英国が誇る2大バレエ団の一つ、英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団(BRB)が3年ぶりに来日。3年前の公演でも『白鳥の湖』と『シンデレラ』でいずれも主役を踊り、その高いテクニックと溢れる情感で大好評を博したプリンシパルの平田桃子が、今回は『リーズの結婚』という農園を舞台にした陽気で楽しいラブコメディで、明るく勝気な主人公リーズを踊る。
公演を前に、彼女に作品のことからバレエを始めたきっかけ、バレエ以外の趣味など、幅広い話を聞いた。大きな黒目がちの瞳でこちらをまっすぐに見つめ、どんな質問にも笑顔を絶やさず答えてくれた平田。その魅力に迫る。
――まず、『リーズの結婚』という作品の魅力を教えてください。
このバレエはフレデリック・アシュトン振付の、イギリスを代表する作品です。最初から最後までいろいろな要素がつまっていて、リボンを使った踊りや木靴をはいた踊り、鶏の着ぐるみを着た踊りまで、ほかのバレエでは見ることができないものが見られます。本当に楽しいコメディ作品です。
――バレエではコメディは少ないように思いますが、難しいですか?
そうですね。『眠れる森の美女』などより、こういったコメディの方が苦労します。相手との掛け合いがちょっとずれると、面白さがお客様に伝わらず、笑いが笑いでなくなってしまったりするので、タイミングや呼吸がとても重要です。お客様には、しっかり笑っていただきたいです(笑)。
――相手役はパリ・オペラ座からゲスト出演のマチアス・エイマンさんですが、ご一緒したことは?
初めてですね。初めてのパートナーと踊るのが、すごく好きなんです。新鮮な感情を得られるので。特にこの作品に関しては、掛け合いが重要なので、練習を重ねていくうちに慣れでできなくなる部分も出てくるので、新しいパートナーと組むことは、この作品にもってこいじゃないかなと思っています。それに、マチアスは本当に美しいダンサーで、パートナーリングも完璧です。彼もこの作品はオペラ座で何度も踊っておられますし、経験豊富な方なので。
――マチアスのインスタグラムにリハーサル時の写真が上がっていましたね。
あれは、最終日の通し稽古の後で撮ったので、みんなクタクタの写真なんです(笑)。
※マチアス・エイマン Instagram
https://www.instagram.com/p/BiUbN0jAhmo/?taken-by=mathiasheymann
――平田さんから見て、バーミンガム・ロイヤル・バレエ団というのはどんなバレエ団ですか?
個性に溢れるカンパニーだと思います。デヴィッド・ビントリー監督も、個性を重視しているので。また、ツアーに出ることが多いので、お互いのことを知り尽くしていて、家族のような存在です。そのアットホームな感じがそのまま舞台に反映されていればいいですね。チームワークはすごく優れていると思います。
――さかのぼったお話になりますが、平田さんがバレエを始めたきっかけを教えてください。
近所にたまたまバレエスクールがあって、二人の姉が先にバレエを習っていたんです。私も毎日その送り迎えの車についていっていたので、スタジオを覗いては自分もやるものだと勝手に思い込んでいました(笑)。だから、バレエを始めたのは自然な流れでしたね。最初は、単純に衣裳に憧れていたんです。「チュチュが着たい」って。そこからどんどん、バレエって奥が深いなと、のめり込んでいきましたね。
――いつ頃からプロになろうと思われたのですか?
大きなきっかけになったのは、10歳ぐらいの頃に母がたまたま図書館で借りてきたビデオでした。それは、吉田都さんがBRB時代に踊った『くるみ割り人形』だったんです。それがすごく印象的で。同じ日本人で、海外でトップとして活躍されている方がいるんだ!と知って、私もその場に立ってみたいと思いました。
――吉田都さんと同じ舞台に立たれたことは?
何度かあります。2008年の来日公演で、都さんが『コッペリア』の主役スワニルダを踊られた時、私は友人の一人の役で同じ舞台に立たせていただきました。本当に光栄でした・・・。夢のような共演で。都さんもBRB出身ということで、その後もいろんなところで関わらせていただいているのですが、永遠の憧れですね。
――平田さんにとって、吉田さんの存在は大きいですね。
彼女の影響は本当に大きいです。私がイギリスに行くきっかけになったのも彼女、と言っても過言ではないので。ローザンヌで賞を取って、ロイヤルバレエスクール(RBS)に行ったのも、イギリスのスクールで学びたいと思ったからですし。都さんもローザンヌでスカラシップを取って、RBSに留学していらしたので。当時はもうイギリスのロイヤル・バレエの映像をひたすら見ていましたね。
――平田さんは15歳ぐらいで単身イギリスに行かれたそうですが、辛くはなかったですか?
