自ら「茶番」と言い放つB級ノリの芝居と、グルーブ感満載の熱い群舞で、着々と熱狂的マニアを増やしつつある京都のダンスカンパニー「男肉 du Soleil(おにく・ど・それいゆ)」。今回はヨーロッパ企画から“小さな巨人”こと永野宗典を招いて、C・イーストウッドの映画『アルカトラズからの脱出』ばりの(つもりの)脱獄劇「大長編 男肉 du Soleil 『鉄球』」を上演する。京都・東京・福岡の三都市公演を前に、構成・振付も担当する団長の池浦さだ夢と永野宗典に話を聞いた。
──永野さんはずっと、「男肉」に出演したがっていたそうですね。
永野:3年ぐらい前から「出たいなあ」と言い続けていました。他の(ヨーロッパ企画)メンバーが「男肉」の舞台にゲスト出演してるのを観て、あのポジションに立つ自分をシミュレーションしたりして(笑)。
池浦:僕は永野さんとの出会いが「不条理劇場」(註:永野作のメタ演劇を上演するユニット)だったからか、見た目も演技体も一見普通なヨーロッパ企画の中にあって、クレイジーな所がある役者だと思ってたんですよ。なかなかやっぱり、特権的な俳優だから。
永野:特権的肉体の(笑)。
池浦:ただ一緒にやるからには、新たな永野さんの魅力を引き出さねば意味はないし、僕らの魅力も引き出してもらわねばならんなぁと。でもまあ、渋い役をやってもらうことは決まってます。小さくてひょうきんなヨーロッパ企画の永野宗典は、もういないです。
──今回は脱獄ものということですが。
池浦:ダンス規制法ならぬ「男肉(だんにく)規制法」で捕まった団員を、永野さんと一緒に救いに行きます。実は永野さんは平成の脱獄王で、世を忍ぶ仮の姿でヨーロッパ企画に入ってたという設定です。本当に話はそこ一点だけですから、すげえシンプル。
永野:僕がキャスティングされる前から、内容はほぼ決まってたらしいけど。
池浦:僕らいつも自由にやりたい放題なんで、逆に手かせ足かせがはまっていくような感じのパフォーマンスがやりたいなあと思ったんです。
永野:なるほど。自ら規制されに行ったと。
池浦:そういう所でこそ、アートが生まれると信じてるんで(一同笑)。ブレヒトやハイナー・ミュラーを生んだ、旧東ドイツのようでありたいと思います。あと今回は、お芝居をパフォーマンスに乗せて見せる感じを狙ってるんです。ダンスの中にストーリーがフラッシュ的にチョンチョンとあって、それがどんどん重なって…みたいな。
──芝居、ダンス、芝居、ダンスとあまり分けずに?
池浦:そうですね。基本的にずっと動いてる感じ。前回公演は、ガッツリお芝居やったんでね。
永野:その反動もあるんだ?
池浦:それもあるし、そろそろ新たな世界が見たいという、マンネリ打破もあるし。
──じゃあ最後に全員死んで生き返るという、いつものお約束もなし?
池浦:そこはやっぱり、マンネリは大事に(笑)。ただ僕ら、生意気にももっとダンスに寄ろうとして、ややこしい動きとかも作ってたんですよ。でも今回は、もっと祝祭にしようぜ! と。もっと儀式、儀式、儀式があって、死んで生き返る…という、より危険な方向に研ぎ澄ませていくつもりです。
──永野さんは実際に一緒にやってみていかがですか?
永野:かなり苦戦してますねえ。ダンスの振付って、セリフを文節ごとに区切って覚えるような、それぐらい細かいことをしないとインプットできないんですよ。でも「男
肉」の団員もゼイゼイ言ってるし、慣れてる人でも大変なことをやってるのかなあと。
池浦:今回はいつもより、特異な作り方をしてますからね。話よりも、周りの動きばっかり先に作ってる。
永野:そうそう。だから今稽古してるのが、話のどの辺なのかがわからない(笑)。ヨーロッパ企画は話の流れを大事にするから、やっぱり全然違いますね。今はカンバスにいろんな素材を、スケッチみたいにワーっと描き込んでいってる感じなのかなあと。
池浦:それってダンスの作り方やと思うんですよ。まずパーツパーツで作って、それをどうつなげるかというやり方だから、ヨーロッパ企画のシチュエーション・コメディとはだいぶ違う。だから永野さん大丈夫かな、この作り方に付いて来てるかな? と不安ですね。
永野:でも絵的にシーンを埋めていってる感じが何か面白いし、多分お客さんにも楽しいシーンになるんじゃないかなと、稽古を見ていて思います。
──全員が本人の役で出るというメタ構造も「男肉」の特徴ですが、それは何か理由があるんですか?
