2015年11月3日(火・祝)に、帝国劇場にて幕を開けるミュージカル『ダンス オブ ヴァンパイア』。脚本と歌詞を『エリザベート』『モーツァルト!』のミヒャエル・クンツェが手掛け、音楽を『ストリート・オブ・ファイヤー』のジム・スタインマンが担当したウィーン生まれの作品だ。3年振りの上演となる今回、新キャストとして登場するアルフレート役(Wキャスト)の平方元基に話を聞いた。
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――7月の『サンセット大通り』では平方さんの新たな面を見せて頂きました。今回演じられる『ダンス オブ ヴァンパイア』のアルフレートはサンセットのジョー役とはまた違うキャラクターですね。
真逆すぎてどうしようかと思ってます(笑)。演出の山田(和也)さんからは「平方が演じるアルフレートは何ごとにも一生懸命だけど、恋愛以外は全くダメな人」と言われました(笑)。オーディションの時にも音楽監督から同じアドバイスを頂いて、その気持ちを込めて「サラへ」を歌ったんですよ。そしたら何故か皆さんが楽しそうに笑っていて、「ん、これはどういうことだ?」と思ったんですが、無事アルフレート役として出演させて頂ける事になりました。
――平方さんは本格ミュージカルに出演なさるようになってまだ5年目なんですよね。この短期間でこれだけ多くの大舞台を踏んだ方はなかなかいないと思います。
いや、もう必死で頑張ってますよ。2011年に『ロミオ&ジュリエット』でミュージカル界の錚々たる方たちとご一緒させて頂いたんですが、その時はまだこれが“線”になって繋がって行くとは思っていなかったんですね。当時はただ命がけで目の前のことに取り組んでいました。
――そんな中で、ターニングポイントとなった作品は何でしょう?
それはやっぱり『サンセット大通り』ですね。ミュージカルってストレートプレイ(台詞劇)に比べて、きっかけや段取りが多いんです。サンセットではそういうことを取り払って、ただジョーとしてその場に存在するにはどうしたら良いのかということを稽古場で沢山考えましたし、学ばせて頂きました。
そうやって稽古を積み重ねても、初日の前日は気持ちがたかぶって眠れなくなったんですよ。自分で自分をあまり追い詰めないようにしようと意識はしていたんですが、やっぱり色々考えてしまって。
――『サンセット大通り』で安蘭けいさんにインタビューさせて頂いた時に、「元基はジョーにぴったりだと思う」と仰っていましたよ。
本当ですか?それは嬉しいです!とうこ(安蘭)さんとは本番が終わるまでとても良い関係を築けたと思っています。今でもお互いの舞台のことを気にかけていて、近況報告は続けています。とうこさんが「私には(元基の今後を見る)楽しみが出来た」と言って下さったのもすごく嬉しかったですね。
Wキャストで助けられること、考えること
――『レディ・ベス』のフェリペ、『サンセット大通り』のジョー、そして今回のアルフレート役と、Wキャストでのご出演も多いですが、平方さんにとってWキャストの良い所とそうでない所がありましたら教えて下さい。
Wキャストだと、舞台稽古に入った時に、照明の当たり方や立ち位置を客席から俯瞰で見られるという利点はありますよね。それが自分の演技において大きな助けになるとも思いますし。マイナス面は・・・例えば、その人にしかできない表現ってあるじゃないですか。もう一人のキャストが彼にしかできない表現をキラキラしながら成立させているのを見ると、自分の方向性とは違うと分かっていつつ、やっぱり色々考えます。で、そこから「じゃあ、自分だったらどうすれば良いのか」ってプラスの方向に気持ちを持って行くまでに少し時間が掛かっちゃったり。
でも、Wキャストを多く経験させて頂くうちに、マイナスの局面に陥る必要はないんだと、だんだん思えるようになってきました。『サンセット大通り』(柿澤勇人とのWキャスト)の時もそうだったんですが、どちらかと言うともう一人のキャストに助けてもらうことの方が多いです。
――それはお稽古場で良い関係が築けているということですね。
