元宝塚の柚希礼音が、優雅な男装とキュートなお嬢様姿を披露する『お気に召すまま』が、2017年1月4日(水)、東京・シアタークリエにて幕を開けた。男女の恋の行方を滑稽洒脱に描き、ウィリアム・シェイクスピア喜劇の中で、最も幸福なものとされている原作を、『春のめざめ』でトニー賞最優秀演出賞に輝いたマイケル・メイヤーが演出。同じくトニー賞受賞経験のあるトム・キットが音楽を担当し、色鮮やかで微笑ましい作品に仕上がった。
写真提供:東宝演劇部
本作のおもしろさは、まずメイヤーによる大胆な設定変更にある。ベースになる物語は、17世紀初頭のヨーロッパが舞台となっているが、メイヤーはそれを、ヒッピー全盛期時代とも称される1967年のアメリカに置き換えた。「宮廷」を、現代アメリカ政治の中心地である「ワシントンD.C.」に。政界から追放された者たちが身を潜めて暮らす「アーデンの森」を、サンフランシスコにあるヒッピームーブメントの聖地「ヘイトアシュベリー」に。
おかげで、白と黒のモノトーンを基調としたシンプルな「宮廷」から、多様な色が入り乱れる「アーデンの森」への場面転換は、とてもわかりやすく、その対比が際立つ。そこに、『ネクスト・トゥ・ノーマル』でトニー賞楽曲賞・オーケストラ編曲賞受賞のキットが、書き下ろした8つの新曲のほか、60年代ヒット曲を加え、全体を盛り上げる。
写真提供:東宝演劇部
そして特筆すべきは、恋する乙女と美青年に扮する柚希を見られることだろう。宮廷に暮らすお嬢様だったが、追放され、身分を隠すためにギャニミードと名乗る男性に変装するロザリンドを、柚希は絶妙に演じ分けている。オーランドー(ジュリアン)に恋をして、相手への情をつのらせもがくロザリンドは、この上なく愛くるしい。かと思えば、ロザリンドへの恋心が日ごと強くなるオーランドーに、ロザリンド本人だとは気づかれず、恋の相談相手になろうと持ちかけるギャニミードは、見事に頼もしいナイスガイだ。
写真提供:東宝演劇部
そんなひとりで二度おいしい役を演じる柚希に、豪華な出演陣が彩りを添える。ロザリンドと恋に落ちるオーランドー役のジュリアンは、ロザリンドの前では誠実でやさしく、ギャニミードの前では高貴で雄々しく、実に麗しい王子様ぶりを発揮している。そのオーランドーの兄・オリヴァーには、横田栄司。冷酷な意地悪から、最後には正反対の穏やかすぎる性格に変わる役だが、そうなるきっかけは一目ぼれ。一瞬で恋に落ちてからのデレる演技には説得力がある。
写真提供:東宝演劇部
本作の有名な台詞「この世界はすべてこれひとつの舞台。人間は男女問わずしてすべてこれ役者にすぎぬ」を言うのは、ジェークイズ役の橋本さとし。橋本特有の美声で放たれるシェイクスピアの名台詞に、耳をそばだてたい。アミアンズ役の伊礼彼方は、甘い声で歌を披露するシーンがある。同時に、ギターやベースも演奏しているので、その姿に注目だ。
写真提供:東宝演劇部
さらに、安定の存在感を見せる小野武彦は、ロザリンドの父とその弟の二役を、まさにかわいらしいお嬢様という言葉がぴったりのマイコは、ロザリンドの従妹シーリアを、芋洗坂係長は、パッチワーク衣装がかわいい道化のタッチストーンを演じる。その他の出演に、平野良、古畑新之、平田薫、武田幸三、入絵加奈子、新川將人、俵木藤汰、青山達三ら。
写真提供:東宝演劇部
『お気に召すまま』は、2017年2月4日(土)まで東京・シアタークリエで上演。その後2月に、大阪・梅田芸術劇場 シアタードラマシティ、香川・レクザムホール、福岡・キャナルシティ劇場を巡演予定。各公演のスケジュールは以下のとおり。
◆『お気に召すまま』
2017年2月7日(火)~2月12日(日) 大阪・梅田芸術劇場 シアタードラマシティ
2017年2月15日(水) 香川・レクザムホール
2017年2月24日(金)~2月26日(日) 福岡・キャナルシティ劇場
(取材・文/尾針菜穂子)