それは大丈夫でした。若かったし、自分のやりたいことがはっきりしていたので。
――プロの世界に入って感じたことは?
最初は、こんなに忙しいものなんだ!って驚きました。BRBは年間150回ぐらい公演をするのですが、コール・ド・バレエ(群舞)で入団すると、毎回毎回出ているので。今は(プリンシパルなので)週に1回とかなんですけど。当時は大変でした。まさに若いからできたんですね。
――その後、アンヘル・コレーラの設立したバルセロナ・バレエに行かれたのは?
チャレンジ精神が目覚めたというか・・・自分を新しいところに置くという挑戦をしてみたかったんですね。アンヘルさんはとても情熱的な方で、バレエをこんなに愛する人がいるんだと感銘を受けました。彼とも結構踊る機会をいただいたので、大変勉強になりました。役についてのアドバイスもいただきましたし、何よりもその情熱が伝わってきたので、言葉では言い表せないんですが、そこから感じられるものが大きかったです。
――BRBとの違いは感じましたか?
全然違いました。もちろん、規模の面も違うんですが、バルセロナでは踊る演目、レパートリーも少なかったので、リハーサルにすごく時間をかけていたんです。そういうプロセスがBRBではあまりなかったので、一つの作品に全力で集中できるという環境はすごくありがたかったです。
BRBに戻ったのは、バルセロナ・バレエが解散してしまったからというのもあるんですけど、やっぱりレパートリーが豊富なBRBの魅力に気づいたというのもありました。私が離れる時に監督のデヴィッド(・ビントリー)が「いつでも帰りたくなったら戻っておいで」って言ってくださったので、それは常に頭の中にありました。ありがたいことです。デヴィッドとは、私が学生の頃からですからもう16年ぐらいのつきあいになります。
――これから踊ってみたい演目はありますか?
たくさんあります。踊る機会はないと思うんですが。演じるのがすごく好きなので『マノン』とか『オネーギン』とか、大好きなんです。BRBのレパートリーにはないんですけど。もう少し年を重ねたからできる作品にも取り組んでいきたいです。演じることが好きなので、どんな役にも挑戦したいと常に思っています。
――少し古い話ですが、同じバレエ団の方が平田さんの10回転ピルエットをYouTubeに上げておられましたね。あんなふうに美しくピルエットで回るのは、コツがあるのでしょうか?
※平田さんの10回転ピルエット動画
https://www.youtube.com/watch?v=EmnPqyCK2W4
あれは「10回回らないと帰さない」と部屋に閉じ込められた状態だったんですよ。クラスの練習の後に、ふざけていて。うまくできたのは、土曜日の午後だったので早く帰りたかったんでしょうね(笑)。
15、16歳ぐらいまでは、ピルエットが本当に苦手だったんです。でも、苦手なものから目をそらさずに練習しようと思った時期があって、努力しました。そうしたらある日、勘というか、それを体感してからは自信がつきました。やっぱり、努力って大事ですね。
――平田さんにとって、バレエとは?
バレエしかやってこなかったので、これがなくなったら私の人生どうなるんだろうっていうぐらい、本当に重要なものです。何もかも、すべてがバレエにつながっているんです。むしろ、バレエから興味が湧いてきたものもあります。まず、ファッション。バレエの衣裳、こんな美しい衣裳を着る機会をいただけているのをきっかけに、ファッション全体にも興味を持つようになりました。好き過ぎて衣裳スケッチのコースまでやりました(笑)。見たものをスケッチするのも好きです。
――最後に、日本のお客様にメッセージをいただけますか?
一人でも多くの方に見ていただきたいです。『リーズの結婚』はバレエのことを何も知らない方でも楽しんでいただける作品なので、躊躇せずにいろんな方に来ていただけたら嬉しいです。
◆公演情報
『リーズの結婚』
5月25日(金)19:00 (リーズ)平田桃子、(コーラス)マチアス・エイマン
5月26日(土)14:00 (リーズ)セリーヌ・ギッテンス、(コーラス)タイロン・シングルトン
※13:30~13:50 プレトークあり
5月27日(日)14:00 (リーズ)平田桃子、(コーラス)マチアス・エイマン
※配役は、変更になる場合あり
【会場】東京文化会館(上野)
【NBS HP】https://www.nbs.or.jp/
【『リーズの結婚』報告】https://www.nbs.or.jp/stages/2018/brb/reeds.html
(舞台写真/Roy Smiljanic、ポートレート/Mizuho Hasegawa)