これまで、「銀河鉄道の夜」や「走れメロス」といった名作を独自の解釈を加えつつ舞台化してきた“極上文學シリーズ”。その記念すべき第10作目を飾る『春琴抄』が、6月16日(木)より東京・全労災ホール/スペース・ゼロにて上演される。
エンタステージでは今回、シリーズ第7弾『走れメロス』以来の本シリーズ登場となる鈴木裕斗にインタビュー。前回の『極上文學』出演時の感想や、舞台作品に対して抱く想いを語ってもらった。
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――『春琴抄』への出演のきっかけは?
普段はアニメや吹替えといった声の芝居の仕事が多かったんですけど、事務所の先輩である津田健次郎さん、藤原祐規さんや大河元気さんが出演されていたこともあって、前回の『走れメロス』に出演させて頂きました。そこで太宰治という重要な役をやらせて頂きその縁もあって、今回の『春琴抄』に出演させていただけることになりました。
前回はオファーがあった時はドキドキしている部分が大きかったのですが、今回、また出演させて頂けることになって嬉しいなという気持ちもあり、今は稽古を迎えるのが楽しみです。(取材は4月下旬)
――では、シリーズ2回目の出演にあたって目標にしていることはありますか?
作品に関して、出演が決まった段階で原作について調べたり、国語の教師をしている友人に「春琴抄」に関して見解を聞いたりして、「こういう作品なんだ!」というのが自分の頭の中に入ってきました。
特に、妖艶さや切なさといった文学作品ならではの雰囲気の作品に携わらせてもらえるのが一番楽しみです。
普段はなかなか表に出さない感情を表現することになると思うので、その見せ方という部分でも、観て下さっている方の印象は変わるんじゃないかなと思います。
――今作の役どころは“鶯(うぐいす)”とのことですが・・・
そうなんです(笑)。春琴に大切に飼われてる鶯なんですが、原作に登場するのはほんの少しです。でも今回は語り手として鶯を演じる人間がいて、春琴と佐助をより近くで見ている役割なので、原作では描かれなかった部分を鶯の目線から皆さんに伝えることができるのではないかと。なので、「春琴抄」の世界観を広げるという意味で大切な役割になるのかなと思っています。
――どんな鶯(うぐいす)になりそうですか?
自分の役を知った時はすごく不思議でした。まさかこの役で来るとは思わなかったので、「どうなっていくんだろう・・・」って。ただ、すごく綺麗な声で鳴くということで、普段声で表現をしているということもあるので、言葉の一つひとつに気を使いながら自分にしかできない役割で作品を盛り上げられたらと思います。
――原作をお読みになった感想はいかがですか?
衝撃的なところが多くて、でも現代に通じる部分というか、佐助の強い気持ちが描かれているところなどは共感ができるかなと思います。それから渡された資料を読んで、時代が昔なので言葉が難しいところはあるのですが、現代に置き換えて考えると「こういう気持ちって自分にもあるかも・・・」って。どちらかというと僕は春琴よりも佐助の気持ちに共感します。さすがにあそこまでいくと極端ですけど・・・(笑)。
――現在は声優としてのご活動がメインですが、舞台に立って芝居をすることとの違いはどのように感じられていますか?
前回の『走れメロス』のときは、声の表現との差をものすごく出さないといけないのかなと、出演が決まった段階から強く意識していました。“声優だ”ということいかに感じさせないようにやるかということが大事なのかなと自分の中で思っていたんですけど、声優をやっているからこそ出来ること、人とは違ったものを見せられるんだということを前回の出演から学んだので、あまり強く意識することではないのかなと思っています。
自分の役割を全うするという点では、アフレコの現場でもそうなんですけど、自分がこの作品においてはどういう立場でどういう見せ方をしていかないといけないのかを意識しつつ、声だけではなく表情や全身を使って表現をするというところにやりがいを感じます。
――『極上文學』シリーズはストレートプレイとはまた違った形の作品ですが、どう感じられていますか?
