現在上演中の、舞台『扉の向こう側』。ホテルのスイートルームのコネクティングドア(隣室に繋がる二重扉)を使ってタイムワープし、1990年代、2010年代、2030年代の40年間を行ったり来たりするなかで巻き起こる、ドタバタ・サスペンス・コメディ。イギリスを代表する喜劇作家アラン・エイクボーンにより書かれた本作に出演するのは、壮一帆、紺野まひる、岸祐二、泉見洋平、吉原光夫、一路真輝というミュージカル作品ではおなじみの面々。この豪華キャストたちがストレートプレイで顔を揃えるという話題作から、本番直前の稽古場で男性キャスト3人にインタビュー!
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――この3人での共演は初めてですね!
岸:僕は、二人とはそれぞれ別の舞台で共演したことがあるんだけど。
泉見:そうですね。岸さんとは2007年の『レ・ミゼラブル』以来。この間のミュージカル『ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ』は同じ作品に出演しましたけど、共演はなかったですね。
吉原:僕も岸さんとは去年の『レミゼ』でご一緒しました。洋平さんとは初めてです。
岸:そうそう、二人とも『レミゼ』で一緒だったんだ。共演した年は違うけど。
――それでは、初共演ということでそれぞれの第一印象を教えてください。
吉原:洋平さんは今回の共演が決まるまで、『ミス・サイゴン』のトゥイ役でしか観ていなかったので、ほとんどその印象でした。じつは、今回のキャスト発表があった時、洋平さんの名前はまだ入ってなかったんです。だから、スチール撮影で洋平さんと会った時にまさか共演者とは思わず、別の作品で来たんだと思ってしまって・・・失礼にもご挨拶しなかったんです。
泉見:僕は挨拶したのにもかかわらずね!僕はこの人に嫌われているんだって思ったよ(笑)。
吉原:わざわざ挨拶に来るなんて、丁寧な人だなと思ってたら、その後に参加するって聞いて、「うわ~だから挨拶されたんだ」って焦った。おかしいと思ってたんだけど・・・。
泉見:別の作品の人が同じスチールスタジオにいるわけないじゃない(笑)。
吉原:・・・すみません(笑)。
泉見:でも、そんなわだかまりはすぐに消えましたけどね。
――そんな大物ぶりを発揮した吉原さんが、3人の中では一番年下という。
吉原:そうなんです。今回の現場では最年少です。
泉見:もはや最年長みたいな貫禄。
吉原:いやいやいや・・・でも、若いと主張するのはもう諦めました。
岸:こう見えても、中身は誰より少年なんだけどね(笑)。僕はね、洋平とは、第一印象というか、知り合ってからは長くて。でも、『ゴッホ』の時、本当に真面目な人なんだなというのに初めて気づいた。
泉見:え?それまで気づかなかったの?
岸:そうなんだよ(笑)。これまでは、わりと役者よりも歌手って印象が強くて、キラキラしたところしか見ていなかったから、繊細な人だと思ってたんだよね。でもそうじゃなかった。『ゴッホ』の稽古場で、一つずつ懸命に努力をして積み重ねてる姿を見て、すごく真面目な人なんだな、と。
泉見:不器用なんです。
岸:なんでも器用にこなす人なのかなと思ってたから意外でした。光夫は・・・『レミゼ』の時に本質は見抜いていたかな。その当時は仲良く飲みに行くとかではなかったけど、彼のことは理解してた。
吉原:僕が(バルジャンとジャベールの)2役だったから、余裕が無くて皆さんと飲みに行くとかもできなかったんです。
岸:そうそう。僕はその時、『レミゼ』に「戻ってきた」感じだったんです。(アンジョルラス役等を演じたの後、2015年にジャベール役初演)けれど、他のキャストは新しく『レミゼ』に挑むっていう空気で、一人戸惑ってた時があったんですけど、光夫も含めて何人か心開いてくれる人がいて助かりました。今回久しぶりに会って、より彼のことを知って、可愛いやつだなと。演劇について僕よりはるかに知ってるし、真面目だし、勉強になるところがたくさんあります。
吉原:そんなことないですよ!
岸:今日は、光夫のイメージを変えてあげます。“吉原光夫”イメージ向上委員会です(笑)。
吉原:・・・ありがとうございます(笑)。『レミゼ』の時、岸さんと僕は合わないんじゃないか、喧嘩するんじゃないかって会う前は言われてましたよね。
岸:あったね・・・そんなことまで言っちゃうの?(笑)
吉原:実際にお会いしたらそんなことはなかったので。お互い、バスケをストイックにやっていたという共通項がありましたし。
岸:ロックもね。
吉原:『レミゼ』の時は誘われても行けなかったですけど、この間、一緒にバスケしましたよね。僕の岸さんのイメージはそのまま“兄貴”ですね。
――稽古も佳境に入っているかと思いますが、みなさんリラックスされていますよね。稽古場の雰囲気はいかがですか?
