『る・ぽえ』碓井将大×辻本祐樹インタビュー「“共感”を求めるのではなく、“与え合う”芝居」

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鈴木勝秀×る・ひまわりの第3弾公演として、実在した3人の詩人たちの物語をオムニバスで綴る『る・ぽえ』が、2020年1月25日(土)に東京・新国立劇場 小劇場にて開幕する。描かれるのは、高村光太郎の詩「智恵子抄」、萩原朔太郎の詩「月に吠える」、中原中也の人生と恋愛という、三者三様の物語を、碓井将大、辻本祐樹、木ノ本嶺浩、林剛史、加藤啓の5名で表現する。“詩”という美しい日本語と格闘する稽古期間に、碓井と辻本に、本作の手触りを聞いた。

――今回の『る・ぽえ』は、5人芝居ですが、辻本さんは年末からご一緒されている方が多いですね。

辻本:そうなんです、嶺(木ノ本)も(加藤)啓さんも年末ずっと一緒でした。いつまで一緒にいるんでしょう(笑)。

碓井:前作の稽古から考えると、丸々3ヶ月くらいですか?すごいな〜、皆さんの稽古をしている姿を見ていると楽しいですよ、ほんと。

辻本:いやいや、碓井くんがいてくれてよかったよ。フレッシュで(笑)。

碓井:(笑)。

――この『る・ぽえ』は、3人の詩人を、彼らの“詩”を通して描いた物語と伺っています。

碓井:辻さんは、スズカツさんとご一緒されるのは何回目ですか?

辻本:作品数でいうと、3回目かな。1回目は朗読劇だったから、前回の『僕のド・るーク』でがっつり一緒にやらせていただいて、スズカツさんの人となりを知った感じだね。

今回は、詩人それぞれが三者三様でおもしろいですね。詩をテーマにしていて、シンプルなんだけど、結構大胆。どうしようかなあと悩みながら稽古入ったんですけど、素直に読んだらスズカツさんが「うんうん」と納得されているようだったので、ほっとしました。

碓井:そっかあ。だから、今回の稽古でも辻さんは掴むの早いなあと思っていました。

辻本:ほんと?今回の座組でスズカツさんとご一緒したことあるのは僕だけだから、その特権なのかも。自分の「こうやりたいです」を提示して、スズカツさんに「いいね」って言ってもらえたから、方向性が早めに掴めたのは自分でもよかったなと思ってる。

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――スズカツさんの演出は“自由”にやらせてくれるというお話をよく聞きます。

碓井:スズカツさんの作品って、いわゆる不条理と受け取られるような、台詞とシーンの動きにあまり関係がない部分も多いんですよね。何を表現しているのか直接的でないから、それが葛藤に見える人もいれば、怒りに見える人もいる。お客さんにどう見えるか分からないけどやってみようって、新しいことをバンバン試してくれるのって、本当に僕らを信頼してくれているからできることなんだろうなって思いました。

辻本:そうそう。ボケッとしてると、たぶんそのままが舞台上に乗ってしまいますね。だから、自分が考えたこと、こうしたいと思ったことは、見せておく。スズカツさんもよく「先にやったヤツの雰囲気は後からは出せないからな」って言うんですけど。だから、稽古場はいつもそこの戦いです。

碓井:なるほど・・・。

辻本:作品の中での位置取りを考えるのは、すごく勉強になるよね。今回、みんな「スズカツさんの作品は楽しい!楽しい!」って言いながら、和気あいあいとやっているのを見て、前回の自分には余裕がなかったんだなって痛感した。

スズカツさんは、当たり前だけど演劇がめちゃめちゃ好きで、すごく熱いものを内面に秘めているんだなあって感じるよね。普段はクールなんですけどね(笑)。役者に対する愛情が深くて、僕らが「どうするんだ?」ってしっかり見極めてくれているんですよ。僕らが考えたことを絶対に無碍にしないし、いいところはいいって言ってくださる。一緒にやればやるほど、こちらもスズカツさんのことが分かってきて楽しくなるんだよね。

