2016年9月6日(火)より神奈川・KAAT 神奈川芸術劇場にて開幕する『マハゴニー市の興亡』。本作は、『三文オペラ』などで知られるドイツの劇作家ベルトルト・ブレヒトと作曲家クルト・ヴァイルのコンビが生んだ傑作であり問題作と言われ、1930年に初演されるも作品が含む社会に対する痛烈な皮肉から1933年にナチスが上演を禁止。日本でも、ほとんど上演例がないという作品だ。そんな謎に包まれた本作の稽古場から、レポートが届いたので紹介しよう。
4月にKAAT 神奈川芸術劇場の芸術監督に就任した俳優で演出家の白井晃が、長年上演を切望していた『マハゴニー市の興亡』が9月に同劇場で、ついにその全貌を現す。初日を目前に控えた稽古場では、元はオペラだった本作をジャズピアニストのスガダイローを音楽監督に迎えジャズテイストの音楽劇に再構築する、という白井の革新的な挑戦が続いていた。
作曲家ヴァイルによる捻りの効いた音楽を、主演の山本耕史が力強く歌い上げれば、ヒロインのマルシアがまるで語りかけるような説得力で歌声を響かせる。中尾ミエ、上條恒彦、古谷一行という選りすぐりのベテラン俳優陣の芝居は作品に重みを加え、若き男性アンサンブルや女性ダンサーたちの動きも日に日にシャープさを増す。
スガダイロー率いるバンドが奏でる音楽は、聴く者に挑みかかるような鋭利な感触を与える一方で、妙に心の奥底から駆り立てられ、浮き立つような気分にさせることも。それが、人間社会の愚かさや滑稽さを、情緒的な感情に引きずられずに描いていく叙事詩的なブレヒトの世界観に見事にフィットし、不思議な高揚感につながっていく。
「俳優の身体が雄弁に存在する舞台」との定評がある白井がこだわるのは、俳優たちの動きが、互いに呼応して連動していくこと。台詞の響き方一つにも細心の注意を払いながら、完成度を高めていくその様子は実にアグレッシブで、情熱にあふれている。KAAT 神奈川芸術劇場に、いったいどんな「欲望の街」が出現するのか。そして舞台上にもある客席「マハゴニー市民席」に座る観客らが、どのように「参加」していくのかについても期待が高まる。
『マハゴニー市の興亡』は9月6日(火)から9月22日(木・祝)まで神奈川・KAAT 神奈川芸術劇場 ホールにて上演される。
(文/阪清和)
(写真提供/KAAT 神奈川芸術劇場)
(撮影/伊藤大介【SIGNO】)