王女が自由と恋を知った日。そのあらすじや魅力はいうまでもない。時代世代を越えて、人々に愛され続ける世界的名作『ローマの休日』が、再び劇場にかえってくる。2010年の初演から7年の時を経て、演出・マキノノゾミ、出演・吉田栄作、朝海ひかる、小倉久寛の初演メンバーが集結。こまつ座『私はだれでしょう』での共演でさらに絆を深めた、吉田栄作と朝海ひかるに作品への想いを聞いた。
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「映画よりも前に舞台があったとしよう」という演出家の言葉
――7年を経ての初演メンバーで再演。お話を聞いた時の気持ちからうかがえますか?
朝海:また、あの世界に行ける!っていう嬉しさ。そして、あの大量のセリフ・・・。再びに戦いに臨むような、そんな気持ちも入り混じっています。7年ぶりに出会う戯曲なので、今の自分がどんな思いを抱くのかも楽しみです。
吉田:(当時の舞台写真を眺めながら)色々思い出してくるなあ。何も思い出さずに稽古に入りたかった気持ちもあります、真新しい気持ちでね。僕がこの役をやるのは、これが最後かも。ここに(チラシの『舞台ローマの休日』という文字を指差しながら)<最後の>って吹き出しで足しておいてもらえたら・・・(笑)。
――改めて初演時を振り返ってみて、印象的なエピソードは?
吉田:やっぱり、あれだよね。マキノさんの言ってくれた言葉。「映画よりも前にオフ・ブロードウェイあたりの小さな劇場で、3人芝居があったとしようよ」って。そう言われたんですよ。
朝海:あれって確か、顔合わせで仰ったんでしたよね。最初の段階でそういった言葉をかけていただけたことが大きかったと、私も印象に残っています。
――舞台版が存在していたって仮定なさったんですね。
吉田:それがロングランで人々に愛されて、観た関係者が映画も作ろうってなったと。だから俺たちが今からやるのは、オフ・ブロードウェイの『ローマの休日』の日本人キャスト版。そういう気持ちでやんないかって。
朝海:俳優としては、おいそれと手をつけてはいけない聖域のような作品なので、私たちが後ずさりしている感をマキノさんが感じられたのかもしれません。でも、その言葉を聞いて「やっていいんだ」と思えました。そこから、作品の捉え方や役に対する考えが大きく変わりました。
――素敵な裏設定!とってもいいお話です。
吉田:もちろん、映画へのリスペクトを大前提でね。
朝海:「DVD見ろー!」ってしょっちゅう言われてましたもんね(笑)。
吉田:映画と同じシーンが何個もあるので、できれば僕も完コピしたかったし、やっぱり、オードリー・ヘプバーンファン、グレゴリー・ペックファンにも満足をして欲しかったので、毎日観ました。
朝海:マキノさんの横にポータブルDVDがあって、「ちょっとここ見て!」っていうの、ありましたよね!だから、映画ファンの方も、「あのシーンだ」って、楽しんでもらえたんじゃないかな。
――映画の真実の口のシーンがアドリブから生まれたというのは有名な逸話ですが、舞台のお二人もとてもチャーミングでした。アドリブの採用とかはあったりしましたか?
朝海:栄作さんと小倉さんとのシーンでは、そういうことがありましたよね。
吉田:僕らがじゃれあうと、たまにハプニングが・・・。僕が小倉さんの足を踏みつけて、洗面所まで連れて行くシーンがあるんですけど、がっつり踏んじゃって。やっちゃった!って思ったら、ほんっとに痛がってて。それ見て笑っちゃうとかね(笑)。
朝海:生の反応を絶対逃さない方なんです。セリフ以外のことを言うのは抵抗があるんですけど、小倉さんは起こってしまったことを普通にお芝居にしてしまう。すごい方です。モニターで聞いてて、あれ、こんなのあったけ?って。
役柄の持つアイデンティティを背負うということ
――他のご出演作にも通じると思うのですが、海外作品を日本で上演することや、その役柄を演じるにあたって、気をつけていることは?
