平野良インタビュー!鈴木勝秀の『ウエアハウス』を通して楽しむ“入り込んでいく”瞬間

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2020年1月25日(土)から、東京・新国立劇場 小劇場にて『ウエアハウス』が上演される。本作は、鈴木勝秀(スズカツ)が、エドワード・オールビーの戯曲『動物園物語』をモチーフに創作し、26年に渡りライフワークとして上演し続けている実験的シリーズの最新作。今回は、小林且弥と平野良の二人芝居で、男たちの“コミュニケーションの断絶”を描く。

閉鎖された教会の地下にある“憩いの部屋”で活動する、暗唱の会。各々が詩や小説、戯曲などを暗唱するサークルに参加しているヒガシヤマ(平野)は、ある日、一人でアレン・ギンズバーグの長編詩「吠える」をひたすら練習していた。そんな彼のもとに謎の男・ルイケ(小林)が現れ・・・。小林と共に二人芝居に初挑戦する平野は、日々変化する“入り込む”感覚を楽しんでいるという。感じていることを様々な言葉で表現する彼からは、この作品が持つあるがままの姿が見えてきた。

――平野さんは、これがスズカツさんとガッツリお芝居でご一緒される初作品になりますね。

そうですね。スズカツさんは、すごく役者に自由にやらせてくださる方なんですよ。自由というのは適切ではないかな・・・最初に、過度な演技は必要ない、今感じたことに嘘をつかなくてもいい、というオーダーがあったんです。僕には、それがすごく気持ちよくて。その言葉で、作品の見え方がすごく楽になって、自分の役に集中するだけでいいんだと思えました。だから、ノンストレスです(笑)。

――小林さんとは以前からご縁がありましたが、お芝居で深く絡むことは今までなかったですよね?

『戦国鍋』の時に、家康役と秀頼役でやらせていただいたことはあったんですけど、ガッチガチに芝居で向き合うのはこれまでなかったです。ほぼ初ですね。且弥さんって、なんか水みたいなんですよ。芝居の中で、ずーっと感情が流れ続けているのを感じられるので、こっちも変に力まないんです。

もちろん言葉を使ってコミュニケーションをしているんですけど、意外と言葉ってただの器なんですよね。その器に、感情とか、目に見えないものをどれだけ注いで相手に渡すか。且弥さんは、言葉にいろんな感情・・・まったくその言葉どおりじゃないものを注いでくれるので、台本にないサブテキストのやりとりがすごく楽しいです。

――何か印象変わったこととか、ありました?

今までもたくさん話してきたし、よく知っている人なんですけど、改めてコミュニケーションを取っていると、めちゃめちゃピュアだなって・・・。何をそんな女子高生みたいなこと言ってるんだ?っていうくらい(笑)。無骨な、男くさくて、「俺はこうだ!」みたいな感じに見えるかもしれないけど、とにかく純粋。自分では“とがってる”って思い込んでいた時期もあるみたいだけど、丸いボールが「とがってんだろ!」って言い張っている感じで、絶対とがってなかったと思う(笑)。根本がピュアすぎるから、向き合っていて本当におもしろいです。

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――そんなお二方の二人芝居ですから、稽古でのやりとりはなお濃密そうです。

二人芝居も初めてやりますが、おもしろいですね~。最初は、声とかも「これ、絶対届いてない!」と、今までの習慣から無意識に大きい声を出してしまっていたんですけど、稽古をやっていくうちに途中から・・・何も考えずに、ただあるがまま話している感じになってきたんです。開けた稽古場でやっているんですけど、本当に密室で、二人だけの空間で話している感じになってきたんです。

なんて言ったらいいんだろうなあ、あの感じ・・・。あれが“入り込む”ってことなのかな。いつもは、役を演じながらも「お客さんからはこう見えているんだろうな」「台詞、一番後ろのお客さんまで届いたかな?」とか、どこか俯瞰している自分がいるんですけど。今、やっていてそれがまったくないんです。役者としても、平野良個人としても、役の感情しか追わない状態というか。リアリズム映画を撮っているような感覚、と言ったら近いのかもしれないです。

――この作品は“コミュニケーションの断絶”を、スズカツさんが時代を映しながら長年上演し続けている作品です。平野さんから見た、この戯曲のおもしろさは?