池浦:映画版の「大長編ドラえもん」って、映画独自の時系列があったり、キャラが微妙に違ってたりするじゃないですか? ジャイアンがTVよりもいい奴だったりとか。だから僕らも映画版というか、舞台版「男肉 du Soleil」。普段の「男肉」がTV版で、舞台ではそれとは違う時系列の物語を見せるという。
──「大長編」ってそういう意味だったんですか!
池浦:その通りです(笑)。それで永野さんももちろん、大長編の永野さんです。ヨーロッパ企画といえども。
永野:なるほど。ヨーロッパの方はTV版なんだ(笑)。
──永野さんもメタ的な作品を自ら手がけてますけど、この発想はなかったですか?
永野:ないですねえ。僕の場合は、自分なりの「演じるとはこういうこと」という解釈みたいなものを劇にして伝えようとする中で、永野宗典本人として舞台に立つということなんで。それはお客さんにも、人は日常でも演じているということを考えてもらって、そして自分の日常につなげてほしい…と思ってやってるんですけどね。でも「男肉」は、そういうのは全然ないでしょ?
池浦:そうですね。なんだかんだ言っても、きっちり虚構を観てほしい。自分の役で出ていても、それはウソをいっぱい重ねた「自分」だから。
──他にもメタにする理由ってありますか?
池浦:たとえば永野さんが外国人の役…スティーブンという役をした時に、永野さんがきっちりスティーブンになってる姿よりも「スティーブンをやってる永野さん」が見たいと、僕は思うんですよ。その人をエンターテインメントに見せるために、スティーブンという役を乗っけてるというのがありきですね。これって僕が、ダンス好きやからかもしれないです。そいつのやってる役よりも、そいつの身体が観たいっていう。
永野:なるほどねえ。ここまでデフォルメしきったメタも面白いなあと思います。
──今回見どころになりそうなのは?
池浦:まず永野さんは、ダンスとラップ以外に歌謡ショーもあります。
永野:あと単純に、絶対ヨーロッパではできない関係性のアンサンブルが見られると思いますね。ダンスに関してはド新人なんですけど、そこは初々しさが満開になると信じています(笑)。
池浦:それとさっき言ったように、かなり動きながら話を展開することになるんで、スピード感のある舞台を楽しめるんじゃないかなあ。ジェットコースターみたいな。
永野:めくるめくシーンが展開されて、面倒臭いことはワーっと語りですまるとか(笑)。その辺のスピード感を持たせる緩急の付け方とか、メリハリみたいなのは楽しいところじゃないですかね?
池浦:やっぱりね、洋画のアクション映画ぐらいに、ドッタンバッタンあって気づけば終わってるぐらいのことがやりたい。あれ、たまらないんで僕。
永野:すごいね。演劇でそれできたらすごいよね。
池浦:ドッタンバッタンして、踊って歌って踊って、帰る頃にはみんな「あれ、今日何してたんやろ? 私たち」って(一同笑)。
永野:タヌキに化かされたような(笑)。
池浦:そういう感覚に陥るようなものですね。上演中はトリップ&トランス状態になって、終わった後は内容のあまりの薄さに何も覚えてないけど、ただ手だけが(手拍子で)ジンジンしてる…ってなってほしい。特に今回は、より「手を叩け!」っていう雰囲気に持っていくつもりですからね。
大長編 男肉 du Soleil 『鉄球』
団長:池浦さだ夢
出演:男肉 du Soleil / 永野宗典(ヨーロッパ企画)
京都公演 2015年5月20日(水)~5月24日(日)
会場:元・立誠小学校 音楽室
東京公演 2015年6月1日(月)~6月2日(火)
会場:駅前劇場
福岡公演 2015年6月6日(土)~6月7日(日)
会場:ぽんプラザホール
チケット
【一般】前売2500円/当日2900円
【学生】前売2000円/当日2500円 ※入場時要学生証提示
【男肉飛び散る席】前売2000円/当日2500円(最前列・最も間近で出演者と触れ合えます)
【絶対安全席】前売・当日3000円 (最後列・このエリアには出演者は立ち入りません)
撮影:吉永美和子