朝海:人が生まれ育ってきた歴史や環境っていうもの。あと、海外ものですごく大きく関わってくる宗教観も。どんな役を演じる上でも、それら全てが大事だと思っています。
吉田:アイデンティティだよね。どの役も、自分の来た道とは全く違うから。
朝海:2017年にここで生きている私たちにはわからない感覚や、言葉の意味するところも、その人が生きてきた軌跡を考えた時にふと、わかってくるんです。そういう部分は、敏感に汲み取るようにしています。
――ここしばらくの朝海さんの出演作を振り返っても、『幽霊』から『私はだれでしょう』、そして『ローマの休日』。役柄がガラリガラリと変わっていらっしゃいます。
朝海:そうなんです。『幽霊』の前は『CHICAGO』だったんですけど、あれも宗教観が強い作品でした。そして、戦後の日本が舞台の『私はだれでしょう』。この順番でやってきたから余計にかもしれないのですが、人ってその時に生きた歴史や文化、信仰といった環境に、考え方をすごく左右されるんだなって。
吉田:本当にそうだね。僕は、国も文化も歴史も違う人間を演じることに、昔はすごく抵抗感を持っていました。
――どういったことで、お気持ちの変化があったのでしょう?
吉田:日本人にとったら、舞台を観たことでその海外作品そのものを知るっていうことも結構あるじゃないですか。だから、我々が努力を尽くしてやるべきなんだなって。そういう風に考え方が変わってきたんです。舞台に立って、彼らの言葉を発していくうちに。
――この初演でも、映画にはなかったジョーの生い立ちも色濃く描かれていましたよね。当時のインタビューでの「そういうものが、物語に奥行きを生んでいる」という吉田さんのお言葉や、王女の好奇心の抑圧や国を背負う辛さを語る朝海さんが印象的でした。
吉田:アイデンティティという意味でも、そういうところは大事にしたかったね。マキノさんも、僕たちの役柄のそういうところを大事にしてくださってたから。
――これまでアン王女については、つい可憐な愛らしさやジョーとの恋の行方に目がいってしまいがちだったので、ハッとしました。
朝海:映画では、画面いっぱいにオードリーの魅力が溢れていますから、観る方がそこに目が行くのは自然なことですよね。でも、いざ戯曲と向き合うと、しがない新聞記者の生活や、王女で裕福だけども自由が利かなかったり。この時代ならではの人間の様子が垣間見られました。
吉田:舞台だから見えたこともすごくあったね。
朝海:彼女を自分に置き換えてみたり、そういう部分から役と向き合ってみると、とてもシリアスな物語でした。それを感じたからこそ、華やかな部分だけを伝える方向には行きたくなかったんです。
――朝海さんは宝塚のトップスターで、吉田さんもずっと第一線で活躍なさってきて・・・。お二人ともある種の不自由さは重なる部分があるんじゃないかと勝手に思いました。コンビニでアメリカンドッグ買って食べたりできないだろうし・・・。
吉田&朝海:あはははは(笑)!
吉田:確かにアンとジョーには、それぞれの不自由さがあるね。でも、僕が演じるジョーには、時代の大きな流れに逆らっていくような部分がある。自分は自分というのを貫くような。重なるというか、男が男に惹かれる何かはありますよ。
共演を重ねた今感じる、お互いの魅力と絆
――朝海さんは、以前のインタビューで吉田さんのことを“兄貴”と仰っていましたね。お互いの魅力は?
朝海:稽古場でも本当に任せ切ってしまっています・・・。「いけない!私ができること!」ってなるんですけど、それよりも先にお気づきになられて、みんなを引っ張ってくださる。
吉田:ステージの上で息をしている朝海ひかるという人はものすごく素敵。面と向かって芝居をしてもそうだけど、誰かと芝居をしている後ろ姿や、どこかに向かって叫ぶように歌っている横顔なんかにも、“生きてる”鼓動とメッセージを感じる。今も『私はだれでしょう』で一緒だけど、彼女が次にどんな完成品を作るのかすごく楽しみ。
朝海:なんて嬉しいお言葉!栄作さんとあの作品(『私はだれでしょう』)を経験して、『ローマの休日』に向かうっていうのも、すごく意味があると思っています。
吉田:7年ぶりにこれで一緒になるのとはまた違うよね。そこは、1つ作品を一緒に作ってきたっていう二人の深みが出ちゃうんじゃないかなあ(笑)。そこに小倉さんが加わって、より強くなる。
――お三方の、稽古場や劇場での和やかな雰囲気が端々から伝わってくるインタビューでした。これから新たに動き出すのが、楽しみですね。
吉田:初演メンバーで再び集まれるっていうのは、すごく貴重だし心強いこと。だからこそ新鮮さを大事にしたい。これから稽古場で起こることを、1つ1つ踏まえていきたいです。
朝海:私も、この3人だからまた見知らぬ世界に行けるとって思っています。7年経って、やっと私にも少し余裕が生まれました。それらを強みに、さらに進化した形でみなさんに届けたいです。
◆『ローマの休日』公演情報
2017年7月26日(水)~7月27日(木) 大阪・梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
2017年7月30日(日)~8月6日(日) 東京・世田谷パブリックシアター
(撮影/エンタステージ編集部)