V6三宅健「感情を引っ掻き回されている」『二十日鼠と人間』開幕レポート

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V6の三宅健が主演する舞台『二十日鼠と人間』が2018年10月3日(水)に東京・東京グローブ座にて幕を開けた。世界各国で上演されている名作を、上演を熱望していた演出家の鈴木裕美が手掛ける。

主人公となる出稼ぎ労働者ジョージを三宅、その相棒レニーを章平が務める。二人の関係性が物語のキモなだけに、三宅も人生で初めて“自主稽古”に励んだそう。ほか共演者は、花乃まりあ、中山祐一朗、姜暢雄、池下重大、瀧川英次、駒木根隆介、藤木孝、山路和弘らが名を連ねている。

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舞台は1930年代、世界大恐慌時代のカリフォルニア。熱が漂う空気の中、ジョージが直面する厳しい現実と、相棒レニーへの想いゆえに起こる葛藤と苦悩が描かれている。舞台音楽の一部は、ヴァイオリンとギターの生演奏。オレンジ色の河原に、太陽の熱さを感じさせるウエスタン系のミュージックが鳴り響く。三宅は会見で「今回のような役はあまり演じたことがないので、この役に感情を引っ搔き回されています」と今作の印象を語った。

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三宅にとって、鈴木の演出舞台に立つのは2008年の『第17捕虜収容所』以来。「演出家と一緒に『二十日鼠と人間』という戯曲を、このカンパニーでどういう風に作り上げようか、という話をしました」と創作過程について説明。

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自身の役作りについては「一人では出来ない部分があるので、戯曲では描かれていない部分を演出家と想像していきました。例えば、作品には女の人の話がよく出てくるけれど、ジョージは女性にトラウマがあるのか、など。お客さんに伝わりきらない部分もあるかもしれないですが、それでも(演じる側として)一本芯が通っていないと」と、作品についての話題に饒舌となり、舞台に対する真摯さをうかがわせた。

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三宅演じるジョージは、小柄で頭の回転が早い。一方相棒のレニー(章平)は、力持ちの大男だが知能は子ども並み。気持ちいい触り心地のものが好きでネズミなどを撫でているが、力の加減ができず、いつも小動物を殺してしまう。そんな対極の二人は、いつか自分たちの農場を持つ夢を抱き、いろんな農場を渡り歩いては日銭を稼いでいる。そんな二人が新しい農場にやってきたことで、大事件が起こる・・・。

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ジョージは口達者のため、作品では三宅が一人でまくし立てるシーンが多い。頭の回転が遅いレニーに対して、これからのことを言い含め、レニーがボロを出さないように周囲の人に夢を語る。周囲を警戒しているジョージだが、レニーには心の内を話す。しかし、レニーは行く先で問題を起こしてばかり。ジョージは「お前がいなきゃ俺はうまくいくのに」と悪態をついたり頭を叩いたりしながらも、見捨てることは出来ず、面倒を見ている。複雑な心境と、どこまでが本心か分からないセリフを、大きな抑揚をつけず繊細に匂い立たせる。そこにジョージの優しさ、諦め、弱さが沁みて見える。

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ジョージを心底頼りきっているレニー。利害だけを考えれば、ジョージはレニーを置いて一人で働いた方がトラブルもなくうまく行くはず。そうしないのは何故か。台詞の中でもっともらしい理由はいくつも出てくるが、舞台上の二人の密な関係性や空気が、この作品の大前提となる“二人は相棒”という基盤を作っている。

しかし二人は初共演。そのため今作の稽古について三宅は「台本読みをした後、立ち稽古に移る前に自主練習をしました。これまで(立ち稽古前の自主練習は)人生で一度もやったことがなかったのですが、今回はやりたいと思ったんです。そうしたら彼(章平)も同じ思いだったらしくでも、(初共演ということもあり)なかなか“一緒に自主練しよう”と言い出せない二人を、瀧川さんが『向こうも呪文のように“自主練やりたい”って言っているよ」と繋いでくれました」と振り返る。

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章平は三宅のことを「お会いする前から優しいだろうな、と思っていましたが、実際にそのイメージは変わらなかったです。ずっとドシっといてくれます」と安心した表情を浮かべながらも「舞台上では、厳しいです」と語り、役の関係性を大切にしている様子。三宅も「(レニーを)叩いたりしなきゃいけないのですが、かわいそうです・・・」と気遣いながらも、舞台上で叩くシーンではレニーへの愛を感じさせる。

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農場のボスを演じる藤木は、三宅に対して「頼もしい座長。頼りにしています!」と力強く語る。そんな藤木に三宅は「いつも元気な挨拶で(笑)」とツッコミのような、照れ隠しのような返しで即答。二人の同僚となる老人・キャンディ役の山路は「(三宅は)よく台詞を間違えてもフォローしてくれます」と笑いを誘った。

彼ら経験豊富な俳優たちは、個性の立つ役をそれぞれ演じている。誰もが当時のアメリカの差別や貧困、諦めを超えた陽気さなど、暗部を背負っている。その中で紅一点の花乃は、土まみれの男たちの中で輝いている。元宝塚歌劇団花組トップ娘役の華やかで美しい声が、焼け付くカリフォルニアの空気に癒しと、作品の刺激となる違和感を持ち込む。

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全編を通して、鈴木の演出は登場人物の心情を丁寧に扱う。そのおかげで、何気ない台詞が後半で繋がっていることに気づく。三宅も戯曲について「おもしろいです。いろんな所に作者がギミックを仕掛けています」とコメントした。

作者のジョン・スタインベックは、「エデンの東」や「怒りの葡萄』などで知られるアメリカのノーベル賞作家。今作は、1937年に発表した小説を原作とし、本人自らが戯曲化した作品である。近年では英国のロイヤル・ナショナル・シアターやNYのブロードウェイでも上演され、日本では2015年に映画館で劇場中継する「ナショナル・シアター・ライブ」のラインナップとして上映され話題となった。

スタインベックは“アメリカ文学の巨人”と呼ばれたが、描かれている人間の生き様は、アメリカだけでなく日本の過去の風景や、今の日常に横たわる空気と重なることも多い。ジョージの生き方の選択は、何を大事に生きていくかなど、自分の人生を振り返る機会にもなるだろう。

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『二十日鼠と人間』は、10月3日(水)から10月28日(日)まで東京・東京グローブ座にて、11月8日(木)から11月11日(日)まで大阪・森ノ宮ピロティホールにて上演。

(取材・文/河野桃子)

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