2018年12月から2019年1月にかけて上演されるミュージカル『オン・ユア・フィート!』。本作は、「CONGA!」「1-2-3」など数々のヒットソングを生み出して80~90年代のヒットチャートを席巻した「グロリア・エステファン&マイアミ・サウンド・マシーン」のヴォーカルであるグロリア・エステファンの波瀾万丈の半生をラテンミュージック&ダンスに乗せて描くミュージカル。2015年11月にブロードウェイで開幕するやいなや、幅広い世代の圧倒的支持でロングランを続けているホットな話題作が、ついに日本初上陸となる。
主演のグロリア役には、元宝塚歌劇団宙組トップスターで、退団後2作目で初の単独主演となる朝夏まなと。共演は、グロリアの夫であるエミリオ・エステファン役を渡辺大輔、そのほかに青野紗穂、栗原英雄、久野綾希子、一路真輝らが名を連ね、翻訳・訳詞・演出を上田一豪が務める。
今回は、宝塚退団後1作目となるミュージカル『マイ・フェア・レディ』の大千秋楽を終えたばかりの朝夏に、本作の見どころや宝塚退団後の現在の心境などを語ってもらった。
――今年は、宝塚退団後にまず『マイ・フェア・レディ』にご出演されましたね。振り返ってみていかがでしたか?
『マイ・フェア・レディ』は、初めて宝塚を卒業してから出演するミュージカルだったので、新鮮なことがたくさんありました。期間を空けて各地に行くような公演スケジュールだったりもして、最後まで良い意味で慣れることなく全公演を終えることができました。共演者の方たちとも初めましてという状態からの稽古でしたが、公演を重ねていく中で絆が生まれました。皆さん、本当に良い方ばかりでしたね。支えていただいたことはもちろん、大千秋楽が終わった後に「すっかり女優になったね」という言葉をいただいて、本当に嬉しかったです。私自身もイライザと共に成長させてもらいました。イライザも、できないことに立ち向かいながら成長していくんですが、それが何だか自分とリンクして、すごく晴れやかな気持ちで公演を終えることができました。
――今回の『オン・ユア・フィート!』では、またガラリと変わったイメージの人物を演じることになりますね。
両極と言っていいぐらい、違いますよね(笑)。私はこういった挑戦をするのが好きなんですよ。だから、グロリアを演じられることは本当にありがたいです。『マイ・フェア・レディ』で演じたイライザはクラシカルなミュージカルの世界の人物ですが、今回はラテンという、まったく違う世界の女性ですから。イメージの違う役柄を「朝夏にやってもらおう」と思ってもらえたことが嬉しいですし、ぜひともやり遂げたいと思いました。
――フライヤーのビジュアルも、情熱的で扇情的な雰囲気でした。
『マイ・フェア・レディ』とは全然イメージが違いますよね(笑)。でも、イライザとグロリアには、共通する部分が意外にもあるんですよ。幼い頃のグロリアは歌が好きな少女なんですが、すごくシャイなんです。そのシャイな彼女が人前に立つようになるまでには、夫のエミリオやおばあちゃん、周りの人の応援があったからなんです。イライザも、ヒギンズからいろいろなものをもらって成長していきましたよね。持っているポテンシャルを引っ張り出してくれる人が周りにいるところは、ちょっと似ているかなと感じていますね。
――グロリアという実在の人物を演じることになりますが、役柄の印象は?
実在の人物だから、というのはそこまで意識はしていませんが、やはり“ラテンの血”というものを大きく感じています。その感覚は日本人にとってなかなか難しいところがありますよね。移民であるということなどをリアルに表現しないと、話が伝わりづらいところもあると思うので。さらっとやるのではなく、そのやり取りを情熱的にしなくてはいけないんですよね。そのベストなバランスを、いろいろと試しながら見つけていこうと考えています。
――ラテン系の方は、日本人よりも陽気で感情表現が豊かなイメージですね。
表現一つとっても日本人とは大きな違いがありますね。特にエミリオは何を表現するにしても、普通の情熱じゃ足りないんですよ。私たちが思っている情熱の3倍ぐらいのものを常に持っていて、普通の状態がそれなんです。
――実際にアメリカで本作を観劇されたそうですが、その時の感想は?
客席と舞台が、コンサートやライブの会場みたいでした!ミュージカルを観ているはずなんですけれど、1曲終わるごとに観客から歓声が沸き起こったり、一緒に歌ったりしている人もいましたね(笑)。そして、想像以上に芝居部分が充実していて、ホロッと涙してしまうような作品でした。自分がやらせていただく今回の上演でも、台本の読み合わせだけでグッときちゃいました。
――劇中で流れる楽曲の数々も、実際にグロリアとエミリオが監修されているそうですが、楽曲にはどのような魅力を感じていますか?
劇中では、その曲がもともと作られた時期とは違うシーンで使われたりするんです。ミュージカルの流れではめているんですが、それが芝居の中にピッタリ合っているんです。それから、グロリアがソロで歌っていた歌を、エミリオとのデュエットに変えている楽曲もあります。バラードで、すごく良い曲です。
――ダンスも特徴ですが、取り組まれてみてどうですか?
