2004年に上演され、大きな話題を呼んだ『はたらくおとこ』が12年振りに帰ってくる!北の潰れた工場の片隅でかわり映えのない日常を過ごすどうしようもない男たち。そこに消えたはずの工員が、ある仕事を持って戻ってきた。果たして彼らはこの最低の生活から抜け出して、それぞれの思いを叶えることができるのか―。
作・演出・出演の長塚圭史と、12年振りに長塚作品に出演する池田成志に話を聞いた。
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12年振りの再演に集まったおとこたち
――『はたらくおとこ』12年振りに再演!のニュースを聞いた時にはうれしくて泣きました。なぜ今回、この企画が実現したのか教えていただけますか。
長塚:以前から「阿佐ヶ谷スパイダース」の作品を再演して欲しい、という声はたくさんいただいていて、その中でも特に要望が大きいのが『はたらくおとこ』だったんです。僕自身も、2004年に書いた作品が、2016年の今、どう観客に受け容れられるのか、ある種の興味もありました。それで、当時の出演者に声を掛けたら、メインキャストの男性8人が全員集まってくれて、本格的に始動したという感じですね。
――池田さんは再演のお話を聞いた時にどう思われましたか?
池田:最初に「やるよ」と聞いた時は「あー、そうなんだ」くらいの感じだったんですけど(笑)、その内に「池田さん以外の方からは全員OKをいただいています」って話になって、そこまで言われたら断れないなあ・・・・・・断ったら感じ悪いよなあ、って思って出演することにしたんです(笑)。で、しばらくして、イケテツ(池田鉄洋)に聞いたら「あれ?僕も同じこと言われましたよ」って。製作サイドの大きな謀略に乗せられましたよ(笑)。
でも、12年間、誰も消えずに演劇界で頑張って来て、全員が揃う再演なんてほぼないじゃないですか。そう考えたら面白いよなって、最近思い始めました(笑)。
長塚:お客さん的にはどうなんだろうね?
――個人的には阿佐ヶ谷スパイダースの作品の中でも『はたらくおとこ』が一番好きで、初演の時は初日で打ち震え、千秋楽は誕生日だったんですけど、当日券に並びました。
池田:でも、多分、ああいう感じが嫌いな人も多いんだよね。
長塚:まあ、そうだね。
池田:あの頃ってさ、長塚的にちょっとブラックというか、エグさみたいなのを押し出してるところもあったじゃない?
長塚:少し前からマーティン・マクドナーとかやってたしね。で、お客さんが怒って途中で帰っちゃう、みたいなことも始まってた時代で。観に来てくれる人たちの中には、演劇が好きっていうより、何かきわどいことが舞台上で起きてるらしい・・・・・・みたいなテンションで劇場に来る人も一定数いたね。
池田:『はたらくおとこ』も観に来た友だちが「なんか・・・・・・酷い」って言って帰って、そのまま会わなくなっちゃったりしたもん(笑)。やってる方は楽しかったんだけど、まあ、いろんな見方があるよね。2時間ずっと事件が起きて、それに対して常にリアクションを続けていかなきゃいけないワケだから、役者としては疲れる作品でもあるんだよね(笑)。引き出しの多さも問われるし。
時を経て変わったこと、変わらないこと
――長塚さんは12年振りに同じキャストに向けて演出をなさってみていかがでしょう。
長塚:再演ということもあって、基本的にはみんな、次に何が起きるか、どうしたらいいのかが全部わかって稽古場にいるわけですよ。だから変に先取りしたり、頭で考えるテンションに自分を持ち上げようとするのが見てとれると「いやいや、そんなに慌てると酷い目に遭うから」って、そこはコントロールするようにはしてますね。
池田:まあ、みんな慌てる前に疲れちゃうんだけどね(笑)。一番大事なところをちゃんと言えてなかったり。
長塚:それはありますね。本当に、ピークがずっと続くような芝居だから、演じる人にとって、何が大切でどこにフォーカスをあてているかを自覚していかないとキツくなっちゃうんです。当時は台詞も勢いだけで行けちゃうところがあったんですが、今は言葉の輪郭をしっかり見据えたところでスピードを上げていく方向に持っていくよう気を付けてます。その方が絶対に面白くなるはずだし。まあ、まだ全てを決める段階ではないので、ある程度、ざっくりした形で稽古を進めている感じです。それに関して誰も文句も言わないですし。
池田:いや、みんな文句ばっかりだけどね(笑)。長塚の稽古は長いんだもん。「もう1回」が多いんだよ!俺なんてさ、夕方6時を過ぎると気が滅入って来るもん。稽古場は乱雑だしさ・・・・・・もっと綺麗にしようよ。
長塚:いやそれは舞台の設定上仕方ないじゃないですか(笑)。
池田:まあ、そうなんだけどさ(笑)。
――今回、台本の改定はどの程度あるのでしょうか。そして“あの歌”はまた聞けますか?
