破天荒な黒人クラブ歌手のデロリスは、殺人事件を目撃したことでギャングのボスに追われる羽目に。重要証人となったデロリスが身を隠したのはどこよりも規律の厳しいカトリック修道院だった!
ウーピー・ゴールドバーグ主演の大ヒット映画がウーピー本人のプロデュースにより2009年にミュージカル化。2011年のブロードウェイ進出時にはトニー賞5部門にもノミネートされ、日本でも熱い支持を受けた『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』が初夏の帝劇に帰ってくる!
本作でWキャストの一人としてギャングのボス・カーティスを演じる石川禅と、オハラ神父役の今井清隆に話を聞いた。初共演時のエピソードからアノ作品の思い出トークまで…ミュージカルファンは胸躍ること間違いなしのトークが炸裂する!…かも?
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初演は客席で観劇!そしてラストは一緒に踊る!?
――お二人は再演からのご出演になりますが、どこか“転校生気分”もあったりするのでしょうか。
石川:バリバリの転校生モードです(笑)。初演を拝見して、とても完成度の高い作品だと思いましたので、お話を伺った時に「いやいや…(自分が入って)大丈夫かな…」とは思いました(笑)。
今井:カンパニーの雰囲気もお芝居も出来上がっている中に入るというのはやはりドキドキしますよね(笑)。
――お二人ほどのベテランでもそういうお気持ちになるのですね。
石川:帝劇で初演の舞台を拝見した時に一観客としてすごく感動したんです。大衆性も芸術性もあり、どなたが観ても理解できてちゃんとしたテーマもある。そして最後には爽やかな気持ちで劇場を出られる…元々、映画のファンで作品自体が好きだったこともあるのですが、ラストにはほぼ号泣でした(笑)。いいもの観たなあ…って思って、そのまま楽屋にお邪魔して、キャストの皆さんに「良かった!良かった!」って(笑)。
今井:僕はその時、シアタークリエで『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』に出演していて、カンパニーの皆から『天使にラブ・ソングを』が面白い!という話を聞き、すぐさま帝劇に向かいました(笑)エンディングでは総立ちの中、僕も一緒に踊っていて(笑)。音楽も良いですよね。
――作曲を担当したアラン・メンケンさんの楽曲、今井さんは『美女と野獣』の野獣とガストン役でかなりの回数お歌いになっていますよね。
今井:歌ってましたね(笑)。でも『天使にラブ・ソングを』のテイストは『美女と野獣』の雰囲気とはまた全然違って、70年代のディスコサウンドが活かされているのが面白いと思いました…同じ作曲家とは思えない振り幅だな、と。
石川:実は僕もアラン・メンケンさんの楽曲を歌うのはこれが初めてじゃないんです。
――そうなんですか!
石川:かなり以前にオンエアされたNHKの音楽番組で、伊藤恵理さんと『アラジン』の「ホール・ニュー・ワールド」を歌わせていただいて。ただ、僕、あまり音楽については詳しくないので、そんなに語れないんですけど(笑)。
――数多くのミュージカルにご出演なさっているのに…ご謙遜です。
石川:いや、本当に。僕が最初に海外発の大型ミュージカルに出演させていただいたのが1992年日本初演の『ミス・サイゴン』だったんですが、その時は共演者の皆の口からポンポン出るミュージカルの作品名や作曲家の名前が全然わからなくってきょとんとしてました(笑)。戯曲はたくさん読んでいたんですけどね。
今井:その『ミス・サイゴン』で最初に共演したんだよね。禅さんの声が誰よりも大きく前に出ていたのを良く覚えているよ。
バルジャンとジャベール…本当に演じたかったのは…まさかのアノ役
――お二人のご共演と言えばやはり外せないのが『レ・ミゼラブル』かと。
今井:『レミゼ』に関しては言いたいことがあるんだよ。
石川:なんですか?
今井:僕は本当はマリウスやアンジョルラスに憧れてたんだ!