率直な感想としては、今までの自分が経験してきたダンスとは、まったく違うジャンルのダンスです。今回は、プロのラテンダンサーの金光進陪さんが振付に入ってくださっているので、基礎の基礎から教えていただいています。とにかく、動かす体の部分が全然違うんです!ステップにしても体を浮かせずに大地を感じながら腰を使うので、汗がすごいんですよね(笑)。だから、情熱的に見えるんだというのを肌で感じています。よく“沸き上がってくる思い”というような表現があると思うんですが、体の中から沸き上がるそういうものが自然と出てきて、楽しくなってくるんですよね。
――その楽しさが観客に伝わって、盛り上がるんですね。
そうですね。それに、今回の舞台にはアンサンブル以外にもラテンダンスの学生チャンピオンの方が出演してくれるんです。だから、本格的なペアダンスが観られると思います。
――それでは、朝夏さんもチャンピオンに負けないラテンダンスを披露していただけると(笑)。
私はダンサーではなく歌手の役なので、そこは観てのお楽しみですが、がんばらねばというところですね(笑)。
――海外のオフィシャルトレーラーでは、グロリアとエミリオの情熱的なキスシーンがありますが、今回はキスシーンも・・・?
そこはどうなるんでしょう(笑)。キスシーンは、役のプロセスとして捉えると当たり前のことなんですよね。たぶん、私のファンの方はビックリされると思いますが、舞台上では私はグロリアとして生きたいと思っているので。この作品は、二人の出会いから恋に落ちる瞬間、そしてそこから・・・という流れが丁寧に描かれているんですよ。先日も、(青野)紗穂ちゃんが「もう、二人とも早くくっつけばいいのに!」と言っていました(笑)。そういうじれったさもお楽しみいただける作品になっています。
――ラブストーリーの醍醐味ですね。
グロリアもエミリオもお互いが情熱的ですしね。それに、エミリオが「得意分野はガッといけるんだけど、プライベートなところはすごいシャイなんだ」みたいなことを言うシーンもあって。二人がなかなかくっつかないじれったさに、一緒にムズムズしていただければと。・・・私のファンの方はくっつかなきゃいいのにと思うかもしれないですね(笑)。
――宝塚退団後、本作が初の単独主演となりますが、今の心境はどうですか?
新しいカンパニーでは演出の上田一豪さんも同い年で、年が近いメンバーと、それをちゃんと支えてくださる一路さん、久野さん、栗原さんという方がしっかりいらして、ワイワイ楽しくやらせていただいています。一豪さんが雰囲気を作ってくださってのびのびやらせてくださるので、あまりプレッシャーは感じていないです。もちろん責任はありますが、重く捉えすぎず、ちょっと部活的なノリがあって楽しいです(笑)。アンサンブルの皆さんもすごくて、コーラスとダンスの迫力に見入ってしまう毎日ですね。
――宝塚退団後、何か変化はありましたか?
女優として女性を演じる上では、今までやってきたことが使えなくなったという点が、一番大きな変化でした。無意識のうちに、仕草が男っぽくなっていたりしたんですよ。そういう点を『マイ・フェア・レディ』の時にたくさんご指摘いただいて、気づくことができました。
演じるという上ではやりやすくなったと思います。宝塚で男役を演じる時って、すごく楽しいんですが、その描かれている男の人は感情を100%ではなく、70%、80%ぐらいしか出さないんですよ。その余裕が素敵に見えるということを計算しながら芝居をしていたんです。でも、100%思う気持ちをストレートに出せるという役に、『マイ・フェア・レディ』と『オン・ユア・フィート!』で出会えたので、今は違った楽しさがあります。
――女優“朝夏まなと”として、よりナチュラルにという感じでしょうか。
ニュートラルに居られる感じですね。それから、共演者の皆さんがその役にぴったりの方がキャスティングされているので、自然とそうなれるという感覚があります。台本を読みながらでも、共演者の皆さんをそのキャラクターとしてイメージしやすいんですよ。宝塚の場合は、お父さん役を下級生が演じたりもしますから(笑)。
――最後に観に来て下さるお客様へメッセージをお願いいたします。
稽古をしていても、すでに楽しくなる予感しかありません(笑)。皆様にも楽しんで、そして喜んでいただける舞台になると思っております。冬の寒い時期ですが、劇場にお越しいただけたら、すごく熱い世界が待っています。ぜひ、一緒に盛り上がりに来ていただけたらと思います。
◆公演情報
ミュージカル『オン・ユア・フィート!』
【東京公演】2018年12月8日(土)~12月30日(日) シアタークリエ
【福岡公演】2019年1月4日(金)~1月6日(日) 博多座
【愛知公演】2019年1月9日(水)・1月10日(木) 刈谷市総合文化センターアイリス 大ホール
【大阪公演】2019年1月17日(木)~1月20日(日) 梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ
【脚本】アレクサンダー・ディネラリス
【音楽・歌詞・編曲】グロリア・エステファン/エミリオ・エステファン
(エミリオ&グロリア・エステファン&マイアミ・サウンド・マシーン制作のオリジナル楽曲より)
【翻訳・訳詞・演出】上田一豪
【振付】TAKAHIRO/藤林美沙/金光進陪
【出演】
グロリア・エステファン:朝夏まなと
エミリオ・エステファン:渡辺大輔
レベッカ:青野紗穂
ホセ:栗原英雄
コンスエロ:久野綾希子
グロリア・ファハルド:一路真輝
アンサンブル:伊藤広祥、岡本悠紀、加藤潤一、当銀大輔、橋田康、ひのあらた、井上真由子、小嶋亜衣、小林由佳、コリ伽路、豊原江理佳、中村百花
ダンサー(ペア・Wキャスト):須藤大迪&高橋莉瑚、大澤隆太郎&森田舞夢
リトル・グロリア(Wキャスト):藤巻杏慈、リチャーズ恵莉
ナイーブ/リトル・エミリオ(Wキャスト):木村咲哉、宏田力
※高橋莉瑚の「高」は「はしごだか」が正式表記