井上芳雄、井上ひさし最期の戯曲『組曲虐殺』で気づいた「演劇をやる意味」開幕コメント到着

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2019年10月6日(日)に東京・天王洲 銀河劇場でこまつ座&ホリプロ公演『組曲虐殺』が開幕した。本作は、国の有様を憂い、虐げられた人々のためにペンを武器に「蟹工船」などの名作を世に送り出すことで国家権力に闘いを挑んだプロレタリア作家・小林多喜二が、29歳という早すぎる死を迎えるまでの波乱の数年間を描いた音楽劇。劇作家・井上ひさしが最期に遺した戯曲で2009年・2012年に上演、これが再々演となる。開幕にあたり、演出の栗山民也、音楽・演奏の小曽根真、出演者より井上芳雄、上白石萌音よりコメントが届いた。

小林多喜二役を演じる井上芳雄は、これまでの上演すべてに同役で出演。多喜二の恋人・田口瀧子役の上白石は今回が初参加となる。このほか、多喜二の妻・伊藤ふじ子役として神野三鈴、特高刑事・山本正役として初参加の土屋佑壱、同じく特高刑事・古橋鉄雄役として山本龍二、多喜二の実姉・佐藤チマ役として高畑淳子が出演。

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◆栗山民也(演出)
今、ゲネプロを終え、自宅に戻った。早速、ビールを開ける。ものすごい熱がまだ体全体に残っている。舞台の時間は、これだからやめられない。
今回の舞台は7年ぶりの再々演だが、今までと随分と違った世界に見えた。二人の新しい俳優が参加してくれたこともあるが、皆7つ歳をとって、多喜二のあの暗黒の時代を通し、この歪んだ今の時代へと皆が正直真っ直ぐ向き合っているように思えた。もちろん、井上ひさしの言葉が目の前にあってのこと、その一つひとつの言葉が、今の時代にとても強く痛く響くのだ。初演の時の台本の裏表紙に書き留めていた多喜二の言葉を、また思い出す。
「革命とは、この田口タキという人を幸せにすることだ」
とにかくゲネプロの今夜、6人の俳優と一人のピアニストによるセッションは、一つの熱い塊になった。足し算ではなく掛け算で、舞台の温度はぐんぐんと上る。あとは観客の皆さんとのぶつかり合いで、この作品がもっと新しく大きく成長していくことを心から望む。

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◆小曽根真(音楽・演奏)
今回は上白石さん、土屋さんという新しいファミリーメンバーを迎えての再々演になりますが、栗山さんも、僕も、役者さん全員も、新たなインスピレーションをいただいたことで、今までよりも重心が低く、もう一歩も二歩も深い所まで届いたことを感じます。きっと井上先生が描きたかった世界、観客の皆さんにお伝えしたかったメッセージをよりクリアに伝えることのできる作品に仕上がったのではないかと思います。まさしく今の時代に生きている皆さんの心に、先生が鳴らし続けた警鐘が共振するのではないでしょうか。大切なことは、これは生でしか経験できないということです。おそらく、映像で観てもこの作品の良さは100%伝わらないでしょう。皆さんも、井上先生の仰る「運命共同体」として、生でこそ得られるものを感じるため、ぜひ劇場に足をお運びください。

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◆井上芳雄(主演・小林多喜二役)
初演のとき僕は30歳で、多喜二と同年代でした。
それからずっと僕の中には多喜二と井上ひさしさんがずっといて、二人に恥ずかしくない自分でありたいと思って生きてきた気がします。今振り返ってみると『組曲虐殺』は自分が演劇をやる意味に気づかせてくれた、大きな転機となった作品です。すべての舞台は現代社会と繋がっていて、僕たちがお芝居をする意味を明確にしなければ、未来に繋がらないことを学びました。この10年で、結婚し子どももできて自分自身の環境も大きく変化しました。井上さんや多喜二から「綱を渡された者」の一人として、未来に希望があることを信じ、今の時代に僕が演じる多喜二にしなければと決意を新たにしています。

