ミュージカル界のプリンスこと井上芳雄がホストを務めるトーク番組『それゆけ!ミュージカル応援し隊 井上芳雄の小部屋』がついにWOWOWでスタート。2016年12月18日に第1回(ゲスト:中川晃教)、2017年1月2日に第2回(ゲスト:渡辺麻友(AKB48))が放送され、大きな反響を生んでいます。
今回、エンタステージでは、この注目プログラムと連動したコラム「文字で楽しむ『井上芳雄の小部屋』」を皆さまにお届けします。このコラムでは、番組内でのトーク内容をほぼ全編にわたり書き起こし。ミュージカル愛溢れる濃密なトークを、文字という形でじっくりと味わっていただければ幸いです。また、WOWOWでの放送を見ることができなかった方も、ぜひこの機会にスター同士のスペシャルトークをお楽しみください。
記念すべき第1回は、井上芳雄とミュージカル『モーツァルト!』でWキャスト出演して以来の仲である中川晃教が登場。日本のミュージカル界を牽引する二人が、お互いに現在までの歩みを振り返りながら心の内を語り合いました。
中川:俺の運命の人はいないかなー。
井上:ちょっとお隣いいですか?
中川:あっ!運命の人だ!
井上:おまたせ、あっきー。やっと来たよ。
中川:待ってたよ。
井上:今日は二人で。
中川:何が始まるの?
井上:浅草の町をロマンティックに、人力車で回ろう。
中川:回るの?
井上:なぜかは聞かないで。なぜ浅草で人力車なのかは聞かないで。
中川:わかった。ドキドキするね。
井上:(二人の距離)近いよね。
中川:なにこれ。この企画なに?
井上:この企画は始まったばっかりだから、手探り感がすごいんだけど。
中川:初めてのゲストが僕でちょっとうれしい。
井上:とにかく・・・
中川:こういうの乗ったことなくて。(人力車動き出し)おおっ!
井上:目線が高くなっていいですね。大丈夫ですか?いけそうですか?
中川:(車道見て)右オッケーですよ。
井上:今日引っ張ってくれるのは石塚さんです。
中川:僕たちはエンターテイメントの仕事をやっています。行ってきまーす!
井上:ありがとう、浅草のみんな!あんまり反応ないけどね(笑)
中川:すごいなこれ。
井上:気持ちいいね。人力車乗ったことあるの?
中川:ない。はじめて。
井上:俺も。
中川:浅草は来たことある?
井上:何回かはある。
中川:こういう観光的なやつ。
井上:一回くらいはある。大学で東京に出てきて、珍しいから。
中川:よっしーも僕も車を運転するんですが・・・
井上:ちょっとドキドキしますね。青信号の間に渡りきれるのかと。
中川:あとこの無防備感が、車に当たったらヤバイよね。
井上:雨降ってきたらどうするんだ。
中川:あ、後ろに傘ありますよ。
井上:ホントだ。やっぱり写真撮られたりしますよね。今日は浅草を回りながら、ミュージカルについて・・・
中川:いいね。
井上:話そうじゃないか。この番組がその名も、『それゆけ!ミュージカル応援し隊 井上芳雄の小部屋』です。
中川:俺もよっしーもさ、本当にミュージカルを一生懸命やっているよね。
井上:ミュージカル、ずっとやってるよね。
中川:ずっと。
井上:あっきーはすごくやっているよね。
中川:すごくやってるよ。よっしーもすごくやってるよね。
井上:俺もやってるけどさ。でも俺は『エリザベート』が終わったばっかりだから(※収録時)。4ヶ月間、『エリザベート』だけをやってた。
中川:今年何月から?
井上:何月からだろう。今10月でしょ?7月からやってた。
中川:俺も7月からちょうど『ジャージー・ボーイズ』やってた。同じ時期だ。
井上:この前会った、島健さんのコンサートが6月か7月じゃなかった?
中川:そうか。
井上:6月6日だ。島健さん、6月6日、66歳のコンサート。
中川:あの時、稽古中だったんだね。ソンちゃん(成河(ソンハ))が初めてルキーニをやるということで。
井上:俺が「最後のダンス」を歌って、あっきーが『ジャージー・ボーイズ』歌ってたもんね。
中川:歌ってました、「Can’t Take My Eyes Off You」。
井上:『ジャージー・ボーイズ』見に行けなかったんだけどどうだった?
