2017年7月6日(木)より東京・下北沢 小劇場B1にて、ゴジゲン番外編『なんかすごいSF的なやつ』が開幕した。目次立樹が初演出に名乗りを上げ、堀善雄を脚本に迎えた本作。ゴジゲン主宰の松居大悟が不在という番外編公演でありながら、これまでにない切なさと優しさを内包した作品が誕生した。ゴジゲンの新たな顔が見えた、本公演のゲネプロの模様をレポートする。
「曖昧にしておくことで、この作品の可能性と余地を追求したかった」
ふんわりとしているタイトルに込めた、はっきりとした強い意志。堀善雄がインタビューで語ってくれた通り、物語は最後まで予想外の展開をやめなかった。
とある研究室。博士(藤尾勘太郎【犬と串】)と助手(堀善雄)は今しがた、素粒子を駆使した“なんかすごい発明”に成功したらしい。そんな絶妙なタイミングで現れた、記者の男(奥村徹也【劇団献身】)。「素粒子は観測された瞬間に存在するんだ!」と、博士は素粒子そのものについて説明を始める。半ば強引な「取材」という名目で、話は発明品の全貌へ。そして、その発明に大きく影響を与えた博士の過去に遡る。
ある放課後、勉強ばかりで友達一人いなかったユウト(大村まなる【劇団プレステージ】)は、校内屈指のヤンキー矢一朗(土田祐太)と洋太(木村圭介【劇団献身】)に絡まれる。カツアゲの標的に目をつけられたはずだったのだが、3人の関係は予想を超えた形へ変わっていき・・・。
お茶目で飄々としながらも、どこかもの寂しい博士を独特の雰囲気を以て演じる藤尾をはじめ、堀が演じる淡白で心の内こそ見えないが有能な助手。奥村演じる、いいやつなのか悪いやつなのかわからない記者。誰をとっても、ピタリと合った配役にまず心を掴まれた。
感情の緩急激しいユウトをユーモラスかつ切なく演じた大村、ヤンキーの持つ意外な一面や過去を、時に茶目っ気たっぷりに、時に痛々しく魅せた土田と木村。それぞれの役者の持つ感性を引き出し、最大限に光らせた目次の演出と、座組の結束力を感じさせられる95分だった。
状況と言葉が合わさった時に、一際輝きを放つシンプルで優しい台詞。観客を巧みに、研究室の一室に誘い、目撃させる演出。それらを最高温度で伝える演者。
事前のインタビューで、目次が語ってくれた「今回の公演に不安はありません。堀善雄の素晴らしい本があって、それをこのメンバーで出来るのだから」という言葉に改めて思い返される。
結末を決めつけ過ぎない物語のラストを見送ると、劇中の台詞が熱を持って追ってきた。
「今持っている記憶だって曖昧、本当かなんてわからない。でも、お前がそう思うならそれでいい」
“曖昧なもの”が持つ可能性を、余すことなく追求した物語に思う。観測されるから存在する素粒子と同じ。自分が思いたい“本当”、信じたい“本当”をこの目によって存在させればいいのだ。なんかすごいSF的であり、なんかすごい人間味溢れる、なんかすごいよかった本作は、下北沢で観測できる。
ゴジゲン番外編『なんかすごいSF的なやつ』は7月10日(月)まで、東京・下北沢 小劇場B1にて上演。
(取材・文/杉田美枠)
(撮影/エンタステージ編集部)