他の業界やふだんの生活でも使われる<初級編>、演劇好きなら聞いたことがあるかもしれない<中級編>に続く第三弾。今回は、ぐっとプロっぽくなる〈上級編〉。
演劇人や舞台関係者でない限り、一生使わないかも!?…でも、知っていれば演劇ツウに見られること確実なワードをピックアップ!
殴り(撲り)【なぐり】 金槌(かなづち)のこと。仕込みには欠かせない工具の代表格。金槌の種類には、両方とも釘を打てるようになっている(片方は仕上げ用にやや曲面を帯びているのが普通)「玄翁(げんのう)」、一方は平らでもう一方は丸くなっている「ボールピンハンマー」、片方が釘抜きの「ネイルハンマー」など多種多様。それぞれの呼び方は劇団や地方によって多少異なるが、金槌やハンマーを総じて「なぐり」と呼ぶのは、演劇・舞台美術界でほぼ共通。
ガチ袋【がちぶくろ】 殴りやバール、釘など、仕込みやバラシに必要な工具を入れておく袋のこと。ベルトなどに付けて腰に巻いて使う。装着するだけで職人を気取れるアイテム。一般的には「釘袋」「腰袋」などの品名で販売されている。ちなみに「ガチ」はコの字型の留具(かすがい)を指す。
八百屋【やおや】 傾斜がついた舞台のこと。舞台の奥が高く、客席側が低くなっている。青果店(八百屋)の店先の「傾斜をつけた台」の上に野菜が並んでいる様子に似ているのが語源。「八百屋舞台」とも呼ばれる。客席から舞台全体が見えるようになるのと同時に、奥から迫ってくるようなダイナミックさ・遠近感を観客に与えることが可能になる。小道具や舞台美術を、あえて前方に傾けてセッティングすることも「○○を八百屋にする」などという。
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殺す【ころす】 舞台装置などを釘やネジなどでしっかり固定し、決めた位置から動かなくすること。または、機材の電源を切るなどして作動しないようにすること。「可動の物をあえて固定する」「(一時的に)使用不可にする」→「使えなくする」→「生かさないようにする」→「殺す」になった?
用例:「その照明、そこで殺して」「次のシーンまでマイク殺しときます」
飼い殺し【かいごろし】 ある特定の仕事のためだけに人員を割くこと。都合上、上演中にはその仕事しかやらない(できない)スタッフ、もしくはそうした状態のこと。転換や衣裳替えのほか、雪や花吹雪を降らせる際に専用のマシンが使えず人力でやるしかない場合などに、客席から見えない位置にスタンバイしている裏方を指す。彼らはたいてい、開演前(状況によっては客入れ前)から持ち場について、仕事のタイミングをひたすら待つ。ムリにその場を離れようとすると見切れたり動いて余計な音をたててしまい、芝居に支障が出る可能性が。そのため、幕が下りるまでじっと潜んでいなくてはならないことも…。
わらう 【わらう】 その場からどける・片付けること。「ちょっとその椅子わらっといて」などと使う。演劇人が “若いころの失敗談”として《昔、『それわらって』と言われて意味がわからず、その場で『ハッハッハ』と声をあげて笑ってみた》的なエピソードが語られることがしばしばあるが、ほとんどがネタである可能性大。
香盤表【こうばんひょう】 俳優(が演じる役)が、どのシーンに出るのかを表にしたもの。横の欄を「役名」「俳優名」で・縦の欄を「場面」で区切るなどしてマス目状にし、出番の俳優(役名)と場面が交わるマスに○などの印をつけたりする。出ハケの一覧が書かれている場合も。こうすることで、どのシーンに誰が出るのか・舞台上に何人いるのかなどが一目瞭然。また、劇場の観客席の見取り図(座席表)も「香盤」「香盤表」と呼ぶ。
稽古場に貼ってあった香盤表をふと観てびっくり!主役がハケている時間が約10分くらいしかなかった舞台はこちらです!
化粧前【けしょうまえ】 化粧をしていない状態・・・ではなく、楽屋でメイクアップや身支度を整えるための鏡(鏡台)とその周りのスペースを指す。メイク道具やティッシュなどの位置、楽屋での必需品などは人によって違うため、もっとも「個性」が見える場所。常にきちんと整頓&掃除が行き届いている人・いつ見ても散らかり放題の人・顔に似合わずカワイイ小物で埋め尽くしている人・舞台に関係ない物(がらくた?)ばかり置いている人など、かなり「性格」も出てしまう。
通常の意味とはまったく違う意味で使われているモノから、「殴り」だの「殺す」だの、なんだか物騒なモノまでいろいろ。もちろん、今回取り上げた用語以外にも、面白い言葉がたくさんあります。
まだまだ奥深い演劇・舞台用語の世界。続きはまたの機会に!!