2011年に東京セレソンデラックスとして上演された『わらいのまち』が、6年の時を経て、2017年3月に「タクフェス」春のコメディ祭!として帰ってくる。宅間孝行が描くシチュエーションコメディの原点とも言える本作は、暗転なし、転換なし、ノンストップの3拍子が揃った、とある温泉旅館を舞台に繰り広げる抱腹絶倒のスーパーコメディ。今回のインタビューでは、3兄弟を演じる宅間孝行、永井大、柄本時生が、タイトルさながらの“わらい”を交えながら、出演の経緯から公演への思いまでたっぷり語ってくれた。
――『わらいのまち』は再演になりますが、このタイミングでこの作品を上演しようと思われたきっかけはあったのでしょうか?
宅間:東京セレソンデラックスを1997年に旗揚げして、今年で20年になります。これまで、たくさんのお客さんに支えられてきたなということを改めて感じていまして・・・。今やっている「タクフェス」は年に1回のペースで公演を行っているんですが、感謝の気持ちの形としても、お客さんにもうちょっとお芝居を観せたいなって思っていたんです。
――そこで“春のコメディ祭!”という新たなシリーズが誕生したんですね。
宅間:そうですね。これまでの活動と棲み分けをして、春はコメディをやっていこう!と。この『わらいのまち』は、僕の作るシチュエーションコメディの原点とも言える作品なので、そこから新シリーズを立ち上げたいと思ったんです。秋は、どちらかというと切ない作品をたくさんやってきたのでね。春は笑っていただこうと!
――今回のキャスティングの経緯や決め手については?
宅間:柴田理恵さん、鈴木杏樹さん含め、メインの人たちは「この人たちが一緒にいたらおもしろそうだな」っていうイメージでお願いしました。(永井)大は、以前も僕の作品に出てくれているんですけど、また一緒にやりたかったんですよ。彼は、世間が思っている「永井大」というイメージよりもずっと、ハートもスキルもある俳優なのでね。この役はピッタリなんじゃないかと思ってます。
永井:僕は初舞台が30歳の時で、それが宅間さんの作品だったんです。あれから8年経ちますが、「もう一度宅間さんとやりたい」っていう気持ちがずっとありました。その間の公演も毎回観に行ってましたし、作品の初演も観に行きましたね。だから、今回オファーを戴いて本当に嬉しかったです。僕にとって、舞台でコメディを演じるのは初めてなので、不安もありますがそれ以上に期待が大きいです。宅間さんがどういう稽古をつけてくれて、どんなカンパニーが出来上がっていくのか。今からとても楽しみです!
――深い絆を感じますね。宅間さんと柄本さんはこれまでにご一緒されたことは?
宅間:実は、(柄本)時生くんは、作品のビジュアル撮影の時に初めて会ったんですよ(笑)。この3兄弟の三男役はすごく特徴のある役だから、キャスティングに悩んでいたんです。おもしろ味のある人にやってほしいと思っていて、プロデューサーにも相談したり。そんな時に「時生くんはどうか」って話が出まして。ぜひ!とオファーさせてもらいました。引き受けてくれてよかったです!お父様の柄本明さんとは、お会いしたことがあったので、その時の僕の印象が良かったのかな(笑)。
一同:(大爆笑)!!
――柄本さんはオファーを受けていかがでしたか?
柄本:僕、コメディ作品をやるのがほとんど初めてなんですよ・・・。
宅間:あのお父さんとあのお母さんの息子で、コメディやってないっていうのもびっくりだね!
柄本:そうなんですよ、何て言うか・・・あれは、コメディはコメディでも、スタンディングコメディの世界と言うか・・・また違うじゃないですか。
宅間:あはははは!そうだね。お兄ちゃん(柄本佑)と『ゴドーを待ちながら』とかやってたよね?
柄本:でも、あれもブラックコメディみたいな感じじゃないですか。だから、本当にこういう本格的なコメディは初めてなんですよ。だから、どういう風になっていくのかすごく楽しみです。
宅間:2011年の初演は観てくれたんだっけ?
