香取慎吾が奇才・寺山修司を演じる『テラヤマキャバレー』舞台挨拶・公開ゲネプロレポート

当ページには広告が含まれています

2024年2月9日に東京・日生劇場で、香取慎吾主演『テラヤマキャバレー』が開幕。没後40周年を迎え、その類まれなる才能に再び注目が集まる寺山修司を音楽劇とした本作。脚本を池田亮、演出をデヴィット・ルヴォーが務めている。2月8日に行われた本作の舞台挨拶と公開ゲネプロの模様をお伝えする。

「私が感動できないのであれば、あなたの言葉は墓場にはならない」

1983年5月3日、火曜日。まさにその生涯を終えようとしている寺山修司のもとに、「死」と名乗るものがやってきた。彼を慕う劇団員が集まる寺山の脳内の「キャバレー」では、戯曲『手紙』のリハーサルが行われている。死ぬのはまだ早いとリハーサルを続ける寺山に対し、「死」は日が昇るまでの時間と、時間を自由に飛べるマッチ3本を与え、「私(死)を感動させてもらいたい」と告げる。

死を目前にしてもなお創作への情熱を燃え滾らせ、もがく寺山。演じる香取慎吾をみていると、「言葉」をはじめとした寺山の作品たちそのものだけでなく、その人間的な魅力まで客席に想像させる。舞台挨拶で香取は役作りについて「『生きる』ということが寺山修司」と語っており、また脚本の池田は寺山を演じる香取について、当て書きの要素があることを明かしたうえで、「慎吾さんと寺山修司さんが共存している」イメージだと明かした。

『テラヤマキャバレー』という舞台において、たしかに「テラヤマ」は生きていた。土俵は違えどマルチな才能を表舞台で発揮する二人が融合するさまを体感し、『テラヤマキャバレー』の「テラヤマ」の生きざまを目の当たりにする感覚に、寺山修司という人物が生涯連れ添った「虚実」の力を思わずにはいられない。

凪七瑠海演じる死は、その名にふさわしく、妖しく非現実を思わせるチャームを纏いながら、「観客」として寺山を観察する。黒い寺山の外套とは対照的な、白いいでたちが印象的。間もなく戯曲執筆に行き詰まる寺山に、マッチを擦るように勧める。

寺山がマッチを擦ると、1本目では近松門左衛門の人形浄瑠璃「曽根崎心中」の稽古場へ、そして2本目では2024年のバレンタインデーの歌舞伎町へと舞台が移り変わる。過去、そして未来を目にし、寺山は何を得て、何を思うのか。

舞台の移り変わりに際し、個性豊かな名を授けられた寺山の劇団員たちも役どころをさまざまに変えていく。「白粥」を演じる成河の自在で傑出した表現力、「暴言」を演じる平間壮一の小粋で多彩なパフォーマンス、そして途中から仲間に加わる「蚊」を演じる伊礼彼方の実力に裏打ちされた圧倒的な存在感、ほか才気溢れる俳優陣の力をして、客席は、マッチを契機に生み出される夢の世界に連れていかれてしまう。

実力派俳優陣の力はもちろんのこと、演出、舞台装置、脚本も、この舞台への没入には不可欠だ。日本の芸術に精通したルヴォーの「寺山修司」および古今東西の日本の描き方は見事で、たとえば人形浄瑠璃の表現には驚かされた。またそのストーリー展開もさることながら、台詞にも楽曲にも役にもエピソードにも、多くの「寺山修司」が散りばめられる脚本は、あらゆる角度から多様な面白さが追求されている。

ポップで鮮烈、陰陽ない交ぜ、品もあればときに狂気とナンセンスも感じさせるような摩訶不思議な世界でありながら、乱雑には感じない。明確さを伴わないものに想像力を働かせるのは観客の仕事だが、それを楽しいと思わせるのが、この作品の、作り手たちの、「寺山修司」の興趣と素晴らしさだろう。

寺山はやがて原稿を捨て、最後のリハーサルへと臨む。彼は脳内の劇団員たちと、「質問」という方法で交流を図る。寺山の「質問」とはいったいどのようなものか、とりわけ寺山が異様な視線を投げかける、村川絵梨演じる「アパート」には、何を「質問」するのか。「死」と出会い、日本の過去と未来をみた寺山が行き着いた答えとは。

ここでキーワードとなるのが、「質問」である。作中でも寺山修司作詞の楽曲『質問』が歌われ、香取慎吾が現代風にカバーした楽曲『質問』の配信も決定している。

舞台挨拶にて香取は、「『質問』という曲も「質問」という言葉も、この舞台において、とても大切。僕もたくさんの「質問」を、この舞台から、これからも、いろんな人に投げかけていきたい」と語ったが、作品を観ると、その思いの断片に触れた思いがした。

カーテンコールの「テラヤマ」が目に焼き付いている。「だれの悪霊なりや吊られし外套の前すぐるときいきなりさむし」という寺山の短歌がある(講談社学術文庫『寺山修司全歌集』より引用、2011年)。一見怖い歌だが、今の私には、どこかいとおしい響きをもって思い出された。

寺山は己の死に際し、脳内のキャバレーを訪れる「死」を魅了するような作品を創ることができたのか。ぜひ劇場で確かめてほしい。

『テラヤマキャバレー』は2月29日(木)まで東京・日生劇場、3月5日(火)から3月10日(日)まで大阪・梅田芸術劇場メインホールにて上演。上演時間は約2時間40分を予定(休憩25分を含む)。また香取慎吾歌唱、寺山修司作詞『質問』が、2月16日(金)より各音楽配信サービスにて配信開始する。

(取材・文・撮影:遥咲貴)