本は持っていますが、本の先にあるものを見据えてやっていく部分があるな、と。『極上文學』シリーズは“朗読演劇”と呼ばれていますが、その“演じる”という部分においては他のキャストのシーンでも気持ちを作っていました。自分の台詞では、“読む”という感覚ではなく自分の言葉として発しています。まさに朗読と演劇の融合という感じで、字面を追うのではなく言葉一つひとつを聞いて噛み締めながら台詞を話すのが心地いいですね。楽しみながら舞台人になれたらいいなと思います。
――今回のキャストには『走れメロス』でも共演された方がいますね。
川下大洋さんと具現師の方も何人かは『走れメロス』の時に共演させていただきました。前回はやっぱり少し不安だったりしたんですけど、皆で一つの作品を作っていく中で最終的にすごく良い空気感で終わることができました。藤原祐規さんや他の作品で共演した方と再会できるのも嬉しいですし、今回はまた違った雰囲気になると思うので、そういった変化を味わえるのが嬉しいですね。
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――今後の舞台出演についてはいかがでしょう。
出たい気持ちはあります。こうして舞台作品をやらせていただいて、達成感や充実感がすごくありました。もちろんアニメや吹き替え作品もそうなんですけど、終わった時に自分の中に残るものがたくさんあって、そこで成長したことが他のいろいろなところで活きてくるんです。舞台で体を使って表現することで見えてくるものがあると思うので、役者として成長していくためにも、舞台での表現は続けていきたいと『走れメロス』をやった時に強く感じました。
――もしかしたらミュージカルへの挑戦もあったり・・・
ミュージカルですか!・・・ものすごくハードルは高いと思います。でも、もし出演できることになったら、相当苦労すると思うんですけど、そのぶん終わったときにはひと回りもふた周りも役者として成長しているんだろうなぁ、なんて思います。
――難しいことにチャレンジするのは好きですか?
そうですね。難しいお話をいただくこともあるんですけど、やりたくないなという気持ちはまず浮かんでこないです。それよりも、この仕事をやったらどうなるかなということを考えます。時間もかかるでしょうし、周りに迷惑をかけたら・・・という不安もありますけど、最終的には「やります!」という答えを自分の中で出します。まず「やる」ということに意味があると思うので、どんなことでも役者として取り組んでいきたいです。もちろん、この『極上文學』もそうです。
――3月31日にデビュー9年目を迎えられましたが、今年はどんな一年にしたいですか?
今まで舞台は年に1本あるかないかという状況だったんですけど、今年はすでに3本も出演させていただけることになって、特別な一年なりそうだなあと。表現者としていろいろなことをやっていきたいですし、どの姿も中途半端になりたくないという気持ちが強いです。少しずつですけど、声の仕事では周りを見る余裕も出てきたりもして、丸8年やってきたんだと実感しますね。でも、舞台ではまだまだ周りの方に助けていただくことが多くて、その点では初心のような気持ちになれる場でもあります。
今、こうしてさまざまな経験をさせていただいているので、「鈴木裕斗って多才だよね」と言っていただけるように一つひとつを突き詰めてやっていきたいです。
――では最後に、上演を楽しみにしている方達へのメッセージをお願いします。
衝撃的な部分もそうですが、「春琴抄」は人の心に残る作品だと思います。それが『極上文學』として新たな見解や厚みが加えられて、どういう形になるのか僕自身も楽しみです。切なさや妖艶さというものを表現することに楽しさとやりがいを感じているので、そういった新たな一面を見ていただきたいです。それと、原作を読んでから舞台を観ていただけると、より深みを増して心にずっと残る作品になると思います。普段の自分の長所を活かしつつ、作品にピシっとはまるピースになれるよう頑張ります!
鈴木裕斗(すずき ゆうと)
1989年生まれ、山形県出身。声優・俳優。テレビアニメ、ゲーム、映画の吹き替えなどで人気が高い。またラジオのパーソナリティーを務めるなど幅広く活躍中。舞台出演は極上文學『走れメロス』(2014年)、『烈!バカフキ』(2016年)など。
【公演情報】
本格文學朗読演劇 極上文學 第10弾『春琴抄』
演出:キムラ真(ナイスコンプレックス) 脚本:神楽澤小虎(MAG.net) 音楽:橋本啓一
出演:〈読み師〉和田琢磨、伊崎龍次郎、藤原祐規、松本祐一、富田 翔、足立英昭、鈴木裕斗、桝井賢斗、 大高洋夫、川下大洋
〈具現師〉赤眞秀輝(ナイスコンプレックス)、福島悠介、 神田友博(ナイスコンプレックス)、
濱仲太(ナイスコンプレックス)、太田守信(エムキチビート)
日程:
東京公演:2016年6月16日(木)~6月19日(日)
全労済ホール/スペース・ゼロ
大阪公演:2016年6月25日(土)~6月26日(日)
大阪ビジネスパーク円形ホール
☆公式サイト:https://www.gekijooo.net/