2017年夏に、東京・有楽町センタービル(有楽町マリオン)内にオープンする劇場「オルタナティブシアター」。スタジオアルタが新事業として手掛けるこの劇場では、グローバルな観客を視野に入れた「ノンバーバル」な最先端エンターテイメントを打ち出すという。こけら落とし公演として発表されたのは、“サムライ”をテーマとしたタイムスリップチャンバラパフォーマンスショー『アラタ~ALATA~』。
一体、どんな公演が誕生するのか。同社代表取締役社長の田沼和俊、構成・演出を手掛ける岡村俊一、そしてクリエイティブとして参加するElina、早乙女友貴に集まってもらい、話を聞いた。
――まず、田沼社長にお聞きしますが、オルタナティブシアターはどんなきっかけで誕生したのでしょうか?
田沼社長:いくつか要因はあったんですが、一番大きかったのは「自分たちの専用劇場を持ちたい」ということでした。もともとスタジオアルタとしては、あの場所にTV用のスタジオを持っていた訳なんですが、TVがいろいろと変わっていく中で、自らコントロールできる場が欲しかったんです。今後のことを考えた時に、ちょうど「劇場・ホールの2016年問題」(2016年以降、首都圏の大型集会施設の閉鎖・立替・改修が重なり、今後の開催会場不足が危惧される問題)という事実も聞きまして。
――訪日外国人をターゲット顧客としたのは?
田沼社長:それについては「オリジナルの企画を持つ」ということからスタートしました。オリジナルと一言で言っても、どういうオリジナルかというのが分かれ目でありまして。今後を考えると、少子高齢化で日本のマーケットサイズが変わっていくのは明白です。つまり、外国の方々が増えるわけですから、その時に国境と言葉の壁を越えるものを作れたらという考えから、ノンバーバルというジャンルに辿り着きました。
――今回、こけら落とし公演の演出を岡村さんに依頼された経緯については?
田沼社長:この計画を起ち上げようと思った時に、僕の頭のなかにポンッと出てきたのが岡村さんだったんですよ。もともと自分も演劇が好きでして、若い頃一緒に演劇の企画をやったことがあるんです。そんなちょっとしたきっかけで知り合いまして、その後も岡村さんの手掛けられてきた作品を観てきました。最近で言えば、紀伊國屋ホールでつかこうへいさんの『熱海殺人事件』のサブタイトルを「NEW GENERATION」として上演されていましたが、そうやって新しい世代にバトンを引き継いでいこうとする姿をずっと見てきまして。今回、それがすごくキーになりました。
次の世代に何かを継承していく、そして新しい世代の人たちが自ら何かを生み出していくものにしたいと考えた時、岡村さんが適任と思い、お声がけしましたね。
――岡村さんは田沼社長からそのお話を受けて、クリエイティブするスタッフとしてElinaさんと早乙女さんを選ばれたのは?
岡村:本当の意味で選び抜かれた力の持ち主が出ないと、国際戦では通用しないという理由ですよ。オリンピックでも、国内戦があって、日本代表が決まりますよね。世界へ行くためには日本有数でなければいけない。僕は、Elinaのダンスも、ゆっくん(早乙女)の殺陣も日本有数、下手したら二人とも日本一、二を争う存在だと思ってるのね。最初は演者として声を掛けたんですが、一番優れた奴が一番優れたことをやりゃあいい、そういう論理でクリエイティブをお願いしましたね。
――Elinaさんと早乙女さんは、そのようなお話を受けてどう思われましたか?
Elina:最初にお話をいただいた時は、まさかここまで制作に関わるとは思っていなかったんですけど(笑)。デビューから役者として育てていただいた岡村さんの演出される作品に、役者・水野絵梨奈ではなくElinaというコレオグラファーとして関われることが、すごく嬉しかったです。今までの恩返しではないですが、力になれたらと思いました。
早乙女:僕も、岡村さんと今まで台詞のあるお芝居をやらせてもらってきたのですが、ノンバーバルなものでご一緒するのは初めてなので、どういった感じになるんだろうとワクワクしています。殺陣自体は、自分で作ることはあるので、今回も、すごく尊敬している方と一緒に話し合いながら作っていこうと思っています。
――今回上演される『アラタ』は、どのような作品ですか?
岡村:物語の筋としては、戦国時代からタイムスリップしてきた武将の「アラタ」と現代を生きる女性「こころ」の出会いと旅を通して、「何が正しくて、何を人間の善しとするか」みたいなことを描けたらと話し合ってきたことを、横内(謙介)さんが書いてくれました。稽古場では、そのあらすじに添って「人間はそこでどうなる?どうする?」と会話しながら、皆の体の中にあるものから生み出していくことになると思います。アルタが生まれ変わる、我々も生まれ変わることを考えるのが、一番重要ですね。
Elina:私・・・最初にあらすじを見た時は、これをどう表現すればいいんだろうって、頭が真っ白になりまして・・・。特に「こころ」は、普通の女の子じゃないですか。“普通”を表現するって難しいな~って(笑)。
――確かに・・・!