石川:え?(笑)
今井:だってジャベールで出させていただいた時はまだアラサーで、砦の学生たちがまぶしくってね。「いいなあ、みんな輝いてるなあ…あっちに行きたいなあ」って…可哀想に、キャラが全然違うのに(笑)。
石川:今になって何を言い出すんですか(笑)!
――石川さんがマリウスを演じられていた時期に今井さんは四季にいらしたんですよね。入れ違いがありつつ、お二人のガッチリしたご共演は2005年のSPキャストで実現します。
石川:あの時はすごくうれしかった!僕がプルベールやフイイとして『レミゼ』に出演していた時に今井さんはジャベールをやられていたんだけど、その時から「この人のバルジャンを見てみたい」ってずっと思っていたから。で、今井さんが四季を退団してまた作品に戻ってきて、SPキャストでジャン・バルジャンとマリウスとしての共演が叶って。今井さんはそこに立っているだけで何もしなくても“バルジャン”なんですよね。稽古の時から「ほら、この人はやっぱりバルジャンだ!」って…うれしくて仕方なかった。
今井:え?そんな事思ってくれてたの?全然知らなかった!(事務所関係者に)皆、今、いい話だからちゃんと聞いててね(笑)!でも、褒めて貰ったから言う訳じゃないけど、初めて『ミス・サイゴン』で禅さんと共演した時に、歌もうまいし芝居もすごい…いつか抜かれるんじゃないかと思ってたら見事に抜かれたよね(笑)。
石川:突然何ですか!(笑)本当にやめて下さい~(笑)。
今井:いや、いつも脅威に思いつつ、勉強させていただいてます!
石川:(笑)。恐縮ですっ!
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――お二人の距離感がひしひしと伝わってきます(笑)。オフステージでも舞台のお話をしたり、お食事に行かれたりということもあったりするのでしょうか?
石川:食事に行ったりという機会はなかなかありませんが、楽屋が一緒になることは多いです。
今井:昨年の『貴婦人の訪問』でも一緒だったよね。いろいろ喋って絆が深まった気がする。
石川:はい、ツアー中はずっとご一緒させて頂きました。お互いすごく良く喋るので、かなり賑やかな楽屋だったかと(笑)。カンパニー全体の仲がとても良い素敵なチームでしたよね。
――『貴婦人の訪問』は初演の千穐楽直後に再演が決まりましたね。
今井:ビックリしました!
石川:僕もビックリしました。と言うのも、あの作品って音楽を聴かずに台本だけを読むと、かなりドロドロした人間模様が描かれているので、これをどうミュージカルとして成立させるのか最初は不安で。
今井:稽古が始まってからもあの世界観がお客様に受け容れて貰えるか自分達では分からなかったよね。お金で人がおかしくなっていったり、一人の男性がああいう形で女性と別れるっていう展開に拒否反応が出ないかな、って。
――演じる側も客席の反応が読み切れないことがあるんですね。
今井:それは結構あるんですよ。稽古場での反応も良くて手ごたえもあるのに、なかなかそれが評価に繋がらない場合もありますし、逆に稽古中は不安で一杯なのに、開幕したらどんどん客席の熱量が上がって当日券に列が出来たりとか。
石川:あるね、そういうバージョン。『貴婦人の訪問』は音楽の力も相まって、寓話のような不思議な世界が生まれたという感じだったね。
(『貴婦人の訪問』(2015) 写真提供・東宝演劇部)
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デロリス役・森公美子さんとの不思議なご縁
――『天使にラブ・ソングを』デロリスWキャストのお一人・森公美子さんともお二人は良くご一緒されています。
石川:今井さんはもうマブダチですよね。
今井:この仕事を始めた頃からいろいろ一緒にやってるしね。最初は『ラ・マンチャの男』だったと思う。その後が島田歌穂さん主演の『アニーよ銃をとれ』で、一緒に全国ツアーを回ったなあ。『ラ・カージュ・オ・フォール』では夫婦役だし『レミゼ』も一緒に出てた時期が長い…ご自宅に遊びに行くこともあるし…うん、確かにマブダチだね(笑)。
――石川さんが森さんと出会ったのは『レ・ミゼラブル』?
