『宝塚BOYS』公演レポート・・・輝く場所を目指す青年たちの、熱く懸命な物語

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2018年8月15日(水)に東京・東京芸術劇場 プレイハウスにて、舞台『宝塚BOYS』team SKYの初日が開けた。2007年の初演から5度目の再演となり、Wキャストとなっている今回の『宝塚BOYS』。すでに上演した「team SEA」は『宝塚BOYS』出演経験者が多いのに対し、「team SKY」は本作初参加で、2.5次元舞台などで活躍する俳優などの新世代で構成されている。そのフレッシュさは、本作の舞台である華やかな“宝塚”の世界と、本編を通して立ち込める“戦争”という暗雲を引き立てていた。その公演の模様をレポートする。

「team SKY」の初日となった8月15日は、舞台『宝塚BOYS』にとってもとても意味のある“終戦記念日”だ。それまで、それぞれの戦争を生きていた青年たちの人生が、この日を境にガラリと変わる。目の前に広がる未来に戸惑う中、“宝塚”という選択をした実在の青年たちの数年間が描かれていく。

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物語の舞台は、第二次世界大戦終戦直後の1945年秋。男子禁制の女の園・宝塚歌劇団の稽古場に、一人の青年がやってくる。彼、上原金蔵(永田崇人)は子どもの頃から宝塚に憧れており、宝塚歌劇団の創始者である小林一三に「男性登用」を望む手紙を送ったことが認められたのだ。

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オーディションを経て新設・宝塚男子部へ入部したのは、電気屋の竹内重雄(溝口琢矢)、宝塚のオーケストラメンバーだった太田川剛(塩田康平)、旅芸人の息子・長谷川好弥(富田健太郎)、闇市の愚連隊だった山田浩二(山口大地)。そのほとんどが、この間まで軍服に身を包み、戦地や満州などで終戦を迎えた青年たちだ。彼らの自己紹介では、出身地を言うような自然さで「どの戦地にいたか」「どんな部隊にいたか」が口にされる。

しかしオーディションに合格したとはいえ、大舞台になど立ったことはない。彼らは最低2年間のレッスンを積む必要があった。そこに、オーディションではなく唯一、スカウトされたプロのダンサー星野丈治(中塚皓平)もやってくる。

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2014年には100周年を盛大に迎えた宝塚だが、当時は戦争により劇場は閉鎖中。終戦を迎えてこれから新しい未来を築いて行こうという時期でもある。宝塚歌劇団創立(初公演)から、31年目のことだった。

それぞれのキャラクターが違い、多彩だ。7人だけなのに、当時日本の各地いただろうにいろんな青年の存在を感じさせる。

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永田の演じる上原金蔵は、リーダーだが自信なさげにいつもオロオロしている。高い声が時々ひっくり返り、かなり頼りないけれど、一生懸命なので「しょうがない、そんなに言うならちょっとがんばろうか」という気にさせる愛されリーダーだ。

そのリーダーの座を、時々無意識に奪ってしまう竹内。竹内役の溝口は7人の中では一番細身で、服装も小綺麗で女の子のように可愛らしく大きな上目遣いをするが、控えめに見えて辛辣なことを言ったり激情的だったりと、ギャップを持たせた演技で目を引く。

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冗談ばかりの太田川(塩田)と、旅芸人の芸を見せる長谷川(富田)は、舞台上を動き回りユーモアと元気を振りまく。この二人がいるので、一気に“男子感”が増す。個性際立つのが山田(山口)。華やかな世界を目指して来たわりに、一人だけヤクザ口調で服装も古くさく、闇市から来たんだぜアピールが強い。すごみを効かせるがどこか抜けており、端正な顔立ちとのバランスが魅力となっている。

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そこに、3歳からモダンバレエを踊り数々のコンクールで受賞して来た中塚が入る。逆三角形の伸びやかでしなやかな体。ストレッチをするだけで、一人飛び抜けたプロの踊り手の存在感が、宝塚BOYSの未来に期待させる。

しかし、ここにはたくさんの困難がある。宝塚に男性という初の試み。女の園にいながら、女子との接触をすれば即クビ。なかなか夢が近づかない現状に、不安や苛立ちも募る。
「いつか舞台に立てる。いつか」
彼らの胸には、夢と希望と志と、大きな不安がある。エンターテイメントという大きな商業世界の中で、いつ叶うともしれない時間。彼らはそれを“二度目の戦争”になぞらえる。大舞台を夢見て、無心に訓練を続ける日々は、軍隊のようでもある。