小説を読んでいるような、現実世界とは遠いお話のようでありながら、少し目線を外して戻した時には自分の物語になっているような、自分に近しい人のようにも見えてくるような、いろんな顔を持っている作品ですよね。

演じる身としても、今やるのと10年後に演じるのはきっと全然違う。お客さんにとっても「今見るか」「来年見るのか」「昼に見るのか」「夜に見るのか」「大切な人とケンカした日に見るのか」・・・その人の状態によっても、受け取るものがまったく変わってくる作品なんじゃないかなと思います。

イメージは、シャボン玉の表面。もちろん、台詞にはスズカツさんの狙いがあって書かれたものでもあるんですけど「これはこう」と決めつけてしまうことは野暮な気がしてしまうくらい、なんかそういうことでもないような気がしていて・・・。あるがままの一定時間を切りとって、ぽんと置いてあるだけのようでもある、というか。なんか、作品ってこういうものだよなぁと感じています。

――上演の度に、戯曲もマイナーチェンジされていると聞きます。

僕は、上演されている『ウエアハウス』は残念ながら観たことはないんです。直近で上演されていたバージョンは、(佐野)瑞樹さんと味方(良介)くんと猪塚(健太)くんでやったんですよね?観たかったなあ・・・。その3人とも知った仲だけど、全員、ほんと変態だから(笑)。僕らが今やっている『ウエアハウス』とは、全然違うんだろうなあ。あの3人がこの話をやって、同じものになるはずがない。

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――スズカツさんは「今までで一番違う」とおっしゃっていたそうですよ。

そうなんですか?!ぶっちゃけ、且弥さんは観たことあるって言ってたから、最初にやったベーシックなのものに近いんじゃないかと思っていたんだけど・・・。スズカツさん、稽古場では「切ない」ってよくおっしゃっていますね。

――直近の3人芝居を観た限りですが、「切ない」という印象はまったくないですね。

えー!!なおさら、3人バージョンも観てみたかったなあ。

――平野さんは、閉鎖された教会の地下で、暗唱をしているヒガシヤマという男を演じますが、どんな役作りをされていますか?

ヒガシヤマは、いわゆる普通のサラリーマンです。ささやかな幸せを持っている人。でも今、稽古する度にいろいろ考えが変わっちゃっているんですよ。(取材日の)今日なんか、且弥さんが演じるめちゃめちゃ能力値が高いルイケは、能力値が高いからこそどんどん落ちていって幸せを見失った男に見えたし、ヒガシヤマは何もかも平均以下なのに人生に満足している男に見えました。そんな二人のアンバランスさが混ざり合って、ヒビが入って・・・みたいな感覚に陥ったんですよね。

――それは、本番でも日々変わっていきそうですね・・・。

そうですね。いきなり急変する、というわけじゃないけれど、じんわりどんどん変わっていくおもしろさを、今も感じていますね。でも、その変化を意識すると違うことになっちゃうと思うので、毎回、ヒガシヤマとして生きるだけ。終わった後に振り返ってみたら、そういうば今日はこうなってたなと思うんでしょうね。

――ちなみに、平野さんも演出をご経験されましたが、今、スズカツさんの演出を受けてみてどんなことを感じますか?

いや〜、スズカツさんみたいな生き方、かっこいいなあと思っちゃいます。役者に「やりたいようにやっていい」って言えるのって、マジかっこいいじゃないですか!自分にはできなかった(笑)。人の目気にしちゃうし、「さあ今日はどうだ?!」って毎日アンケート読んで、「ああ、そっか・・・」って考えちゃったし。でも、エンターテインメントを作る時は本来、スズカツさんみたいにあるべきなんじゃないかなって思います。演出家が「これはおもしろい」って力強く言ってくれることで、役者は安心して役のことだけ考えられるんだなと思いました。

――スズカツさんのもと、お二人があるがままに表現されるお芝居を楽しみにしています。

「これを感じに来てください」というのではなく、「これを観て“今”あなたは何を感じましたか?」という感覚です。観て“何かを思った今の自分”というお客さん込みで完結する作品だと思うんですよ。だから、その最後のピースを埋めに来ていただけたらいいなぁと思いますね。

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◆公演情報

『ウエアハウス-double-』
2020年1月25日(土)~2月2日(日) 新国立劇場 小劇場

【脚本・演出】 鈴木勝秀 
【出演】平野良、小林且弥

1月25日(土)19:00
1月26日(日)12:00
1月27日(月) 19:00
1月28(火) 休
1月29日(水) 15:00
1月30日(木) 休
1月31日(金) 19:00
2月1日(土) 13:00
2月2日(日) 16:00

(取材・文・撮影/エンタステージ編集部 1号)

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この記事を書いた人

ひょんなことから演劇にハマり、いろんな方の芝居・演出を見たくてただだた客席に座り続けて〇年。年間250本ペースで観劇を続けていた結果、気がついたら「エンタステージ」に拾われていた成り上がり系編集部員です。舞台を作るすべての方にリスペクトを持って、いつまでも究極の観客であり続けたい。

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