15世紀末のパリが舞台となる劇団四季の新作ミュージカル『ノートルダムの鐘』。初日まで20日を切った11月24日(木)、四季芸術センターにて公開稽古と囲み取材が行われ、各役の候補者たちが報道陣の前に姿を現した。まずは公開稽古の模様をレポートしたい。
上手と下手それぞれに木製の階段が配置され、シンメトリーにも見える舞台装置が置かれたアクトスペース。最初に演出のスコット・シュワルツ氏、振付のチェイス・ブロック氏ら海外スタッフの挨拶があり、シュワルツ氏の声掛けで公開稽古はスタート。
まず登場したのはカジモド役候補の海宝直人だ。汚しが入ったグリーンの衣裳に身を包み、本作の代表的なナンバー「陽ざしの中へ」(映画版の邦題は「僕の祈り」)を歌う。カジモドの身体的特徴や表情をしっかり身に着けながら、自らの切なさと希望とを渾身の力で歌い上げる海宝の姿に心をぐっと掴まれた。
そのまま曲は1年に1度の“道化の祭り”の様子を表す「トプシー・ターヴィー」へ。物乞いに扮したクロパン役候補・阿部よしつぐがセンターに立ち、途中から物乞いの衣裳を脱ぎ捨てて、ジプシーのたくましさや生命力をアンサンブルとともにポジティブに歌う。
次に登場したのがフィーバス役候補の佐久間仁、そしてフロロー役候補の芝清道だ。佐久間は「息抜き」で女性にモテモテの姿と、フロローを前に警備隊長として厳しい顔を見せるフィーバスの多面性を魅力的に表現。芝もフロローが権威主義で一筋縄ではいかない人物であることを短い場面でしっかり見せ、ベテランの貫録をきっちり示した。
祭りのボルテージが上がる中、美しいジプシーの娘・エスメラルダが現れることで、その盛り上がりは最高潮に。エスメラルダ役候補の岡村美南は、長身とエキゾチックな雰囲気を活かして、情熱的なナンバー「タンバリンのリズム」を妖艶に歌う…中音の伸びと華やかなダンスが心地良い。
5曲目に披露されたのが、フロローが“神”と対峙して歌うソロナンバー「地獄の炎」だ。地位の高い聖職者であるフロローが、これまで見下し迫害する対象でしかなかったジプシーの女性…エスメラルダに心を奪われ葛藤する様を芝はクワイヤを従えドラマティックに表現。歌のラストでは、稽古場全体にその声を響き渡らせ、報道陣からも大きな拍手を贈られていた。
一連の歌唱披露が終わったところで、演出のシュワルツ氏から細かいダメ出しが入る。フロローへのダメ出しの際は、同役のもうひとりの候補・野中万寿夫が、カジモドへの指示がある際は、海宝と同じく候補者である飯田達郎、田中彰孝も輪に加わって台本に書き込みをしながら真剣に話を聞く。その姿が非常に印象的だった。
今回の公開稽古は報道陣と同じエリアに多くの出演候補者や関係者が座り、全員が見守る中で行われた。小返し等の動きがあった際は、誰かがすぐサポートに入って着替えを手伝ったり、両手がふさがりメモが取れない俳優からさり気なく小道具を預かったりと、カンパニー全体がまとまった状態で初日に向かっているのが良く分かる。
また、筆者の席からはカジモド役・候補者の一人、飯田達郎のスタンバイ中の様子が良く見えたのだが、プレスのために自ら席を作ったり、周囲に気を遣いながら、海宝が見せるカジモドの演技を誰より真剣に見つめる姿も強く胸に響いた。
『アラジン』から1年半…劇団四季が大人のシアターゴアーを視野に入れて送り出す新作ミュージカル『ノートルダムの鐘』。ますます、開幕への期待が高まる公開稽古となった。
(取材・文 上村由紀子)