岸:みなさんはどう思っているかわかりませんが(笑)、いい雰囲気ですよ。宝塚でトップを経験した方たちとストレートプレイでご一緒させていただくなんて珍しいことなので、どういう空気になるんだろうかと思っていましたけど、一路さん、紺野さん、壮さん、3人ともすごく気さくな方たちで、楽しく稽古をやらせてもらっています。
泉見:ここ数日で通し稽古をやっているんですけど、日々進化しているといいますか、皆さんとディスカッションして常に空気が回っているというか。新しい作品を作ってるんだっていう充実感と、そのなかに身を置けることのありがたさ、幸せを感じる稽古場ですね。
吉原:僕は、稽古場の空気を悪くするので有名な俳優なんですけども。
岸:(笑)。
吉原:僕のことを知ってくれている岸さんがいることで、初対面の方々にも変な緊張感を与えることは・・・ちょびっとくらいしかなかったんじゃないかな(笑)。
――稽古場の空気を悪くする、というのはご自身でも感じていらっしゃるんですか?(笑)
吉原:僕はなんだかとっつきにくいみたいです。「声かけにくい、ずっと怒ってるの?」みたいな。
岸:怖いっていうイメージだよね。
吉原:だから『レミゼ』とか・・・今だから言えますけど、2週間ぐらい誰からも話しかけられなかったですから(笑)。僕が入るとそういう感じなんですよ。でも今回は、岸さんが僕のこと知ってて話しかけてくれたことで、みなさん僕に壁を感じることなく、今はいい空気なんじゃないかなと思いますね。『扉の向こう側』はコメディなんですけど、冒頭は僕が演じる実業家のリースが過去の妻殺しを世間に告白しようとする、真に迫った感じのシーンからスタートするので、その空気作りが難しい。俳優にとって、コメディが一番難しいと思います。今回は、笑いの空気作りを大事にしていますね。
――空気作りというのは?
吉原:コメディだからとリラックスしてワイワイしてやってるのを舞台で見せても、お客さんには笑いとして伝わらなかったりするんです。真面目な人の姿が滑稽に見えることがあるじゃないですか。例えば、今日の朝、電車で座席を取りに行く人の必死ぶりに大爆笑しちゃったんですね。そこまでして必死に座ったのに、2駅で降りたというオチもあったり(笑)。こういうのがコメディだと思うんですよ。真剣さゆえの行動に笑いが起きるという。“緊張と緩和”っていちばん難しいことで、見せる側はわりと緊張感を持たないといけないんじゃないかなと思います。
岸:僕はコメディが好きで、コメディがいちばんやりたい。なのに、僕が演じるジュリアンはリースの妻殺しの実行犯で、リースの告白が世に出るのを阻止するために動くというシリアスな役柄で・・・。なので今回は“緊張”のほうをいかにリアルに作れるかっていう役回りで、これがしんどい。どこかで笑わせたいと思ってしまうから(笑)。苦しいけど、同時に、自分が引き締めなければ物語に緊張がなくなって面白くないし・・・。
泉見:二人が演じる人物に比べると、僕が演じるハロルドは物語の事件にはあまり直接的な関係がないのに、舞台になっているホテルの警備員なので、どんどんストーリーに関わっていきます。人並みに夢を持っていて、登場人物のなかではいちばん普通の人なんですが。
岸:だけど、いい働きをしますよね?
