‘16年に第70回を迎えた世界最高峰の演劇賞・トニー賞。NYでの授賞式の模様を毎年生中継しているWOWOWが開局25周年記念イベントとして『トニー賞 コンサート in TOKYO』を開催する(3月18日<土> 東京国際フォーラム ホールA)。
日本初となる“トニー賞公認”のミュージカルコンサートで、ブロードウェイのスター、ケリー・オハラ、マシュー・モリソン、そして“日本ミュージカル界のプリンス”井上芳雄とともに舞台に立つ濱田めぐみに話を聞いた。
3人のビッグスターとの共演が楽しみ!
――まずはスペシャルゲストとしてのご出演意気込みからお願いします!
演劇やミュージカルの現場にいる者にとって「トニー賞」というのは特別な響きを持つイベントです。その冠がついたコンサートの舞台に立たせていただくのは光栄なことですし、井上芳雄くんとも力を合わせて、日本のミュージカル界をもっと広くご紹介できればと思っています。
――ブロードウェイからは、ケリー・オハラさんとマシュー・モリソンさんがいらっしゃいます。
凄いことですよね!以前、NHKで放送された『王様と私』のドキュメンタリー番組を拝見した際、渡辺謙さんと共演していらしたケリーさんの佇まいがとても素敵だと思いました。吸収できることがあれば、いろいろ勉強させていただきたいです。
マシューさんは、以前ニューヨークで『ヘアスプレー』に出演なさっていましたよね。大好きな作品にメインキャストとして出演していた彼の魅力を間近で感じられるなんて!おふたりと日本で共演させて頂けることは、楽しみでしかないです。
――井上芳雄さんとは『二都物語』やコンサートでこれまでも何度かご共演なさっていますよね。
芳雄くんは、お稽古初日はフラットな感じなのですが、そこからどんどん状態を上げてきて、本番の舞台に乗る時には、毎回必ず“スペシャル”な状態まで持っていく、稀有なプレイヤーだと思います。わたしにとっては、とにかく頼りがいのある共演者ですね。一番最近ご一緒した『井上芳雄 シングス ディズニー ~ドリーム・ゴーズ・オン!~』でも、彼が隣で一緒に歌ってくれていると思うと、心強さがとてつもなかったです(笑)。人を惹きつける吸引力も凄いですし、今回、また一緒に歌わせていただくということで「1+1=2」ではなく、さらに倍の力で、いろいろなことが掛け合わさった世界をお届けできればと思っています。
――ケリーさん、マシューさん、そして井上さん、濱田さんと、本当にゴージャスなメンバーですが、濱田さんが特に今回のコンサートで歌いたいと思われるナンバーがありましたらぜひ!
ちょっと意外かもしれませんが、個人的には「元祖・トニー賞」的な作品から、ナンバーをピックアップするのも面白いかな、と考えています。例えば『南太平洋』とか。あ、でも、これは自分が歌いたいというよりは、マシューさんやケリーさんが歌われるのを近くで聞きたいという感覚の方が強いかもしれません。映画でいえば、白黒時代に撮影されて、あまり日本で馴染みがない作品からチョイスした楽曲を歌うのもアリなのかな・・・と。
――井上芳雄さんに本コンサートの件でお話をうかがった際、日本のオリジナルミュージカルのナンバーもあれば・・・ということで『李香蘭』を挙げていらっしゃいました。
え、本当に?それは面白いですね。でしたら是非、芳雄くんに『李香蘭』から川島芳子のナンバーを歌ってもらいたいです・・・そしてわたしは隣で聞いていたい(笑)。
『サンセット大通り』のノーマは忘れられない役
――個人調べになってしまうのですが(笑)、日本で濱田さんほどトニー賞関連のミュージカルに出演なさった女優さんっていないと思うんです。『キャッツ』『ライオンキング』『ウィキッド』『アイーダ』『コーラスライン』『クレイジー・フォー・ユー』『マンマ・ミーア!』『サンセット大通り』『メンフィス』etc・・・。それらの作品の中で、特にご自身の中に深く刻まれているものがありましたら教えてください。
自分ではあまり意識したことなかったです(笑)。今、挙げていただいた作品の中であえて言うなら『サンセット大通り』でしょうか。
――『サンセット大通り』・・・忘れられた大女優、ノーマ・デズモンド役でした。
公演前も、公演中も、公演が終わってからも、いつもどこかに彼女(=ノーマ)がいるような感覚でした。ブロードウェイやウエストエンドでは、錚々たる女優さんたちが演じていることもあり、その点でも大きなプレッシャーでしたね・・・中途半端な気持ちでは絶対に出来ない、というような。ミュージカル界の巨匠、アンドリュー・ロイド=ウェバーさんがお書きになって、ミュージカル好きなら誰でも知っている作品に、ある意味日本の代表として出させていただいたわけですから。
