1996年にゲームソフトとして発売されるやいなや記録的なヒットを飛ばし、2002年にはハリウッドで映画化もされた「バイオハザード」。これまで多くの人々に愛されてきたゲームソフトをモチーフにしたオリジナルミュージカル『バイオハザード ~ヴォイス・オブ・ガイア~』が、いよいよ今秋、東京と大阪で上演を果たす。
本作でヒロイン・リサに思いを寄せる青年・ロブロを演じる平間壮一に話を聞いた。
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――平間さんはリサ役の柚希礼音さんと同じ事務所ですが、今回が初共演になりますね。
共演させていただくのも初めてですし、実はお会いするのも今日で3回目なんです(注:7月の取材)。柚希さんの舞台を最初に拝見したのが『プリンス・オブ・ブロードウェイ』で、その華やかさやダンスのキレに感動したのはもちろん、密着番組を観た時に「宝塚のトップスターだった方が、単身ニューヨークに乗り込んで、こんな過酷な挑戦をするんだ!」ってテレビの前で震えました。
『プリンス~』観劇後、柚希さんに楽屋でご挨拶させていただいた時も緊張であわあわしちゃったんですが(笑)、今回、こういう形で同じ舞台に立たせていただくことが叶って本当に嬉しいです!
――平間さん演じるロブロはリサに思いを寄せるというキャラクター・・・リンクしています。
この気持ちを100%役に活かせればと思います。柚希さんには「“ちぃちゃん”って呼ばせて下さい」とお伝えしました(笑)。
――柚希さんの反応は?
いいよ、って笑顔で答えていただきました。「ちいちゃん、壮ちゃん」でいこうね、って。
――新コンビの誕生ですね(笑)。
ありがとうございます(笑)。ふたりの大きな共通点が、ダンスが好き!ということなんです。得意なジャンルは少し違いますが、ダンス愛を胸に、分かり合える部分も多いんじゃないかな、って。舞台上で柚希さんと一緒に踊れる場面があったら最高です!
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大切なものには真正面からしかぶつかれない
――現時点で、ご自身とロブロとを繋ぐ“糸”はどこにあると思いますか?
今のところは“真っ直ぐな思い”・・・これが役を立ち上げていく時の大きな手掛かりになると考えています。欲しいもの、大切なものに対して斜め方向からいく人もいますが、僕は不器用なので、真っ直ぐにしかぶつかれないんです・・・きっとロブロもそんなタイプだと思います。彼も誰かに優しくする時は、ただ自分がそうしたいから動くのであって、裏に下心や変な期待は一切ないんじゃないかと。劇中で、命が危ない状況の中、食料を探しに行くのも、ロブロにとっては「みんなのために、ただそうしたいから行く」って行動なのでしょうね。
――そううかがうと『RENT』のエンジェルや『ラディアント・ベイビー』のクワンなど、平間さんがこれまで演じられた役ともつながりを感じます。
確かにそうですね。僕自身も、もちろん大切にしていることや絶対に譲れない部分もありますが、基本的には自分の行動が誰かの役に立つのなら、心のままに動きたいと思う方です。ただ、ロブロは、そういう自分の感情をストレートに他者には見せないんです。言葉遣いも汚めですし(笑)。
――演出のG2さんとも初めてのタッグです。
大人のシブさがありますよね。一見穏やかで静かな方という印象もありますが、演劇に関しては妥協をなさらない方だとも思います。この作品の世界観って、僕たちの日常とは全く違うじゃないですか・・・普段、外を歩いていても、当然ゾンビには遭わない訳ですし(笑)。生活の中で、普通にゾンビに命を狙われているってどんな世界なのか・・・そこをちゃんと考えつつ、ロブロの行動に繋げていけたらと思います。そう言えば僕、この作品に関して、ひとつ“野望”があるんですよ!
――是非うかがいたいです!
これまで、演出家の方に対して、どこか引いてしまうところがあったんです・・・どうしても強く自分の意見をお伝えできないというか。だから今回は役の解釈や方向性をとことんG2さんにお話して、必要があればディスカッションさせていただければと。
舞台で貰った大きなギフト・・・そして大人の世界へ
――ありがとうございます。平間さんの舞台デビューは2007年の『FROGS』。以来、多くの舞台に出演なさっていますが、ご自身が思うターニングポイントはどの作品でしょう。
ここ1、2年で関わらせていただいた現場すべてにおいて、少し成長できたかな、という実感はあります。昨年から今年にかけて出演した地球ゴージャスの『The Love Bugs』までは、地道に目の前のことを頑張っている状態でしたが、『The Love~』で大きな役をいただいて、先輩たちの中に入った時に「俺、まだまだだな」って一回叩きのめされたんです。目の前のことにただ一生懸命・・・な状態から、ちゃんと自分の状態を冷静に判断して、きちんと落ち込めるようになったというか。そして出会った『ラディアント・ベイビー』では、作品や共演者、演出の岸谷五朗さんから大きなギフトをいただきました。
――『ラディアント・ベイビー』は作品も素晴らしかったですが、クワンのキャラクターも本当に素敵でした。実はキースより先にHIVに感染しているのに、ただ笑顔でキースを支えるクワンの姿に打たれました。
そこを分かっていただけて本当に嬉しいです!実は、最初のうちは、クワンの苦しみや悲しみをもっと明確に打ち出す方向で作っていたのですが(岸谷)五朗さんとの話の中で「これは方向性が違う気がする・・・お客さまにはちゃんと伝わるはずだ」って、クワンの苦悩を逆に“隠す”方向に変えたんです。『ラディアント~』では、役の思いや感情をすべて“見せる”のではなく、あえて“隠す”という表現を学びました。
――クワンが苦しみを隠すからこそ、彼の笑顔がより切なく客席に届いたのだと思います。お稽古場の取材にも入れていただきましたが、カンパニーの結束力も強かったですよね。
あのカンパニーはヤバかったです(笑)。キースを演じたかっきー(柿澤勇人)が皆を引っ張ってくれましたし、カルロス役の(松下)洸平くんと出会えたのも僕にとっては大きな出来事でした。洸平くんの芝居の方向性や役の構築は自分と似ているんですよ・・・すごくストレートで。
――カルロスは舞台上でもストレートに感情を出せる役ですし。
そうなんです!そこがカルロスとクワンの大きな違いですよね。そのことにも稽古の途中で気づいて、カルロスの感情表現がストレートな分、クワンはキースに対して違うアプローチが必要なんだと思いました。ああ、こうして話しているとどんどんやりたくなります『ラディアント・ベイビー』!