中川:よかったよー。
井上:すごい評判だったじゃん。
中川:ホントね。
井上:評判良すぎて、見る必要ないなって。
中川:なんでやねん!見ようよ。
井上:え?評判いいやつは、アレじゃん。
中川:とりあえずOKだろうと。
井上:いいだろうと。どうせチケットも売れてるんだろうと。
中川:えらいね。
井上:あっきーが素晴らしいんだろうけどね。
中川:だけどさ、チケットが売れるというのは一つの結果じゃないですか。
井上:結果ですよ。
中川:俺、すごく大事だと思う。出演者や共演者のファンがいて、ミュージカルが好きな人もいて。そういう人が見に来てくれるのもあるけど、その中でも一番になりたいじゃない。
井上:それはどういうこと?
中川:要するに結果を出したいじゃない。一番というのは作品としてね。
井上:一番良い形で。
中川:同時期に掛かっている作品の中でも。そういうことを考えると、どうしたらこの作品が、自分が関わったこの作品が成功するのか。すごく考えるようになりました。
井上:特に中心に立つ役だと。
中川:ほんとだよね。
井上:責任も多いし。
中川:よっしーは主役としてずっと走り続けてきてるけどさ、もちろん主役って誰でもできるものじゃないと思うんだけど。
井上:もちろんね。選んでもらわないとね。
中川:そうだけどさ。一歩引いたところで、2番手3番手だからこそ、経験できたり見えたり、足りないところをどうやって。おこがましいけど、自分にできることで何があるだろうって。このカンパニーが更に良くなるために結構考える。
井上:全体を見てね。
中川:だから『ジャージー・ボーイズ』で自分が主演でやらせてもらって。あれは4人の物語なので、4人主演だと思っているんですが。その中でも座長として関わった時に、すごくその経験が活きてきたかな。
井上:そうか。あっきーも主役が一番多いよね。
中川:あんまりこだわってない。
井上:2番手3番手みたいなのもある?
中川:むしろ主役やりたくない。正直言うと。
井上:わかるよ。主役やりたくない宣言が出たところで・・・
中川:スカイツリーですね。
井上:ここが一番よく見えるところですか?すごいなスカイツリー。
中川:ここまで走ってきてちょいちょい猫ちゃんがいたり、おじいちゃんがいたり、ここで暮らしている人たちを横目に見ながら、この非現実的なタワー。
井上:比較的のんびりしてるよね、一つ道を入ったら。浅草寺の前はすごい人でしたけど。(スカイツリーに)登ったことある?
中川:このあいだ登ったんだよ。
井上:うそー。
中川:(よっしーは)登った?
井上:ない。どうだった?
中川:ホントに天空っていうかすごく高いところにいる感じ。実際高いんですけど。
井上:今日はスカイツリーには登らないですけど。
中川:よかったですよ。結構、浅草とかスカイツリーとか、地元仙台の同級生や幼馴染が来た時に観光で行ったの。
井上:東京って意外と観光するところないんだよ。
中川:(スカイツリーには)来た?
井上:俺、下まで行ったことある。なんかモールみたいなのあるでしょ?
中川:ソラマチ。
井上:そこに家族や友人が遊びに行ってて、迎えに行くとか。あとは稽古場が近いじゃん、すみだパークスタジオ。スカイツリーを見るとそれを思い出してちょっと緊張するの。稽古場って基本緊張して行くじゃない。「あースカイツリー近くなったら稽古場近いな、ドキドキ」というのを見ると思い出す。
中川:俺は全然緊張しない。
井上:うそ、緊張しないの?
中川:なぜなら家からも見えるんです。
井上:あ~。
中川:会社からも見えるんです。
井上:常にスカイツリーを見ながら過ごしてるのね。
中川:俺の一部みたいな感じ。
井上:どういうことだよ(笑)
中川:よっしーからするとあの稽古場を思い出すのね。
井上:そう。すみだパークへ緊張しながら稽古場に行っていたのを思い出す。ちょっとピリッとするんだよね。
中川:今は?
