劇団「ヨーロッパ企画」人気の秘密を探る<後編> ~役者のあり方と劇団のメディア戦略

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前回のコラムで、ヨーロッパ企画の台本は役者のエチュード(即興芝居)によって作られるという話をしたが、それも良いアイディアを能動的に考えられる、個性的な役者がそろっているからできること。さらにそれぞれが役者業以外でもクリエイティブな活動を行い、その能力を結集して、イベントの企画や映像制作などのジャンルでも幅広く活躍している。後編はヨーロッパ企画の役者のあり方と、そのメディア戦略について解説していこう。

関連記事:前回のコラムはこちらからどうぞ!⇒劇団「ヨーロッパ企画」人気の秘密を探る<前編>~異色の劇団が起こした革命

目次

普段の付き合いで見出した、誰にも負けない特性をとことん磨く。

この集合写真を見てもわかる通り、ヨーロッパ企画には正直それほど華のある役者はいない(本当にすみません)。しかし「使い走り」「お調子者」「食いしん坊」「おたくっぽいツッコミ」「イジられるツッコミ」「エイリアン的たたずまい」「弱虫だけど強気」「考える前に行動する」「出落ち級のインパクトを与える」などの、誰もが一つは持っているはずの「これを演じさせたら誰にも負けない」という特性をすくい上げ、それを生かす役が集中的にふられるようになっている。

役者の魅力を計る時は、割と「どんな役でもできる」ということに重点が置かれがちだ。そのため役者にいろんな役をあてがい、それで上手くいく劇団や役者も多い。しかし彼らは、その個性が際立つようなキャラを劇団内では当て続け、何公演かを見ていくうちに「前も面白かったあの役者さん、今回も面白かったな」という形で、ジワジワと印象に残していく方法を選んだ。そして劇団では使われない技術は外部の公演で発揮してもらって、その意外性をさらに楽しんでもらえたら…ということなのだろう。

そして各役者の個性を見極め、それを円滑に活かす芝居を作るのには、意外にも「京都を拠点にしていること」が重要になっているそうだ。彼らは主宰の上田誠の実家である京都市内の製菓工場、通称「ヨーロッパハウス」で普段から頻繁にコミュニケーションを取り、それぞれの性格や最近の感心事などをお互いが何となく把握するという。この日常レベルからの密な観察や関係性があってこそ、各自の特性を生かし合ったナチュラルな群像会話を作り上げることができる、というわけなのだ。

上田自身「お互いが付かず離れずな距離を保つことができる、京都の街の大きさと雰囲気があってこそ。他の都市にいたら、全然違う劇になっていたと思う」と語っている。少し余談になるが、人気が出たら東京に移転するのが日本の劇団の常識のようになっている中、彼らがあえて京都にとどまり続けているのも、このやり方から生まれる劇団のカラーを大事にしたいのが大きな理由なんだそう。それでもメディアが注目する人気劇団になれたことは、首都圏以外で活動している劇団の大きな励みになっているはずだ。

ちなみに上記に箇条書きした役者の個性、あくまでも筆者個人の印象だが、実際の劇団員それぞれの特性ポイントだ。誰がどれに相当するかは、どうか各自で想像をめぐらせていただきたい。

劇団ごと売り込んでいく戦略で、映像界にもいつか革命を…!?

ヨーロッパ企画の役者たちのエチュード力が確かなのは、一人ひとりが役者であると同時に、様々なジャンルのクリエイターであることも大きい。本サイトでもしばしば取り上げている『キョートカクテル』の石田剛太以外にも、永野宗典は『タクシードライバー祗園太郎』(NHK Eテレ)などで映像作家としても活躍するし、角田貴志は『銀河銭湯パンタくん』(NHK Eテレ)で脚本のみならずデザイン力も発揮。諏訪雅は、NMB48の短編連続ドラマ『ぬーさん』(YNN NMB48チャンネル)の脚本・監督をつとめる。酒井善史も『所さんの目がテン!』(日本テレビ)などで「発明」というジャンルを開拓した上に、ヒーローショーの脚本&演出も手がけている。一つの劇団内で、これだけ独立したクリエイター活動ができる役者を抱えている所は、あまり例がないだろう。

『タクシードライバー祗園太郎』
『タクシードライバー祗園太郎』

『銀河銭湯パンタくん』
『銀河銭湯パンタくん』

とは言っても、最初から役者兼クリエイターを集めた集団というわけではなく、かなり初期の段階から「劇団が映像作品を制作すること」の可能性を探り続けた結果、今のような形になったのでは…と推察する。彼らは投稿動画サイト登場以前の2002年頃から、短編映画を撮り合ってイベントなどで上映するという活動を行っていた。しかも作・演出の上田だけでなく全メンバーが、特撮やアニメや不条理ドラマなど、コメディ以外に興味を持っているジャンルを追求。そこで各役者のクリエイターとしての資質を育んだと同時に、“劇団”という集団だからこそ可能な、映像プロダクション的なスタンスも確立していく。

劇団が映像作品に関わるというと、各メンバーが様々な映像の現場に呼ばれていって、ソロ的に活動するケースが9割超だろう。しかしヨーロッパ企画の場合は『ことばドリル』(NHK Eテレ)や『ヨーロッパ企画の26世紀フォックス』(フジテレビ)などのように劇団員ほぼ丸ごと、しかも企画の段階から関わる番組も少なくない。これが実現できるのは、様々な技術を持つ役者兼クリエイターをそろえているのと同時に、おそらくは映像畑の人々には新鮮に移るであろう、彼らオリジナルの発想とノウハウの蓄積があってこそ。その結果、彼らの舞台同様「ある企画性に沿った変わった仕掛けを、ゆるいムードで見せる笑い」という世界を、映像でも実現させているのだ。まだ映像メディアでは、誰もが知るようなヒット作は出せていないが、そのうち演劇界に起こしたのと同じような革命を、映像界でも巻き起こしてくれるのではないかと、密かに期待している。

『ことばドリル』
『ことばドリル』

『ヨーロッパ企画の26世紀フォックス』
『ヨーロッパ企画の26世紀フォックス』(c)フジテレビジョン

とはいえやっぱりヨーロッパ企画は、何度も繰り返すようだけど、やはり舞台で見てこその劇団。9月から全国ツアーが始まる新作『遊星ブンボーグの接近』では、上田が長年構想を温めていた「文房具コメディ」が、ついに実現するそうだ。まだヨーロッパ企画に出会ってない人は、彼らが挑み続ける自然体&革新的なコメディがどんなものかを、ぜひこの機会に確認していただきたい。

★『遊星ブンボーグの接近』公式ホームページはこちら!

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この記事を書いた人

大阪を拠点に、面白い芝居を求めて全国を飛び回る行動派ライター。webマガジン「Lmaga.jp」の連載コラムや朝日新聞関西版の劇評も担当。

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