ライブシネマ『怪獣の教え THE TEACHINGS OF KAIJU』が、2016年9月21日(水)から東京・Zeppブルーシアター六本木にて再演される。演劇×映像×音楽が融合した全く新しいエンターテイメント大作として、様々なジャンルのアーティストから多くの賛辞を受けた本作。今回の再演でどのような進化を遂げるのか――。
唯一の女性キャストであり“怪獣の教え”の秘密を知る謎の女・クッキーを演じる太田莉菜に、初演時の感想や再演にかける想いを聞いた。
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――『怪獣の教え』再演おめでとうございます。去年の11月に行われた初演から10ヶ月経ち、現在どのような心境か教えてください。
上演中からとても評判が良く、「もしかしたら再演するかも」という話は初演時からあがっていたんです。なので、気持ちはずっと途切れずにいました。そういう意味ではクッキーという役と過ごしてきた時間が前回より長くなったので、初演時よりも役への造形が整理できている気がします。
――クッキーという役を成熟させる期間になっていたんですね。本作の初演時が舞台初出演だったそうですが、振り返ってみてどのような感想をお持ちですか?
まず、それまで自分の経験上になかった「緊張」をしたと思っています。クッキーは舞台中盤から登場する役なのですが、窪塚(洋介)さんと渋川(清彦)さんが作った芝居の空気感の中に急に入っていくというのは、張り詰めた風船に針で穴を開けて「パンッ」と破裂させる感じがあり、舞台袖で待っている間、プレッシャーでどうしていいか分からなくなっていたりしていました。
――落ち着くためにしていたことなどはありますか?
やはり余計なことを考えないということですかね。昨日のダメだった自分だったり、今日はどう演じよう・・・とか、考えれば考えるほど緊張してしまって、宙ぶらりんな気持ちになってしまうので、癒しの存在であったGOMAさんとお話をしたりして、気持ちを切り替えるようにしていました。
――映画やモデルの仕事とは違った、舞台ならではの感触はありましたか?
舞台とお客さんが一緒になって一つの人格を作っていくような感じがとても面白かったです。モデルとか映画の仕事は出来上がったものに対してすぐに反応があるわけではないので、ある意味、撮影中は自由になれる感じがあるんです。ただ、舞台はお客さんの反応がほぼリアルタイムに帰ってくるし、起きたことに対して取り返しがつかない。だからこそ日々の稽古が大切で、自分の持っている感覚をブレないで持ち続けることの重要性を知りました。
――共演者である窪塚さんが、インタビュー動画の中で「太田さんがステージ毎にクッキーになっていっているのが伝わった」という旨の発言をされていたのですが、そういった実感は太田さんにもありましたか?
日ごとに「ここは自分がいる場所なんだ」という感覚を持てたような気がします。そして、最終日になってようやく、クッキーに出会えたねという感じがしました(笑)。正直に言うと、本番を迎えるまで役に対してしっくりきている状態が作れず、ステージに立つのが不安だったんです。でも、本番を繰り返しながらその不安が徐々になくなっていくのが分かりました。
――今回は役に向き合う時間の余裕もあり、初演時に比べてリラックスして臨めるのではないですか?
そこに私の目指すところがあります。些細なことに左右されやすい性格なので、ブレない精神状態を作り込んでいくのを心がけようと思っています。そして作品に身を委ねるような余裕を持てたらと思います。前回で見えた課題をクリアするという意味でも、今回、このタイミングで再演ができるのはとても嬉しいです。
クッキーの「残酷さ」と「女性らしさ」
――それでは改めて、クッキーがどんな人物なのか教えて下さい。
クッキーはアイランドホッパーという役柄もあって、とても自由奔放ですね。人って、社会的な仮面を被って生きているものだと思うのですが、クッキーはその仮面を脱いだ人という印象があります。だから、クッキーという役の人間性は人として生々しく、現実を突きつけてしまう残酷なピュアさを持っています。それが、言葉を変えれば自由奔放ということになるんだと思います。
男性からすると、生々しい現実を突きつけるピュアさというのは「女性らしさ」に繋がるのかもしれません。だからこそクッキーは、窪塚さん演じる天作や渋川さん演じる大観という人のそばにいるだけで、母性があるように見えるのかもしれませんね。
――「母性」というのはクッキーを語る上でキーワードになりそうですね。
そうですね。女性としてピュアに立っているだけで母性が生まれてしまうからこそ、二人を大きく捉えていく感覚を大切にしようと思っています。
――ちなみに稽古場では窪塚さんや渋川さんと、どのようなコミュニケーションをされていたんですか?
クッキーは、二人の関係に比べて少し離れたところにいる人物なので、稽古場でも無意識にクッキーらしい距離感を保っていた気がします。なので、二人が集中して稽古をされていたり、お話しているところに私がそっと寄って行って、じっと見聞きしていることが多かったですね。ただ、私が唯一の女性キャストというのもあったのでちょっと疎外感を感じたりもしていました。二人の繋がっている感覚はとても羨ましかったです(笑)。
――豊田利晃監督から受けた演出については、どのような印象が残っていますか?
私が大きな芝居をした時に「もっと自分らしく」と演出されたのが印象に残っています。ただ、自分の考えていることを直に身体に繋げるということがすごく難しくて・・・・・・。自分らしく役を捉えることができても、身体がそれについていけない歯がゆさがありました。自分らしくクッキーを演じるということができるようになったのは本番が始まってからだと思います。
出会うべくして出会った作品
――役の上で疎外感を感じられたと仰っていましたが、本作の見どころでもある音楽や映像は太田さんにとってどのような存在だったのでしょうか?
とても支えになる存在でした。自分が出演している時は見ることができないので、映像に対する意識はあまり持てなかったんですけど、音楽に関しては「これは私のものだ」という特別な意識を持てましたし、芝居が音楽に乗っていく高揚感もありました。それに、台詞と音楽の間合いがキマった時なんかは、奥深くまで冴えるような気持ちの良さもあって、本当に助けられたと思います。
――お話を聞いていると、『怪獣の教え』は太田さんにとって、俳優としてのターニングポイントにもなっているように感じられます。
今までやってきたお仕事もそうなんですけど、出会うべくして出会った作品だと思っています。だからこそ、今回は初演時には納得できなかったことを取り戻せる最高のチャンスなので、しっかり稽古を積んで新しいクッキーをお見せできるようにしたいと思っています。
――より熟成されたクッキーが見られるのを楽しみにしています。
これだけ言っておいてあまり変わってなかったらどうしよう(笑)。実際忘れていることも多くあるでしょうし、舞台も広くなるのでどうなるか分からないですけど、前回と違う心境で臨むからには、新しいクッキーなり、舞台が生まれるんだと思います。新しく生まれるこの作品を観ていただけたら嬉しいです。
◆ライブシネマ『怪獣の教え THE TEACHINGS OF KAIJU』
9月21日(水)~9月25日(日) 東京・Zeppブルーシアター六本木