2019年8月より劇団PATHOS PACKによるアイヌをテーマにした作品『永遠ノ矢=トワノアイ』が上演される。劇団PATHOS PACKとは2007年に宇梶剛士・金井良信・平野貴大らで旗揚げされた団体。
今回は宇梶のルーツでもあるアイヌをテーマにした作品を上演する。出演者は宇梶のほか金井、平野、オバタアキラ、仲道和樹、三崎栞(以上、劇団員)に加え、鴫原桂(劇団新派)、下畑博文(パタパタママ)杉本凌士(劇団メンソウル)、岩戸秀年、菅川裕子(バッカスカッパ)、並木秀介(大人の麦茶)、村上コウキ、蒼木まやが名を連ねている。
上演に先駆け、公開稽古と会見が行われた。以下、オフィシャルレポートをお届けする。
公開稽古では、東京に住む主人公である海(カイ)が亡き父のルーツをたどりながら、失踪した兄を探しに北海道を初めて訪れるシーンを10分ほど演じた。北海道の方言、アイヌ言葉。「イクアンロー(乾杯の意)」と言い酒を酌み交わし「ハプンノシニヤン(おやすみなさいの意)」と言い床に向かうというように、実際の方言を監修のものに細かく指導を受け、まるで、その土地の人たちがそこにいるように芝居は進んだ。
とはいえ、芝居の最中にもこの作品の作演出を手がける宇梶のダメ出しが行われる。「嘘に見えないように。本当は人は驚いて魅入る時は、力が入るよりは力が抜け放心状態になるのでは?」「振りつけのように台詞を言っているだけ。もっと気持ちで台詞のやり取りをしてほしい」一人一人の芝居に対して、細かい演出が続いた。
◆宇梶剛士(作・演出)
――意気込みは?
公演が近づいてくると、自然に俳優陣は、皆が勢いがついてきて、己の不安を跳ね返そうとします。仲間を信じて、噛み締めて舞台に立ってほしいですね。いまはがんばっていきたいという気持ちが大きいです。
――思い入れのある作品だと思いますが、宇梶さんの思いは?
今まで、もちろんすべての作品に対して、思い入れをもってきましたが、アイヌの血を持つという「自身」に触れていることはなかったですし、本当にあった事実も含まれているので、迷いなく台本を書き上げることができました。その半面、慎重になりすぎて筆が進まなくなってしまったこともありました。
――稽古を拝見して、きめ細やかな演出に驚きました
劇団PATHOS PACKを結成して12年経ち、いろいろと積み重ねてきた部分はあるので。ただ、劇団員への関係を築くために、自分への問いかけは忘れないようにしたいです。例えば、後輩が先輩に対して、お茶を出すことにしても、やってもらって当たり前だと思い始めると、関係が乾いていく。これが繰り返されると、元々は慕ってくれていた後輩が、事務的にしか行動しなくなる。
人間関係に「問いかけ」がなくなると関係が乾いていく。だから自分への問いかけが大切なのだと思います。人って、他人には問いかける。なぜなら、自分と違うから。でも、人間は自分へは問いかけなくなっていく。気持ちが通じあわなくなる。乾いた関係にならないようにして、瑞々しさを持ちながら舞台にあがってもらわないと。瑞々しい俳優に舞台に立ってもらえないと、それは演出である自分の責任である。乾いた関係にならないように、何よりも大切に考えていかないとならないですね。
――今回の作品で伝えたいことは?
トワです。トワとは永遠ということですが、永遠に問い続けなくてはならないこと、芝居を見て、見てもらうだけでなく、自分に置き換えて、持ち帰ってもらいたい。そんな作品を作る事が自分のテーマでもあります。
――ご自身のルーツであるアイヌ。このタイミングでアイヌをテーマだと思った理由は?
偶然が重なったんです。昨年、沖縄が舞台の芝居を書きました。沖縄の芝居を書きたいと思いついたが、沖縄を知れば知るほど、問題が複雑で、どこから書けばよいのか・・・偏った思考ではいけないし、取材を重ね、結局、9年間悩んで、ようやく沖縄の話を書き上げて上演しました。「いま書かないと一生書けない」と自分に言い続けて、この芝居を書き上げたのが大きかったですね。
そんな矢先に『北海道』と名付けた松浦武四郎さんの生誕200年の式典に出席しました。松浦さんの思いを感じて、沖縄の芝居を書き上げたから、次はアイヌの芝居を書くと言える自分がいたんです。自分の血が流れているアイヌ民族。弾圧と搾取 、偏見と差別。そういうことを避けるわけにはいかない。人間は見つめあい、未来に臨むのだということ。自分が知っているウタリは、何があっても前を向き続ける強い人たち。常に未来を見ていく、そのあたりを書きたいと思いました。
劇団PATHOS PACK 第21回公演『永遠ノ矢=トワノアイ』は以下の日程で上演される。
【東京公演】8月8日(木)~8月12日(月) 座・高円寺
【静岡公演】8月21日(水)~8月22日(木) 清水文化会館
【公式サイト】http://pathospack.com/
(写真/オフィシャル提供)