――役者さんとしては、やりがいのある現場ですね。

碓井:スズカツさんの“自由”の中で考えることもやりがいがありますし、詩人の話なので、言葉に僕らが余計なものを乗せると純度が下がってしまうのも、おもしろいなと思います。難しいですし、今回全方向にお客さんが入る舞台の作りだからやること多いんですけど(笑)。

辻本:そうそう。背を向けている瞬間にもちゃんと伝えなきゃいけない文章があるからね。劇中で“詩”を読むところが多々出てくるんですが、詩を綴った役として、見えるもの、感じた感情、そういうありのままを言葉に込めていくのは、朗読劇とはまた違っておもしろいです。

そうそう、この前スズカツさんに「溢れた感情は我慢しなくていい」と言われたんですよ。僕、結構我慢してやっていたんですが、開放してみたら一切台詞が言えなくなっちゃって・・・。「次の台詞、言わなきゃ・・・でも言えない・・・っ」って葛藤が生まれて、大変なことになっちゃいました(笑)。本番でのさじ加減をどうしようか、今、稽古場でおそるおそるいろんなことを試しています。

碓井:そのシーン、僕らは詩の世界を表す男として辻さんをコロスのように取り囲んでいるんですけど、大変なことになっているなと思って見ていました。

辻本:僕の周りでみんなが詩を朗読してくれるシーンなんですが、そこ・・・えげつないほどこみ上げてくるものがあるんですよ!しかも、自分の中で引っかかるポイントがすっごく手前できたり、終わりの方できたり、毎回変わる。詩の言葉、一つ一つがどーんと深いところに響いてくるから、なんか、ちょっと怖くなります。

スズカツさんは「芝居は“与え合い”」ともおっしゃっていました。この物語は、3つのお話から成っていて、それぞれの話にみんな違う役と立場で出てくるんですが、自分が主体でもほかの人が主体でも、全員がパワーを与え合っているんだって、改めて実感しましたね。

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――この『る・ぽえ』は、高村光太郎、萩原朔太郎、中原中也の“詩”と物語がオムニバスとして描かれていますよね。辻本さんが高村光太郎、碓井さんは中原中也を主に演じられるそうですが、それぞれ人物へはどのようにアプローチされていますか?

碓井:僕は中原中也を演じさせていただきます。今は・・・本能的というか、欲望のままに生きた人を見せられたらいいなぁと思っていて。昔の文豪とか詩人って、結構、無茶苦茶な生き方をしている人が多いんですよね。映画を作る人や、役者もそうだったと思うんですけど、経済が発展して価値観が多様化していく激動の時代に、飲まれないように生きていた人たちっていうイメージがあって。

辻本:分かる気がする。

碓井:詩も文学も芝居も、一つの言葉で表しきれないから生まれるものだと思うんですよ。「嬉しい」にも「悲しい」にもいろんな感情が含まれているから、芝居として、文学として、詩として残したいと思ったんじゃないかなと。

作品の中には中也の「汚れちまつた悲しみに・・・・・・」という一遍が出てきますが、中也を演じる僕が悲しみをまとう必要はなく、観ている方が「あの人は悲しみの中からこの詩を生んだんだ」と想像してもらえるようにできたらいいなと思っています。関係性の想像もゆだねて、綺麗事ではない“生きる”ということを、泥くささを見せられたらいいな。

辻本:僕は高村光太郎を演じます。高村光太郎は、すごく深い愛の中で人を亡くしてるので、毎回読んでいて「しんどい!」ってなるんですけど(笑)。「智恵子抄」に書かれていることの背景を想像すると壮絶なんですが、言葉では大切な人への愛がすごくしっかり書かれているから、その深さを大事にして演じたいと思っています。愛って誰もが持つ感情だけれど、綴られているほどの愛は実体験としてはなかなか得難いので、どこまで想像できるか、役者としては挑戦ですね。