井上:今も「ああいいな、きれいだな」とは思わない。
中川:今の気持ちをミュージカル風に表現して歌ってもらっていい?
井上:俺が?!なんだろう・・・ちょっとやってもらっていい?
中川:たかーく♪たかーく♪空まーで伸びるー♪それは♪
井上:えらいね。
中川:イエス♪スカイツリー♪
井上:Ohスカイツリー♪
中川:雲に手が届きそうだね♪
井上:空に伸びてゆく♪
中川:僕たちの手~二本の手~♪
井上:もうすぐ♪
中川:二本の手♪
井上:雲の♪
中川:その先に♪
井上:その先は何?♪
中川:宇宙♪
井上:宇宙に♪
中川:二本の手で♪
井上:飛び出そう~♪
中川:Yeah♪
井上:俺、こういうの全然できないんだって。
中川:俺、こういうの好きなんだよ。
井上:全然できない。
中川:こないだ『フランケンシュタイン』の制作発表の後の撮影で、柿澤(勇人)くんに振ったわけ、ここからミュージカル風にやろうって。そしたら「中川さんマジで嫌いになりました」って言われた(笑)。
井上:俺もホントに(笑)。
中川:無茶振り(は苦手)?
井上:バラエティとかの台本で、“ここでちょっとミュージカル風に”ってあるでしょ。すみません、そういうのちょっとやらない…って。
中川:言う?言っちゃう?
井上:言う!
中川:ダメだよ。だって俺たちさ、今何時~?♪とかそういうのをいっぱいやってるわけじゃない。その勢いでやればいいじゃない。
井上:でもあれはさ、作曲家が作ってくれたやつじゃん。
中川:なるほどね。クオリティのことね。
井上:俺は今思った、あっきーは曲作るわけじゃん。モチベーションがある。俺にはないから。歌うモチベーションしかないのね。ある曲を。
中川:でも身体に染み付いてない?あのミュージカルの感じ。いい意味でのあの独特な感じ。
井上:いやー。
中川:誰も何も言われてないのにやれる時あるじゃん。譜面もらって稽古してて。
井上:自然にね。
中川:あの感じが、今見たこのスカイツリーから・・・たとえばあれが『エリザベート』の何かのシーンと重なったとするじゃん。
井上:全然ないんだよな。
中川:♪~
井上:もういいから!
中川:オッケー。
井上:すごいよ。好きなんだね。
中川:結構好き。
井上:自分から振ったもんね。
中川:俺たち、二本の手じゃん。
井上:二本と日本を掛けてるの?
中川:Wミーニング。気づかなかった?
井上:全然気づかなかった。
中川:俺よくスルーされる。
井上:すごいね。
中川:すごくない(笑)
井上:いや、すごいよ。そのテンションがすごい。やろうという気持ちが。サービス精神ともいうのかな。
中川:俺たちのミュージカルの仕事って、エンターテイメントですよ。
井上:そうだね、人を楽しませてなんぼだよね。
中川:吉本興業の『吉本百年物語』が大きかったかな。間寛平さんの兄弟役で出演した。
井上:やってたね。花月で。
中川:いろんな人と会ったんだけど、あれ間近で花月に来るお客さんって、ビール飲みながらとか、観光客もそうですが、笑いに来てるの。劇場に。
井上:(人力車が)スピードアップしてきたよ。話の内容とともに。
中川:お客さんの笑いがどんどん増幅するように、稽古したとおりの芝居をやるんだけど、間寛平さんがちょいちょいアドリブ入れてくるわけ。客席の空気を読みながら。ちゃんと最後は物語に戻すんだけど。これがコメディアン、エンターテイナーかって。
井上:鍛えられ方が違うだろうね。僕たちは基本的に書かれたものをやって、あんまりアドリブすると怒られたりするもんね。
中川:どう、よっしーは?