――『ラディアント・ベイビー』、一観客としてもまた絶対に観たい作品です!そして平間さんは最近タップを始められたとか。
おじいちゃんになっても踊っていたい・・・タップだったら、年齢を重ねても、踊りに味が出るんじゃないかな、と思ったのが、タップを始めた理由のひとつです。もうひとつの理由は、僕のダンスのルーツにあるのですが・・・。
――ルーツというと、ストリート系のダンスですよね?
そうです。僕はストリート系のダンスをずっとやってきて、その分野に関しては自分なりに自負もあるんですが、その反面、ミュージカルの世界で多く必要とされる、バレエやジャズダンスに関してはまったく自信が持てなくて。そもそも、ストリート系のダンスとバレエって成り立ちが全く違うんですよ。
――詳しくうかがいたいです。
もともと、貴族や裕福な人たちが、広い室内にバーを置いて始めたのがクラシックバレエで、そういう暮らしができない貧しい人たちが路上で踊り始めたのがストリート系のダンスです。バレエがトゥシューズを履いてつま先で回るダンスなら、靴が買えない人たちが頭を地面につけて回るのがストリートダンス・・・みたいな。
正直に言ってしまうと、僕はストリート系のダンスに関して自信を持っている分、身体の使い方や型が全く違うバレエやジャズには逆に戸惑うことも多くて、これまでオーディションや現場で、苦しくて悔しい思いをたくさんしてきました。でも、もし、両方出来るようになったら、自分にとって、凄まじい武器になると思うんです。
――タップダンスがふたつの違うテイストの踊りを繋ぐ・・・。
僕の中で、ストリート系のダンスとバレエの間にあるのがタップでした。いきなりバレエを本格的にやるのは少し気恥ずかしさや怖さもあって、もともと興味もあったタップから勉強してみようかと。
――来年1月からミュージカル『ロミオ&ジュリエット』にも出演されます。役はマーキューシオ・・・貴族です。バレエの所作も必要になりそうですが。
・・・やりましょう(笑)!もちろん、役のためというのもあるんですが、26歳になって、これから30歳という節目の歳に向かう時に、いつまでもキャップ&フードでゴリゴリいくのも違うかな、と(笑)。大人の世界に足を踏み入れ始める今、大人の踊りも身につけていかないと・・・って、今、改めて思いました。
――“大人・平間壮一”への第一歩ですね!
将来のことや、ダンスのことを考え始めると、頭がぐるぐる回って眠れないんですよ~(笑)。まずは『バイオハザード ~ヴォイス・オブ・ガイア~』を精一杯やらせていただきます!僕史上、もっとも歌の分量が多い作品でもありますし。タップのレッスン2時間からのボイストレーニング2時間って生活ですが、自分を上げるためにもこのまま突き進んでいきます!
はじめて平間壮一と言葉を交わしたのは昨年の『The Love Bugs』個別取材会場・・・とは言え、場所は会場の廊下だった。他キャストへの取材を終え、帰ろうとした私たちとすれ違った彼は「ありがとうございます、お疲れ様でした!」とわざわざ立ち止まって挨拶してくれたのだ。
そして実現した今回のソロインタビュー。初めての取材でここまでオープンに・・・そして明るく真っ直ぐ自らの思いを語ってくれるプレイヤーは非常に少ない。デビューから9年・・・地道に一歩ずつ階段を上がって来た平間の“これまで”が見えたような気がした。
本作で彼が演じるのは、ヒロイン・リサに思いを寄せながら、彼女と行動を共にする青年・ロブロ。自分史上、もっとも歌が多いと照れた顔で語る平間がどんな雄姿を魅せてくれるのか・・・開幕を楽しみに待ちたい。
◆『ミュージカル バイオハザード ~ヴォイス・オブ・ガイア~』
2016年 9月30日(金)~10月12日(水) 東京・赤坂ACTシアター
2016年11月11日(金)~11月16日(水) 大阪・梅田芸術劇場メインホール
(撮影/高橋将志)