NTLをオススメする三つの理由!今、最高にノってる英国発の舞台を堪能しよう

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テレビだけではない。映画だけでもない。ましてや英国男子だけではない。
イギリスの演劇界もまた、すごいことになっている。
今年のトニー賞演劇部門では、主演男優賞および主演女優賞、助演男優賞ばかりか、作品賞とリバイバル作品賞の両部門まで制覇。
ロンドンで好評を博した作品が、ブロードウェイに進出し、トニー賞に食い込んでいっているのだ。
その中でも、勢いがとまらないのがロンドンのナショナル・シアター作品だ。

関連記事:これまでのナショナル・シアター情報はこちらから!日本に上陸している作品も多数ありますよ!

英国の本場イギリスでも、地方の巡業公演が難しくなっていく中で、より多くの観客に届けたいという思いから、“舞台は生で観るものだ”という伝統を打破して始まったのが、映画館で舞台を観るナショナル・シアター・ライヴ(NTL)だ。日本でもベネディクト・カンバーバッチ『フランケンシュタイン』をはじめ、英国最新の舞台が続々と上陸している。

『フランケンシュタイン』
『フランケンシュタイン』

ミュージカルとは違い、いわゆるストレート・プレイを英語のままで観劇するのは、かなり難易度が高い。それが日本で字幕付きで鑑賞できるのは、かなりうれしい。もちろん、本物を観るにこしたことはないが、例えば海外からの来日公演では、舞台の横に字幕が表示されることが多く、舞台に集中したいのに、端の字幕も気になる…というやや困った状況になることもある。その点、ナショナル・シアター・ライヴでは映画のように画面下に字幕がつくので、かなり見やすくなるのが利点だ。

このナショナル・シアター・ライヴをオススメする三つの理由をご紹介しよう。

目次

理由その1:トニー賞を受賞した最新舞台『スカイライト』が楽しめる!

『スカイライト』
『スカイライト』

女は過去の自分は、本来の自分とは違うと思い、
男は過去の自分こそが、本来の自分だと思う。
男と女の永遠のテーマとも言える、すれ違いを描いたストーリー。
過去に不倫していた年の差カップルが、男の妻の死をきっかけに再会する。
「愛していた。たぶん今でも愛している。だけど…」
そんな微妙な距離感をビル・ナイキャリー・マリガンが演じている。

ほぼ二人の対話だけで進む舞台だ。その対話の中で、二人に何が起き、何を考え、そして今はどうなのか…が明らかになっていく。
男には到底わからない女の心理をキャリーが実に繊細に演じ、
その“物わかりの悪い男”を人間味あふれる演技でビル・ナイが魅せる。

『スカイライト』
『スカイライト』

今年のトニー賞でリバイバル作品賞を受賞した本作。そしてビルとキャリーは、それぞれ主演男優賞と主演女優賞にノミネートされた。
ビルは『ラブ・アクチュアリー』『パイレーツ・ロック』そして『アバウト・タイム~愛おしい時間について~』など、とにかく技ありのベテラン俳優でメジャー作品からインディーズ作品まで出演。ちなみに本作の初演(1995年)でも同じ役で出演している。どこかロックな雰囲気が漂う渋い俳優だ。
そして、キャリーは、『17歳の肖像』『わたしを離さないで』そして『華麗なるギャツビー』で一気にスターダムに駆け上がった新進女優だ。本作で、ロンドンの演劇の中心地イーストエンド・デビューを果たした。
やはり英国俳優たるもの、舞台もしっかりできないと認められないのだ。

戯曲は、映画『めぐりあう時間たち』などを手掛けるデヴィッド・ヘアー。きれいごとではすまない恋愛を経験した者の傷を繊細に描きながらも、しっかり社会の価値観なども盛り込んでいるから、さすが。ただ甘いだけではない、現実の世界に根ざした物語になっている。
そして演出は、『めぐりあう時間たち』で組んだスティーブン・ダルドリー。ちなみにヘレン・ミレン主演の『ザ・オーディエンス』も彼が演出だが、ゆっくりと時間が流れている中でも、ぴりりとした緊張感がありながら、なおかつユーモアもある。内面の感情は泥臭いのに、うわべはシレっと上品な感じがたまらない。「何なんだ、この大人の余裕は!!」と叫びたくなる。ああ、これが英国風ってやつなのかと、いつもやられてしまう。

『ザ・オーディエンス』
『ザ・オーディエンス』

この作品は、ブロードウェイに進出し、大ヒットしている。トニー賞を受賞した後は、上演劇場の最高動員数を記録した。ちなみにチケットの平均金額は約145ドル(約17,000円)。その舞台が、日本にいながらにして観ることができるのだ。これは、かなりお得だ!

