【2016年まとめ】ストレートプレイの世界をふり返る

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2016年もあっと言う間・・・・・・今年もたくさんの舞台が上演された。振り返ると、演劇界を率いてきた重鎮たちの訃報が続いた1年だった。また、シェイクスピア没後400年ということで、劇団、プロデュース、ベテラン、若手、ジャニーズなどさまざまなアプローチで多くのシェイクスピア作品があった。近年勢いを増す2.5次元を原作とした舞台の公演数も多く、映画館でのリアルタイムのライブビューイングも満席が相次いだ。

目につくような衝撃がいくつか目立ったと言うより、大きなうねりの中に放り込まれたような一年だった。このコラムでは、2016年演劇界の舞台公演を振り返りながら、「2016年を支えた舞台人」「心に残った作品・俳優」を挙げていきたい。

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目次

2016年を支えた舞台人たち

5月に亡くなった演出家の蜷川幸雄氏。10年前からその演出助手であった藤田俊太郎は、近年、若手演出家としての評価も高い。2016年はミュージカル『ジャージーボーイズ』や『手紙』、『テイク・ミー・アウト Take me out』でもたしかな演出で演劇ファンを唸らせた。また、蜷川氏が企画した「1万人のゴールド・シアター」をノゾエ征爾が引き継ぎ、60歳以上1万人の舞台を埼玉スーパーアリーナで実現した。ノゾエは5月の『ボクの穴、彼の穴。』などでも、若手俳優(塚田僚一(A.B.C-Z)、渡部秀)それぞれの個性を魅力的に引き出し、安定した作品を送り出している。

演出家のケラリーノ・サンドロヴィッチは、『ヒトラー、最後の20000年 ~ほとんど、何もない~』でナンセンスコメディで観客を混乱と笑いの渦に巻き込んだかと思えば、『キネマと恋人』では一転、ウディ・アレンの原作を丁寧な演出で仕上げた。ほか『8月の家族たち』などを上演。その功績は目覚ましく、2015年は文化庁主催の「芸術選奨」、2016年末には紀伊國屋演劇賞を受賞している。2017年明けにシアター・コクーンで上演される『陥没』も注目作だ。

『ヒトラー、最後の20000年 ~ほとんど、何もない~』

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神奈川芸術劇場(KAAT)の芸術監督である白井晃は、劇場空間をふんだんに使った演出で、観客に物語を体感させた。『夢の劇 -ドリーム・プレイ-』『マハゴニー市の興亡』など、KAATという劇場の特性を活かし、「この劇場でしか観られない!」と思える舞台となっていた。
そういった企画を立てられるのが芸術監督の強みでもあり、それにおいて言えば、小川絵梨子が新国立劇場の次期芸術監督予定者に決まったことも大きなニュースだ。30代の小川は、充実した良作を産み出し続け、どの作品も評価が高い。翻訳劇を得意とする小川が、今後、日本唯一の国立劇場でどんな作品を創るのか楽しみだ。

ほか、栗山民也は『アルカディア』『ヘンリー四世』などの作品を上演。古川健、岩井秀人、前川知大らも、それぞれ独自の特色ある舞台をコンスタントに上演し続けている。

また漫画を原作とした2.5次元作品では、『ハイキュー!!』が抜きんでていた。2.5次元ミュージカルではない。“ハイパープロジェクション演劇”と銘打ち、映像・マンガ・パフォーマンスを融合させた、演劇というよりショーである。中屋敷法仁がしっかりとした脚本を敷き、演出のウォーリー木下と各スタッフ陣が各方面から充実したエンタメに仕上げた。そして主演の須賀健太の力も大きい。

同じく2.5次元でもあるが、スーパー歌舞伎II(セカンド)『ワンピース』は、まさに現代の歌舞伎。見栄を切ったり、花道を駆けたり、頭上を飛んだり、水が降ったり・・・・・・日本の伝統的なエンターテイメントが現代に新たに生まれた。2017年も再演が決定しているので、未見の方は、劇場のできれば前の方で日本文化の絢爛さを浴びて欲しい。

はたらくおとこ

再演作品にも力強いものが多かった。マームとジプシー『てんとてんを、むすぶせん。からなる、立体。そのなかに、つまっている、いくつもの。ことなった、世界。および、ひかりについて。』(2017年に豊橋・新潟で再演決定)、ハイバイ『おとこたち』、劇団チョコレートケーキ『治天ノ君』、阿佐ヶ谷スパイダース『はたらくおとこ』など(公演順)。どれも、見逃した人に嬉しく、またもう一度あの舞台に触れたいと願っていた人たちにとっては待ち遠しかった公演だったにちがいない。

