わるし、染みるし。「現代能楽集」を知ってから原典に戻ると、難しいなと思っていたものがすっと身体に馴染む感じがしました。
――今回取り上げられている2作品は、どちらも女性の“哀しみ”や“怒り”の感情が根本にありますよね。
そうですね。そして、変わってしまった今の時代が反映されています。もともと企画自体はコロナ禍のずっと前からあったものだと思うんですけど、話を読むと「今、こういうことあるな」と思うことがしっかりと描かれているんです。リアルタイムに、今を作品に反映できるのは、演劇の強みでもありますよね。
生活が苦しいと感じている人も増えているし、女性なら子どもを産みたいけれど産める環境ではないといったこともあるでしょうし、世の中がこうなってしまったから生まれる現象にちゃんと向き合って描かれた物語になっていて、古典がベースだけれども、「今、観てほしい作品」になるんじゃないかなと。密を避けなければならない、人と人との距離が空いてしまっている今だからこそ、共感していただけるものになると思います。
――2作品を1つの公演で表現するのも興味深い点ですが、清水さんが演じる役は?
私は、2つの役を演じます。1つは、望まない妊娠をしてしまい、そのことを誰かに気づいてほしくて万引という犯罪に走ってしまう・・・助けてほしいと言えずに悪い行動に走ってしまう、そんな複雑な心を抱えて行動を起こしてしまう女性です。
もう1つは・・・簡単に言うと、世の中を俯瞰して見ている地下アイドルの女の子です。相葉さんが演じる役とたくさんやり取りがあるんですが、結構辛辣なことを言われます(笑)。私だったらイライラして言い返しちゃいそうだけど、それも全部いなして接することができるような、達観した女の子です。
――それはなかなか、真逆な2役ですね。
私、1つの作品の中でメインの役を複数演じる経験がなかったので、切り替えが難しいなと思いつつも、やるのはめちゃくちゃ楽しいですね。
――今回、事前に長田育恵さんと瀬戸山美咲さんのワークショップを受けられたそうですね。
ワークショップは、お2人のお話を聞くというよりは、私のことを見てもらう形だったので、事前にコミュニケーションをたくさん取れることはなかったんですが、長田さんと瀬戸山さんがすごく仲が良さそうで、良いコンビなんだなと思いました。いただいた課題もおもしろかったので、早く瀬戸山さんの演出が受けたいなってドキドキしていました!
――出演される顔ぶれもおもしろい組み合わせだなと思います。
初めましての方が多いんです。鷲尾さんとはワークショップでお会いしていたんですが、その時はご挨拶をするぐらいしかできなくて。高橋さんとは映像作品でご一緒しているんですが、一緒にお芝居ができるシーンはなかったんです。瀬奈さんとは共演経験があって、またご一緒できて嬉しいです。皆さん、それぞれにお芝居ではたくさん拝見しているんですが、稽古に入るまではご本人がどんな方なのかわからないので、こういう状況ですが、コミュニケーションを取ってどんな方なのか知るのがとても楽しみです。
――以前、清水さんにインタビューをさせていただいた時に、小劇場のお芝居がとても好きだというお話を伺いました。あれから、ミュージカル、映像など、様々な作品で清水さんを拝見していますが、改めて、ストレートプレイのおもしろさってどのように感じていますか?
そうですね・・・。まず、ミュージカルとは違うおもしろさとして、自分の間でお芝居ができることがありますよね。そして、同じお芝居と言っても、ストレートプレイで舞台に立つ時は、身体の軽さを感じます。映像はカメラとの距離も近いですし、カメラに伝わるお芝居が求められますし。感情の爆発も、リアリティの中で表現していきますよね。
舞台は、舞台上にいる対役者、そして劇場で観てくださる方、その場の空間に向かってお芝居をする。映像は役者の芝居というよりは、編集の力で完成する「作品」ですから。舞台は、良くも悪くもすべてがそのまま伝わる。その時、独特の開放感が自分の中に生まれて、軽い感じがするんです。私が魅力に感じている舞台の良さはそこにある気がしています。
――なるほど・・・。ちなみに、今回のタイトルは「幸福論」ですが、清水さんが“幸福”を感じる瞬間ってどんな時ですか?
めちゃくちゃ大変だった出来事の後に飲む、ビールです。私、ビールが好きでお酒を飲む時はビールばかり飲むんですよ。この作品も、うまくいけばすごい達成感を感じられそう・・・美味しいビールが飲めそうです(笑)。
――清水さんのお芝居を観て、私も美味しいビールが飲みたいです(笑)。公演、楽しみにしております。
能楽というと、少し難しいのではと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、現代に置き換えることで「こんなに分かりやすいんだ」「もとのお話が気になるな、読んでみたいな」という気持ちになっていただけると思います。大人になると、勉強する機会って少なくなってくる気がするんですけど、私はこのシリーズと出会って新たにお勉強したいなって思うようになりました。観てくださった方にも、いろんな方向から観て、楽しんでいただけたらいいなと思います。
公演情報
現代能楽集X『幸福論』~能「道成寺」「隅田川」より
2020年11月29日(日)~12月20日(日)東京・シアタートラム
【作】長田育恵「隅田川」/瀬戸山美咲「道成寺」
【演出】瀬戸山美咲
【監修】野村萬斎(世田谷パブリックシアター芸術監督)
【出演】瀬奈じゅん、相葉裕樹、清水くるみ、明星真由美、高橋和也、鷲尾真知子
【詳細】https://setagaya-pt.jp/performances/202011koufukuron.html