2018年2月17日(土)に東京・紀伊國屋ホールにて『熱海殺人事件 CROSS OVER 45』が開幕した。つかこうへいが1973年に文学座に書き下ろし、演劇史に燦然と輝くこの『熱海殺人事件』は、今年で初演から45年目を迎える。演出を手掛けるのは、岡村俊一。初日前日には、公開ゲネプロと囲み会見が行われ、味方良介、木崎ゆりあ、α-X’sの敦貴と匠海、石田明(NON STYLE)が登壇した。
昨年、馬場徹と並び、歴代最年少となる24歳で木村伝兵衛部長刑事に抜擢された味方は、「稽古を通し、このメンツなら絶対に“勝てる”という確信があります。たくさんの方に観てもらい、『熱海殺人事件ってすごい』『演劇っていいな』と思ってもらえるよう、精一杯やっていきます」と、45周年を担う気合いをみなぎらせた。
そして、捨て身の潜入捜査を行う水野朋子役を演じる木崎は「この作品に出会えて良かったと心から思っているので、観に来てくださる方にもそう思っていただけるよう、しっかり届けられたらと思います」とコメント。
2017年9月にAKB48を卒業し、本作が本格的な女優デビューとなる木崎だが、「頭に何も入っていなかった分、台詞はスンッと頭に入ってきました。漢字が読めずに大変でしたが(笑)」と稽古を振り返ると、味方は「稽古が始まった当初は、正直、完成するのかな・・・と思いましたけど、稽古は裏切らないことを学びました」と、木崎の成長を讃えた。
犯人・大山金太郎は、ダンスボーカルユニットに所属する二人敦貴と匠海のWキャストとなっている。敦貴は「歴史ある作品に貢献できるよう、全力でがんばります!」、匠海は「僕にしかできない大山金太郎をやろうと思っています」と、それぞれ意気込む。
富山から赴任してきた刑事・熊田留吉役の石田は、若い3人と二倍近く年齢が離れていることに触れ「踏んできた舞台の場数も違うので、皆を引っ張れれば」と真面目に語りながらも「羽生(結弦)くんばりのノーミスでお届けしたいなと!」とオリンピックネタを織り込むことも忘れない。
また、稽古後は皆で食事に行く機会も多く、石田の妻の両親が経営している居酒屋で集まっていたという。石田は「そこでもね、舞台の立ち方について『もっと踏んで!しっかり踏んで!』とかずっとやってるもんだから、お義父さんが『何をやってるんだこの子たちは・・・』と言いたげでした(笑)」というエピソードを披露し、皆芝居に夢中である様子を伺わせた。
最後に「僕らにしかできない、僕らなりの『熱海殺人事件』をお届けして、この先50年、100年と続いていくようにしっかり演じたいです。つかさん、岡村さんの思いを背負って、最後の最後までたくさんの人に愛を届けられたらと思います」と語っていた味方。
その味方の顔つきは、昨年とはまったく違って見えた。昨年は、木村伝兵衛という役に必至に食らいついていた印象だったが、今年はすでに、その存在を血とし、肉とし、舞台の中央に君臨している。出演作が連続し、タイトなスケジュールだったのではと思っていたが、覚悟が違う。そう思えるほどに大きな変化が見えた、今年の味方伝兵衛だった。
それを際立たせていたのが、木崎、敦貴、匠海の存在だろう。3人のフレッシュさは、時に苛烈なまでにアグレッシブだ。味方を含め、この戯曲が誕生した時には誰も生まれていなかった。そんな若者たちが果敢に歴史ある戯曲に挑んでいく様には、未来を感じる。
木崎は、これまでアイドルとして数々の場を踏んできた百戦錬磨感と女優としての初々しい一歩を同居させている。きっと、今しか観ることのできない魂のきらめき。また、同じグループに所属する敦貴と匠海が同役、しかも大山金太郎役でWキャストとなっているのは非常におもしろい。仲間であり、ライバルとなった二人が、互いを高め合いどこまでいくのか楽しみだ。
そして若手を受け止めながら真正面から向き合い、戦う石田の存在が大きい。2016年に松井玲奈主演で上演された『新・幕末純情伝』の出演時にも感じたことだが、石田が演じると、これまで幾度と観た役に柔らかさが覗く。石田にしか表現できない、新たな熊田像が見えた気がした。
『熱海殺人事件』は、表面だけなぞれば荒唐無稽な人たちが、途方もない台詞量で、およそ常識的でないことを繰り広げている。ではなぜ、45年間常にどこかで誰かが上演し、憧れ続ける作品であるのか。つかこうへいの思いを、岡村が若き継承者たちに刻み、客席へと伝え続けている。初めてこの作品を観た時の衝撃は、今でも忘れられない。台詞を暗記するほど、何度観ても新しい熱海。「がんばらんね」という言葉と共に、今年もまた、春が来る。
『熱海殺人事件 CROSS OVER 45』は、3月5日(月)まで東京・紀伊國屋ホールにて上演。
※木崎ゆりあの「崎」は、「大」の部分が「立」が正式表記
(取材・文・撮影/エンタステージ編集部)