アメリカの劇作家ライル・ケスラーの傑作戯曲『オーファンズ』が、細貝圭、佐藤祐基、加藤虎ノ介の3人芝居で2017年10月14日(土)より兵庫で開幕する。1983年にロサンゼルスのマトリックス劇場で初演、日本では1986年に劇団四季が初上演して以来、何度も上演されている本作。
今回は、マキノノゾミが手掛けた上演台本と演出のもと、細貝圭、佐藤祐基、加藤虎ノ介が、3人だけの濃密な会話劇に身を投じる。立ち稽古に入った稽古場で、3人それぞれの作品への取り組み方や、作品への印象などを語ってもらった。
――立ち稽古に入られたということで、稽古は順調ですか?
佐藤:そうですねぇ・・・どうですか?
細貝:どうですか?(伝言ゲームのように回す細貝さん)
加藤:どうですか?って、3人しかいない(笑)。
――(笑)。皆さんは、元々この作品はご存知でしたか?
細貝:いえ、出演が決まって初めて読ませていただきました。去年の頭にも東京芸術劇場(シアターウエスト)でやってたんですよね。僕は見れていないんですけど・・・。虎さん(加藤)だけ観てるんですよ。
――その時はもうご出演は決まっていらしたんですか?
加藤:いえいえ。その時は、一観客として。だから、ハロルド視点で観るということもなく。
――その時のご感想は・・・?
加藤:うーん、うまく言えない。稽古すればするほど、観た印象が薄れていっているというか・・・。今はもう、これはこれって感じで自分たちの芝居としてやってるから・・・。
細貝:演出も翻訳の方も、まったく違うんですよね。
佐藤:だからきっと、全然違うんだろうね。役のちょっとしたニュアンスが違うだけで、見え方もまったく変わってきそうだし。
加藤:そうそう。そういうことが言いたいんだよね(笑)!
佐藤:ちょっとー!いいっすよ、虎さんが言ったことにしときましょう(笑)。
細貝:今回の翻訳と演出を手掛けられているマキノ(ノゾミ)さんもご覧になっていないって言ってました。
佐藤:観ていないからこそ、最初に戯曲を読んだ段階で、どう解釈したらいいんだろうと思うところがあったんです。その去年上演した『オーファンズ』に出ていた大(柳下大)とは、僕と圭ちゃんが知り合いだったので、稽古が始まる前に「ちょっと飲もうか」みたいな話もしていたんですけど。
細貝:そうそう。
佐藤:でも、自分たちがやるマキノさんの上演台本が手元にきて読んでいるうちに、なんとなく「これ、何も聞かないでおいた方がいいかも・・・」みたいな感じになったんですよ。圭ちゃんと示し合わせたわけでもなく。実際に稽古に入って改めて、聞いたり観たりしないでいた方が、“俺たちの『オーファンズ』”ができる、そうやって作っていこうという感じになりました。
――細貝さんと佐藤さんは、トリートとフィリップとして兄弟役です。実際、細貝さんと佐藤さんは同い年ですが、劇中での年齢設定などはどうなっているのでしょうか?
佐藤:いや、決めてないんですよ。トリートもフィリップも、子どもじゃなくてもいいんじゃないかって受け止めていて。
加藤:等身大のままでいいんじゃないって感じなんだよね。だから、(細貝さん、佐藤さんを差して)30代で、(自分を差して)20代。
細貝:おかしいでしょ(笑)!
佐藤:急にボケないでくださいよ(笑)。
加藤:何よ、そんな変わんないじゃないの~(笑)。二人とハロルドの関係も、そんな感じでいいんじゃないかと思ってます。
――なるほど。“大人”というのが、今回の『オーファンズ』のキーワードになりそうですね。役作りに関しては、それぞれどのようにアプローチされていますか?
