累計発行部数3億2000万部を誇り、国内外で絶大な人気を集めるマンガ「ONE PIECE」の世界と四代目市川猿之助による「スーパー歌舞伎II」が奇跡の融合を果たした舞台スーパー歌舞伎II『ワンピース』が、 “シネマ歌舞伎”として公開中だ。本作で、猿之助演じる主人公ルフィの兄エースを演じたのは、福士誠治。物語のキーパーソンとしての役割を果たした福士に、公演当時のエピソードやシネマ歌舞伎の魅力について話を聞いた。
――昨年大きな話題を呼んだスーパー歌舞伎II『ワンピース』が、シネマ歌舞伎になりました。少しさかのぼってお話を伺いたいのですが、市川猿之助さんとはどのようなご縁があったのでしょうか?
数年前になりますが、お正月の特番として放送された時代劇でご一緒しました。その撮影が京都で行われていたので、ご飯に連れて行ってもらったりしているうちに、トントンと仲良くなりました(笑)。猿之助さんがまだ亀治郎さんだった頃、「亀治郎の会」というのをやっていらしてそこで「福ちゃん舞台に出ない?」とお誘いいただき、ご一緒させてもらったのが最初の舞台です。
――その後、スーパー歌舞伎II『空ヲ刻ム者』でもご一緒されていますね。
そうですね。「スーパー歌舞伎にも出たいです」と冗談半分、本気半分で言っていたら、本当に出してくださって。今では猿之助さんだけでなく、一門の方とも仲良くさせていただいています。
――続いて、今回の『ワンピース』にもご出演となったわけですが、福士さんご自身は原作のワンピースは読まれていますか?
全巻持っています。「ジャンプ」も毎週買って読んでいます。
――原作のファンでもいらっしゃるんですね。歌舞伎でやると聞いた時は、どんな印象でしたか?
単純に「どうやるのだろう?」と思いました。それから、どこの場面をやるのかな・・・と。
でも、物語の劇的な部分や言い回しは、芯に触れるところが歌舞伎の世界とも似ているのかなと思い、特に、共通点の多さは稽古を始めてすごく感じました。
――ちなみに、歌舞伎と普段やっていらっしゃるお芝居の違いを感じられたりはしましたか?
「作品を作る」という大きなところは同じなのですが、歌舞伎の方々はやはり“慣れ”ていらっしゃる感じがすごくありました。例えば、猿之助さんが「このシーンは『ヤマトタケル』の○○の場面みたいな感じで作りたい」と言ったら、「ああ、あんな感じね」と。共通の知識と積み重ねている経験があるので、イメージの共有が早い。皆さん、舞台の構造や装置の細部まで把握されていますから。
――そんな中、エースを演じられる上で猿之助さんから福士さんに「こうしてほしい」という要望などはありましたか?
見得の形とか、歌舞伎特有のものとか、台詞の音のボリュームとかについてはお話がありましたが、お芝居の中身に関しては、好きなようにやっていいよ、と言ってくださいました。
――福士さんは、どのようなアプローチでエースを作っていかれたんですか?
似せることを意識しすぎるとただのモノマネになってしまうので、脚本の中でどういう位置にいるのかと、そのシーンがどういう意味合いを持つのかを考えていきました。もちろん原作に影響されて引っ張られているところもあったかもしれませんが、あくまでも、脚本の中で存在しなければいけない立場でいたいと思って演じていましたし、お芝居として、作品として、気持ちが通ったものにしたいなとは考えていました。
――歌舞伎というと化粧も独特のものがありますが。
エースの化粧は、猿之助さんやメイクさんといろいろ話し合いをして「シャープにかっこよくしよう」という結論になりました。白塗りにする?という話もあったのですが、今回はいろいろな役があるので、肌色のままのキャラもいた方がおもしろいだろうと。白塗りは、前回のスーパー歌舞伎IIの時に体験したので、大変さは知っています(笑)。あの化粧、僕らも自分でやるんですよ。今回、僕を含め歌舞伎役者さんじゃない方もいたので、メイクさんが確認してくださいました。
――今回、演出もアニメーションを取り入れたり、プロジェクションマッピングが使われていたりと斬新でした。
猿之助さんの中に、すでにイメージがあったのだと思います。「こういうことをやりたい!」というものが。「どう表現しようか」と長考して悩んでいるところは見た記憶がないです。猿之助さんの中にあるイメージを、シーンごとにパズルのようにはめて、決まっていったような感じがします。
――エースといえば「メラメラの実」の能力者なので、本火を使った演出もありましたね。
稽古中に「本物の火を出したいね」という話になり、いろいろな仕掛けを試した結果、プラスティックペーパーのような、一瞬で燃えるものを使いました。最初は、ライターみたいに押すと火が点くスイッチを作って、それを押したままにする仕掛けも考えたのですが、早く動くと消えちゃうんですよね・・・。それだと、火拳とは言えないかなと(笑)。一瞬でも燃やして、印象に残る形にしようと、あのような形になりました。
――かっこいい演出の裏には、そんな試行錯誤があったんですね(笑)。
はい、地味な苦労が(笑)。でも、70回以上やると2、3回失敗した回も・・・もうちょっとあったかな。火の付き方が日によって少しずつ違って、すごく熱い時もありました(笑)。
――真に迫る、生のお芝居ならではですね。今回のシネマ歌舞伎では、映像ならではの演出も加わって生のお芝居とはまた違う迫力になっていました。
僕も拝見しましたが“火拳”増えていましたね!舞台でも本当にこんなに火が出たんですか?と言われそうなくらい(笑)。
映像ならではの足し算が、かっこいいなと思いました。
――映画として、内容も2時間にぎゅっと凝縮されていますね。
実は初日、終演までに4時間55分かかりました。公演を重ねながら、猿之助さんがカットしたり、より良くするために手を入れていかれて、最終的には3時間半くらいになったのかな。僕は福岡公演を観に行ったのですが、そこでもまた変化もありました(福士は東京公演のみの出演)。
――映画として改めて観て、印象深いシーンはありますか?
エースとしては、三幕が見せ場なので、観てほしいところですね。それから・・・どのシーンも名シーンなのですが、イワンコフ(浅野和之)が出てくるところは、ズルいなと(笑)。麦わらの一味や白ひげ海賊団の登場シーンも印象的です。シネマ歌舞伎としては、説明が入っていたりアップになったりもするので、分かりやすいし迫力があると思います。
――それでは最後に、映画をご覧になる方にメッセージをお願いします。
舞台は生なので、もう一回観たい!と思っても限られた日にちしか観られない。だから映像として残してもらえるのはおもしろいですね。アップになった顔つきなど、映像でしか表現できないものを味わえるかなと。スーパー歌舞伎II『ワンピース』は再演も決まっています。初演を観ていない方は、猿之助さんの演出の変化を楽しんだり、記憶をフラッシュバックさせてもらえたらより一層楽しめると思います。
◆作品情報
シネマ歌舞伎『スーパー歌舞伎II ワンピース』
【出演】市川猿之助、福士誠治 ほか
【原作】尾田栄一郎
【脚本・演出】横内謙介
【演出】市川猿之助
【スーパーバイザー】市川猿翁
【主題歌】『TETOTE』楽曲提供:北川悠仁(ゆず)
【製作・配給】松竹
【上映時間】118分
衣装協力:TOMORROW LAND
スタイリスト:吉田ナオキ
ヘアメイク:最知明日香
(C)尾田栄一郎/集英社・スーパー歌舞伎II「ワンピース」パートナーズ