僕は稽古場の雰囲気をなるべく良く出来たら、と思う方ですね。その方が自分の不安も減るし、俳優同士の信頼関係にも繋がって行くんじゃないかと。相手の領域にいきなり踏み込む事はないですが、稽古中のディスカッションも積極的にしていきたいですし、そこで相手から貰う気付きも大切にしています。そのことをすごく意識したのが『サンセット大通り』の稽古場だったかもしれません。
――『サンセット大通り』は二組のキャスト版を両方拝見しましたが、同じ作品とは思えない・・・全く違う印象でした。
ノーマのお二人が全然違う個性ですしね。でも実は僕、千穐楽が終わるまでもう一組のキャストの舞台は通しで観ていないんですよ。観たらきっと、自分の中の何かが大きく動くだろうし、そのことでそれまで大切に築いてきたものが揺れてしまったら・・・と思って。
千穐楽を終えて改めて感じている事ですが、ジョーと自分とは共通点も多かった気がします。彼が持つ成功に向けての煮えたぎる感情とか葛藤、そしてはけ口のないフラストレーション・・・。人間の深い部分を描いた作品ということもあって、自分の中にこんな感情があったんだ、と再発見することも多かったですし、ノーマへの寄り添い方とか・・・僕自身と近いかもしれないですね。
――平方さんはお稽古場でもムードメーカーですよね。
え、それはイジられキャラということですか(笑)?まあ、普段からテンションは高い方ですけど(笑)。例えば稽古場で覚えなきゃいけないことがあって、普通に黙って台本を読んでるじゃないですか。そうすると、静かに台本に向かってるだけで「どうしたの、何かあった?」って聞かれるんですよ…普通にしてるだけなのに(笑)。それで何となく、真面目に考えたり台本を覚えたりする作業は稽古場でなく家で一人の時にするようになりました。
――そういう姿勢が多くの人から愛される理由なのだと思います。
多くの人が仰ることですが、俳優という職業は最後は“人”なんだと。もちろん技術的なことも大切ですが、稽古場で共演者との関係性を良くしていく事は若くても努力次第で出来ますし、そうすることが最終的に自分の助けになるんですよね。何か舞台上でアクシデントが起きた時も“皆仲間なんだから絶対に助けてくれる”って心から信じられるんです。
――お話を伺っていると、アルフレート役の経験者である浦井健治さんや山崎育三郎さんが「元基にぴったり」と仰っていたのがすごく良く分かります。
実際にアルフレートを演じたお二方もそうですし、ファンの方からのお手紙にも「いつかアルフレートをやって欲しい」とたくさん書かれてまして、やっとその時が来たという感じです。僕、今日の(製作発表の)扮装、大丈夫でした?
――ジョーやフェリペ(『レディ・ベス』)の雰囲気とはまた違って、とてもキュートだったと思います。
それは良かったです!アルフレートはヨーロッパの人なので、顔もそういう風に作って製作発表に出させて頂きました。そう言えば『レディ・ベス』でフェリペをやらせて頂いた時に、帝劇での公演が終わるということで、残っていたファンデーションを全て顔に塗ったらいきなり日焼けした人みたいになっちゃって・・・あの時はめちゃめちゃあせりましたね、なんだか超マットに仕上がって・・・早く直さないとって(笑)。
――フェリペはミュージカル史上、一、二を争うインパクトの強い役ですよね。
小池(修一郎)先生もそう仰っていて、舞台稽古でどこまで胸をはだけるか・・・衣装の絶対領域を考えて下さったり(笑)。でも僕自身はプレビューの時にどこまでお客様に受け入れていただけるか不安もあって、ドキドキしながらステージに出ていったんですが、お陰様で多くの方に喜んで頂けて安心しました。照明もWキャストの(古川)雄大の舞台稽古を観るまでどんな風になっているのか知らなくて、客席から観て「すごいの来たなあ!」みたいな(笑)。
アブロンシウス教授のチャーミングさに乗っていきたい
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――アブロンシウス教授役の石川禅さんとは多くの作品でご共演なさっています。
禅さんとは本当に多くの舞台でご一緒させて頂いていて、今回も非常に心強いです。禅さんにいろんなボールを投げて、禅さんがそれをどう拾って下さるのか・・・自然な二人のやり取りに注目して頂ければ。禅さんや演出の山田さんに「それ、ちょっと違うからやめとこうか」と言われるラインまで色々投げていきたいと思ってます!