細貝:めっちゃ難しいです。立ち稽古に入る前から分かってはいたんですけど、思っていた以上にトリートって感情の起伏が激しいんですよ。ちょっとしたことで瞬間湯沸かし器みたいにバーンッとキレたり、そうかと思えば、急に凹んだり、めまぐるしく感情が変わる。そこにたどり着く前の感情を作り上げるのが、もうもう、ムズイ!!それから、マキノさんは語尾にすごくこだわって上演台本を作ってくださっているので、語尾に感情が乗るように意識しています。
佐藤:僕はわりと、自由にやっています。フィリップとして、その瞬間瞬間をすごく新鮮に捉えることを意識したり、兄ちゃんに抑圧された生活をしているけど舞台上では自由に動いたり発言したり。ハロルドを通して広がっていく部分とかは、本番までにどこまで掘り下げられるか、自分としてのバリエーションを増やしていきたいです。
加藤:そうだねえ・・・染み込ませていくだけだよね。基本的に、ゆっくりやっていくタイプなんですよ。でも今回は、わりと早い段階で台詞を入れていって、というスタイルなので。いつもの倍ぐらいのペースで、頭と体を使って、ハロルドを構築しようとしている感じですかね。そういう基礎工事的なものが、ある程度カチッとできてから、徐々にまた変わっていくのかなと思います。
――役としてもですが、皆さんがこの作品そのものにすごく魅力を感じられていると聞きました。
佐藤:本当に、よく出来たお話ですよね。
細貝:すんなり物語の世界観に入っていけて、コントラストもカラッとしているんだけど、観ている人の感情にストレートに揺さぶりをかけてくるというのが、一つの魅力なんじゃないかな。すごく繊細なお芝居なんですけど、逆に真っ直ぐに訴えかける強い力を感じるので。
加藤:そうだね。ものすごく繊細だよね。何度も再演される理由が分かります。
佐藤:マキノさんが、稽古に入る前に「芝居をうまく見せるというよりは、それぞれの関係性を強く意識してくれ」とおっしゃっていて。関係性を意識していくと、僕らもやっていて楽しいんですよね。もっとこうできるんじゃないか、もっと深くできるんじゃないか、掘り下げていくことにワクワクを感じるので、お客さんもそういう感覚に引き込めるといいなと思います。
それから、これもマキノさんがおっしゃっていたんですけど、男3人の孤児のお話なので、女性はキュンキュンする部分もあったりするのかなと。
――確かに、男性と女性で感じ方が少し違うかもしれません。
加藤:男3人芝居だから、出せるものって絶対あるよね。何というか、3人とも本当に没頭していて、もっともっとって稽古をしているのが、演者として楽しいんですよ。僕らが、この作品をやれていることに感じている喜びが、多分、お客さんにも伝わると思うんですよね。
――翻訳劇ならではのおもしろさ、反面、感覚の違いもあると思うのですが。細貝さんは帰国子女ですが、その辺りはどのように感じていらっしゃいますか?
細貝:そうですね~、翻訳すれば、それはどうしたって日本語ですからね。でも、マキノさんは「英語をしゃべっている気持ちで、それを体現して欲しい」って言うんですよね。
佐藤:でも圭ちゃん、ちょっとトチると「F×××!」って言ってるよ。日本人はなかなか言わないよ(笑)。
加藤:そこだけ生の感覚だ(笑)。
細貝:いや~、難しいっすよね。翻訳劇。手のジェスチャーとかも、重要ですしね。
佐藤:実際に会話する時も、そうなの?
細貝:めっちゃジェスチャーするよ。僕も、英語しゃべる時は勝手に手が動いちゃうし。
佐藤:へ~、かっこいい。俺も「しゃべる時は手が~」ってその台詞言ってみたい(笑)。
加藤:しゃべれないの?
佐藤:え、加藤さんしゃべれるんですか?
加藤:あったり前じゃない!
佐藤:じゃあ、ちょっとお二人で話してみてくださいよ(笑)。
細貝:え~と(流暢な英語で話し出す)。
加藤:F×××!
佐藤:(爆笑)!!
細貝:え~、F×××で片付けられちゃった(笑)。
――コンビネーションばっちりですね(笑)。それでは最後に、公演を楽しみにされている方にメッセージをお願いします。
佐藤:密度の濃い稽古をしています。本当に、こんなの何年ぶりかなっていうぐらい、あっという間に時間が過ぎるんですよ。この大人3人が集中力を注ぎこんで作り上げた芝居を、ぜひ観てほしいです。
細貝:きっとまた、新しい形の『オーファンズ』になっていると思うので、観たことのある方も、初めての方もぜひ劇場へ・・・でも、初日を考えると怖っ(笑)!震える~。
加藤:よし、ちょっと延期しよう。
佐藤:ダメダメ(笑)!
細貝:なんか、稽古をやればやるほど「これ、スケジューリング間違ってないか・・・?」みたいな気持ちになるんですよ。今まで、本番直前になってもこんなに余裕なくなることはなかったんですけど。
加藤:分かる。今の段階で「やばいな、時間足りない。時間、時間・・・」みたいになってるもんね。休みめっちゃ欲しいなって思うんだけど、休んでる場合じゃない!ってなる。でも、人間のエネルギー量って限られてるじゃん。だから、出演者がもう二人ぐらいいたらいいのにって・・・(笑)。
細貝:無理だよ、登場人物いないじゃん(笑)!ああ、話してたら手汗かいてきちゃった・・・。
加藤:音楽も出来上がってくるよ、周りはどんどん出来上がっていってるんだよ。煽られてるよ!お客さんも待ってるんだよ!
細貝:手汗止まんなくなってきた(笑)!!
加藤:・・・っていうぐらい、いっぱいいっぱいの私たちをぜひ、ご覧ください(笑)。
◆公演情報
『オーファンズ』
【兵庫公演】10月14日(土)・10月15日(日) 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
【東京公演】10月18日(水)~10月22日(日) 草月ホール
【作】ライル・ケスラー
【上演台本・演出】マキノノゾミ
【出演】細貝圭、佐藤祐基、加藤虎ノ介