井上:俺もそうだね。
中川:はっと思い出す?作品とか経験。
井上:逆にバラエティとかトーク番組もそうだけど、普段ミュージカルをやっているのでは経験できないジャンルがあって、そこに行った時に、「このジャンルはこういうふうになってるんだ」って気づくじゃない。ドラマとかもそうだけど。映画とかも。その違う引き出しが必要になった時、面白いと思う。
中川:よっしーはドラマとか映画もやってるじゃない。
井上:あっきーもいろいろやってるでしょ。
中川:でも俺にとって、歌と芝居は自分の中で安心感があるのね。現場的に。でもテレビの現場とか撮影現場ってまだわかんないの。
井上:アウェイ感ある。それはいまだにある。
中川:でもすごいやってるじゃん。
井上:結構やっているし、いまだにあるんだけど、それでもいいのかなって。もちろんホームになればやりやすいんだけど、いつまでもアウェイ感があるまま、だからこそ頑張るみたいな。「よくわからないけど一生懸命やります!」みたいな、それはそれで必要なんじゃないかな。ミュージカルに行くとみんな、「あっきー!あっきー!」って言って、「こういうところがいいよね」とか「こういうのがちょっと苦手じゃない?」とか、みんなわかってる。それもすごく心地よいけど、そうじゃないところで、「こいつ誰?何ができるわけ?」みたいな視線を感じながらやるっていう。
中川:Mだね。
井上:Mだね。それはあるね。あっきーもいろんな仕事をやってると思うよ。どうなの?基本スタンスは何でもやるよって感じなの?それともこれはやりたい、やらないというのはあるわけ?
中川:俺、基本的に自分で仕事を選ばないんです。
井上:選ばない?
中川:選んでもらう一方なの。
井上:事務所の人なりが、これやったらいいよって?
中川:「中川にこの役やらせたい」とか、「中川がここに出てたら面白いんじゃない?」みたいな。「こういうことやってなかったんですか?」って、たとえば歌舞伎役者の方とか「一緒にやってたと思ってた、うそー!?」とか言われる。そこから出会いが出会いを生んで、自分の可能性が広がる。そういうのが好き。
井上:自分が選んでない仕事で、なんでこんなのやらせるのってないの?こんなはずじゃなかったみたいな。
中川:びっくりすることあるよ。たとえば企業の懇親会みたいな。歌を歌ってくださいって依頼があって、ピアノがおいてあって弾き語りとカラオケとミュージカルの曲を1、2曲歌って、15~20分くらいのライブイベントをやるわけです。でもみんな酔っ払って、歌を聞いてないとか。
井上:結婚式の披露宴状態だ。
中川:「なんで俺をここに呼んだ?」みたいな。誰も聞いてないじゃん。でも、なんかああいうのって勉強になるね。俺ってテレビにも出てないし、お茶の間キャラじゃないから。
井上:全国区とかでもない。
中川:だから、単純にそういうのに食らいつきたい人が来てたら「わーっ」となるけど、俺の勝負するポイントはそこじゃないから。歌だし。テレビに出ること、全国区になること、お茶の間に行く、エンターテイナーとして僕を求めている人たちのところに行く、自分がそこにちゃんと投げられた球を返すことも大切だなって。
井上:誰かがあっきーがそこに来てほしいと思ったわけだもんね。
中川:それをやらないと自己満足になっちゃうわけよ。自分がやりたいことだけやってたら。自己満足は自分がやりたい音楽だけ、書きたい自分の音楽だけを書く。そこだけでいい。それ以外はなるべくいろんな扉を開きたい。
井上:そうだよね。行ってびっくりする仕事でも、何かしら得るものはあるもんね。
中川:あるね。
井上:どうやったらこの人たちの興味を惹きつけられるんだろうとか。一生懸命やったけどダメだったとか。何かが引っかかって笑ってもらったりとか。俺も最近のテーマは、自分のことを知らない人にどうやって興味を持ってもらうか。わかりやすく“イケメン”とか、わかりやすく“美声”とか。歌を歌えば、ある程度は「上手いね!」とかなるんだろうけど。歌も歌えない状況だったらどうするか。トークだけとか。
中川:どうするの?トークだけだったら。
井上:最近学んだのはとにかく自虐。「どうも井上です~。ミュージカルでプリンスをやらせてもらっています。でももう37歳なんですけどね!」みたいな。そこから入る。
中川:それってある意味、昔は妖精、今は悪魔みたいな。
井上:妖怪ね。
中川:そうそう。それみたいな。
井上:とにかく下から入っていって。
中川:みんながとっつきやすいところからいく。
井上:僕なんて37歳なんですけど、プリンスって呼んでもらってて…みたいな。そこはすごく考えるよね。同時にどこかでお茶の間の人気者にもなりたいって夢を捨てきれない自分もいる。そっちの方がやりやすいこともたくさんある。
中川:みんな喜んでくれるからね。ミュージカルシーンを牽引しているから、よっしーは。
井上:いやいやいや、みんなそうですよ。
中川:責任感もあります?