石川:本格的に共演させていただいたのは『レ・ミゼラブル』ですが、実はそのずーーっと前にも同じ稽古場にいたことはあるんです。『ミス・サイゴン』に出演させて頂いていた頃、エンジニア役の市村正親さんに「ちょっと楽屋に来てくれる?」と呼ばれまして「え…もしかして俺、舞台で何かやらかしちゃったのかな…」って心臓バクバクさせながら楽屋にお邪魔したら「稽古場で自分の代役を頼みたいんだ」って。
市村さんが『ミス・サイゴン』の後に、別の作品を挟んで『ラ・カージュ・オ・フォール』の初演にお出になるのに、別作品の本番と『ラ・カージュ~』の稽古が重なる時期があって、僕にザザの稽古場代役をやって欲しいというお話だったんですよ。僕、もうビックリしちゃって「それって…相手役は本役の方なんですよね?」って聞いたら「当たり前だよ(笑)。じゃなきゃ稽古にならないから」って。初演のジョルジュは細川俊之さんだったんですけど、細川さんの相手役なんて稽古とは言え無理…と思って一度はお断りしたものの、結局やらせて頂くことになったんです。森さんは初演からダンドン夫人役でご出演でしたから、本当はその時が出会いなんですよ。
今井:へえ、そんなことがあったんだ…初めて聞いたよ。もう一人のデロリス、蘭寿とむさんとはこれからコミュニケーションを取っていく感じになると思うけど、二人とも全然タイプが違うから面白くなるんじゃないかな。
――現時点で、お二人が持つオハラ神父像とカーティス像を伺いたいです。
今井:初演ではオハラ神父を村井國夫さんが演じられていて、それがとても軽やかだった印象があります。オハラ神父はいつも修道女たちや修道院の運営のことを心配している人なのですが、あまり深刻にはならずに、村井さんがお作りになった軽やかで明るさがあるオハラ神父像はきっちり踏襲していきたいな、と。
石川:僕はカーティスのデロリスへの“愛”の形や強さがこの作品の肝の一つだと思っています。彼がデロリスを狙うのにはどんな理由があるのか…そこをしっかり意識して演じたいです。多分、その方向性が違ったりブレたりすると作品の印象も大きく変わると思いますし。こういう役を演じるのは初めてですので、生みの苦しみをしっかり味わいつつ、初日までにカーティスとしてしっかりその場にいられるようにしたいですね。
圧倒的な存在感と卓越したキャラクター造形で、数多くの作品に深みを与えている石川禅と今井清隆。『ミス・サイゴン』日本初演で共演してから20年以上、二人の“縁”は続いている。中でも両者の関係を語る上で外せないのが『レ・ミゼラブル』だろう。
石川がプルベールとフイイ役、今井がジャベール役という関係性でスタートした“レミゼ縁”は、2005年のSPキャストで石川のマリウス、今井のバルジャンへと繋がり、その後の石川ジャベール、今井バルジャンという組み合わせで最高潮を迎える。
インタビューでは互いを気遣いながら、長い付き合いならではの冗談や明るいトークを交わす二人に、失礼とは思いつつ、何だかほのぼのしてしまった。
3月開幕の『ジキル&ハイド』、本作『天使にラブ・ソングを』そして11月の『貴婦人の訪問』と、三作品の共演で全く違う関係性を魅せてくれるであろうお茶目なベテラン二人から目が離せない!
◆ミュージカル『天使にラブ・ソングを ~シスター・アクト~』◆
2016年5月22日(日)~6月20日(月) 帝国劇場(東京・日比谷)
※東京公演千秋楽後には大阪・名古屋・岩手・札幌・仙台・福岡・浜松・松本で上演予定
(撮影/高橋将志)