柄本:・・・観、ていません・・・。
宅間:あ、じゃあ、他の作品を観てくれてたんだね!
柄本:・・・観、ていません・・・。
永井:ほら、宅間さんの舞台はDVDにもたくさんなってるから!時生くん、DVDは観たんだよね!
柄本:観・・・、てないです・・・!すみません・・・!!
宅間:もう、稽古入った瞬間に滅多打ちだよ!「初対面で僕の作品を一つも観てなかったヤツ」って一生言い続けるよ(笑)!
柄本:ちょっと言い訳させてください~!僕、23、24歳くらいまで演劇の種類とか、全然知らなかったんです・・・。誰もが知っているような、有名な劇団の名前すら知らなくて。
宅間:へえ~!じゃあ、時生くんにとって劇団といえば、東京乾電池(柄本の父、柄本明が座長を務める劇団)だったんだ。
柄本:そうなんです。あと、もう一つだけ知っていたのは、家族行事として観に行っていた唐組。本当に、演劇と言えばその二つしか知らなかったんですよ!一方は何やってるか分からない、一方は水が出る、・・・その二択しかなかったんです。だから今、少しずついろんな演劇を知っていっているところなので、すごい楽しい時期なんですよ。
宅間:生まれたての子どもかい(笑)!全部が初めてなんだね。
――両極端なお二人がいるカンパニーになりますが、宅間さんの作品の稽古については、独自の流れやプランってあるのでしょうか?
宅間:僕の稽古は厳しいとよく言われるんですけど・・・、(芝居が)ぬるかったら、はっきり言います。今、ちゃんと言う人(演出家)が減ってると思っていて。単純な話で言うと、お客さんはお金と時間を使って観に来てくれますよね。それなりのお金を払って、スケジュールを割いて来てくれることに、自分たちはどこまで誠意を持ってできるか、という思いを持っています。厳しいって言われるのは、芝居が細かいということでもあるんだろうけど、そういう精神的な意味合いが強いですね。
――永井さんは宅間さんのカンパニーでの稽古を経験済みですが、初めて参加された時のことで記憶に残っていることはありますか?
永井:1ヶ月みっちり稽古をするんですけど、自分の出番がなくても、必ず全員集合していましたね。それってチームとしてとても大きいことで、すごく密な時間なんですよ。空いた時間に相手役になる人と読み合わせができたり、共演している人がどんな風に芝居を作っていくのかが見られたり、細かい部分について役者間でディスカッションしたりもできる。「今日、宅間さん機嫌悪いっぽいから、しっかりやろうぜ」とか(笑)。例えばの話だけど、そういうのが出てきてもいいんです。緊張感と終わった後のデトックス感。いい意味で体育会系だし、他にはあまりない稽古場です。
宅間:稽古場に炊飯器持って行って皆でご飯食べたり、稽古後に飲んだりもするけど、そういうのって結構大きいよね。知ってる?映画の『ゴットファーザー』も、撮影前に合宿やってたんだよ。
永井・柄本:へぇ~!
宅間:兄弟、親子、恋人とか、演じる間柄上、遠慮を取っ払わなきゃいけないことも多いじゃないですか。人間がやっていることだから、正直、初日と千秋楽でも全然違うと思うし。だからこそ、一緒にいる時間って大きい。なるべく早く仲良くなっておいて、悪いことはないと思うんですよね。
柄本:結構ぬるま湯で育ってきたので、ドキドキしています・・・(笑)。精神的なことも、今まであまり言われたことがないので、覚悟して稽古に臨ませていただきます。今日、こうやってお話していても、演出において詳しく具体的なことを言っていただけそうなイメージができたので、ますます楽しみです。
――3兄弟としては、それぞれの役へのアプローチについてはどうお考えでしょうか?