井上:そうだね。
中川:あれ?これスカイツリーですよね?戻ってきましたね。
井上:ほんとだ。
井上:責任もあるし、あっきーも言ってたけど『ジャージー・ボーイズ』が成功してお客さんが入って喜んだというのは、そこは毎回目指すよね。
中川:そうだね。
井上:毎回新しい作品をやって、新しい人たちとやるけど、役割が大きければ大きいほどチケット売れたかなとか気になる?
中川:なるよ。今やっている『マーダーバラッド』(※収録時)も。どの作品でもそう。
井上:売れればいいけど、そういうのばっかりでもないじゃん。
中川:俺たちはキャスティングも脚本も全部は選べないじゃん。出る、出ないしか選べない。出ると選んだ結果、現場に来たら初めて「この人たちとやるんだ」って。
井上:出る時点で腹をくくってるわけだからね。
中川:この人たちと、誰と何を作るかなんだよね。・・・よっしーと作ったらね
井上:ずっと言ってるよね。
中川:とびっきりなものにはなると思う。
井上:漠然としてるな。
中川:なんて言うんだろう・・・、みんな待ってると思う。
井上:そうだね。俺たち実は一緒にやったことないからね。同じ作品としては。
中川:Wキャストしかないからね。
井上:コンサートで歌うとか。こうやって喋るとか。
中川:不思議ですね。
井上:そうだね。
中川:そういう意味ではお互いを一方的に見ているんだよね。
井上:俺はあっきーの初舞台から一緒だから、ずっとあっきーのことを見ているよね。そりゃ全部は見てないけど。定点観測じゃないけど、あっきーってこんなのやってるんだとか、こうなったんだとか。お芝居もすごく上手くなってるな、とか。
中川:前も言ってもらってすごく嬉しかったんだよ。
井上:車を運転しながら聞いてたラジオドラマで、「この人、面白いな」と思った俳優さんがあっきーだったの。声だけじゃわからなかった。
中川:LINEくれた時でしょ?俺、マジで嬉しくて事務所の人間に話したくらい。これはお世辞かなーとか言いながら。
井上:変化も見てきているし。
中川:俺もそうだよ。こまつ座のよっしーの『組曲虐殺』とかもそうだし。いいよね、そういうふうに見るの。よっしーとの関係はほんとに稀有だと思う。
井上:実は舞台に対する姿勢は結構似ているところがあるよね。新しくなっていくじゃん、あっきーも。上手くという言葉だけじゃない、変わることを恐れない。変わらないと次はないと俺は思っているから。それで失敗もするけど、結果、前には進むじゃない。でないと次がないよね。
中川:その通りだよね。NHKのスタジオの入り口でたまたま、よっしーと会った時に、かなり久しぶりの再会だったの。その時話していた内容が、そういうことを言ってたのね。
井上:おおっ!
中川:あっきーもほんとに頑張ってるよねって。俺もいろんなことを考えている。自分でもちゃんとやっていけるようにって。その意味は、自分で切り拓いていくという意味に捉えたんだけどね。
井上:そうだね。
中川:だから「あっきー、一緒に頑張ろうね」って言われた言葉が残っている。そういうことを考えているっていうのが確かに一緒かも。
井上:考えている同士だからこそ、一緒にならないのかもね。そんなに考えているやつばっかりが集まったら、いいだろうけど、いつもそうだったらそれはまた違うと思う。あっきーとなんかやれる時は本当にそれこそ、機が熟して、準備万端整えてという状況で、何か大きいことをしたいよね。
中川:大きいことしたいね。見て、柿ですよ。右は浅草公会堂。来たことありますか?
