【エンタステージ2015総まとめ】泣いた、笑った、心震えた!2015年のミュージカルシーンを振り返る&各賞発表!

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2015年もさまざまな劇場でドラマが生まれ、多くの観客の人生を変えた。あなたはこの一年で何回魂を揺さぶられる作品と出会っただろうか。このコラムでは2014年の12月から2015年の12月17日までに開幕したミュージカル作品を対象に、演劇ライター・上村由紀子が今年を振り返りつつ、独断と偏見で【ミュージカル作品賞】をはじめ【最優秀(ミュージカル)俳優賞】、【最優秀(ミュージカル)女優賞】、【最優秀(ミュージカル作品)演出家賞】の各賞を選ばせていただきたいと思う。

エンタステージアワード2015

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2015年、心に残ったミュージカル作品を振り返る

今年のミュージカルで「大作」「ゴージャス」「新しい世界」という三つのキーワードを有する作品と言えば6月から8月に帝国劇場で上演された『エリザベート』と、5月に劇団四季が放ったディズニーミュージカルの新作『アラジン』が挙げられるだろう。『エリザベート』はキャストをほぼ一新し、東宝版として2000年から2012年まで上演されたバージョンから新演出版へとシフト。演出は引き続き小池修一郎氏が担当し、旧版に比べ、より「破滅」「終焉」「死」という概念が前面に押し出される色合いの舞台となった。

変わって劇団四季のディズニーミュージカル『アラジン』は、貧しい少年・アラジンがランプの魔人・ジーニーと出会うことで夢を掴みながら大切なことに気付いていくというストーリー。子どもから年配の方までまんべんなく楽しめる展開と、魔法のじゅうたんを始めとするさまざまな“仕掛け”が話題となり、幅広い層の観客が劇場に足を運んだ。

この二作に加え『レ・ミゼラブル』は9月の静岡公演で国内上演回数3000回を達成し、1979年から上演されてきた四季の『コーラスライン』が通算2000回の国内上演回数に到達したことも記憶に新しい。

そんな王道作品に加え、今年目立ったのが「通好み」のミュージカル作品の更なる台頭とそのレベルの高さである。特に下半期は7月上演のアンドリュー・ロイド=ウェバー作品『サンセット大通り』や、東西冷戦時代を描いた『CHESS』(ティム・ライス作詞 9~10月)、新国立劇場『パッション』(ソンドハイム作曲 10~11月)、『スコット&ゼルダ』(ワイルドホーン作曲 10~11月)など、ストーリーや音楽性に良い意味で強めの“クセ”がある作品の上演が続いた。この四作品に共通するのは、キャストの圧倒的な歌唱力と演技力。高いポテンシャルを持つ俳優陣がある種難解なメロディーラインのナンバーを華麗に歌い、役の人物として生き抜くことで作品に深みを与えていた。

また、オリジナルミュージカルで特に心に残ったのが2月の『デスノートThe Musical』(以下、『デスノート』・日生劇場他)と7月の『SONG WRITERS』(シアタークリエ他)の二作品。『デスノート』は原作、演出が日本で脚本、音楽がアメリカという混成チームでの製作。また『SONG WRITERS』はオリジナル作品にありがちな気恥ずかしさが一切なく、このまま海外に持っていけるのでは…と素直に思えるクオリティだった。

更に来日作品の充実も今年のミュージカル界で欠かせないファクターの一つだろう。個人的には9月に上演された『ピピン』と11月に開幕した『プリンス・オブ・ブロードウェイ』が印象に残る。ブロードウェイの大スター、ラミン・カリムルーやトニー・ヤズベックらが出演した『プリンス・オブ・ブロードウェイ』は今回の日本公演が世界で最初の上演=ワールドプレミア。果たして、巨匠、ハロルド・プリンスの夢がブロードウェイの舞台に“逆輸入”される日は来るのだろうか・・・続報を待ちたい。

2015年、心に刺さったプレイヤーたち

続いて、今年ミュージカルの舞台で活躍したプレイヤーについても振り返ってみたいと思う(順不同)。新演出版『タイタニック』のイズメイ役で父親との葛藤やコンプレックスを織り込んだ新解釈を見せ、『サンセット大通り』では全ての秘密を握る執事・マックスを演じた鈴木壮麻、『デスノート』で主人公の夜神月を演じ、『サンセット大通り』では刹那的に生きる脚本家・ジョー役を好演した柿澤勇人、『エリザベート』で時を刻むキャラクターのフランツ、『CHESS』では感情を一切見せない審判員・アービターを演じ、繊細な青年キャラから新境地を開いた田代万里生、『スコット&ゼルダ』でバラエティでの明るい姿とは一線を画す陰のある演技を見せたウエンツ瑛士、『アラジン』でこれまでの四季メソッドとは違うモードのパフォーマンスを披露した瀧山久志(ジーニー役)と島村幸大(アラジン役)、初の海外ミュージカル作品出演で“熱量を持つ傍観者”を演じ切った『RENT』マーク役の村井良大、『SONG WRITERS』では自信過剰な作詞家、『ドッグファイト』では大人になる直前の青年をキレのあるダンスを駆使して瑞々しく演じた屋良朝幸、そして昨年末の『モーツァルト!』自身のファイナル公演から12月の『漂流劇 ひょっこりひょうたん島』まで一年でストレートプレイを含む6本の舞台に出演し、そのほとんどで主演を務めた井上芳雄・・・俳優ではこの9人が特に強く印象に残った。