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ある日、新メンバーとして竹田幹夫(川原一馬)がやって来る。彼もまた、戦争の生傷を背負っていた。武田の参入で宝塚男子部の雰囲気にも少し変化が訪れた頃―ついに、男女合同公演の計画が持ち上がる。

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閉鎖的な稽古場という空間。彼らと宝塚をつなぐのが、宝塚歌劇団の経理担当・池田(山西惇)。山西が7人の若手俳優と並ぶと、気を行き届かせた演技は、厳しくも暖かく見守るような包容力を感じさせる。

紅一点、寮母の君原佳枝(愛華みれ)は稽古場の外で男子達を見守り、励ます。力有り余る男たちを受け止め、時には口うるさく小言も言う、お母さんのような存在。地味な格好をしているが、愛華がいると宝塚歌劇団の空気を感じられる気がするのは、元宝塚歌劇団花組トップスターだからだろうか。愛華が、さすが宝塚元トップスターであることを感じさせるシーンも見どころだ。

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また、全編に流れる宝塚の代表曲の数々は、宝塚ファンには聞こえてくるだけで胸が踊る。「モン・パリ」「おお宝塚」「すみれの花咲くころ」・・・。そして宝塚といえば、輝く大階段でのレビュー。レビューとは、物語ではなく音楽やダンスを中心に見せるショウのようなもの。その華やかさは客席を圧倒し、多くの宝塚ファンを魅了してきた。今の時代に実現することのなかった男性のレビューは、もし見られればこんな感じだろうかと、女性だけの歌劇団とはまた違う魅力を見いだすことが出来る。むしろ『宝塚BOYS』という演劇が実現したことで、観客が触れることができた奇跡のような瞬間だ。

誰もが、戦争で大切な人を亡くした。敗戦で未来が見えぬ中、華やかな夢を見せる宝塚は観客にとっては大きな喜びでもあっただろう。近年でも、2001年の9.11の直後にニューヨークの街にはネオンが消えたが、2日後にブロードウェイの劇場たちは幕を開け、人々が詰めかけた。エンターテイメントは人々の希望であり、誇りとなるのだ。

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宝塚男子部の7人は日々レッスンに励み、彼らが耳にするラジオからは、日本各地の傷ついた人々を励ますように美空ひばりの歌声が広がっていく。そんな戦後を、優しく、楽しく、輝かしく描く『宝塚BOYS』は、私たちに未来に向けて笑いかける力をくれる。

「team SKY」のフレッシュさは、観客の心を浮き立たせてくれる。10代のあどけなさが残る青年たちの素直さ、未熟さ、懸命さ。それが宝塚というきらびやかな世界を夢見せ、同時に、戦争という重くのし掛かる影の明暗を際立たせる。宝塚BOYSたちが輝くほどに、彼らの過去や置かれている状況が、苦しい。

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青春とは、そこにいる時には青春とは実感できない。彼らはただまっすぐで、楽しくて、苦しくて、前に進めたり、くすぶっていたり、希望があったり、絶望があったり・・・。今この時間は、未来の自分が振り返った時に“青春”と呼べるものなのだろうか。分かる人など、誰もいないはずだ。

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今の宝塚歌劇団を見れば、現実の男子部がどうなったかは言わずともわかるだろう。当時の部員には、それぞれ違った形で舞台の道を歩み続けた者も多い。宝塚歌劇団男子は、100年以上続く女の園・宝塚歌劇団とは異なる世界だ。だからこそラストシーンは、彼ららしい一幕となる。もしこれが女性の宝塚歌劇団であれば、舞台の結びは違ったかもしれない。これは7名の宝塚BOYSたちが輝く場所を目指す、熱く懸命な物語なのだから。

『宝塚BOYS』team SKYは、8月19日(日)まで東京・東京芸術劇場 プレイハウスにて上演。その後、名古屋、久留米、大阪を巡演する(3都市はteam SKYのみ)。日程の詳細は、以下のとおり。

【東京公演】8月4日(土)~8月19日(日) 東京芸術劇場 プレイハウス
【名古屋公演】8月22日(水) 日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
【久留米公演】8月25日(土)・8月26日(日) 久留米シティプラザ ザ・グランドホール
【大阪公演】8月31日(金)~9月2日(日) サンケイホールブリーゼ

【公式HP】http://www.takarazukaboys.com/

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(取材・文・撮影/河野桃子)

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