今年3月から開催されている「別役実フェスティバル」参加作品の『山猫からの手紙 -イーハトーボ伝説-』が、青年座にて上演される。不条理を一貫したテーマとする別役実作品は一般にわかりにくいとされるが、本作には笑いがあり、観客も馴染みやすい作品だ。主人公の「男1」を演じる大家仁志が、魅力を語ってくれた。
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――別役実さんの作品は一般的に難解な内容だと言われていますが、大家さんはどのようなイメージをお持ちですか?
別役さんの作品はこれまでに2本観たことがありますが、難しいなとずっと思っていましたし、青年座で作品を上演すると聞いた時には、少し抵抗がありました(笑)。しかし、青年座の演出家の伊藤大が別役さんの作品がとても好きで、今回の作品について非常に噛み砕いて解説してくれたんです。言われてみると、何気ないセリフの一言一言がリンクしてきたり、意外なところに伏線がひいてあったりして、パズルを解くようで面白い作品だと感じるようになりました。
――今回上演する『山猫からの手紙 -イーハトーボ伝説-』について教えて下さい。
別役さんの作品全体に共通している「不条理」というテーマを含みつつも、笑える部分もありますし、せっかく青年座でやるのだから、青年座らしく最後に感動するような作品に仕上げたいですね。主人公の「男1」は責任をとりたくないタイプの男です。逃げよう逃げようとしている「男1」が、最後に責任をとらされることになり、ちょっとした覚悟を決める話です。無責任な男がちょっとまともになって話が終わる。素晴らしい変化を遂げたり、立派になったりするわけではなくて、「明日はちょっと人に優しくしよう」という程度の変化ですが、大げさな内容よりもそれくらいの方がお客さんの心にも響くと思います。
――明るいトーンの舞台になるということでしょうか。
別役さんはどのように考えながらこの作品を書いたのかはわかりませんが、僕自身のイメージでは、僕が演じる主人公「男1」は、渥美清さんが演じられていた「男はつらいよ」シリーズの寅さんのような男です。「男1」は、旅回りのセールスマン。寅さんも、マドンナが恋したかと思うと逃げてしまう、というように責任をとりたがらない男です。性格や職業に共通する部分がある。それから、台本を読んでみると、「男1」は人のことを「おまえさん」と呼んでいて、それも寅さんを連想した理由の一つです。寅さんのイメージが強すぎて、衣裳に腹巻きを入れたいとリクエストしたくらいです。演出家に却下されてしまいましたけど。(笑)
――大家さんご自身はどのような性格ですか?
「男1」と似ています。自分の情けない部分を知っているから、かっこつけてしまう。自分の、そういう卑怯なところを晒すような気持ちで演じています。「結婚もしていなければ、子供もいない」というセリフがあるのですが、僕自身も同じで、このセリフを言うときには心の中では「あぁ」とちょっと沈んでしまいます。僕の親族がこの上演を見に来たら、「お前そのもの」と言うと思います。(笑)
――「男1」は冒頭からいきなり見せ場がありますね。
舞台は、「男1」がマネキンに話しかけている場面から始まります。このセリフがとにかく長い。台本では5ページの分量です。お芝居は始まってからの5分が重要で、そこでお客さんを引き込まなくてはいけない。この作品では僕一人で冒頭を担っていますから、楽しみでもあり、プレッシャーでもありますね。伊藤からも、ここで笑いをとれと言われています。
――最後に、お客様への一言をお願いします。
身構えずに観に来てください。お客さんが、笑いながら、少し身につまされたり、少し泣ける作品にしたいと思っています!
舞台『山猫からの手紙 -イーハトーボ伝説-』
2015年5月29日(金)~6月7日(日)青年座劇場
作 別役実
演出 伊藤大
出演 大家仁志、小豆畑雅一、中野亮輔、嶋田翔平、家中宏、桜木信介、渕野陽子、岩倉高子、坂寄奈津伎、古澤華
【大家仁志プロフィール】
1964年3月20日、長野県出身。1990年4月、劇団青年座に入団。青年座の舞台の他、演劇集団キャラメルボックスや舞台版「十三人の刺客」(原作:池宮彰一郎、脚本:鈴木哲也、演出:マキノノゾミ)に出演。その他、ドラマ「相棒」(TV朝日系)や「サラリーマン金太郎」(TBS系)など映像作品でも活躍している。
【あらすじ】
山猫から一通の手紙が届いた。それはイーハトーボへ誘う手紙だった。ある男はひと組の兄妹に出会う。彼らもイーハトーボを目指していた。いったい山猫は何を企んでいるのだろうか。やがて男の過去の記憶が蘇ってくる・・・