山本耕史らが欲望と快楽に溺れる『マハゴニー市の興亡』開幕!現代に蘇った問題作、ゲネプロ&会見レポート

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2016年9月6日(火)、白井晃演出、山本耕史主演の音楽劇『マハゴニー市の興亡』が神奈川・KAAT神奈川芸術劇場 ホールにて開幕した。同劇場の芸術監督である白井晃の「東京の劇場とは一線を画した、特色のある独特な空間にできれば」という思いが形になり、劇場まるごとひとつの街となる独特の演出で、まさに演劇を“体験”できる。

『マハゴニー市の興亡』公開ゲネプロ_2

劇場に足を踏み入れると、そこは荒野。売春斡旋と詐欺の容疑で指名手配中のべグビック(中尾ミエ)、ファッティ(古谷一行)、モーゼ(上條恒彦)の乗る車が故障し、動かなくなった。どうしようもなくなった彼らは、その地に街を作ることを決める。その街は楽園として、酒とギャンブルが溢れ、女たちが歌い踊り体を売り、やってきた男たちから金を巻き上げるようになる。これが、「マハゴニー市」の誕生である。

『マハゴニー市の興亡』公開ゲネプロ_3

ある日、港にアラスカで木こりをしていたジム(山本)たちが降り立った。彼らは稼いだ大金を手に、自由と快楽を求めてマハゴニー市にやってきたのだった。ジムは売春婦のジェニー(マルシア)を買い、享楽の日々を過ごすことになるが・・・。

舞台は大きく客席に向かってせり出している。もともと奥行のあるKAATの舞台をさらに広く遠くするため、客席前方を潰しているのだ。その代わり、舞台上左右には「マハゴニー市民席」という特別席が設置され、そこに座った観客は、マハゴニー市民として物語の登場人物となる。

圧巻なのが音楽である。そもそもオペラ劇だった『マハゴニー市の興亡』が、スガダイローのフリージャズに彩られた。難しい楽曲の持つ不気味な陽気さが、マハゴニー市の不穏な空気を醸し出す。舞台上の左手側には楽隊がおり、サックス、チューバ、トランペット、ドラムス、ピアノが鳴り響く。全29曲が軽快なジャズテイストを帯び、山本の言葉を借りれば「ロック魂」を感じるアレンジにより、86年前の作品が現代的な芝居となっている。

『マハゴニー市の興亡』公開ゲネプロ_4

会見では、経験豊富な出演者全員が、楽曲の難しさを口にした。歌手・女優として実力豊かな中尾だが「こんなに難しい曲は初めて。これこそプロが歌う歌」と強く頷く。最も楽曲の多い山本は「稽古に通う車中で練習した」そうで、演出の白井によると「耕史くんの歌唱力は知っているけれど、『難しい』と言うのを聞いたのは初めて」と言う。しかし、ミュージカル界を支えてきた上條は「耕史が歌うとほれぼれする」と目を細めて絶賛した。

ミュージカルの舞台を数多く踏んできた中尾と上條の鍛えられた豊かな歌声、そして、20名以上の出演者による歌唱はそれぞれ力強く、その音楽は、マハゴニー市の欲望を抱え爆発寸前の様相だ。質実剛健な善人が一人もいない退廃の中、時折マルシアの伸びやかな声が響き、「この怠惰な享楽もいいものだな」という気になる。ほぼ全編音楽だが、ところどころで古谷の存在感と重みのある台詞が、物語を引き締める。

男は欲望に溺れ、女は欲望を受け入れる。

怠惰で暴力的な快楽にまみれた街は拝金主義に翻弄され、食欲、性欲、暴力、金に溺れた末の死者が続出。ついには暴動が起き、街は荒廃していく・・・。人間の持つすべての欲求が溢れている中で、山本演じるジムはどこか投げやりだ。欲望に翻弄され、欲を満たしても幸せにはなれないやるせなさを、歌に乗せて全身で叫ぶ。

『マハゴニー市の興亡』公開ゲネプロ_5

今作について、白井は「思いきった作品を創りたいと、86年前の作品を今の世の中に照らし合わせ、劇場をひとつの都市にしました」と説明。そのこだわりは強く、白井作品に何度も出演している古谷は「白井さんはしつこいんですよ。(稽古終了時間になっても)帰してくれません(笑)。責任を持って納得がいくまでやりとげるという姿勢ですね」と言う。さらに、マルシアも「稽古は長いですよ。ストレッチを含めると、今日もすでに9時間以上経っています」と言葉を添え、当の白井は苦笑いを浮かべていた。

また山本は、「観た人に爪痕を残す作品です。耳で聴いて、目で観て、心で楽しめる舞台。お客さんの感想をぜひ聞かせていただきたいです」と、観客としてマハゴニー市にやってくる人々の反応に興味津々だった。

荒野に現れたマハゴニー市の繁栄と衰退を描いた今作は、1930年に初演され、1933年にはナチスが上演を禁止したというほど毒にまみれている。観客はその悦びを目撃し、マハゴニーの市民になりたいと惹かれるだろう。しかし「マハゴニー市民席」の観客は、溢れる欲望に後ろ髪を引かれながらもそこから抜け出し、次は通常の客席に座りたいと願うのではないだろうか。人間は、欲深い生き物である。暴力と快楽に溺れた“マハゴニー市の興亡”を体験してもなお、こんなにも惹かれるのだから。

『マハゴニー市の興亡』は9月22日(木・祝)まで神奈川・KAAT 神奈川芸術劇場 ホールにて上演。

(取材・文・撮影/河野桃子)

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