井上:ないです。
中川:ちなみに僕は来たことあります。クレイジーケンバンドさんのコンサートがここであって、その演出をラサール石井さんがやってたの。それを見に来た。
井上:よく聞くよね。歌舞伎とかもやってる?
中川:やってるね。仲見世に来ました。いよいよじゃない?
井上:浅草?
中川:伝法院通り?
(案内役から伝法院通りの説明を受ける)
井上:そんなのがあるんですね。
中川:江戸時代からコートやジャンパーの革モノはね。
井上:牛革でね。そんな伝統、日本にはなかったんだなあ。
中川:こういうやつ、芸人さんとかすごいじゃん。見てこのスーツ、よっしー着てそうじゃん。
井上:いや、レインボーのスーツなかなか着ないだろ。
中川:着ない?
井上:着れないよ。
中川:よっしー着てそう。俺はよく着てるけど。
井上:着てないでしょ(笑)
中川:こないだ育くん、山崎育三郎さんが、「君は薔薇より美しい」を歌っていて、それを俺のスタイリストが見たのね。バラ柄か何かのわかりやすいスーツ着てたらしいのよ。それがすごく似合ってたらしい。あ!これはいいかも?ってコンサートの衣裳の参考にしたって、言ってたの。
井上:真似しちゃった?(笑)
中川:わかりやすくプリンス、王子、今をときめくエンターテイナーみたいな。ある意味そういうカテゴリって重要だよね。
井上:確かに育三郎は振り切ってるもんね。自分でも、笑ってもらったらいいと思ってるって言ってた。ミュージカル界のプリンスですって出た時に、くるって回ってみたりとか、ちょっと歌ったりとかするのを自分はあえてやっているって。だから最近さ、自分たちよりも下の世代が出てきている。あれ、一緒くらい?ちょっと下じゃない?育三郎は30歳だもん。
中川:俺33歳だもん。
井上:だから変わってきているよね。どうなの?
中川:よっしーはスターをやっていてどうなの?
井上:スターやってて・・・(苦笑)。俺はね、StarSにはもちろん将来有望そうな二人を選んだんだよ。浦井健治と山崎育三郎という。
中川:なんで俺を選ばなかったの?
井上:だってもうスターだったじゃない。中川さんは既に。
中川:スターが新しいスターを選ぶってやつね。
井上:これから主役とかもやって、やってたかもしれないけど。
中川:俺、お付きでもよかったんだけど、敏腕マネージャーとか。
井上:いやいや、落ち着かないわ。急に歌う仕事とかばっかり選んできそうじゃん・・・まぁそれはいいんだ(笑)。で、選んで、3人でスタートしたんだけど、俺の想像を超えて二人が売れているね。俺の見る目が確かだったと言えるかもしれないけど。だからちょっと変な話、焦りというか・・・俺たちだってずっと若かったわけじゃん。
中川:2002年の時に、よっしーは?
井上:24歳とか。
中川:俺は19歳とか。
井上:未成年じゃないか!
中川:ほんとだよ。
井上:若い若いって言われて、自分は若いことが一つの存在価値と思ってやってきた。でも俺なんて若いとは言えないし、あっきーもいい年になってきて。変わらないけどね。
中川:俺たち中堅中年だよ。
井上:そうなった時に若い子が出てくるわけじゃない。どうですか?
中川:若いミュージカルシーンを見て、皆、なかなかいいよね(笑)。
井上:誰目線?(笑)
中川:若いキャストと一緒にやるのが大好きなのよ。語弊があるかな。
井上:あっきーの口から若いキャストって言葉が出るのが不思議だもんね。
中川:誰よりもって言うと変かな。よっしーで言ったら育くんとか健ちゃんもそうだよね。若い人たちと一緒にやらせてもらう機会が結構多かったの、この7年くらい。
井上:いろんな作品に出ているからね。
中川:やっぱり技術や経験の足らないところもあるんだけど、そこは俺たちも若い時は技術や経験よりも思いや情熱で突っ走ってたじゃん。あれにみんなベテランや中堅も感化されて、「良いものができた」という実感があった。その時自分は無我夢中だからわかってないだけで。
井上:本人は自分の実力だと思っていたりするよね。自分の技術や・・・
中川:俺頑張った!