女優では新生『エリザベート』のタイトルロールとして圧倒的なカリスマ性と優美さを見せつけた花總まり、『パッション』フォスカ役で醜く病弱なヒロインを演じ、これまでのイメージを覆したシルビア・グラブ、『CHESS』では国家間の争いに巻き込まれ、翻弄されるフローレンスを、『サンセット大通り』では忘れられた大女優・ノーマを初演に引き続いて演じた安蘭けい、『ドッグファイト』他で透明感と力強さとを両立させる歌声を披露したラフルアー宮澤エマ、そして『メンフィス』『デスノート』『サンセット大通り』『スコット&ゼルダ』の各作品でそれぞれ全く違う役柄を演じ切った濱田めぐみ・・・この5人の名前を挙げたい。

ではここから「独断と偏見」に満ちた各賞を発表させていただきたいと思う。

独断と偏見で選ぶ!2015年ミュージカル各賞発表!

2015年ミュージカルコラム_『スコット&ゼルダ』

◆ミュージカル作品賞
『スコット&ゼルダ』(日本初演)
『エリザベート』(新演出版)

◆最優秀(ミュージカル)俳優賞
井上芳雄

◆最優秀(ミュージカル)女優賞
濱田めぐみ

◆最優秀(ミュージカル作品)演出家賞
小池修一郎 鈴木裕美

ミュージカル作品賞の一作品『スコット&ゼルダ』は、1920年代に時代を駆け抜けた作家、フィッツジェラルドとその妻ゼルダの壮絶な物語。多彩なダンスシーンが多く盛り込まれた一幕の華やかな構成と、二幕の登場人物たちの心情が深くえぐられていく様の対比に胸を撃ち抜かれた。正直、本作に関しては観客の好みが別れるところもあると思うが、ゼルダ役の濱田めぐみによる圧倒的な歌の力と、非常に演劇的で緻密な構成、各出演者の濃密な芝居に打たれ、この作品を選ばせていただいた。(何かしらの作品を創っている人間は皆、喉元にナイフを突きつけられるような感覚を味わったはずだ)。ウエンツ瑛士、濱田めぐみ、中河内雅貴、山西惇らのキャスト陣と、ブロードウェイ版に手を加え、今を生きる私たちが観ても胸に響く日本版を新たに作り上げたスタッフたち・・・上演台本・蓬莱竜太、訳詞の高橋亜子、演出・鈴木裕美にも大きな拍手と感謝を贈りたい。

最優秀(ミュージカル)俳優賞の井上芳雄と最優秀(ミュージカル)女優賞の濱田めぐみの共通点は「トップに立ってもつねに覚悟を持って挑戦を続ける」ところなのだと彼らの2015年の活動を観て改めて思う。井上はデビュー作『エリザベート』でトート閣下として華麗に帰還し、その直後に『パッション』でソンドハイムの難解な旋律を歌い切った。濱田は全く違う四役をどれも見事に演じ切り、芝居の部分でも新境地を見せた。他に名前を挙げさせていただいたプレイヤーも、その多くがそれまで自分が得意とする役柄から一歩進み、新しいキャラクターに挑んだ素晴らしい“挑戦者”なのだと実感している。

2016年もさまざまなミュージカルの幕が開く

そして、2016年も多くのミュージカル作品が新たに幕を開ける。先日、舞台衣装が初披露された帝劇初のフレンチミュージカル『1789-バスティーユの恋人たち-』、中川晃教と成河という全く違う個性の二人がWキャストで登場する群像劇『グランドホテル』、新キャストがどうなるのか期待が高まる『ミス・サイゴン』、メイン4役のうち3役がWキャストで演じられる『ジャージー・ボーイズ』、昭和の少女漫画が豪華キャストで舞台化される『王家の紋章』、3年振りに来日公演を行う『ドリームガールズ』、東野圭吾の小説をオリジナルミュージカル化した『手紙』、大ヒットした宝塚版がどう進化するのか楽しみな『スカーレット・ピンパーネル』・・・情報公開されている作品を思うままに並べてみただけでもこれだけのボリュームだ。

さて、ここで冒頭の問いにもう一度戻りたい。あなたはこの一年で何回魂を揺さぶられる作品と出会っただろうか。この文章は筆者が一人の観客として2015年を振り返ったコラムである。これをきっかけに、あなたの心に深く残ったミュージカルや、明日を生きるパワーをもたらしてくれたキャストについて、今一度劇場での「熱」を思い返していただければ幸いである。

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