弟の学費のために犯罪を犯してしまった兄・剛志と、兄の罪で自らの生活が立ち行かなくなる弟・直貴。兄は獄中から弟に手紙を出し続けるのだが、その手紙にさえ直貴は追い詰められていく…。東野圭吾のベストセラー小説『手紙』がオリジナルミュージカルとして舞台化され、2016年1月25日(月)から新国立劇場・小劇場にて上演される。本作で弟・直貴を演じる三浦涼介と、兄・剛志を演じる吉原光夫に話を聞いた。
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出会いは『レ・ミゼラブル』の舞台上と客席
――出演オファーがあった時のお気持ちを聞かせてください。
吉原:僕は決定稿ができる前の段階から台本を読ませていただいていたので、いろいろな事が上演に向かって具体的に動き出したのを実感し「やっとこの時が来たか」って…感慨深かったですね。
三浦:10代の頃に映画版を見て、その後東野圭吾さんの原作も読み、とても好きな作品でしたので、舞台で『手紙』を上演すると聞いた時は「おおっ!」と思いました。ミュージカルでの舞台化という点には最初戸惑いもあったんですけど、自分がどれだけやれるのか是非参加してみたいな、と。
――お二人は初共演で兄弟を演じられます。
吉原:稽古が始まる前に食事をしたりお酒を飲んだりという機会もあって、涼ちゃんが弟役ということに対しては何の違和感もなく入れました。
三浦:僕は『レ・ミゼラブル』を客席から拝見したのが最初でした。その後に一緒に食事をする機会を作って頂いて…そこで初めてお話したんですけど、観劇の後で興奮していて、どんなキラキラした人が現れるんだろうとドキドキしてたら、思いのほかワイルドな方がやってきて…楽しくお話させて頂きました。本当に素敵な人なんです。
吉原:はい、ありがとね(笑)。
――『レ・ミゼラブル』はバルジャンとジャベール、どちらの役をご覧に?
吉原:バルジャン、だったよね。
三浦:『レ・ミゼラブル』のバルジャン役って若い時から死の床に就くまで、一人の俳優さんがずっと演じるじゃないですか。時の変化を演技で見せていく様子が凄いな、って思いました。
――2014年末に上演された『ショーシャンクの空に』での三浦さんの演技も鮮烈でした。
三浦:あの舞台は本当に多くの方に評価して頂いてありがたいです。それまで僕は、演技をすることがすごく好き、っていう訳でもなく舞台をやらせて貰っていたところがあったんです。でも、その少し前からやっと演出家の方にいろいろ言っていただける関係性を築けるようになったことがとても嬉しくて。『ショーシャンクの空に』のトミー役も皆さんに褒めて頂きはしましたが、自分の中では常に「これでいいんだろうか、大丈夫だろうか」って葛藤しながら演じていました。稽古中、演出の白井(晃)さんから「もう、お前辞めていいよ、降りろ!」とまで言われたんですが、絶対に辞めない!降りない!って、全身でぶつかっていったことが良い方向に向かったんだと思います。
――今回のお二人の共通点が「刑務所」に入る役を演じていたという点かな、と。
三浦:ちょ、そこですか(笑)。もっと他にある気もするんですけど(笑)。
吉原:なんだろう…やっぱりお酒かなあ…二人とも飲むよね(笑)。今回僕たちが演じるのは“兄弟”で、口では言えない“繋がり”みたいなものがとても重要だと思うんです。昨日もその前も一緒に稽古をしてきて、変な引っ掛かりがないというか、彼の芝居をスッと受けてる自分がいるというか。そういう感覚がこの作品では大切な気がします。
三浦:僕は今回、弟の直貴を演じるんですが、兄が取った行動も、それに対する直貴の対応も、分かりたくないって思う反面…やっぱり理解できちゃうところもあって。僕が今、この作品に参加させて頂くことにはきっと大きな意味があるんでしょうね。
ミュージカルにありがちな“キラキラ感”はいらない
――吉原さんが演じる兄の剛志は、ほとんどが独房でのシーンになりそうです。役としても俳優としても厳しいシチュエーションだと思うのですが。
吉原:確かにそうですよね。今(2015年12月下旬)はまだ、テクニカル的な稽古が多いので、そこまで追い込まれてはいないのですが、先日、演出の藤田(俊太郎)君がインプロ(=即興)的なことをやった時に、僕を小さなスペースから出さないシチュエーションを作ったんです。で、やっぱりそう来たか…と。閉塞感がある中で演じる覚悟はその時に少し出来ました。
決定稿の台本を改めて読み、稽古に参加して、剛志という役を再構成してる所はありますね。最初はもう少し“愚かな男”として捉えていたのですが、そこから進んで常に弟のことを思って行動する兄…という方向にシフトしているというか。だからこそ、塀の中で弟に望んでしまう部分もあって…そう考えていくと自分の中で繋がる感情も多いです。
――東野圭吾さんの原作をミュージカル化するって言うのがそもそも凄い企画ですよね。
三浦:本当はミュージカル…嫌いなんですよ。これまでもミュージカルの舞台に出させていただいた事はあるんですけど、なかなか共演者の方たちと同じ土俵で戦うところまではいけなくて…。それが心のどこかにあったから、これまで敢えて(ミュージカルの舞台からは)離れていたんです。だけど今回、お兄ちゃんや皆と話して、そこは考えなくていいんだと。僕が直貴としてその場に立つということをまず考えなさいと言われて、とても気持ちが楽になりました。
吉原:涼ちゃんに求めてるのはミュージカル界にありがちなキラキラした感じじゃないんですよね。そういう意味では僕たちの質感はとても近いと思います。
――吉原さんの数ある“伝説”、お酒の席で聞いたりすることはありますか?