Elina:でも“普通”の中にもそれぞれ大小ストレスを抱えている。そういう日本って、世界からどう見られてんだろう・・・と、考えました。私は1年間ニューヨークに留学していた時期があったんですけど、例えば電車でも、日本とアメリカでは全然違うんですね。まず、電車の形も違うし、並んで乗ることもないし、満員電車なんてないし。そういう私たちの“普通”を突き詰めると、要素が生まれてきて、その要素をさらにダンスにするにはどうすればいいんだろうということを、作り込んでいこうと思っています。
早乙女:僕もまだプランの段階ですけど、現代と戦国時代、時代によって殺陣を変えようかなと考えています。現代では、ショー的な魅せる殺陣、戦国時代では本気の殺し合いで見せる殺気を含んだ殺陣、といったように。
そういう内から出てくるものを表現できたらと思っているんですけど、まあ、これから稽古していくとどんどん変わっていくと思うので(笑)。
――田沼社長は、構想が少しずつ形になっていくのをどう見ていらっしゃいますか?
田沼社長:岡村さんたちと基本構想からお話はしていますが、我々は芸術家ではないので、クリエイターの皆さんにお任せしてきました。
今のお話を伺っているだけでも「ああ、そんなことを考えているのか」と感じて、きっとおもしろいものができると非常に安心しております。観る側としても、とても楽しみですね。
――新しい劇場、ノンバーバルと未知数の部分もたくさんあると思うのですが。
岡村:ノンバーバルで誤解を生みたくないのは、しゃべっちゃいけないわけじゃないんです。別に、しゃべってもいいの(笑)。言葉が分からなくても分かりますよっていうのがノンバーバルであって、パントマイムをやるわけじゃないんです。「息を飲んでしゃべれない」とか、「驚くあまりにしゃべれない」とか、「この緊張感ではしゃべれない」とか。つまり、しゃべらないこと芸にするのでは決してなく、しゃべらない環境を並べながら、しゃべれないギリギリの状況の中で、何を伝えるか、というような作り方をします。
――早乙女さんは、海外公演のご経験があると思うんですけど、海外での反応はいかがでしたか?
早乙女:僕はハワイ公演を2回やらせていただいたことがあるんですけど、その時に感じたのは、観たものを単純に楽しんでくれるんだなということでした。なんか、分かりやすいです。楽しかったら楽しい、つまらなかったらつまらないって、気を遣ってくれないんで(笑)。でも、逆にそこはありがたいなって思いました。
――Elinaさんは、留学されている際に演劇に触れたりは?
Elina:実は全然触れなかったんです・・・私の人生もいろいろありまして(笑)。留学していた1年は、一回何も考えずに生きてみたいという1年だったんですよね。やりたいことをやろうと、毎日踊りまくって、ぎっくり腰になったりしていました(笑)。でも、どこにいてもダンスや芝居、表現には壁がないものだと想います。
――皆さんが、どんな作品を作り出されるのか非常に楽しみです。最後に、公演を楽しみにしている方へメッセージをお願いします。
岡村:悪役にしても良い役にしても、主役であろうが、その人間の選択が正しいと思えた瞬間にしか、人は感動しないと思うのです。だから、その人間の存在が正しくある方角を定めるために、役者たちの身体を使いながら検証していくような作業が、本番まで続いていきます。私もいい歳ですが、良い仕事になるように、若者たちと切磋琢磨したいと思います。
世の中、これからは「モノ」を消費する時代じゃなくて「コト」を消費する時代になっていくのかな。結局「モノ」は残っていくんだが、人間の心の中に残す方が実は重要だから、心の中に残すことに重点を置いていくことを、がんばりたいですね。
Elina:ノンバーバルというと、ダンサーだけの舞台は結構あるんです。でも、今回は役者さんがいて、殺陣もある。異なる要素が重なることによって、どういう化学変化が起きるのか、私自身もすごく楽しみです。結果は自分次第と思えるぐらい、とても責任ある立場に立たせていただいているので、カンパニーの皆がついていきたいって思えるように、しっかりと良い作品にしていきたいなと思っています。
早乙女:先程岡村さんもおっしゃっていたように、人の心に残るような作品にしたいですね。このメンバーでやれることも光栄ですし、絶対おもしろいものができると思うので、最後まで責任感を持って取り組んでいきたいと思います。
田沼社長:今、岡村さんが言っていた「自分が正しいと思ったことに感動する」という言葉を聞いて、非常に腑に落ちたというか。演劇がそうやって人を感動させるのと同じで、日常の生活でも仕事でも、自分が腑に落ちて「ああそうだな」って思えたことの積み重ねが、良い作品を作っていったり、良い出会いになってくんだろうなと思いました。
新しいことを始める上で、これから先いろいろなことがあると思うんですが、それに対していちいち反応するのではなく、「完成」を目指す「未完成」がずっと続いていく状態にできたら、自分たちも納得するし、新しい出会いも生まれるんだと思います。この皆さんにお集まりいただいて良かったなと、今日お話を聞いて改めて思いました。ぜひ、がんばってもらいたいなと。よろしくお願いします。
◆公演情報
『アラタ~ALATA~』
第1期:7月7日(金)~8月31日(木)※ロングラン公演
東京・オルタナティブシアター
【作】横内謙介
【演出】岡村俊一
【音楽】Mili
【ダンスクリエイター】Elina
【チャンバラスペシャリスト】早乙女友貴
【『アラタ』オーディションファイナリスト】吉田美佳子