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◆上白石萌音(多喜二の恋人・田口瀧子役)
井上ひさしさんの台詞は、口に出してみて改めて言葉の強さがわかりました。
今はこの作品の一部になれることが嬉しく、演じているとき、本当に幸せです。
全部の瞬間と言葉が本当に尊いと感じます。
私の演じる瀧子はあまり言葉を持っていない子なので、一言一言にシンプルで強い思いが込められています。それが難しい部分でもあるのですが、瀧ちゃんの信念を大切にしていきたいと思っています。自分で飾らず、台本に書かれてあることを全部そのまま受け取って、そのまま発すれば良いんだと稽古中に気づきました。全部井上先生の本に書いてあるんだなと。
タイトルが怖いので身構えていらっしゃる方もいるかもしれません。決して多幸感に満ちた時代ではないけれど、幸せになりたいと思って必死に生きていた人たちのお話です。
一緒になって一喜一憂してもらえたら嬉しいです。
そして言葉の持つ力と、音楽素晴らしさを存分に体感していただきたいです。

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【あらすじ】
時は昭和5年の5月下旬から、昭和8年2月下旬までの、2年9ヶ月。
幼い頃から、貧しい人々が苦しむ姿を見てきた小林多喜二(井上芳雄)は、言葉の力で社会を変えようと発起し、プロレタリア文学の旗手となる。だが、そんな多喜二は特高警察に目をつけられ、「蟹工船」をはじめ彼の作品はひどい検閲を受けるだけでなく、治安維持法違反で逮捕されるなど、追い詰められていく。そんな多喜二を心配し、姉の佐藤チマ(高畑)や恋人の田口瀧子(上白石)はことあるごとに、時には変装をしてまで、彼を訪ねていく。瀧子は、活動に没頭する多喜二との関係が進展しないことがもどかしく、また彼の同志で身の回りの世話をしている伊藤ふじ子(神野)の存在に、複雑な思いを抱いている。言論統制が激化する中、潜伏先を変えながら執筆を続ける多喜二に対し、刑事の古橋鉄雄(山本)や山本正(土屋)は、彼の人柄に共感しながらも職務を全うしようと手を尽くす。命を脅かされる状況の中でも、多喜二の信念は決して揺るがず、彼を取り巻く人たちは、明るく力強く生きていた。
そしてついにその日は訪れる・・・。

2019年は、2010年4月に没した井上ひさしの没後10年目のメモリアルイヤー。こまつ座では「井上ひさしメモリアル10(テン)」として、幻の初期作から最期の書き下ろし戯曲『組曲虐殺』までを続けて上演してきた。一人の内気な青年は、なぜ29歳4ヶ月で死に至らなくてはならなかったのか・・・。明るさと笑いと涙で包まれた物語が、音楽と共に現代社会を鋭く照射する。

なお、本作の初演では第17回読売演劇大賞で4部門を受賞、2012年の再演では第63回芸術選奨文部科学大臣新人賞・演劇部門、第20回読売演劇大賞優秀男優賞で3部門を受賞している。

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こまつ座&ホリプロ公演『組曲虐殺』は、以下の日程で上演。上演時間は3時間15分(休憩なし)を予定。

【東京公演】2019年10月6日(日)~10月27日(日) 天王洲 銀河劇場
【大阪公演】2019年11月8日(金)~11月10日(日) 梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ
【松本公演】2019年11月17日(日) まつもと市民芸術館 主ホール
【富山公演】2019年11月22日(金) オーバードホール
【名古屋公演】2019年11月30日(土)~12月1日(日) 御園座

【公演詳細】https://horipro-stage.jp/stage/kumikyoku2019/

【こまつ座公式サイト】http://www.komatsuza.co.jp/index.html
【公演公式Twitter】@KUMIKYOKU2019

(撮影/宮川舞子)

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