一部では“2016年問題”などとも呼ばれ「劇場やライブハウスが足りなくなるかも!?」などと声も挙がっていた2016年。全体の上演数も多く、たくさんの俳優が舞台に立った。これから引く手数多になるだろうと思える、光る若手俳優も何人かいた。「衝撃が胸に刺さった!」というような舞台公演に出会えることも喜びだが、自分の目を引く俳優を「あの人が成長していく姿を見つめたい」と追いかける観劇をするのも、同じ時代を生きて同じ空間を共有できる演劇の楽しみ方だろうなと思う。

心に残った作品・俳優

演劇とは、定義もテイストも曖昧で底知れないジャンルだと思う。だからこそ特定の作品・俳優を選ぶのは難しいのだけれど、2016年を思い返し、心に残った作品を3作を選んだ。

■KAAT 神奈川芸術劇場 『マハゴニー市の興亡』
山本耕史主演の音楽劇。作・演出の白井晃はKAAT神奈川芸術劇場の芸術監督であるが、同劇場にしかできない舞台空間を創り、劇場まるごとひとつの街にした。舞台上の左右には特別観客席「マハゴニー市民席」が設置され、そこに座った観客は、マハゴニー市民として物語の登場人物となる。劇場の魅力をふんだんに引き出し、“ここでしかできない演劇”となっていた。

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■木ノ下歌舞伎 『義経千本桜―渡海屋・大物浦―』
毎回演出家を変え、歌舞伎作品を現代的に上演する、木ノ下歌舞伎。多田淳之介が演出した今作は、歌舞伎の台詞・仕草・ルールを踏襲しながらも、BGMにJ−POPやボカロを使用したり、現代のキャラクターを登場させたり、天皇制や敗戦などの要素を混ぜ、今の時代にしかできない、今の時代のための作品だった。歌舞伎と現代をしっかりと繋ぎ、さらにエンターテイメントとして観せている力強い舞台だった。

■維新派 『アマハラ』
46年にわたる活動の終幕を飾った、維新派の解散公演『アマハラ』。5月の蜷川氏訃報に続き、6月に亡くなった演出家・松本雄吉氏の劇団の最後の公演となる。平城京跡地の草原に、船の形をした大きな舞台装置を立て、日没に重なるように上演された。今、これほど規模が大きな野外劇を上演することはあるだろうか。公演中には屋台も立ち並び、演劇という異世界に引き込む、圧倒的な力のひとつの終焉だった。2016年の演劇界の記念碑とも言えると思う。

維新派『アマハラ』

俳優については、2016年に活躍かつ2017年の活動に注目したい若手から、男女それぞれ一人ずつを選んだ。

男性からは、瀬戸康史。今年は2015年に引き続きテレビドラマでもかなり活躍し、2017年はNHK BSプレミアムで主演ドラマも決まっている。舞台では『遠野物語・奇ッ怪 其ノ参』で、奇怪な力を感じさせる東北弁の青年を演じた。説得力が必要な役に全力で体当たりし、役者としての覚悟も感じられる。年明けにはケラリーノ・サンドロヴィッチの『陥没』へ出演が決まっていて、今後さらに力をつけ、大舞台を背負う俳優になるのではと期待が高まる。

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女性からは、趣里。4月、栗山民也演出の『アルカディア』では26歳にして14歳の少女を違和感なく演じ、さらに大人に変わりゆく花の蕾の艶やかさもかすかに匂わせた。11月、串田和美の『メトロポリス』では、SF世界で唯一の和風の少女を演じた。本当に子どものような小柄な身体に、バレエで培った柔軟さと、堂々とした佇まいが加わり、妙齢の女性のようにも見える。独特の個性という武器を持った、次年の活躍が楽しみな女優だ。

また、2016年は、10月に、蜷川氏とも何度も舞台を共にした俳優の平幹二郎氏が亡くなったとのニュースも駆け巡った。2週間前まで舞台『CRESSIDA クレシダ』に主演し、高評価を得ていただけあって、驚きの報せだった。

毎年のことではあるのだろうけれど、それでも、演劇界の多くの巨星が墜ちたと騒がれた一年だった。次の巨星が生まれるには、まだ少し時間がかかるだろう。けれども個人的に思うのは、誰が次の巨星だろうと、あまり重要ではないということ。

自分が惹かれる人や作品を見つけて、家に帰っても思い返したり、誰かにおすすめしたり・・・・・・そういった楽しみが、日常にほんの一滴でもあれば。そして「あの舞台どう思った?」など話し合うことで、その会話の相手の知らなかった片鱗を見たり、「そんな感想もあるんだ!?」と新しい思考の発見があれば。
観客一人ひとりのその積み重ねが、創り手を輝かせ、それがいつか巨星になるんだと思う。

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この記事を書いた人

高知出身。大学の演劇コースを卒業後、雑誌編集者・インタビューライター・シナリオライターとして活動。

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