長塚:台本に関しては少し手を入れています。少し助長と感じるネタを切ったり、全体的にブラッシュアップはしていますね。ただ、作品の中にある大事なものは何ひとつ変わっていない筈ですので、歌に関しても・・・・・・ね。
――池田さんが演じる夏目は、本当なら真っ当なことを言っているはずなのに、登場人物の中では、なぜか空気が読めてないヒト的な立ち位置にもなりますよね。
池田:確かに初演の時は、自分自身そう思って演じていたところもあります。だけど今回、改めて台本を読んだり稽古に参加したりして、実は夏目は、そんなに真っ当な人じゃないよな、と思いつつ、探っているところなんです。人間的にはそんなに上等な人ではないというか。お芝居になると、どうしても演じる側は自分の役をカッコ良く見せようとするじゃないですか。でも、夏目に関しては、それじゃいけないと思うんです。
確かに夏目は、ある思いを持ってあの場にいるんですが、その気持ちを常に十字架のように背負うのではなく、あの中で馬鹿なこともやりながら、その瞬間瞬間起こることに反応して生きている・・・・・・今の時点ではそんな感じでとらえています。
長塚:12年前は、みんなどこか直情的だったよね。
池田:芝居の中でも基本怒鳴り合ってたし(笑)。
出会った頃に過ごした“最悪”な一夜
――おふたりの出会いについても伺いたいです。
長塚:2002年『ダブリンの鐘つきカビ人間』の時だよね。あの時は出演者同士で。
池田:俺、すごく良く覚えてるんだけど、他の芝居に出てて、稽古に参加するのが遅れたんだよ。で、代役をやってくれてた人がいろいろ教えてくれるんだけど、全然聞いてなくて、好きなようにやってたら、20代だった圭史が「面白いですね」ってにこにこしながら近づいてきたの。
長塚:稽古前にも会ってるんだよ。恵比寿だったと思うんだけど、製作発表があったじゃない。その控室で、成志さんと、山内(圭哉)くんと、後藤(ひろひと)さんっていう、悪魔みたいな人たち3人がプロレスの話をしてたの。そこから発信される“悪”の信号がすごくて(笑)、どうしようかと思ったんだけど、山内くんが仲良くしてくれて「ああ、この人たち、そんなに悪魔じゃないのかもしれない」って(笑)。
池田:北九州公演で、ピーナッツの殻を床に捨てるBARにも行ったよね。
長塚:ああ、もう最悪だったやつね(笑)。
池田:ちょうどあの時、圭史の誕生日だったんだよね。
――それがどう“最悪”になっていくのか気になります!
長塚:以前、阿佐ヶ谷スパイダースの舞台に出てくれた女優さんが北九州の人で、僕たちが飲んでるBARに顔を出してくれたんですよ。そしたら、彼女の可愛さに、その場にいた俳優たちが勝手に盛り上がっちゃって(笑)。
池田:店に火がついたろうそくが飾られてたんだけど、酔っぱらった人たちが、そのろうそくを人に垂らしてふざけ始めて、もうめちゃめちゃな盛り上がり(笑)。
長塚:僕なんてその時にジャンパーを脱ぐように言われて、背中にろうそく垂らされたからね!