井上:俺の才能で来てる!みたいな。
中川:よっしーはそんなことがあったの?「俺やっぱ上手いな!」みたいな。
井上:俺はむしろそっちの方があったと思う。自分が若いからというよりも、自分がこれだけできるからこうなんだという自負はあった。ただ、「俺は上手いからさ~」という感じではなかったと思う。でも、これだけやったぞ、みたいな。
中川:俺たちってそういうものを持っているけれど、なかなか出す機会、言う機会ってないけどね。
井上:その当時は言えないけどね。
中川:若い子たちとやることで、そういうことも自分の中で思い返せる。
井上:そうそう。あの時、俺たちは“若い”というものすごい魅力があったんだなって。その存在が既にエネルギーだったし、周りを変えたり感化したりしてたんだなって、今だからわかる。若者を見てると。
中川:すごくわかる。
井上:そんなことを俺たちも言うような歳に・・・でも歳を取ることって悪いことじゃないと思う。「若い時ってこうだったね」って言うことは全然悪くない。何かの役をやる時にもわかることが増える。これは若いからこう思うんだなって。
中川:たとえば間宮祥太郎くんとかどうだった?
井上:これから一緒にやるんだよね。
中川:まだ会ってない?
井上:会った。すごく若かった。
中川:まーみーって呼んだり。
井上:いきなり呼べるかな。23歳には見えないね。そろそろ話をまとめていきたいんだけど、「ミュージカル応援し隊」は、どうしたらもっと盛り上がると思う?
中川:ミュージカルって専門職だと思うんです。
井上:まさに。職人だと思うよ。
中川:先輩たちが一生懸命築いてきた日本のミュージカルシーンがあって、ようやく俺たちの世代で見えることもあるだろうし。でも、世界を見たらミュージカルって日本のものじゃないから、どうしてもまだまだ。
井上:色眼鏡で見られる。ミュージカルやってるんですね、っていう。
中川:そこを作って行くためには、俺たちを見た若い人がやりたいと思ってくれれば。
井上:ああいうふうになれるのなら、やってみたいなと。俺もテレビとか出た時に、ギャラいくらもらっているとは言わないけど、こういうシステムなんですよとか、主役だとそこそこもらえますとか。まず、どういう業界なのかを知ってもらわないとさ、興味の先もないし。できるだけ興味をもってもらうような話をね。ミュージカルを見たことがなくても、この人がいくらもらっているかは知りたいよね、下世話な話だけど。
中川:仕事になってるのかとか。
井上:よくあるよね。「役者さんは稼げないんでしょ、大丈夫ですか?食べられてますか?」って、結構もらってるぞ!みたいな。その分頑張ってもいるし。そういうのを知ってもらうのと、もっとどうなったら更に盛り上がるかみたいな。結構いい感じで来てると思うんだ。
中川:よっしーとかStarSもそうだし。
井上:あっきーもそうでしょ。
中川:新妻聖子ちゃんとか、新納慎也さんとか。嬉しくない?
井上:すごい嬉しいよ。
中川:俺嬉しいよ。
井上:あ、あそこ花やしき。行ったことない。
中川:ないの?
井上:俺、何もないんだな。
中川:俺は母親が江戸川の人間なのね。なので子どもの頃よく来てた。
井上:こんな急に遊園地があるんだね。
中川:そう。民家の近くをジェットコースターが通ってたりする。で、それから他に誰がいる?