泉見:コメディ担当ですね。最近は、愛に生きるとか、国を背負う役が多かったので、こういう普通の役もなかなか珍しい。楽しい役に巡り合えてよかったです。
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――3人から見た、作品の魅力を教えてください。
吉原:別のインタビューでの洋平さんの話を聞いて思ったことですけど、誰しも人生に「あの時こうしておけば・・・」みたいな後悔を、ある程度達観した年齢になるまで背負っている気がするんですよね。この作品では、コネクティングドアでタイムワープしていくことで、一つの人生がまた違う場所にいくのが見られる。それによって、過去の後悔よりも「今日という日が大事で、スペシャルな一日なんだ」ということがわかると思いますし、きっと、お客さんもそれを持って帰れるんじゃないかな。若い人ならこれから生きる人生を考えると思うし、年齢を重ねてきた人はこれまでの生きてきた日々を懐かしんだり、納得したりできると思うので、いろんな人に観てほしいです。
岸:僕は、女性同士の友情がすごくよく表されている感じがします。女性ってこんなふうに仲良くなっていって、こんなふうに友情ができていくんだと、ほっこりとわかるような作品だと思います。
吉原:確かに。いい意味で友情を超えた強かさもわかるかも。「強か(したたか)」って「強い(つよい)」って書くじゃないですか。子供産むことで血をつないでいるとか、女性が強いからこの世の中は回っていて、その強さが女性3人から見えると思います。リースとしては、途中から3人が殺人鬼に見えてくるんですけど(笑)。
岸:僕が死んでいくのを3人は「あらー」って見ていますからね。あの時の顔は写真に撮りたいくらい。
泉見:女性陣は全員が雪組出身なんだけど、世代が違うわけですよね。そこが時空を超えて同じ舞台に立つのも面白い。
岸:僕たちもそうだからね、『レミゼ』でつながってる。
吉原:そう、みんなマリウスでね・・・。
泉見:軽く冗談言わないでください(笑)。でも、そういう意味でも時空を超えた夢の共演があり、作品の大きな魅力だと思います。
岸:それをつなげてるのが僕っていうのも面白いね。作品上のジュリアンもそうだけど。
――演じる上での苦労はありますか?
泉見:時空を行ったり来たりするので、歳をとったり若返ったりする部分の演じ方には注意していますね。歳をとっている時は比較的ゆっくり、若い時はものすごくテンポを早くしゃべる、とか。今までストレートプレイでこんなにセリフがあることがなかったですし、ミュージカルなら程よいところでナンバーになったりするので(笑)。だからなのか、よくセリフをかむんですよね。楽しいんですけど、緊張しつつやってます。
吉原:いいんですよ、セリフをかんでも。日常ではみんなかむことあるのに、なんで舞台上ではかんじゃいけないんだと、僕は思いますね。
岸:(笑)
泉見:かんでも温かい目で観てください(笑)。
――稽古場でのムードメーカーはいらっしゃいますか?出演者との共演歴が多い岸さんとか?
岸:僕?僕は今回はあまり・・・光夫だと思います。
吉原:僕ですか?
泉見:まんべんなく皆と話してるし。
吉原:ですけど、ムードは作ってないですね。逆にムードを壊してる気が(笑)。
岸:光夫は戯曲についてよく知ってるから、カンパニーを引っ張ってる感じがあるけどね。現場の空気という意味では、紺野(まひる)さんがムードメーカーになるのかな?彼女、すごく明るいよね。
吉原:たしかに、紺野さんは裏表なく、ひたすら“陽”のみ、って感じ。
泉見:一路さんも壮さんも気さくで明るい方ですけど。
吉原:その中でも紺野さんは群を抜いてますよね。
泉見:僕はみなさんすごいと思うのが、休憩中はワイワイしてるのに、稽古が始まるとぱっと切り替えて芝居に集中するところ。僕は不器用だからそれがなかなかできなくて、ずーっと台本を見ながら、かまないように、かまないようにって練習してるタイプなので・・・。みなさんさすがです。
――キャスティングの妙も感じながら、作品を楽しめそうですね。それでは最後に、メッセージをお願いします。
岸:女性のいい意味での強かさと友情が感じられる作品なので、お友達ご家族、いろんな方を誘ってみんなで楽しめる作品なのでお気軽に劇場で観てほしいです。
吉原:元宝塚の3人のファンの方も多いと思いますので、女性のお客さんが多いかもしれませんが(笑)、ぜひ彼氏なり旦那さんなりを連れてきてほしいですね。もちろん女友達でもいいです。帰り道にいろんな話ができる作品だと思います。
泉見:大人の、ちょっとスパイスの効いたファンタジーということで、舞台を観て「また明日も頑張ろう」と思ってもらえたら嬉しいです。
――ミュージカルで活躍する皆さんがストレートプレイだけで終わるわけないですよね?演出の板垣さんは、終演後に何かあるかも・・・と予告されていますし。それも楽しみですね。
吉原:それに関しては、僕らは何も言えませんが。
泉見:この華やかなメンバーでなにもやらないはずありません、スーパーサプライズがあります!
岸:詳しく話せないですが、楽しみにしていただいていいと思います!
☆『扉の向こう側』公演情報
【東京公演】2016年11月16日(水)~11月23日(水・祝)東京芸術劇場 プレイハウス
【名古屋公演】2016年11月28日(月) 青少年文化センター アートピアホール
問い合わせ キューブ 03-5485-2252(平日12時~18時)
公式サイトはこちら!
https://tobira-no-mukogawa.amebaownd.com/
(インタビュー撮影/原地達浩)
(舞台写真撮影/岸隆子)