碓井:この時代の人って、ちょっとした病で亡くなってしまうんですよね・・・。高村光太郎は妻の智恵子、中原中也は子どもとか、弟さんとか亡くしてるし。詩人って、孤独、寂しさ、死生観の中から這い出てきた人たちなんじゃないかなって思うんです。だから、自分の欲望に正しく沿って生きているというか・・・人間として純度が高い気がする。

それから、どうやって生活していたんだろう?ってすごく気になる。中也は30歳で死んでしまうんですけど、死ぬまでに1冊しか詩集を出していないんですよ。「俺は詩人だ」って言っても・・・お金ないじゃん!どうやって生きていたんだろう。役者も昔はそういう人がいたと聞きますけど、なんか、最近は役者も小綺麗になっちゃって、キラキラしてますからね。それはそれでいいんですけど・・・。

辻本:・・・なんか、碓井くんは生まれる時代を間違えた感じかも(笑)。

碓井:(笑)。俺、神田松之丞さんとか、噺家さんがすごく好きで最近聞きにいったりするんです。事務所の会長もよく観にいっているので、なんで好きなのか聞いてみたら「芸術は、お金儲けとはまったく別のところにあるもの。噺家さんのように、自分だけでつくったものを自分の身体だけで舞台に乗せてお客さんに届けるという芸事の根本を忘れちゃいけない。だから、お笑い芸人も役者もまずは貧乏を経験した方がいい」って言ってたんです。『る・ぽえ』に登場する詩人たちのことを知っていくうちに、その言葉を実感するようになりました。

芸術のためだけの脳で生きてる人って、役者に限らず今の時代は少ないですよね。僕も役者だから破天荒に生きたいと思うけど、世間の価値観とバランスをとって生きている・・・。普通の考え方を持つ脳だけど、舞台上だけは役者の特権として自分がやりたいことをやりきりたい。でも、見ているお客さんたちもきっと大半はそういう状況の方々じゃないのかな(笑)?

辻本:そうだね、“共感”を求めるのではなく、お客さんとも“与え合う”作品かもね。

――観る人の考え方、受け取り方で、いろんな感想が生まれそうですね。

碓井:難しい話ではないです。ただ、観る人の視点によって変わる話だと思います。何か悲しいことがあった後とか、嬉しいことがあったとか、誰かとさよならして観に来たとか、その人が置かれている状況によって心を寄せやすい登場人物も違うと思うので、いろんな視点で観てもらえたらいいなと思います。それから、日本語ってこんなに深くて美しいんだってことが、分かってもらえたらいいですね。

辻本:僕自身も稽古場で見ていて、三者三様のおもしろいステージになっていると思うので、ぜひ三つとも、思う存分楽しんでいただけたらいいなと思います。

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◆公演情報

『る・ぽえ』
2020年1月25日(土)~2月2日(日) 新国立劇場 小劇場
【上演台本・演出】鈴木勝秀
【出演】碓井将大、辻本祐樹、木ノ本嶺浩、林剛史、加藤啓

【あらすじ】
高村光太郎「智恵子抄」をモチーフにした夫婦の話。
萩原朔太郎「月に吠える」をメインにした多趣味な朔太郎の奇想天外な話。
中原中也の人生と恋愛を通して描くダイアログ。
“詩”を通して描く3人の詩人の物語――。

1月25(土)15:00公演
1月26(日)16:00公演
1月27(月)休演日
1月28(火)19:00公演
1月29(水)19:00公演
1月30(木)19:00公演
1月31(金)15:00公演
2月1(土)18:00公演
2月2(日)12:00公演
※3歳以下入場不可、4歳からチケット必要

(取材・文・撮影/エンタステージ編集部 1号)

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この記事を書いた人

ひょんなことから演劇にハマり、いろんな方の芝居・演出を見たくてただだた客席に座り続けて〇年。年間250本ペースで観劇を続けていた結果、気がついたら「エンタステージ」に拾われていた成り上がり系編集部員です。舞台を作るすべての方にリスペクトを持って、いつまでも究極の観客であり続けたい。

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