1913年、ジョージア州・アトランタ。南北戦争終結から半世紀が過ぎてもなお、南軍戦没者追悼記念日には、老兵たちが誇り高き顔でパレードに参加し、南部のために戦った自らの誇りを歌いあげている。
そんな土地で白人少女の強姦殺人事件が起きる。容疑者として逮捕されたのはニューヨークから来た実直なユダヤ人、レオ・フランク。彼は少女が働いていた鉛筆工場の工場長だ。さまざまな思惑が渦巻く中、無実の罪で逮捕されるレオ。彼を信じる妻・ルシールは、ひとり声を上げ続け、事態を動かしていく――。
1999年のトニー賞で最優秀作詞作曲賞、最優秀脚本賞を受賞したミュージカル『パレード』が日本での初上演を果たす。
本作でキーマンとなるキャラクターを演じるふたり・・・ヒュー・ドーシー検事役の石川禅と、ジム・コンリーを演じる坂元健児に話を聞いた。
ワークショップのように新しいことが立ち上がる稽古場
――『パレード』立ち稽古が始まって約10日とうかがっています。お稽古場の雰囲気はいかがですか?
石川:うわあ、まだそのくらいしか経ってないんだ。
坂元:もっと長くやってる感覚ですよね。僕は森(新太郎)さんの演出作品に参加するのは初めてなんですが、自分より年下の方とは思えない鋭さと繊細さに驚く毎日です。
石川:健ちゃん、いくつだっけ?
坂元:僕は45歳です。森さんが40歳ですね。森さん、なんなら石丸(幹二)さんより年上かな・・・くらいの佇まいですもん(笑)。
石川:年齢じゃないってことだね・・・とは言いつつ、森さんが自分より一回り年下だったということを知って、改めて衝撃を受けてる(笑)。
坂元:森さんは歌稽古の時から皆勤賞でいらしてましたよね。本読みに入ってからは台詞の一言一言に対するこだわりがとにかく凄くて。演出家として明確なビジョンをお持ちなので、自分が役に対して理解しきれていなかったところを本読みの時点でクリアにしていただき、立ち稽古に向かう気持ちが楽になりました。
――石川さんはミュージカルも演劇のひとつ、とお考えの森さんと、以前から同じ方向を向いていらっしゃるように思うのですが。
石川:ミュージカルっていろいろなやり方があると思うんです。ダンスがメインになったり、歌を前に押し出す作品があったり。そんな中、芝居にも重点を置く作品・・・じつは難しいところがあるんですね。だって、芝居をきちんとやろうとするなら、台詞だけで展開するストレートプレイにすればいいわけですし。そんな中、今回はミュージカルでありながら、台詞の“てにをは”や繊細な間合いにまでかなりこだわって言葉を立ち上げていくぶん、台本に書かれた平面的な文字がどんどん立体的に動き出すという実感があります。僕もこういう現場に参加するのは久し振りで、ワークショップに出ているような感覚もありますね。
――製作発表ではカンパニーの皆さんの明るさと仲の良さがしっかり伝わってきました。
坂元:稽古場の雰囲気も明るいですし楽しいですよ。今回はしっかり芝居をする!という思いを抱いた人たちが集まっていることもあり、森さんの想像を超える演技の球が行き交うこともあるんです。そういう時には明るい笑いも起きますし、僕自身も発想したことを自由に提示できるので、とても良い状態で稽古に参加させていただいています。
石川:森さんはとてもストレートな言葉でご自分の意図を伝えるんだけど、それがまったく威圧的でないから、稽古場の空気も良いんだよね。
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――坂元さんの最近の出演作・・・例えば『ロミオ&ジュリエット』や『1789-バスティーユの恋人たち-』では、シリアスな場面もある中、ほっと笑いを生み出すキャラクターを演じていらっしゃいました。今回は役柄的に“笑い”の部分は封印でしょうか。
石川:作品の設定を読むとそう思う人も多いかも。ジム・コンリーは偽証して、レオを追い込む役でもあるし。
坂元:そうなんですよね・・・でも、ちょっとは・・・(笑)。
石川:いやいや、結構あるから・・・笑いのパート(笑)。僕は健ちゃんが演じるジム・コンリーというキャラクターが凄くリアルに描かれていると思う。その意外性や、森さんの演出の“肝”の部分は、実際の舞台をご覧になって「おおー!」と驚いて頂きたいけど。人間って、そうだよなあ・・・って目からウロコが落ちるもの。
初共演は14年前・・・でもその前から・・・
――おふたりの出会いについてもうかがいたいです。
石川:初共演はTSミュージカルファンデーションの『砂の戦士たち』(’03年)だね。
坂元:舞台でご一緒したのはそれが初めてでしたが、僕、その前に禅さんのコンサートを観に行っていて。
石川:そうだ!僕がピアノ1台で歌と語りのコンサートをやった時に健ちゃんが来てくれたんだよね。それで、終演後に楽屋にも寄ってくれて、その時にいろいろ話したのが最初の対面だった。じつは僕も、健ちゃんがやった舞台を観て“凄い人が出て来たなあ”って思っていたから、楽屋に来てくれた時は「うわ、あの坂元健児が来た!」って嬉しくなっちゃって(笑)。その後に違う舞台を観劇した時にも繊細な演技をしていて、それがとても印象的だったよ。
坂元:ありがとうございます。僕は『回転木馬』も『レ・ミゼラブル』も、禅さんの出演作品はいろいろ拝見していました。だから、ご飯に誘って頂いた時は嬉しくて。
石川:ある食事の席で、次回作の話になって、お互い確認してみたら、それが同じ舞台・・・『砂の戦士たち』だったんだよね。
――実際の共演前からご縁があったおふたりなんですね。『パレード』でご一緒の場面はどのくらいありそうですか?
