2015年6月27日、劇団ラッパ屋の第41回公演『ポンコツ大学探険部』が新宿の紀伊國屋劇場で幕をあけた。1983年の旗揚げから32年、たくさんの観客の泣き笑いを誘ってきたラッパ屋の良質なコメディに、案の定、客席で笑ったり泣いたり、ふいに感動させられる。そのタイトル通り、ポンコツなようでどこか愛しく大人たちの探険物語だ。
いったい今なぜ「探険」なのか? 作・演出の鈴木聡と客演の松村武(劇団カムカムミニキーナ主宰)に話を伺った。
関連記事:元サラリーマンが結成した劇団ラッパ屋の最新作『ポンコツ大学探険部』上演!
――1年半ぶりのラッパ屋公演ですが、一番の見どころはどこですか?
鈴木:今回、ラッパ屋では初オーディションをおこなったんです。ラッパ屋の役者は中高年が多いですけど、今回20代が4人入る事で、また違うエネルギーが出てきました。今までラッパ屋をご覧いただいた方にとっても新鮮な感じがするんじゃないかな。
松村:そうですね。ラッパ屋さんって30年以上も公演をしているから、当然、同世代のお客さんが多い。若い方々からしたらけっこう上の年代の人が観にいくものだと思っているかもしれない。でも今回の芝居では幅広い世代が描かれていて、50代40代だけでなく、30代や20代の人が観ても、心に大きななにかがひっかかる物語だと思うんですよ。
――私も自分の年齢に近い20代の役者さんのセリフはグサッときました…。いろいろな年代がでてくるので、どこかの世代が自分の心に深くマッチするでしょうね。
鈴木:年代の違いはかなり意識していますね。『ポンコツ大学探険部』には、いくつかの世代がでてきます。僕と同世代の55歳前後や、50歳前後、45歳前後…この辺は昭和バブル世代ですね。そしてアラフォー世代と、20歳前後の現役大学生世代が出てきます。
――まさに世代のオンパレード!物語では、大学の探険部の部室に各世代のOBたちが集まってきますが、そこで世代間のギャップがくっきりと出ていましたね。
鈴木:とくにアラフォー世代が青春を過ごした90年代後半は、日本社会の雰囲気が大きく変わった時期なんですよ。この時代に合理主義や能力主義、勝ち組負け組みたいな考え方がでてきて、ひとつの時代の断層になっている。
90年続く「ポンコツ大学探険部」の歴史でも、アラフォー世代が伝統を壊しちゃったとみんなに糾弾される。反して、20代の現役学生世代は…勝ち組負け組といった価値観や、ゆとり教育の弊害すらも一段落した感じがある。そういった世代の違いを、ラッパ屋のメンバーの年代に当てはめて書きました。
松村:いろいろな世代が描かれているのが今回の芝居の一番特徴だと思いますよ。僕はずっと昔からラッパ屋の公演を観ていますけれど、ラッパ屋のなかにもずっと前からいる人と、途中からいる人と、何世代かあるんですよ。それがうまく配分されていることによって、ラッパ屋のベテランであるおかやまはじめさんや福本伸一さんなどの見せ場が渋く光る。オーディションで決まった若手4人も期待にこたえていると思いますし、いろんな世代の良さがとてもあいまっている芝居です。
稽古場にも世代感がでているんですよ。先輩が後輩になにか言ったりと、若者が入ったことでメンバーのみなさんも大人っぽく振る舞いますしね。
鈴木:おかやまはじめなんて、彼らにいろいろ教えたりして。いつもはしないのに。僕も、若者が出るので説教臭いセリフをずいぶん書いていますけれどね。
松村:稽古場でも先輩後輩のような雰囲気ですし、お客さんも大学の部活にいるような感覚で観てもらえるんじゃないかな。元来ラッパ屋さんは仲良いんだと思うんですけど、初出演の僕や若い人含めて、みんな仲が良いので楽しいですね。
――仲が良くて楽しそうな雰囲気は、舞台を観ても感じました。松村さんは初出演ですが、鈴木さんの演出はいかがでしたか?
鈴木 : いや、僕なにも言ってないよ。
松村 : そう、なにも言われてない…。
鈴木 : 放置プレイだよね。
――え、なぜ…?
鈴木 : 最初から面白いから。
松村 : いやいやいや。そもそも鈴木さんはそれほど細かい演出はしないですよね。まあやってみなさい、とまかされてるような感じがします。
鈴木 : たしかに、細かい表現は俳優にまかせています。その人の持ち味や存在感がでて、生き生きとしてないと芝居が弾まないんですよね。僕はプロデュース公演やドラマの脚本も書きますが、とくにラッパ屋の役者は僕のやりたいことを一番早く読み取ってくれる人たちでもあるので、場の空気をつくるのは早い。
松村 : おどろくべき早さですよね! みんなが鈴木さんの意図を理解して、バッとまとまっていきますね。
鈴木 : 松村君も20年近く前からラッパ屋を観に来てくれていて、小劇場仲間としてずっと仲良くさせてもらってるので、最初から仲間という感じはありますよ。
松村 : ラッパ屋の中に入るのは初めてですが、ほとんどのみなさんと共演したり、演出した舞台に出演していただいたり、いろんなかたちでご一緒しているので、初めてという感じはしないですね。
――今回、なぜ松村さんが出演されることになったんですか?