目次

舞台挨拶・スタッフキャストコメント

◆池田亮(脚本)

今生きている自分が、今は亡き寺山修司さんの言葉や作品・歌詞を、どう面白く表現できるかということと対峙し続けながら、脚本を書きました。その脚本が、キャスト・スタッフの皆さんによって肉体を伴って、歌・台詞、様々な表現で、これだけ具体的になるというのは思いもよらないことでした。そして、観客の皆さんによってこの作品は完成すると思っています。ぜひ楽しんでいただければと思っております。

◆デヴィット・ルヴォー(演出)

寺山修司の作品を創るにおいて、我々はエンターテイメントを創りたいと思いました。その中で、我々はいったい何者なんだということを探っていくような作品にしたいと、池田さんと何度も打ち合わせをしました。才能に恵まれた素晴らしい皆さんとご一緒し、試行錯誤しながら作品を創ることができました。
この作品は、私が日本の演劇の世界で学ばせてもらった素晴らしく楽しいものへのお返し、日本の魅力的な世界に対する私からのラブレターだと思っていただけたらと思っています。

◆香取慎吾

いつもの「慎吾ちゃん」とはちょっと違う感じで、日生劇場に立っています。寺山修司役ではありますが、寺山修司じゃなくなるときもあったり、ときには香取慎吾だったりするような気もします。稽古のなかで、だんだんこの世界が好きになっていく自分がいました。
日常生活は、上を向き、笑顔でいる時間ばかりではないと思います。この作品は、劇場を出たあと、自分の中に残った言葉を見つめ、上を向いて、未来に笑顔で向かっていけるような作品になっていると思います。
日常では味わえないショー、エンターテイメントの楽しさ、夢の世界をたくさん感じていただける作品です。楽しんでいただけたらなと思います。

◆成河

日本で演劇を作る外国人演出家っていう方は本当にたくさんいらっしゃると思うんですけど、ルヴォーさんは、日本の演劇、古典、近代現代の日本の芸能、日本語というもの、ひいては日本という国そのものに対して興味関心を持ち続けて創作をしている方で、そういう方はとても稀だと思います。
30年間そういう思いで、日本のことをたくさん考えてこられたデヴィットさんの集大成のような作品となっているんじゃないかなと思います。ぜひお楽しみください。

◆伊礼彼方

「蚊」役の伊礼彼方です。今回、新しいチャレンジになるんじゃないかなと思っております。 寺山さんが肝硬変で亡くなったという説がありますが、その時の、血が混ざったり、お医者さんだったりというようなイメージでこの役が生まれたそうです。
「蚊」はいろんな人の血をミックスさせて、新しい刺激を求めていきますが、混ざっていくキャスト、スタッフのエネルギーが客席に伝わった時に、刺激的なショックを受けていただけるんじゃないかと思っております。ルヴォーさんの演出、池田さんの脚本、そして慎吾さんの熱量、劇団員、スタッフの熱量、全部受け止めて帰ってください。

◆凪七瑠海(宝塚歌劇団)

私自身、宝塚以外で公演に立てさせていただくのは初めてですので、全てが新鮮で、刺激的で、衝撃で、ただただ圧倒される日々でしたけれども、ルヴォーさんの演出、キャストの皆様から、たくさんのことを勉強させていただいております。
座長の香取さん率いる素晴らしいカンパニーの皆様についていけるように、そして私も「死」として、この作品にきちんとエッセンスを加えられるように、頑張ってまいりたいと思います。

◆村川絵梨

まるでなにも想像ができないまま稽古に入って、未知の旅をしているうちに、いつの間にか明日が初日です。本当に素晴らしい体験をさせていただいています。
皆様の感想がこんなに楽しみな舞台はなかなかないです。お客様も想像ができない舞台だと思いますが、熱量と、ジェットコースターのような物語が待ち受けていますので、楽しんでいただけたらと思います。

◆平間壮一

『テラヤマキャバレー』って、人間とか、愛とか、正しいとか間違っているとか、そういった、色んな面での「人間」がテーマになってるんだなと思っています。人間って素敵だなって直感的に感じる部分が、この作品にはとても多く存在します。
台詞だけ聞いていると、「何やってんだあの人」「え、どういうこと」となる場面も多くあると思いますが、すごく温かみのある作品だなと思います。池田さんの愛だったりとか、ルヴォーさんの日本に対する愛であったりとか、大先輩たちの熱量っていうのを感じるからだと思います。
深い愛を受け取りにこの劇場に遊びに来てくれたら嬉しいなと思っております。

『テラヤマキャバレー』公演情報

スケジュール

【東京公演】2024年2月9日(金)~2月29日(木) 東京・日生劇場
【大阪公演】2024年3月5日(火)~3月10日(日) 大阪・梅田芸術劇場メインホール 

スタッフ・キャスト

【脚本】池田 亮
【演出】デヴィッド・ルヴォー

【キャスト】
香取慎吾
成河 伊礼彼方 村川絵梨 平間壮一 花王おさむ 福田えり 横山賀三
凪七瑠海

楽曲配信情報

『質問』
歌唱:香取慎吾
作詞:寺山修司 作曲:田中未知 編曲:宅見将

2024年2月16日(金)0:00 配信リリース
香取慎吾『質問』
配信リンク: https://shingokatori.Ink.to/shitsumon

【公式サイト】 https://www.umegei.com/terayama_cabaret2024/index.html
【公式 X】@TerayamaCabaret

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

心躍るパフォーマンスを追い求め東奔西走するフリーライター。お芝居と音楽、お酒を愛しています。観劇の余韻を肴に呑む時間がいちばん幸せ。
ときめきに満ち溢れたエンターテイメントを、言葉を尽くしてお伝えします!

目次