石川:これまでの共演作品の中では一番絡みが多いと思います。今回、ジム・コンリーとヒュー・ドーシーのシーンで、演出的にかなり面白い趣向もあるので、そこも楽しみにしていただければ。
坂元:タイミングと動きが大事なあの場面ですね(笑)。
石川:それと今回は、レオ役とルシール役のおふたり以外は全員群衆や市民も演じるし。そこも見どころのひとつだね。
――『パレード』は実話をもとに作られ、人種問題等も織り込まれたミュージカルですが、こういう作品に出演なさると、普段もその世界観に影響を受けたりするのでしょうか。
坂元:僕は基本的には影響されないですね。ただ、今、宮川浩さんが本役以外に神父さんを演じていらっしゃるんですが、何かの拍子に「神父さん!」って呼ばれると、つい自分が「はい?」って返事をしちゃうことはあります(笑)。
――『ロミオ&ジュリエット』の時の役柄と呼び名に無意識に反応を(笑)・・・。
坂元:そうなんです(笑)。あとは「心配・・・」って単語が耳に入ると、これも無意識に「振りか?」って身構えちゃったり(笑)。禅さんは役や作品が普段に影響するって感覚、あります?
石川:自分ではまったくそのつもりはないんだけど、家族や普段一緒に過ごす時間が長い人たちから見ると、思いっきりその時の役をひきずってるみたい。
坂元:そうなんですね。
石川:うん、さすがに、厳しい役を演じている時、普段の生活でいきなり人を睨みつけたり・・・みたいなことはないけどね(笑)。あと「オンとオフの時で顔つきが全然違う」ってよく言われるかな。オンの時は全体的にきゅっと上がった感じになるんだけど、オフの時はにゅるーんってなるんだって・・・大丈夫かなあ(笑)。
――普段、柔らかい表情の石川さんが、ヒュー・ドーシー役をやられることに、演出上の意図があるようにも思います。レオ役の石丸幹二さんとは5回目の共演になりますが、今回も相容れない関係性ですね。
石川:ねえ、本当に(笑)。『ジキル&ハイド』で親友役だった時以外は、全て敵対関係の役柄ですね。今回は演出上、舞台の上で目を合わせることすらないかもしれません。
――坂元さんは劇団時代、石丸さんとのご共演経験は?
坂元:僕の劇団四季でのデビュー作が『美女と野獣』だったんですが、その時に野獣とベルを演じていらしたのが、石丸さんと堀内敬子ちゃんだったんです。僕の初日に、石丸さんが靴下をプレゼントしてくださったこともありました。
石川:おお・・・なぜ、靴下?
坂元:そこは謎ですが(笑)、優しい方だなって、嬉しかったし感動しました。
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――では最後に、お互いの大好きなところと、できれば直して欲しい・・・なんて思うところを教えていただけますと嬉しいです!
坂元:僕はもう、禅さんのお人柄すべてが大好きです。
石川:健ちゃんは存在自体が“癒し”だと思う。今回も稽古場で笑いを巻き起こしてくれているしね(笑)。直して欲しいところ・・・うーん、なんだろう。
坂元:僕から言ってもいですか?先ほど、オンとオフの差が激しいってお言葉もありましたが、僕から見たら全然そんなことないんです。オンの時もオフの時もいつもとても素敵なので、なにも気にしないでください!
石川:あ、そうなの(笑)?じゃあ、僕も言っちゃうけど、『レ・ミゼラブル』のアンジョルラスに決まった時、これまで演じられてきた方のイメージも強い役だから、いろいろと相談してくれたじゃない?僕はそれを逆手にとって、健ちゃんにしかできない“孫悟空”みたいなアンジョルラスをやればいいと思った・・・その素晴らしい身体能力を最大限に生かしてね。
坂元:勿論、今でも覚えてます。そう言っていただいて、凄く気持ちが楽になりましたから。
石川:『レ・ミゼラブル』の時は複数キャストで組める回数もそんなに多くはなかったけど、今回は本当にがっちり絡む関係だから、いろいろ試してさらに深めていきたいね。
坂元:改めて・・・よろしくお願いします!
さまざまな作品で変幻自在な姿を魅せてきた石川禅と、身体能力のみならず、抜群のコメディセンスで客席を沸かせ続けた坂元健児。そんな二人が今回挑むのは、実話をもとにした濃密なミュージカルだ。
本来ならば交わることのない白人の検事と黒人の工場清掃人。二人はある利害の一致を胸に、ともに闇の世界へと堕ちてゆく。
製作発表後に行った対談インタビューでは、絶妙のバランスでボケとツッコミの役割を交互に担いつつ、作品に話が及ぶと、パズルを前にした少年のように顔を輝かせて語った二人。14年前の初共演以前から縁があったという石川と坂元が、それぞれキーマンとなる役どころで本作『パレード』にどんな深みを与えていくのか・・・その様子を目撃するのが非常に楽しみだ。
◆ミュージカル『パレード』
2017年5月18日(木)~6月4日(日) 東京芸術劇場プレイハウス
2017年6月8日(木)~6月10日(土) 梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ
2017年6月15日(木) 愛知県芸術劇場大ホール
(撮影/高橋将志)