三浦:知りたくもないです(一同爆笑)。
吉原:なんだよー、少しは興味持ってくれよー(笑)。
三浦:いや、真面目な話、そこを知らないでいるからこそニュートラルに接することが出来るのかな、と思うんです。お酒の席でも平気でツッコめますし。他のキャストはそういう“伝説”を知っている分、お兄ちゃん=すごい人、みたいな対応になってますけど、僕はそういうの許さないですから(笑)。
吉原:もうね、本当に厳しい弟なんですよ(笑)。昨日も稽古中に僕がくだらないこと言ってたら思いっきり足を蹴られました(笑)。
三浦:だって、真面目な場面で死ぬほどくだらない下ネタをわざと言うんですよ!(一同爆笑)。
藤田さんは“風通しの良い演出家”
――演出の藤田俊太郎さんはお二人にとってどんな存在でしょう。
三浦:藤田さんとは蜷川さんの演出助手をやられている時に何度か現場でご一緒させて頂きました。蜷川さんが稽古場に来られない時に僕との橋渡し役になって頂いたり。印象としては…“変な人”かなあ(笑)。『手紙』の稽古場に関して言えば、とにかく話が長いです(笑)。僕はなかなか人にものを聞けないところがあるんですが、この稽古場では自分のことを分かってくれている人が多いという安心感から、分からないことがあるとスッと聞きに行けますね。で、僕の問いに対する藤田さんの長い話に「長いよ」って言える関係性も作れていて…なかなかないことですし、ありがたいと思います。
吉原:ガッツリ一緒にやるのは『ビューティフルゲーム』以来ですね。まあ、今、涼ちゃんが話したことがほぼ全てで、とにかく風通しの良い演出家だと思います。日本の演劇界にありがちな上からものを言うだけのタイプでは全くなく、ディスカッションも積極的にやってくれるんですが…その話が長い(笑)。で、そのことをツッコまれても「すみません!」って笑顔で言える人です。彼にとって『手紙』は一つの勝負となる作品だと思いますし、やっとミュージカルの世界にこういう演出家が出て来てくれたか、と思って一緒に稽古場にいます。
三浦:(笑いをこらえながら)この前、藤田さんの話があまりにも長くてあちこち飛ぶから、キャストの皆がそれを聞きながらだんだん混乱してきちゃって…そしたらお兄ちゃんがそれをぱぱっと要約して話してくれて…皆が一瞬で理解して頷いていたということがありましたね(笑)。
――お二人はその時演じている役が普段の生活に影響する方ですか?それとも切り離して考えられるタイプでしょうか?
三浦:前はいちいち背負って悩むこともありましたが、最近はお酒を飲んで気持ちを切り替えられるようになりました。飲んでる時はお酒に集中!みたいな。
吉原:僕は…どうだろう…基本的には切り離して考えられると思ってますが、芝居や演技について何か引っかかりがあるとずーっとそのことについて考えてるかもしれないです。今回は弟が誰になるのかというところが大きかったのですが、涼ちゃんということでそこは本当にノーストレスですね。
――お二人の関係や距離感が良く分かるお話をありがとうございました。最後にお互いの「大好きなところ」と「一点直して欲しいところ」を教えてください。
三浦:僕、お兄ちゃんに直して欲しいところ、すぐに言えますよ!
吉原:早っ!なに?
三浦:お兄ちゃんは“一言多い”。今日もあるキャストの方がお誕生日で、スタッフさんが皆に切り分けたケーキを配ってくれたんですけど「俺は要らない」って。ああいう時はお祝いなんだし一口食べるんだよ、大人なんだから!
吉原:そうなのか…。涼ちゃんに直して欲しいところは…ああ、あれだ“漢字が読めないところ”。とても繊細な人なので、集中している時は話しかけないようにしてるんですが、この前、台本を前にすごい顔をしていて、何かと思ったら文中の漢字が読めず悩んでいたという(笑)。
三浦:そこは僕も大人にならないといけないポイントですね(笑)。お兄ちゃん…一言多いところ以外は、全て大好きです!
吉原:涼ちゃんが俳優としてすごいのは“影”の部分を覆い隠そうとしないで、そこを自分で受け容れ、きちんと提示して芝居をするところ。実はそういう人ってなかなかいないんですよ。俳優としてとてもバランスが取れているんだと思います。喋りやすいところも大好きだよ!
2006年には映画化もされた東野圭吾の大ベストセラー小説『手紙』がオリジナルミュージカルとなって私たちの前に姿を現す。それだけでもテンションが上がるのだが、兄弟役はなんと吉原光夫と三浦涼介!二人の間にどんな化学反応が生まれるのか、その片鱗だけでも知りたくて年の瀬の稽古場にお邪魔した。
驚いたのは二人の間に流れる特別な空気感。時に冗談を飛ばしながらも、ふとした瞬間に互いを気遣い合うその様子は正に子どものころから同じ環境で育ってきた“兄弟”そのもの。これまで全く違うバックボーンでやってきた二人の間に一本の糸が見えた。
なかなかオリジナル作品が根付かない日本のミュージカルシーンに本作『手紙』がどんな風を吹き込んでくれるのか…開幕を楽しみに待ちたいと思う。
◆ミュージカル『手紙』◆
2016年1月25日(月)~1月31日(日)新国立劇場・小劇場
2016年2月5日(金)~2月8日(月)新神戸オリエンタル劇場
2016年2月10日(水)枚方市市民会館(大ホール)
公式HP https://no-4.biz/tegami/
(撮影/高橋将志)