『スカイライト』劇場前に並ぶ観客
トニー賞受賞式前日でこの長蛇の列! いかに人気の舞台かがわかる。

理由その2:英国俳優の真の演技力が堪能できる!

舞台は幕が開いたら、最後まで演じ続けなくてはならない。その緊張感が、魅力の一つだ。
名女優メリル・ストリープいわく「演技とは、感情のコミュニケーション」。
その通り、俳優たちは演技で心を伝え、観客はその心に共感し、舞台と客席の“会話”がはじめて成立する。
その感情のコミュニケーションは、映画やドラマとは、またひと味違う、“生”の温度が伝わってくるのだ。とても大雑把に言えば、スターではなく“役者”を感じることができる。
「なんか、すごい。よくわからないけど、すごい」—— そんなより本能で感じるというか、感覚的な緊張感が味わえるのが舞台だ。スクリーンとはいえ、その迫力は十分伝わってくる。
これまでも、ベネディクト・カンバーバッチ、ジョニー・リー・ミラー、ヘレン・ミレンと有名スターたちが出演している。

『二十日鼠と人間』
『二十日鼠と人間』

最近では、ジェームズ・フランコとクリス・オダウトが出演した『二十日鼠と人間』がある。アメリカ大恐慌時代の出稼ぎ労働者を描いた悲劇だ。ジェームズが演じた粗野だけど優しい男も哀愁ありまくりだったが、クリスが演じた“知能も心も子供のままであるレニー”は、面白みと悲しさが絶妙にブレンドされた名演技だった。クリスは、『ハイっ、こちらIT課!』などのコメディで知られた俳優だ。このバツグンのコメディセンスを活かしながらも、純粋な子供のようなレニーを熱演。ジョン・マルコヴィッチの名演(同名映画でレニーを演じている)とは、また違った魅力を見せ、昨年、トニー賞主演男優賞にノミネートされた。ドラマや映画だけではわからない、クリス・オダウトという俳優の奥深さを知る舞台だ。
『欲望という名の電車』でブランチを演じたジリアン・アンダーソンもそうだったが、今までとは違う魅力を知ることができるのも、このナショナル・シアター・ライヴの魅力だ。

『欲望という名の電車』
『欲望という名の電車』

関連コラム:女に取り憑く“ブランチ”という亡霊を『Xファイル』ジリアン・アンダーソンが体当たりで熱演!『欲望という名の電車』

また、もう一つ、日本ではあまり知られていないが、本場のシェイクスピア俳優の演技を観ることができるのも、実はナショナル・シアター・ライヴだけだ。“シェイクスピア俳優”と呼ばれるのは、イギリス演劇界では大変な名誉。そんな第一級の俳優たちの演技が楽しめる。次回、ぜひチャンスがあれば、シェイクスピア劇にも挑戦してみてほしい。

理由その3:演出家&作家がすごい!

『ザ・オーディエンス』『スカイライト』のスティーブン・ダルドリーはもちろん、『リア王』のサム・メンデスなど、映画界でもアカデミー賞に名を連ねるような演出家たちの舞台が今まで登場している。
戯曲も、デヴィッド・ヘアーや『ザ・オーディエンス』のピーター・モーガン(映画『クィーン』『フロスト×ニクソン』『ラッシュ/プライドと友情』脚本)など、やはり映画界で活躍している作家たちだ。
演劇界から映画界へデビューする監督や作家は少なくない。
もしかしたら、明日のオスカー監督が演劇界から生まれるかもしれないのだ。
例えば、ヤング・ヴィク・シアターで『欲望という名の電車』を演出したベネディクト・アンドリュースも映画界へ進出。現在、ルーニー・マーラ主演の最新作を撮影中だ。ルーニーと言えば、今年、カンヌ国際映画祭で女優賞に輝いたばかりの今、最も旬な女優だ。もしかして、オスカーを狙えるような作品になるかもしれない!?
ちなみに、『欲望~』は来年、ブロードウェイ進出が決まっている。公演は、2016年4月23日~4月22日を予定。ぎりぎりトニー賞のシーズンに入りそうだ。これは、またしてもトニー賞を狙っているか!?

今までは、ロンドンやブロードウェイまで行かないと観ることができなかった本場の舞台。ぜひ、映画館の特等席で堪能してほしい。

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この記事を書いた人

ライター・翻訳家。小劇場で演出・戯曲作家の活動をきっかけに戯曲翻訳から翻訳の世界へ。ドラマ『ブレイキング・バッド』などの字幕翻訳、舞台『8人の女たち』(いずれも演出・上演台本:G2)などの戯曲翻訳に携わる。

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