鈴木 : 芝居のテーマを「探険部」にすることはけっこう前から決まっていたんです。その話をみんなに話したら、「松村君を呼ぶべきでしょ!」って。松村君は演劇界のガチな登山家だから、探検にはぴったりだと。
松村 : 必ず演劇仲間と登るんですよ。初めての人を何人か連れていって山好きに引きずり込もうとしてる。夏山の北アルプスとか3000m級の山に、テントで泊まったりします。
鈴木 : 本格的なんですよね。ラッパ屋の弘中麻紀も同行させていただいて、非常にハードであったと聞いています。「酷い目にあった!」と言ってました(笑)
松村 : ハマる人もいるんですけどねえ(笑)
鈴木 : 芝居のなかでも松村君は、登場して塀のヘリから地面に降りる。その時、しっかり足元を確かめてから降りるので、さすが登山家だなと思います。
松村 : 足場がしっかりしてからじゃないと降りちゃいけない。基本です。登山に関しては嘘がないようにやろうと。
――そもそも、探険部の話をしようと思ったのはなぜですか?
鈴木 : 去年登山に凝って、本をたくさん読んだりしたのがきっかけです。松村君みたいに北アルプスなんかじゃなく、高尾山とかですけど。1000mくらいの山でもじゅうぶん探険気分を味わえるんです。その探険マインドが面白いなーと。探険マインドというのは、子どもの頃に洞窟探険をしてみたような文字通りの探険もあるんですが、世の中や人生を探険しようという遊び心でもあったりしてね。
――舞台中には登山や冒険以外にも、いろんな探険がでてきますよね。ビジネスの探険や、恋愛の探険や、パンケーキの探険や。
鈴木 : だいたい大した人生は探険してないんですけどね(笑)
ただ、僕らの世代ってバブルに向かった頃に社会人でしたから、どこか楽観的で、遊びの精神みたいなものがある。僕もサラリーマンを経験したんですが、入社する前から会社を探険…というか面白がってやろうという気持ちがあったんです。ましてや演劇なんて、遊び心のかたまりみたいなもの。小劇場は遊戯性がひとつの特徴ですし、自分のいる場を遊ぼうというスタンスは探険部と重なると思います。世の中厳しいから、なかなか遊び心を持ちにくくなっているんじゃないかという気がするんですよ。とくに若者が社会に出て行くにあたって、今大変みたいですよね。だから、探険マインドで人生を見てみない?というメッセージも込めています。
――若い人に向けた思いが込められた舞台でもあるんですね。特にどの世代に観て欲しいですか?
松村 : もし、いつものラッパ屋を「年配のお客さんが多いから」と敬遠している人がいたら、今回こそぜひ観てほしい。年配の方ももちろん、若い人も楽しめる舞台です。誰にでも「せんぱーい!」「オイ後輩!」みたいな学生時代があって、その頃の熱意が今も生きていると感じられると思います。自分の青春が揺り動かされるというか。
鈴木 : お客さんにちょっと青臭い気分になってほしいね。
松村 : なりますよ。
鈴木 : だと嬉しいな。近頃の人たちはすごく頭良くなっちゃってるし、青臭い気分が足りないんじゃないかと思うんですよ。
松村 : 冷めちゃってるというか、先読みしすぎちゃってるんじゃないかな。
鈴木 : 情熱だけで行動しちゃうような、青臭いエネルギーって大事ですよね。どんな世代も…親父世代も、ちょっと冷めてる若者世代も、「なんかやらかしちゃえーっ!」みたいな気分になるといいなあ。
松村 : なりますよ!僕、このあいだ稽古場から自転車で帰る時にものすごい大豪雨になって、傘も刺さずに「うああああー!」と濡れながら帰りました。そんな気分になったのは、この芝居をしてる最中だからですよ。
鈴木 : (爆笑) ほんとに?
松村 : 舞台を観ていただいたら、きっとそんな青臭い気分になれますよ(笑)
インタビュー中も、終始笑顔の絶えないお二人。彼らがつくる舞台と同じように、優しくて暖かく、どこかシャイだけれど懐の深い安心感がある。ホロリと泣いてクスリと笑って明日からちょっとだけ頑張る元気をもらえるラッパ屋『ポンコツ大学探険部』は東京・紀伊國屋劇場で2015年7月5日(日)まで公演。その後7月12日(日)には福岡・北九州芸術劇場で上演予定。
▼鈴木聡(ラッパ屋主宰)プロフィール
1959年東京都生まれ。早稲田大学卒業後、博報堂でコピーラーターとしてヒット作を多数生み出す。ラッパ屋旗揚げ後、脚本家としてドラマや舞台で活動。ミュージカル『阿 OKUNI 国』(木の実ナナ主演)、松竹『寝坊な豆腐屋』(森光子・中村勘三郎主演)、パルコ『恋と音楽』シリーズ(稲垣吾郎主演)、NHK連続テレビ小説『あすか』『瞳』など。ラッパ屋『あしたのニュース』、グループる・ばる『八百屋のお告げ』で第41回紀伊國屋演劇賞個人賞、劇団青年座『をんな善哉』で第15回鶴屋南北戯曲賞を受賞。
▼松村武(カムカムミニキーナ主宰)プロフィール
1970年奈良県生まれ。早稲田大学在学中の1990年、カムカムミニキーナを旗揚げ。 自ら役者として出演しつつ、劇団の全作品の作・演出を担当。2003年には史上最年少で明治座の脚本・演出を手がけた。外部出演作には『斉藤幸子』『第17捕虜収容所』阿佐ヶ谷スパイダース『少女とガソリン』NODA・MAP『ロープ』『ゲゲゲのゲ』KAKUTA『痕跡』など。演劇界では有名な本格派の登山家。