――『サンセット大通り』もそうですし、濱田さんが出演なさったミュージカルの多くは海外発の作品です。海外で創られたものを日本で演じられる時に、特に心掛けているポイントってなんでしょう。
例えば、原語・・・おもに英語で書かれた台本を日本語に訳す際、そのままストレートに訳してしまうと、日本のお客さまに意味が伝わりづらくなることもあるんです。『ウィキッド』でいえば、原語版には動物関係の格言も山盛りだったのですが、そこは元の台本に書かれた意味が伝わるよう、日本版ならではの表現に変えられています。歌詞に関しても、英語から日本語に訳した場合、3割くらいしか言葉を音に乗せられないので、情報量がとても少なくなってしまうんですね。
ですから、演じ手も、オリジナル版の台本に書かれた台詞や元の歌詞の深い意味をしっかり理解し、その上で演じることが大切になるんです。劇団四季時代は、わたしも稽古場で夜遅くまでその作業に参加することもありました。そのくらい、海外の作品を日本で上演するのは、大変なことなんですよ。
――プレイヤーサイドの勉強に加え、翻訳する側のセンスや戯曲の理解度も大事になってきますね。
それは本当にそうですね。そして、日本初演ミュージカルの場合、作品に詳しいお客さまばかりではないので、演じる側もより正しく台本に書かれた世界をお伝えしようと心を配ります。ただ、なかなか気合いの入る場面もありまして(笑)・・・あるミュージカルに出演していた時、団体のお客さまがパーティー終了後にご来場という、役者としてはちょっとハードなシチュエーションに遭遇したんです。その時は、自分たちの力で絶対にこの作品の世界にすべてのお客さまを引きこむんだ!って、出演者一同、普段にも増して燃えました(笑)。
――そういう客席の空気みたいなものって、舞台上でも分かるものなのですか。
わたしは分かりますね。特に「あ、今日は初見のお客様が多いな」って感じた時は、台詞の言葉をより丁寧にお伝えするよう意識します。舞台は生き物なので、幕が開いた瞬間にその日の劇場の空気が舞台上にも伝わるんですよ。
ミュージカル映画の吹き替えにも挑戦
――今のお話で、観客も作品の一部ということを改めて噛み締めています。ミュージカル実写版『美女と野獣』の吹き替えキャストも発表になりましたが、ベル役でデビューなさって、今回の映画ではマダム・ド・ガルドローブ(タンス夫人)の声を担当なさいます。
劇団四季の『美女と野獣』ではベル役をやらせていただき、ベルとしてタンス夫人を見ていたので、それが逆転したらどうなるんだろう・・・きっとまったく違う世界が見えるんだろうな、という感覚はすでにあります。タンス夫人から見たら、ベルは“侵入者”なわけですし。個人的にはずっと憧れていて、まるで“神様”のような存在の島田歌穂さんとご一緒出来るのも幸せですし、会見で吹替えを担当するキャストが集まった時には宴会みたいな賑やかさで、それがまたうれしかったです(笑)。マダム・ド・ガルドローブは元オペラ歌手という設定ですので、発声もそちら寄りになりそうです・・・頑張ります!
――本コンサートが終わり、初夏の声を聞くころ、またトニー賞の季節がやってきます。最近、ブロードウェイで上演された作品の中で気になっているものはありますか?
向こうにお友達はたくさんいるのですが、わたし自身、忙しくってなかなかブロードウェイに足を運ぶ機会が作れないんです。でも、あちらに行くチャンスがあれば、とりあえず気になる作品は手当たり次第に観てやろう!とは思いますね(笑)。オフ・ブロードウェイ作品にも触れたいですし。
――昨年のトニー賞・ミュージカル作品賞にノミネートされた『ウェイトレス』を濱田さんで観たいと思いました!
わあ!それは早速チェックしないと!
特に女性で、これほどトニー賞関連ミュージカルに出演してきたプレイヤーは他にいないだろう。緑の体で生まれ、不思議な力を宿す少女からプライド高きライオン、砂漠の町で劇場に命を吹き込む強気な女の子、20歳の娘を送り出す元ロックシンガーの母親、そして、人々から忘れ去られた大女優・・・と、演じた役柄もさまざまだ。
そんな濱田めぐみが、井上芳雄とともに、日本ミュージカル界の“代表”として、ブロードウェイの大スターふたりと肩を並べる。
3月18日・・・どんな奇跡が起きるのか・・・その瞬間を楽しみに待ちたいと思う。
◆WOWOW開局25周年『生中継!トニー賞 コンサート in TOKYO』
2017年3月18日(土)夜6:00 WOWOWプライム
会場:東京国際フォーラム ホールA
(撮影/高橋将志)