井上:石丸幹二さん、すごいよね。どうしたら映像の仕事が次から次からと入るんだろうって。CMもやっているし。
中川:力でしょう。
井上:で、良い感じで来てるわけ。WOWOWだってよくわかんないけど、ミュージカルを応援してくれているわけよ。
中川:よくわからなくないよ。よっしーがいるからだよ。
井上:なんでこんなに応援してくれるんだろうって。そう思うくらい応援してくれているんだけど、これを起爆剤として、ここで歩みを止めずにもっと行くにはどうなんだろう。どうしたらいいんだろう。
中川:どんどんこうやってやり続けていくことですよ。
井上:自分の人生とともに、自分の俳優としてのキャリアも進めていけたらこんな幸せなことはないなあって。さっき言ったこの業界に夢があるとしたら、結婚しても子どもができてもこういうふうに活躍できるんだな、結婚しなくてもこんなふうに素敵にやっているんだ。いろんなバージョンの俳優がいるということが希望じゃない。いろんな人がいていいわけですよ。結婚しなきゃいけないこともないし、子どもだってそうだし。多様性とよく言いますが、そういうジャンルにさらになっていけばいい。あとは自分たちが体現して、それを見てもらうしかないよね。言葉だけで言ってもわからないから。
中川:よっしーがミュージカルで一番好きなところってどこ?やっていて、見ていて。
井上:最近思うのは、やっぱり気持ちいいくらいにエンターテイメントだってことですね。
中川:いいですね。
井上:あっきーもそうだけど、ストレートプレイもやるじゃない。台詞だけのお芝居の時は切り込んでる内容が多いじゃん。人間の闇のその先みたいな。ミュージカルもそういうのはあるけど、歌ったり踊ったりすることで、その間口を確実に広げてると思うんだよね、「難しくないよー」って。歌ったり踊ったりしちゃいますよってことで、だいぶ敷居が低いと思うんだよ。それって素敵なことだと改めて思います。
あっきーは何が?最初はミュージカルをやりたかったわけじゃないでしょ?でも、気づいたらバリバリにミュージカルやってるじゃない。そのなかでも途中、いろんな思いもあっただろうし。ミュージカルやるとかやらないとか。今はどう?
中川:やっぱりよっしーがいる限り続けていこうかな。
井上:俺基準か。
中川:俺にとってミュージカルの一番好きなところは、こうやって一緒にやってきて出会えた仲間ができてきたこと。
井上:これだけ15年くらいやってきてね。そうか、15周年?
中川:16年目に入った。
井上:おめでとうございます!
中川:よっしーは?
井上:17年かそれくらいかな。
中川:適当(笑)
井上:よくわかんないんだよ。周年の数え方が。
中川:デビューからね。それは感じるかな。仲間と呼んでいいのかだけど。
井上:こうやって時間を重ねてるからこそ、話せることもある。
中川:かけがえないよね。
井上:俺はあっきーからたくさん学んだしさ。
中川:ホントに?
井上:そうだよ!Wキャストした時から、酸いも甘いも。
中川:よっしーがいたからできたよ、『モーツァルト』は。
井上:あれを若い頃にしておいてよかったと思う。こんな人がいるんだ、こんなすごい歌を歌う人がいるんだって。絶対的なものを経験する、で自分もなんとか食らいつくという経験というのは。もちろん今もしているけど、若い頃にするべきだよね。そのショックって大きいし。
中川:そうか。
井上:とにかく一緒に何かやることを、それも生半可なことじゃなくて。
中川:コンサートでも一緒にやれたじゃない、ゲストだけど。「僕こそ音楽」を島健さんが二人で歌うデュエット用にアレンジしてくれて。リハーサルが終わった後、よっしーが「気持ちいいね」って。ハモるのが気持ちいいって言ったのか、ハモるのが好きって言ったのか忘れたけど。
井上:俺、デュエットが好きなの。
中川:俺もすごく嬉しかった。デュエット好きなんだ?
井上:デュエット好きなんだよ。なんかね。一人で歌うのも好きだけど。
中川:日常からミュージカルしないの?
井上:しないよ!全然しない!
中川:してみたら?
井上:もっと上手になるかな?
中川:ネタとは言わないけど、パッとやった時に。
井上:既製の曲を歌ったりはね。
中川:ハモり始めそうだよね。よっしーが鼻歌歌ってたら、知念さんがハモりだすとか。
井上:俺たちそういうテンションじゃないかな。
中川:違うんだ。俺がいたらすぐハモっちゃうな。
井上:ハモんないでくれる?って言っちゃうね(笑)
――完
◆放送情報
『それゆけ!ミュージカル応援し隊 井上芳雄の小部屋 ゲスト 島田歌穂』
2月11日(土・祝)午後5:10 WOWOWライブ
2月14日(火)午前10:40 WOWOWライブ
番組公式サイト(https://www.wowow.co.jp/detail/109809/003/01)
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https://www.wowow.co.jp/stage/musical/