――実は、先ほどのインタビューで、石川さんが全く同じことを仰ってました。「どんな球が飛んできても必ず受けて投げ返す」と。
本当ですか?言ったなー、禅さん(全員爆笑)・・・僕たち通じ合ってますねえ(笑)。禅さんとはこれまでいろんな話をさせて頂きましたし、本当にチャーミングな方だと尊敬しています。その禅さんのチャーミングさにアルフレートとして上手に乗っかっていきたいですね。アルフレートのWキャストである良知兄(=良知真次)とは『ロミオ&ジュリエット』で共演させて頂いて以来、親しくさせてもらってます。最初は大先輩だし、どう接していいのか分からなかったのですが、今ではツッコミも入れられるようになりました(笑)。他の共演者の皆さんとも良い関係を築いていきたいですし、築いていけるカンパニーだと思っています。
――今後、演じてみたい役や作品がありましたら教えて下さい。
えー 何だろう・・・難しい!でも『サンセット大通り』を経験したことで、人間の深さを描く濃密な舞台にもチャレンジしたいと思いました。逆に質問なんですが、僕、どんな歌や役が似合うと思いますか?
――これまで平方さんの舞台を拝見して来て、明るく華やかでコメディセンスもあり・・・と言うイメージが強いので、あえて違う方向性のものも観てみたいです。ミュージカルだったら『ウーマン・イン・ホワイト』のハートライトとか、もう少し年齢を重ねたら『ジキル&ハイド』とか。
『ジキル&ハイド』大好きなんです!鹿賀(丈史)さんの時から見ていて憧れの役ですね。「時が来た」ら、やってみたいなあ。あ、ストレートプレイもいいですね。ミュージカルとは喉の使い方も違うと思いますが・・・。実は、さっき撮影の時にカメラマンさんから「寄ります」って言われて、ついのどの調子を整えちゃったり・・・歌わないから!撮影だから!(笑)。あと、マネージャーの話によると、観客として客席に座ってる時も、一ベル(いちべる・開演前の合図のベル)が鳴ると、無意識に喉を鳴らしてるらしいんです。で、我に返って「あ、俺出ないじゃん、観る側だ!」・・・みたいな(全員爆笑)。歌とか本番、ってことにびびっと反応しちゃうんでしょうね。
――楽しいお話をありがとうございます!では最後に開幕を楽しみになさっている方たちに向けてメッセージをお願いします。
どうやっても平方元基にしかできないアルフレートになると思いますので、何も考えず劇場にいらして目の前のことを楽しんで頂けたらと思います。ミュージカルをご覧になったことがない方も絶対に楽しめる作品ですので、お友達やご家族もお誘いあわせの上ぜひ!最後はあなたもヴァンパイアたちと一緒に踊っている筈です!
2011年の『ロミオ&ジュリエット』でミュージカルデビューを果たして以来、『エリザベート』『シラノ』『マイ・フェア・レディ』『アリス・イン・ワンダーランド』『サンセット大通り』など、次々と話題作への出演を続ける平方元基。これだけ短期間でここまで大舞台を踏んだ20代の俳優も珍しいのではないだろうか。
この日のインタビューでは常にテンポの良いトークで場を盛り上げながら、舞台への熱い思いを語った彼だが、時折見せる真面目で繊細な表情に、俳優としてひとりで戦う姿が垣間見えた。
新役となる『ダンス オブ ヴァンパイア』のアルフレート役で、ペアを組む石川禅のアブロンシウス教授とどんなキャッチボールを見せてくれるのか・・・初日の幕が開くのを楽しみに待ちたい。
◇ミュージカル『ダンス オブ ヴァンパイア』◇
2015年11月3日(火・祝)~11月30日(月) 帝国劇場(東京)
2016年1月2日(土)~1月11日(月) 梅田芸術劇場 メインホール(大阪)
2016年1月15日(金)~1月17日(日) 愛知県芸術劇場 大ホール(名古屋)