池田:いやごめん、全然覚えてないわ(笑)。
長塚:で、はちゃめちゃな盛り上がりの後、帰ろうとしたら、なぜか僕の服と成志さんの服だけろうそくまみれになってたんだよ(笑)。
――そんな一夜があっての『はたらくおとこ』キャスティングだったんですね(笑)。
長塚:そう、その時から交流があって、あの芝居で共演した山内くんや成志さんには、その後、作品に出演して貰うようになったんです。そういう意味では『ダブリン~』は、これまで知らなかった世界の人たちと出会えた舞台でもありますね。
池田:僕の友だちが観に来て、圭史とも仲良くなってそこからまた広がっていったりね。
長塚:確かに、あの時からばーっと広がった感はありますね。あの頃はまだいろんなことが良い意味でぐちゃぐちゃでね。何でもできる、どこにも行けるって感じはあったな。
池田:まあ、そんな楽しいご縁もありつつ、僕は『はたらくおとこ』初演でしか、長塚作品には出ていないんですけどね(笑)。
――池田さん、今、悪いお顔になってます(笑)!
長塚:(笑)。いやもうね、今回12年振りに一緒に稽古をしてみて、なんでこんなに長い間、誘わなかったんだろうって改めて思ってますよ。こんなに面白い人なのに!
池田:もういいよ(笑)。
――そして近年、長塚さんは「阿佐ヶ谷スパイダース」時代とは違う作風のものも多く演出なさっています。
池田:そういう、ある意味アカデミックだったり文学的だったりする作品を観てきたお客さんが、今回はどんな反応をしてくれるのか楽しみだよね。
長塚:それはね・・・・・・楽しみです!例えば『浮標』みたいな作品をやってきて、お客さんと一緒に成長している手応えもあって、そういう人たちが『はたらくおとこ』を観た時に、一体どう思うんだろう、って。
池田:これから通し稽古の段階に入ったら、また変わっていくかもしれないしね。
長塚:自分でも今の稽古場に入ると久しぶり感がすごいんですよ。こんなに小道具使うのいつ振りだろう、とか。『浮標』はがっちりテーブル稽古をして、言葉ひとつひとつの意味を吟味しながら進めていくやり方だったし。
池田:圭史の稽古は長いんだよ!「あと1回」が多すぎ。だから、夕方6時を過ぎると気持ちが荒んでいくんだって(笑)。
長塚:あ、それ、よく言われます(笑)。
2004年『はたらくおとこ』本多劇場での初日。池田成志、中村まこと、松村武、中山祐一朗、池田鉄洋、長塚圭史、伊達暁、富岡晃一郎といった小劇場手練れの面々が、劇団の枠を越え、剛速球を投げ合いながら、とてつもないことをやっている・・・・・・そんな衝撃が体中を駆け抜けた。大笑いしているのに、背に迫る恐怖と、目に見えない不安を手渡され、何とも言えないゾクゾクした気持ちで劇場を後にしたのを覚えている。
あれから12年、あのおとこたちがまた劇場に帰ってくるという。訪れた稽古場では、寂れた工場・作業場のセットが組まれ、そこには北の言葉を操る彼らの姿があった。
あの頃とは私たちを取り巻く環境も、演劇界の模様も確実に変わった。そんな状況の中、12年振りに帰ってくるおとこたちがどんな世界を見せてくれるのか・・・・・・開幕が楽しみでならない。
◆阿佐ヶ谷スパイダースPresents 『はたらくおとこ』
11月3日(木・祝)~11月20日(日) 東京・本多劇場
11月23日(水・祝)18:00 福岡・キャナルシティ劇場
11月25日(金)19:00 広島・JMSアステールプラザ 中ホール
12月2日(金)19:00・12月3日(土)13:00/18:00 大阪・松下IMPホール
12月8日(木)19:00 愛知・名古屋市青少年文化センター アートピアホール
12月14日(水)19:00 岩手・盛岡劇場 メインホール
12月16日(金)19:00 宮城・電力ホール