宅間:演出面では、3人を完璧に色分けしたいと思っています。兄弟なので根っこは同じなんですけど、皆のキャラクターをしっかり立たせていきたいですね。熱く真っ直ぐ突き進む次男に対して、ウジウジしてる三男、みたいな・・・。真逆な感じにしたいですね。
永井:初演とはキャストも変わっていますし、宅間さんの中で新たに生まれるものもあるでしょうし、それを受けて自分がどう役に肉付けしていけるのか。それが、楽しみな作業の一つですね。
柄本:あの、僕、一個やりたいことがあって・・・。
宅間:何?言ってみ?
柄本:洗った手を前掛けで拭きつつ、暖簾をくぐって出てくる・・・みたいなの。ああいう、板前さんっぽい仕草ってかっこいいなと思っていて。あれをやりながら台詞言いたいです!この板前の衣装着た時からずっとそのことばっかり考えてて・・・。
宅間・永井:あはははは(爆笑)!
宅間:じゃあ、そのシーン作らなきゃね(笑)。
――—本番で登場するか楽しみにしています(笑)。最後に宅間さんに、公演に向けての意気込みで締めていただきたいと思います!
宅間:「春のコメディ祭!」というコンセプト通り、お祭り騒ぎを楽しみに来てください! いつも通りの客席との触れ合いに加え、コメディらしい新たな試みも出来ないかなとも思っていますので、「参加する」気持ちを持って来てもらえると嬉しいです。皆さんの心を掴むのはテクニック云々じゃなくて、想いの強さで決まっていくものだと思っています。でも、想いの強さがあればいい、だけじゃない。その強さを持って、どこまで超越したところに行けるか。その考えをキャスト・スタッフ皆で共有して、しっかり円陣が組めること。そこを目指していきたいと思っています!
◆公演情報
『わらいのまち』
【作・演出】宅間孝行
【出演】宅間孝行、永井大、柄本時生、辻本祐樹、尾関伸嗣、佐藤祐基、松本若菜、橋本真実、岡本玲、土平ドンペイ、冨永竜、ブル、えまおゆう、柴田理恵、鈴木杏樹
【東京公演】3月30日(木)~4月12日(水) 東京グローブ座
【名古屋公演】4月14日(金)~4月16日(日) 中日劇場
【兵庫公演】4月18日(火)~4月23日(日) 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
◆宅間孝行(たくまたかゆき)
1970年7月17日生まれ。タクフェス主宰。俳優・脚本家・演出家。1997年に劇団「東京セレソン」を旗揚げ。2001年「東京セレソンデラックス」への改名を機に、主宰・作・演出・主演として活動。2012年に劇団を解散し、翌2013年「タクフェス」を立ち上げる。映像化する作品が多く、ドラマ「歌姫」、「間違われちゃった男」、映画「くちづけ」は舞台が映像化された。また、演劇活動の傍ら、俳優活動としても映画やドラマ、舞台など多方面で活躍。主な出演作品には、自身の脚本で監督・主演も務めた映画『同窓会』をはじめ、朝ドラ『つばさ』『新選組血風録』『予告犯』『団地』など。
◆永井大(ながいまさる)
1978年5月20日生まれ。テレビドラマ『特命係長 只野仁』『鬼嫁日記』『サラリーマン金太郎』『軍師官兵衛』などのヒューマンドラマから時代物まで様々な作品に多数出演。2008年には、東京セレソンデラックスの『夕』にて初舞台を踏む。その他の舞台出演は、東京マハロ第14回公演『たぶん世界を救えない』、『地球の王様』『放浪記』など。
◆柄本時生(えもとときお)
1989年10月17日生まれ。2003年、映画Jam Films S『すべり台』のオーディションに合格し、デビュー。2008年に『俺たちに明日はないッス』で第2回松本CINEMAセレクト・アワード最優秀俳優賞を受賞。その後、ドラマや映画、舞台で幅広く活躍。近年の出演作は『聖の青春』『超高速!参勤交代リターンズ』、TVドラマ『初恋芸人』『侠飯』『増山超能力師事務所』、舞台『レミング』『イニシュマン島のビリー』音楽劇『ダニー・ボーイズ~いつも笑顔で歌を~』など。
※辻本祐樹の「辻」は一点しんにょうが正式表記